札内岳 (1895m) (日高)    2004.7.17(土) 曇り



札内岳(十勝幌尻岳から、2003.10)

7.17(土)
595m砂防ダム 0430
八の沢出合 0615
大滝 0900
源頭 0930
札内岳山頂 1045
札内岳山頂 1130
源頭 1220
八の沢出合 1520
595m砂防ダム 1710
札内岳は十勝幌尻岳の西隣に位置しており、昨秋伏美岳と十勝幌尻岳から見たその端正な姿に私は強く惹き付けられていたのです。

札内岳を含む日高山脈の中核部を成す山々の大半は登山道が付けられておらず、沢を遡っていくしか山頂を踏むことは出来ません。

是非行ってみたいけれど、一人では自信がないと山仲間に話していたら、SWさん御夫妻とKTさんから「一緒にどう」と言うお誘いを受け、ありがたく同行させて頂くことになりました。

予定登山ルートは戸蔦別川ピリカペタヌ沢を詰め、そのまま札内岳山頂に至る、片道約9km、標高差約1300mのコースで、日帰りピストンの計画です。

戸蔦別川沿いに建っている戸蔦別ヒュッテに前夜泊して早朝出発の予定です。
ヒュッテでは他の登山者2名と共に山談義に花を咲かせながら宴会モードで楽しく夜を過ごしました、いや楽しみ過ぎたかな?

翌7.17(土)の0330に起床し、身支度を整え、車で入れる所まで入ろうと林道を走り、標高595m地点の砂防ダム付近に駐車スペースを見つけてここから入渓することにしました。

ここで早くも私としては手違いが・・・、皆さん朝食のパンをほお張りながら沢靴を履いたりスパッツを付けたりして準備を始めました。
私は朝食用にレトルトのご飯などを用意してきたのですが、とてものんびり調理している時間は無いようです。それではと行動食兼昼食用に用意してきた御強おにぎりを食べようとすると、腐敗防止の為冷凍してきたので、まだカチカチです。
その他は一口サイズのあんパン2個とトマト、チョコ、チーズ、アメ等だけ、仕方なく小さなあんパンのみの朝食です。


入渓の準備

沢は広く、浅い流れの中を進んだり、河原やフキ林の中を進んでいきます。


流れに沿って、遡っていく。

次第に美しい淀みなど変化が出て来ます。


イワナの魚影が濃かった淀み

2時間弱でテン場のある八の沢出合で小さな雪渓が残っていました。時間的余裕があれば、ここでテン泊すると時間的にも体力的にも楽になると思います。

この八の沢を遡れば、十勝幌尻岳に至ることが出来ますが、私達は本流を遡ります。
沢幅は狭く、流れも急になってきて、沢歩きから沢登に変身です。
標高1000mを過ぎると、滝が連続して出てくるようになりました。美しく水量も多い滝の姿に皆さん歓声を上げています。
私達でも直登出来る滝もありましたし、滝の多くは巻き道が付けられていて、急な所にはロープがフィックスされていました。


次々に現れる滝

そんな中、20m位の滝が出て来ました。右岸の草付き泥壁を登っていけそうです。
先頭のKTさん、SW奥さん、私、SWさんの巡で間隔をとり、登り始めます。
下半分は三点確保をしながら慎重に登り、少し傾斜の緩む上半分は草を掴みながら歩を進めます。
概ね2/3を過ぎた所で前の二人が置いた足跡に右足を乗せ、次のステップに移動したその時、突然右足を乗せていた土が剥がれ落ち、足をすくわれるような状態で滑り落ちてしまいました。

今思い出しても、以外に冷静だったと思います。とっさに思ったのは上半身と両腕を壁に密着させ落ちるスピードを緩めようとしつつ、下を確認したのを覚えています。
下に居たSWさんの「ワァー!」という叫び声が聞こえていました。
ほんの一瞬だったのでしょうが長い時間が経過したように感じながら、落ちるスピードが緩くなったような気がしてさらにきつくしがみつくと、壁の途中で止まったのです。

止まった! と横をみると、下に居たSWさんの心配そうな顔が真横3m程にありました。
SWさんを巻き込まなくて良かったと、壁にしがみついたまま本当にそれを思うと同時に急に恐くなってしばらく壁にしがみついたままでした。

幸いかすり傷も打ち身も全くありませんでした。
皆さんに心配掛けたことをお詫びし、油断せず慎重に行動することを心に刻んで登山再開です、でもしばらくはドキドキして心ここにあらず状態でした。


落差30mの大滝

やがてこの沢最大の滝である、落差30mの大滝をクリアーすると源頭も近く、水が涸れてきました。

源頭で沢靴から山靴に履き替え、涸れた沢筋を詰めて行くと、カール一面のお花畑。
その規模の大きさと美しさはどう表現すれば良いのでしょう?
シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲの鮮やかな黄色が辺りを埋め尽くしています。アオノツガザクラ、タカネバラ、ハマボウフウ、カラマツソウなども沢山咲いています。


この景色がカール一面に続く

でも、この美しさとは裏腹に、熊の気配が濃厚なこと。
あちこちに掘り返しがあり、鋭いツメ跡がクッキリ残っています。
ツメ跡だけでなく、お花畑を横切って草を踏んずけた跡が一直線に何本も走っています。
皆さん、大声を上げたり、笛を吹いたりして、熊に我々を無事通してくれるようにお願いです。

十勝幌尻岳を後ろに見ながら、斜度のきつい、カール壁をゆっくり登り詰め稜線に飛び出したと思ったら、そこが札内岳山頂でした。


雲に霞む、エサオマントッタベツ岳とカール

6時間15分のメンバー全員の頑張りと協力の結実がこの山頂です。
自然に「有難う」と一人一人と固い握手。固い絆で結ばれた気持ちを強く持った瞬間でもありました。


東隣の十勝幌尻岳

お天気は残念ながら曇っていて霞んでいます。西隣のエサオマントッタベツ岳にも雲がかかっています。
東隣の十勝幌尻岳はうっすら見えています。


伏美岳(左)と妙敷山

北には先日訪れた伏美岳やピパイロ岳が、そしてその向こうには芽室岳がぼんやり見えていました。
1967峰や戸蔦別岳、幌尻岳は雲の中、南のカムイエクウチカウシ山などの山並みも雲の中で見ることは出来ませんでした。


昼食準備をする、SWさん御夫婦

大展望は得られませんでしたが、4人だけの静かで小さな山頂は皆さんの満足感、充実感で溢れ返っているようでした。

至福の一時を皆さんで共有しつつ昼食を済ませ、帰りの時間を考えるとそうゆっくりしている訳にも行きません。

名残を惜しみながら下山です。
カールのお花畑では登りの時には無かった、新たな熊の掘り返しが何ヶ所かあり、思わず辺りを見回す程でした。

沢は下りの方が危険度が高いと思います。
慎重に降りていくため、登りとさほど替わらない時間が必要になると思います。
今回も登りでは使わなかったロープを下りでは2ヶ所で使用し、協力しながら降りていきました。


懸垂降下初体験のSWさん御夫婦と見守るKTさん

八の沢まで降りてきました時間は1530、すでに歩き初めて11時間が経過しています。
皆さん、緊張は保ちつつも疲れが見えています。私自身もつい途切れがちになる集中力を自分自身に気合いを入れてやっと保っている状態でした。

1710、やっと本当にやっと、出発地点の砂防ダムに辿り着きました。
12時間40分に及ぶ長時間行動、もう限界でした。

日高山脈中核部への初めての挑戦だったこの札内岳、思い返しても胸震えるほどの感動を私に与えてくれました。
そして同時に数々の教訓も・・・。

これらの教訓を忘れることなく活かして、これからも懐深い日高の山々を謙虚に訪れていきたいと感じています。

下山後近くの新嵐山山荘でお風呂に入り汗を流し、私は新嵐山山荘に泊まることにしました。
札幌まで帰る3人に申し訳ない思いを感じながら、ステーキとビールで札内岳の感激と感動に浸り直したのでした。

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