イドンナップ岳 (1752m) 三角点ピーク (1748m) 新冠富士 (1667m) (日高) 2006.8.3(木)〜4(金) 曇り・ガス
新冠富士からイドンナップ岳方面 |
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イドンナップ岳は日高山脈主稜線の西側、新冠湖の東に位置しています。 その為か、日高主稜線を眺められる大変展望の良い山としても名を馳せています。 また、この山の山頂部は北東方向に長く、三角点が置かれているピーク(1748m)と最高峰(1752m)とはハイマツを漕ぎつつ約40分もかかるのです。 日高の多くの山と同様、登山道はありませんでしたが、地元山岳会の努力で長く険しい夏道が平成5年に開削されたとのことです。 イドンナップ岳には、この数年の間に登りたいと思っていた所、来年以降新冠ダムへの林道が閉鎖状態になるという情報を聞き、何としても今年中に訪れようと心に期していました。 日帰り夏道往復案かシュウレルカシュペ沢から新冠富士を経て登る途中一泊案か、何回かの打ち合わせの結果、SGさん提案の沢から登り夏道を降りる計画とし、細部を詰めていきます。 本流を詰めて新冠富士へ上がるルートとC1060m二股から左を取り1452mP右のコル目掛けて上がり夏道に合流するルートを候補をして検討しました。 最終的には、第1日目はC780m三股まで遡りテント泊、第2日目はC1060m二股から1452mP右コルを目指し夏道に合流して新冠富士・三角点ピーク・イドンナップ岳と辿り、下山は夏道を下るという計画となりました。 8.3(木)0730、前日札幌まで出て来ていたSGさんと千歳の道の駅で待ち合わせ、新冠湖へ向かいます。 下山するサツナイ沢出合いにSGさんの車を置き、入渓地点のシュウレルカシュペ沢出合いへ戻ります。 |
林道(左)と入渓点へのシュウレ沢林道(右) |
シュウレルカシュペ沢は新冠ダムを渡って左岸沿いに一番深く入り込んでいる湾に注ぎ込んでいる沢、掛っている橋の奥新冠ダム方向に沢の名前が書かれています。
肩にズシリと来る久し振りの一泊装備を担いで荒れ気味の林道を少し歩いて河原に出、遡っていきます。
流木などで荒れ気味の河原を進んでいく |
途中440m付近で、左岸に付いていた鹿道を巻き道と思い進んであらぬ方向に行きそうになって戻るというハプニングも。
しばらく行くと流れは沢らしく、小滝が出て来ました。
段々沢らしい雰囲気に |
出合う沢毎に地点をC'Kしながら慎重に遡っていきます。
C610m二股まで約2時間、ここまで3時間と見積もっていましたからかなり順調です。
このペースだと今夜を過す予定のC780三股までは楽勝、テン場さえあればさらに上まで行けそうだと甘い考え。
快適に遡っていく |
痛風の治療などで約一ヶ月間、身体を動かさなかった付けが回ってきたのでしょうか、久し振りの重装備の為でしょうか、身体が重く辛く苦しくなってきました、汗も沢山かいています。
小さな滝を乗り越えようとした時、苔で足が滑りそうになり、踏ん張ったのがいけなかったのでしょう、ふくら脛が攣ってしまいました。
見るとC730m地点です。しばらく休んでテン場予定地まで頑張ろうと思っていると、SGさんが右岸の50m位入った扇状地のような所にとても良いテン場を見つけ、急遽ここに泊まる事にしました。
今宵の宿と同行のSGさん |
テントを張り終わってもまだ午後3時、気持ち良い渓流の音と木々を吹き抜ける風の音だけの林の中で、明るい内からウイスキーの水割り。
山談義やら人生談義、思い付くとりとめの無いおしゃべりで時間が過ぎていきます。
午後5時頃になり薄暗くなってきたら、鹿が沢山現れて笹やフキの中から頭を出して盛んに鳴いています。
明らかに私達に向かって威嚇しているようです。
きっと、彼らの通り道、遊び場だったのではないでしょうか?
暗くなり明日に備えてシュラフに潜り込みます。
足を動かすたびにふくら脛からズキンとする痛みが走るのが気になります。
どうか朝には回復していますように・・・。
8.4(金)0340に目覚めました、まだ真っ暗。
テントから覗くと曇っていて、細かい雨も降っています。
展望は期待できないかもしれないが、行ってみよう。
足のストレッチを入念に行い、重いザックを肩に、イザ出発です。
視界50mほどのガスの中、C780m三股には僅か15分で着きました。テン場と考えていた平らな所は見当たりません。昨夜のテン場は神様の思し召しだったのかも?
このC780三股の流れは左が圧倒的に多く、右は殆ど涸れ沢状態、本流は真ん中なのですが戸惑うほどです。
C780mを過ぎると傾斜が急になってきて、滝が次々と現れ出しました。
頭の上から小滝が連続して落ちてくるようです。
4・5mの滝が次々に出てくる |
快適に乗り越え、どんどん高度を稼いでいきます。
途中、C900m付近で直登するには微妙な滝で出会い、迷った末、左岸の涸れ沢から巻き上がり中尾根を乗っ越して滑る泥壁を恐々下り、元の川床に降り立ちます。
直登するかで悩み、左岸を高巻いた滝 |
出発して1時間半でC1060m二股、緊張もしましたがあっという間の楽しい時間でした。
本流の右股を行けばそのまま新冠富士へ突き上げていくのですが、私達は計画通り左股の1452mP右のコルへ突き上げる沢を行きます。
理由は7年前、SGさんが1452mP付近の夏道から沢方向に刈り分けがあるのを見ており、それが利用できればと思ったからです。
左股に入ると一旦水は伏流となりましたが、その上はC1320m付近まで高度感ある登りが続きます。
小滝の連続する沢を遡る |
C1300mを過ぎた辺りから斜度が緩み始めると同時に水流も切れ、1320m付近から草付きの薮に入りました。
濡れた土の斜面に沢靴は滑り苦戦している所に目に入ったのが、微かな獣道、小さな窪みが手掛かり足がかりとなり助かる。
鹿の足跡とは明らかに違う、だとすると? あの大きな黒い奴のか???
このまま谷地形を頑張っても良かったのですが、笹と潅木を利用して登って方が楽ではないかと右手の小尾根に取り付きました。
しかし、こちらも大苦戦。濃密な笹に掴まり腕力で身体を引き上げていきますが、沢靴が滑り何度もずり落ちます。
そんな中、ズキン !! 昨日痛めたふくら脛を再び痛めてしまいました。
痛くても辛くても登るのを止める訳には行きません。誰も助けてくれません、自分で自分の始末をつけなくては。
後、40m、30m、20m、ガンバレ、ガンバレ。
「出たぞ〜!」SGさんの雄叫びです。苦戦すること約1時間、夏道に出ました。
やっと、夏道に合流 |
薮漕ぎから解放された安堵感とふくら脛の痛さでしばらく動く気にもなれません。
時間は午前8時40分、イドンナップ岳へ行って日没までに下山できるギリギリの時間でしょう。
ふくら脛の痛みが治まるのを待ってサブザックに水と食料のみを詰め、汗と露でグショグショになったシャツを着替え、新冠富士へ足を向けました。
シャツを枝に架け、サブザック一つになって |
重い荷物と薮漕ぎから解放され、夏道をサブザック一つで歩くのは何と軽快な事か。
歩く事約1時間、ハイマツ帯の中の結構急な斜面を登り切ると、新冠富士の山頂。
丁度この時だけ、ガスの切れ間が覗き、イドンナップ岳山頂へと続くアップダウンのある稜線が姿を見せてくれ、気持も高まるようです。
新冠富士からイドンナップ岳への稜線、右奥が三角点ピーク |
新冠富士からは生い茂るハイマツ帯に突入、ハイマツを掻き分け踏み跡を辿ります。
踏み跡ははっきりしていて見失うような事はありませんが、ハイマツに邪魔をされて中々進みません。
小さなアップダウンを繰返し、時折右手に現れる小さな御花畑に元気を貰いながら登って行きます。
稜線の踏み跡を行く |
痛めたふくら脛がピクピク痙攣します。
ここからは体力と時間との勝負。
日帰り装備でも下山に5〜7時間必要だと言うのに私達は縦走装備、順調に行っても日没までに下山は難しい時間です。
「ここまで来たのだから、行って見たい。」と言う気持と「私が足を引っ張っては申し訳ない」と言う気持が頭の中で交錯し逡巡しつつ三角点ピークを目指します。
三角点ピークに1050。イドンナップ岳まであと40分です。
どうしよう?
「後僅かですよ」思慮深いSGさんは激励の言葉を口にしつつ、平然として私の決断を待ってくれています。
「SGさん、私にとってはタイムリミット。一人で行って下さい!」
濃いガスの中に姿を消したSGさんを見送り、イジイジしてても仕方ないとゆっくり可憐な姿を見せている花の写真を撮りながら新冠富士へ引き返しました。
三角点ピーク下の御花畑 |
ミヤマリンドウ |
一人で新冠富士へ引き返すハイマツの海は羆の存在を意識為ざるを得ず、雄叫びを何度もあげました。
ウサギギク |
エゾツツジ |
新冠富士へ戻ってきました。
昼食を食べながら、ガスの中奮闘している筈のSGさんの事を思います。
40分ほど山頂に留まり、荷物のデポ地点までゆっくり下っていきます。
途中の御花畑で写真を楽しみます。
モミジカラマツ |
エゾトウチクソウ |
モイワシャジン |
写真を撮り、花を愛でていると、遠くで熊除けの笛の音が聞こえてきました。
SGさんに間違いありません。
大声で叫ぶと、向こうからも返事が返ってきました。
急いで行ってきたのでしょう、SGさんの息が弾んでいます。
念願のイドンナップ岳山頂を踏んで感激の趣、良かった、我が事のように嬉しい。
ここからまた二人で荷物のデポ地点まで戻り、重い縦走装備のザックに担ぎ直し、夏道を下り始めました。
この夏道、下りと言ってもかなりのアップダウンがあり、中々スムースに下らしてくれません。
ペテガリ西尾根の下りを思い起こさせる下りです。
幾つもある登り返しを気力で頑張る |
「また登りかよ〜」珍しくSGさんの泣きが入ります。
幾つ目かの小ピークを登り切ると「休憩しましょう!」の声が後ろから。
同年齢ですが、体力的には数段私より勝るSGさんが泣きを入れ、登山道にベッタリ座る姿を始めてみました。
やはり三角点ピークからイドンナップ岳往復の1時間半の頑張りが疲れを引き出したのでしょう。
私は諦めて良かった、無理していたら大ブレーキを起したに違いない、この時つくづくそう思いました。
荷物のデポ地点からアップダウンのある稜線歩きを延々2時間半、そしてさらに1時間下ってサツナイ沢まで降りてきました。
小沢に出て、水を被るSGさん |
急に本降りの雨が降り出しました。
「雨衣を着ますか?」とは声だけで、実は着替える気力もありません。
車を置いてあるサツナイ沢出合いまでは僅かな距離でしたが、濡れそぼれた62歳の爺二人の気力を振り絞った林道歩きでした。
病み上がりでトレーニング不足とは言え、私にとってはハードな本当にハードなイドンナップ岳でした。
来年から林道が閉鎖になるともう訪れる事は無いかも知れません。
イドンナップ岳、私にとっては永遠の遥かなる山となりそうです。
追記。
下山翌日、8.15辺りまで日高や大雪の山を楽しむ為、新冠温泉に泊まったSGさんから、スワミベルト(ハーネス)を私の車に置きわすれたので、取りに私の自宅まで来るとの連絡。
突然でしたので、何のおもてなしも出来ませんでしたが、冷たいお昼ご飯としばしの休息、肩の凝らないよもやま話で寛いでもらいました。
5月に歩いた函館の松倉川で使用した「奥利根AQUA」と言う沢靴、今回はこれ一足で歩いてみました。
ある種の苔にはフェルト底より滑りますが、我慢できないほどではありません。
土壁や薮漕ぎではフェルト底より明らかに滑らない感覚です。
今回は12時間以上の使用でしたが、靴底の変化も無く良い感じがしています。
ですが、本体と靴底を縫い付けてある縫製糸が10cm程切れ解けてしまいました。
僅か3回の使用で切れてしまうとはと、お店に持ち込んだ所、このクレームがかなりの数あり、製造元に糸の番手を太くするよう要望しているとの事でした。
購入を検討されている方は、御注意下さい。