オプタテシケ山 (2012m) (十勝)  2007.6.24(日)〜25(月)  曇り・ガス・雨



2007.6.24(日)
美瑛富士登山口 0715
天然庭園 0835
美瑛富士避難小屋 1025
2007.6.25(月)
美瑛富士避難小屋 0440
ベベツ岳 0525
オプタテシケ山 0645
0725
ベベツ岳 0830
美瑛富士避難小屋 0910
天然庭園 1025
美瑛富士登山口 1125
白金温泉 1220
オプタテシケ山は十勝連峰の最北端に位置する山で急峻な岩稜と岩壁からなり、冬に白く輝きあたかも城壁のように聳え立っている様は人の心を掴んで離さない魔性の山だと思います。

オプタテシケの名は「槍が反り返っている山」「槍を連ねた山」の意味のようですが、かっては十勝連峰全体を指す意味で使われていたそうです。

6月末のこの時期、残雪の感触を楽しみながら十勝と大雪を縦走してみたいと五日分の食料とテントをザックに詰め込み、息子に送ってもらって美瑛富士登山口に立ちました。

美瑛富士の登山口へは白金温泉から野営場を過ぎ約1km行くと右手に「美瑛富士登山口」の看板があり、それに従って行くと程なくゲート、ゲートの鍵番号は美瑛営林署(TEL : 0166-92-1291)で教えてもらいます。
ゲートから舗装道路を約2kmで登山口、駐車場はその奥100mの所にあります。

今回の山行のポイントはオプタテシケ山とトムラウシ山とを繋ぐ間のルート、私にとってもちろん始めてのルートです。
特にオプタテシケ山の下り大雪渓から夏道へのコース判断、ここは晴天時でも右にコースを外し道迷いしやすい所です。
次に残雪が夏道を隠しているだろうコスマヌプリ周辺の地形判断が鍵ではないかと考え、慎重の上にも慎重を着そうと心に決めての行動です。


美瑛富士登山口で

お天気はこの先一週間、ピカピカマーク一色の予報でしたが、ガスっぽく時折霧雨も降っています。

緩やかに植林地に伸びていた道はやがて鬱蒼とした針葉樹の中を進むようになり、1時間半ほど歩くと矮小化したアカエゾマツの森と岩が混在した「天然庭園」、ガスで見晴らしはありませんが一服です。


天然庭園

ゴロゴロした石の道がしばらく続き、小さな雪田が目立ち始めるようになるとガスが少しづつ晴れ始めたようです。
右手に美瑛富士の山容がガスの間から見え始めました。


ガスが切れてきて、美瑛富士の姿が

道端にはミツバオウレンが露に濡れて沢山咲いていました。

針葉樹が笹とハイマツに変わり、小さな雪渓が目立つようになってきました。
ガスは急速に晴れ始め、正面に石垣山、ベベツ岳が見え始め、気持も高ぶってきます。


正面に石垣山

10分も経つとガスは奇麗に晴れ、オプタテシケ山が姿を現しました。


左がオプタテシケ山、中央はベベツ岳

「今日はあの稜線を越えて、双子池までだ」と歩く稜線を目で追います。
北側には大雪の山々の姿も見え隠れし始めました。


大雪の山々の姿も見え始めた

所々泥でベチャベチャの滑る道に閉口しながら歩くと、水無川の源頭部となり傾斜が強まりました。

キバナシャクナゲやメアカンキンバイがチラホラ咲く斜面を登り切ると平坦地となり、少し先に美瑛富士避難小屋がポツンと建っています。


美瑛富士、小屋は直ぐ先

避難小屋に着くと、見慣れた環境省パークボランティアの帽子を被った人達が大勢います。
聞けば、大雪パークボランティアの人達で美瑛富士登山と避難小屋周辺の清掃活動とか、ご苦労様・お疲れさまです。
私も支笏湖パークボランティアであることを告げ、しばし打ち解けて歓談。

私が大雪へ縦走し今日は双子池まで行くつもりだと言うと、「午後から雷になる、明日にした方が良い」とのアドバイス。
昨日も物凄い雷だったそうで、気圧配置や山の気配も似ているとか・・・。
この時点では快晴に近いお天気、「そうかな〜?」と疑心安宜になりながらも、仲間の親身のアドバイスに小屋泊りを決心したのでした。

彼等が下山し、する事も無いので小屋の周辺を空身で散策、美瑛富士南東斜面に残る大きな雪渓で遊んでいる内にガスが湧き始めたので、小屋に戻りました。
ガスはアット言う間に周囲を覆い尽くし、霧雨も降ってきます。
行動していれば時間的にオプタテシケ山に指し掛かっている時間です、彼等の忠告を聞いて良かったと思いながら一人小屋での時間を過します。

その内、一人の中年男性が山のような荷物を背負ってやって来ました。
聞けば東京から一週間の休暇を取ってやって来たそうで、避難小屋を拠点に周囲の山を歩くつもりとの事。
山の話しなど、取り留めも無い事を話しつつ、午後6時頃には明日のお天気を期待しつつ、シュラフに潜り込みました。

2007.6.25(月)

夜中、雨が小屋の屋根を叩いています。
「ダメか〜!」と思いつつ気付くと午前4時前、外を見ると雨は降っていませんが一面のガス、でも少し明るさを感じる気配。

天候が回復する事を願いつつ、一夜を共に過した男性に挨拶して出発します。
ガスは晴れつつあるようで石垣山は山頂部も見え始めています。
一面キバナシャクナゲとミネズオウ、ガスに濡れて水玉を沢山付けて美しい。


石垣山、白く点々と咲くのはキバナシャクナゲ

南西を振り返ると美瑛岳が頭と出しています。


美瑛岳が山頂部を出していた

これは期待出来そう、大丈夫そうだ。
お天気さえ良ければ、キーポイントであるオプタテシケの下りもコスマヌプリも何とかなる筈だ。
期待に胸躍らせ、石垣山の岩礫の斜面を登ります。
石垣山との名の通り、まさに石垣を積んだような斜面です。
振り返ると美瑛富士もスッキリ姿を見せて見送ってくれているようでした。


美瑛富士、下の雪渓の右上に避難小屋がある

石垣山の山頂を東側に巻くように道は付けられています。
その頃、南東からガスが沸き上ってきて覆われ始めました。
一時的なものだろう、霧の方が呼吸も楽だし涼しくて良い、神様の思し召しに違いないと考え足を進めます。

石垣山からベベツ岳の間は平坦地の御花畑に続きゴロゴロ石の斜面、ペンキマークに導かれベベツ岳西側の結構な斜面を登ります。
ガスは濃淡を繰返し、ベベツ岳の前衛峰に着く頃は200〜300m程の視界になってきました。


ベベツ岳前衛峰

ベベツ岳は完全にガスの中、視界は数十メートル。
御花畑のチングルマ、エゾノツガザクラ、コケモモなどが可憐な花を咲かせています。

ベベツ岳から一旦コルまで降り、オプタテシケには300m程の登りです。
岩礫の斜面をジグを切りながら登りますが、ガスは益々濃くなって視界は10m先の岩が霞んで見えるほどです。
やがて大きな岩が目立つようになり、高度は2000m近くになっています。


10m先も霞んできた、大岩が連続すると山頂はすぐ

オプタテシケ山の山頂に着きました。
ここが目的で訪れたのなら例えガスでも感激なのでしょうが、今日はそうはいきません。


オプタテシケ山山頂

ここから先が正念場なのです。
ガスはしっかりと周囲を覆い尽くし、視界は5〜10m。
悪い方へ安定しているようで、暗く太陽の位置も確認出来ません。

オプタテシケの降りの雪渓から双子池への夏道への地形・コース判断が一番のポイントと考え、慎重の上にも慎重に行動しようと心に決めていました。
登山口の登山届けにも避難小屋の記帳にも今期このコースを歩いているのは1パーティだけのようで、コース旗など期待する方がおかしい状況。
その為には視界が少なくても200〜300mは欲しい所です。

荷物を置いて、オプタテシケ北東ピークまで行って様子を見てみます。
道は急激な降りとなってガスの中に消えています。
濃霧の中の雪渓は右も左も分からなくなるかも知れません。

どうしようか? 
「一応GPSにルートは入れてある、ダメだったら引き返せばいいじゃないか。」
「自信がないのに無理する事は無い、万一の場合には多くの人に迷惑を掛けるぞ。」
色々な思いが沸き上り、心の内で葛藤が続きます。

「引き返そう!」そう決心するまで30分近い時間が経っていました。
何と優柔不断な私でしょうか。

まだ4日分残っている食料が肩にズシリと響きます。
無念の重い足取りを花達が慰めてくれているようです。


ガスに濡れ水滴を纏った、チングルマ

チングルマ

ベベツ岳に戻ると、昨夜同宿した男性が来ていました。
残念ながら諦める旨を話し、互いに気を付けてとエールを交わし避難小屋へ降りていきます。


エゾノツガザクラとチングルマ

ミネズオウ

ガスは登ってきた時より濃くなっています。
薄れる兆候でもあれば躊躇したのかも知れませんが、すっかり諦めもつきました。


イワウメ

キバナシャクナゲ

メアカンキンバイ

避難小屋に戻ってきました。
後ろ髪を引かれる思いでもう一度周囲を見渡しますが、一面乳白色で何も見えません。

踏ん切りはつきました、後は何も考えずひたすら登山口を目指します。
来る時は息子に送ってもらった登山口から白金温泉まで、とてつも無く遠く長く感じました。

今回計画した美瑛富士から旭岳への縦走、年甲斐もなくと思われるかも知れませんが長年の夢の一つでした。
体力的にも気力的にも、もう無理かも知れません。
それも運命、これも運命でしょう。

今回のような計画には天候判断の占める大切さを改めて痛感しました。
それにしても、あの一週間続く「お日さまピカピカマーク」の予報は何だったのかな〜?

GPSトラック

 

 

 

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