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雌阿寒岳
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今年は道東の山を久しぶりで訊ねてみようと思っていた。
前回私達が道東を訪れ、知床に遊び、羅臼岳・斜里岳を歩き、羅臼やウトロ、厚岸、釧路などで食べ歩きを楽しんだのは、十数年前の事。
阿寒の山に関してはさらに前の事だ。二人で出かけるのを楽しみにしていたのだが、カミさんの腰の状態が思わしくなく諦めかけていた。
が、「いってらっしゃい!」の声に後押しされ、道東の山旅へ出かける事に相成った。前日に雌阿寒温泉まで行き、野中温泉で長距離ドライブの疲れを癒し、車中泊。
夜中寒くて目が覚めた、うかつにも夏用シュラフを持って来ていたのだった。
明るくなり始めた0500に起き出し、ゆっくりと準備。
この駐車場には水道もトイレもあり、有り難い。温泉の北側にある登山口を0600に出発。
道はアカエゾマツの森の中へと続いている。
太く真っすぐ延びた巨木達、松の根が縦横に張り巡らされ盛り上がり階段のようになっている。
これほどのアカエゾマツ単一植生の森は北海道広しと言えども、中々無いのではなかろうか?
アカエゾマツの登山道
私は殆ど日も差さない針葉樹の林は余り好きではないのだが、ここの針葉樹の森は美しいと感じる。
人工の植林ではない、自然林だからなのかな?
手入れのされた森の中の道にはゴゼンタチバナの赤い実が目立ち、斜度も適度でまさに森林浴を楽しんでいるかのようだ。
3合目付近からは背の高いハイマツ帯となり、4合目では大きな沢型を越える。
振り返ると朝日を浴びたオンネトーが眼下に見えている。
やや雰囲気は異なるが、オコタンペ湖を思い出させる色と光景でもある。
オンネトーの青が冴える
視界も開け、斜度が強くなって来た山肌をジグを切りながら高度を上げる。
見上げる斜面が白っぽい、何だろうと思いつつ歩いて行くと岩に霜が付いているのであった。
「ああ、もうこんな時期なんだ・・・」もうすぐ10月。
傍らのガンコウランには、エビの尻尾の赤ちゃんが真っ白にくっ付いている。
ガンコウランの付いたエビの尻尾
写真を撮っているうちに若い人達4人に追い抜かれる。
そのリズミカルで軽やかな足取り、羨ましく、妬みすら感じられるほどだ。
最も、最近は追い抜かれて当たり前と思えるようになって来た。
何せ悪名高い、「前期高齢者」への仲間入も間近なのだから・・・。
白くなった山肌にジグを切りつつさらに登れば、やがて火口壁に出た。
荒々しい赤茶けた岩の深い火口からは、凄まじい勢いで水蒸気が立ち上っている。
この世のものとは思えない恐ろしさ、激しさ。水蒸気の噴出音、硫黄の匂いがその思いをさらに強くする。
凄い光景だ!
火口と赤池
火口壁の上に出ると風が吹き荒れている。
強い西風に逆らわなくてはならないが、さりとて火口へ近づくのも恐ろしい。
ゆっくり慎重に足を進めた。
山頂には5人の人が立っている、先ほどの若者4名と私より少し年長と思われる男性だ。
のんびり座っている人はいない。
気温も低くその上強風、寒い。体感温度は当然氷点下なのだ。
ザックからマウンテン・パーカーを取り出し羽織る。でも、眺めは素晴らしい。
すっきり透き通ったような大気、何処までも見通せそうな感じさえする。
阿寒湖と雄阿寒岳そしてその向こうには雲を頂いた斜里岳が鎮座している。
摩周湖や藻琴山も見えている。
雄阿寒岳と阿寒湖
噴煙は数カ所から上がっており、山頂は複数の火口に取り囲まれた超危険地帯とも言える、今爆発したら山頂にいる私達はひとたまりも無いだろう。
火口の淵へは万一足が滑ったらと、恐ろしくて近づけず覗き込む事も出来ない。
山頂火口、怖くて近寄れない!
何人かの人はそそくさと寒さから逃れるように阿寒富士方向へ下り出している。
眺望を堪能したい気持ちはあるが、この寒さでは長居は遠慮したい気持ちでもある。
雌阿寒岳山頂にて
山頂を後に阿寒富士へと向かう。
火口内にある「青池」、名の通りの青さが不思議な感じであった。
青池と阿寒富士
雌阿寒岳の斜面を斜めに阿寒富士へと高度を下げてゆく。
風が遮られ、ホットとする。
間もなく阿寒富士とのコル、オンネトーへの下山路を右に分け阿寒富士への登りに掛かる。
阿寒富士の端正な姿
かなりの急傾斜、そこに短めのジグを切って道はつけられているが、火山礫の斜面で崩れ滑り易い。
丁度、富士山の須走を登っている感じに近いかも知れない。阿寒富士の山頂へ今一歩と言う辺りで、急に雲が湧きだし一面乳白色の世界に早変わり。
ただ雲に覆い尽くされている訳ではなく、一塊が通り過ぎれば僅かな晴れ間が出ると言う状態である。
阿寒富士山頂
雄阿寒岳が流れる雲の合間に見え隠れし、すっきり見えているときとはまた違う良い表情を見せている。
流れる雲間に雄阿寒岳
しばらく待っていると晴れ間が出て、真下にオンネトーの美しい姿を見る事も出来、皆さんから歓声も上がった。
眼下にオンネトーを望む
下山はコルまで戻り、後はオンネトーを正面に見ながら下り、次第にハイマツ帯、次いでアカエゾマツの森へと入って行く。
オンネトー側から登ってくる人達と挨拶を交わし、適度な傾斜の道を鼻歌気分で下る。
アカエゾマツの美林を再度楽しみながら下り切れば、そこはオンネトー野営場、丁度オンネトー祭りと言う行事が行われるとかで大勢の人達が準備作業に追われていた。
オンネトー野営場からは車道を歩いても雌阿寒温泉へ戻れるが、湖の東側に設けられた遊歩道を歩いても戻ることができる。
澄んだ水と色の変化で有名なこの湖、千歳のオコタンペ湖、上士幌の東雲湖と共に北海道三大秘湖と言われている。
もっともオンネトーとオコタンペ湖は道路が整備され気軽に訪れられるのに、何故いまだに秘湖と呼ばれるのか良く判らないな。
遊歩道を歩いていると、倒れた木々が青い水に沈んでいるのがまだ生きているかのように見え不思議な感じがする。
沈木と楓
オンネトーの北端に至る遊歩道の途中から雌阿寒温泉への遊歩道に入り、緩い登りをしばらく歩けば素朴で鄙びた湯船の待っている雌阿寒温泉である。
道東の山旅初日の雌阿寒岳と阿寒富士、機嫌良く迎え入れてくれた。
忘れていたアカエゾマツの美しくも広大な森、今期始めての寒さは新たな感動であったし、惑星の創造期を思わせる噴火口の凄まじさは懐かしさを思い出させるものでもあった。そしてこの山を訪れる楽しみは温泉にもあるだろう。
雌阿寒温泉にある二つの温泉宿、野中温泉とオンネトー温泉、二つとも素朴で鄙びた心からくつろげる温泉である。(素朴過ぎて露天風呂は外から見えるのを覚悟で入らないといけない、女性の方は要注意である)
料金が300円と安いのも今時ありがたい。この後は道東の山旅2日目の雄阿寒岳に備え、阿寒湖畔の登山口へ移動した。