観音岳(右奥)、手前は830mP
|
観音岳
|
saijyoさんや山仲間達のHPによると観音岳北東尾根の薮はかなり厳しいとの事なので、私は豊似湖から旧猿留山道を利用し沼見峠へ、そこから680mP・830mPをへて山頂へ至る東尾根ルートを選定した。
出発地の豊似湖へは、えりも町目黒から道が付けられている。
観光スポットにもなっているらしく、良く整備され駐車場にはトイレや微笑ましい木彫りの観光案内図も設置されていた。
案内板
「キョ〜ン! キョ〜ン!」と言うクマゲラの鳴き声が響く森の中を駐車場から歩けば、5分足らずで豊似湖。
ハート形をした小さな湖はまだ日が差さず薄暗い、周遊歩道を時計回りに歩きハート形が絞られた頭の所から南へ猿留山道に通じる道が付けられている。
猿留山道は江戸時代後期の寛政11年(1799年)に、蝦夷地陸路整備の一環として様似山道と共に開削された道、伊能忠敬や松浦武四郎もこの道を利用して蝦夷地の測量や調査を行ったと言う。
豊似湖から15分も大きくジグを切りながら登れば、その猿留山道に合流する。
最近復元された山道はしっとりとした佇まいの優しい道、かつての人々はどのような思いでこの道を歩いたのだろうと想像しつつ緩やかな山道を歩く。
緩やかに付けられている猿留山道
ふと見上げる山道の先にはフサフサした尻尾のキタキツネがジッと私を見下ろしていた。
右手前方には、木立の枝越しに観音岳が680mP・830mPの尾根と共に朝日を浴びて輝いている。
猿留山道を約15分でC488mの沼見峠に着く。
その名の通り豊似湖を見下ろす峠である。
沼見峠からの豊似湖
ここには馬頭観世音菩薩の碑が祀られていた。
かつてこの山道を往来する人々の安全を祈った場所なのであろう。
馬頭観音碑に頭を下げ、その裏側から観音岳への登りに掛かる。
見上げる尾根筋は明瞭で、所々笹の濃い所もあるが上手く辿れば殆ど薮を漕がなくても登れそうな雰囲気だ。
680mP(左上)への尾根
笹は膝から腰位と背が低く歩くのに支障はない、さらに鹿道とおぼしき道が付いて利用出来、思ったより楽に歩ける。
良く見ると大分前のトレースらしきものもありこの上を歩けば潜る事も無い、有り難く利用させてもらう。何カ所か笹の濃い所がある。
トレースから外れ笹の薄い所を歩くと20cm程だが堅雪のラッセルが求められ歩きにくい。
トレースに従えば笹漕ぎをしなければならないが雪が締まっていて歩くのは楽だ。
試行錯誤のあげく、トレースを利用しながら歩くことにした。
680mPに着くと、観音岳がスッキリした姿を見せている。
680mPからの観音岳(奥)
この地点には「奥山半僧坊」の像が猿留山道と太平洋を見守るように置かれていた。
奥山半僧坊の石碑
奥山半僧坊とは十分調べた訳ではないが、この世に現れた仏の化身だそうで、特に「海上安全・厄難消滅の権現様」として信仰されていたと言う説がある。
荒れる事の多かった襟裳岬周辺の海上交通の安全と猿留山道を歩く人々の安全を祈願して建立されたと考えるのが妥当なのではないだろうか。
680mPから尾根通しに830mPへと向かう。
時折笹を漕ぐが概ね快適な尾根歩きである。
この尾根には狐の足跡が多い、イイズナと思われる特徴ある小型の足跡も見られ、足跡を見ているだけでも飽きない程だ。830mPに近づくにつれ、吊り尾根で稜線続きになっている1088mPやその奥にある豊似岳の姿がはっきりし始めた。
豊似岳(左奥)と観音岳
振り返れば、登って来た尾根の向こうには茫洋と広がる太平洋、南には襟裳岬、東には広尾から釧路へ延々と続く海岸線と心まで大きくなるような雄大な景色が広がり出した。
登って来た尾根と太平洋
もう山頂は目の前だ。
豊似湖を出発して2時間15分、観音岳山頂である。
汗をかかないようゆっくり歩いて来たが、思ったより笹が薄く、計画より早く着いた。
余り好きでは無い藪山だが、なんとか計画したルートで登る事が出来やはり嬉しい。
達成感でウキウキする高揚した気分だ。
観音岳山頂
豊似岳の姿が大きく凛々しい。
豊似岳から見た襟裳岬の独特の景観が思い出され、その時の思いが甦ってくるようだ。北には日高主稜線の山々、広尾岳から楽古岳、十勝岳そして彼方には神威岳の姿も見えている。
真っ白な神々しき峰峰に見入ってしまう。何とも素晴らしい大景観である。
神威岳(左奥)、十勝岳(中央左)、楽古岳(中央右)、広尾岳(右)
稜線続きの1088mPと豊似岳には2時間もあれば行けそうな近さに見える。
見る限り吊り尾根の笹もさして厳しいようには見えない。
行ってみようかとも思ったが、今日はルチシ山にも登る計画もあり思いとどまった。
1088mPと豊似岳(右)
南に果てしなく広がる太平洋、広過ぎて水平線が湾曲して見える。
雄大な山、茫洋とした海そして清々しい大気・大地を覆う雪、輝く陽光、身も心も洗われる思いがする。
果てしなく広がる海
東には道東の海岸線が何所までも緩やかな弧を描いて延びている。
遥か彼方に見える雪山は阿寒の山々だろうか?誰も居ない山頂でゆったりした時間を過ごす、リンゴの甘さとコーヒーの香りが幸せ度合いを増幅させてくれるようだ。
下山は登ったルートをそのまま降りる。雪の斜面は膝への負担も少なく楽しいし早い。
830mPの半蔵坊像と沼見峠の馬頭観音に頭を下げ、猿留山道を味わい、1時間足らずで豊似湖へ降りて来た。朝は薄暗かった湖も、明るい陽光に輝き水は透き通り美しい。
豊似湖
時計回りに湖面を廻り、朝と併せて1周する。
風も無く鏡のような湖面に映る木々の姿が新鮮だった。
周囲を映す湖面
下山後、ルチシ山に登るべく上歌別へ車を走らせる。
国道からルチシ山はしっかり見え、取り付く予定の尾根も明瞭だ。
予定尾根の近くまで来ると、「ポ〜ン・パ〜ン」と言う銃声と犬が吠え声が遠くから聞こえて来た。
鹿撃らしい。
銃声を聞いて、勇んでやって来たルシチ山だが急にテンションが下がってしまった。
鹿と馬鹿は似たようなものだから猟師からは間違えられ易いだろう。
撃たれた後からゴメンナサイと言われても、やられ損だもの・・・。12月上旬でも夏山スタイルが楽しめる襟裳周辺の山々、北海道では貴重な存在と言えるであろう。
観音岳はそんな中でも薮漕ぎも楽で展望の良いお勧めの一山であった。