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雨霧山
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3月5日は我がカミさんのお誕生日である。
そんな事もあって昨年はこの日に四国お遍路の第一歩を踏み出したのだった。
今年もお買い物か、今話題になっているアカデミー賞を受賞した映画「おくり人」でも見に行こうかと話していた。ところが、起きてみると抜けるような青空が広がっている。
こんな素晴らしいお天気のお誕生日祝いには、映画等より山が似合っている。
と言う訳で急遽、かねてからその名前の美しさで気になっていた「雨霧山」を訪れる事になったのである。
雨霧林道と呼ばれる夕張と由仁を結ぶ林道へ通じる道の除雪最終地点が実質的な雨霧山への冬の登山口である。
国道274号から南夕張で国道452号へ入り、南清水沢手前の清沼橋を渡って最初の信号を左折、道なりに進んでの除雪最終地点である。ここから道路を500mも進むと、ゲートのかかった雨霧林道の入り口である。
地図によれば、この林道を4kmほど忠実に辿れば雨霧山のすぐ北にあるC450mの峠まで行ける筈。静かだが、何となく春の気配が漂い出した明るい谷間を林道は延び、強い陽射しを受けながら気持ちよく歩き出す。
比較的新しいトレースが付いている、初めての山だけに雨霧山まで続いているとラッキーなのだが・・・、でも余り信用せず歩くことにしよう。
山は自己責任で遊ぶ世界なのだから!
明るい陽射しの中を
林道の左手には「熊の沢川」が埋もれた雪の中に小さな沢音を立てながら流れている。
不思議に思うのだが、何故○○沢ではなく○○沢川と呼ぶのだろう?
沢も川も規模の違いはあれ、同じ流れを意味するもの。
二重に呼んでいるだけのように感じるのだが・・・、最近の地形図で良く見る呼称である。林道の斜度は極めて緩く、歩くには楽なのだが単調なのが欠点、私達はおしゃべりに花を咲かせながらだが一人で歩くのは辛いに違いない。
横切る動物達の足跡や鳥のさえずり、木漏れ日から延びる木々の影模様などに気を紛らわせ、転げ落ちている大きな「雪まくり」に春の気配を感じながら林道を登って行く。歩き出す時は気温が低いと感じていたが、強い陽射しのお陰か暑さを感じるようになってきた。
大きな「雪まくり」
終止、林道の左手を流れる沢は山の規模に比して大きく深い、林道は急な斜面を切り開いて作られている為だろう落石が多い所が何カ所もある。その都度、上を見ながら急いで渡る。
曲がりくねりながら進んで行く谷の先には濃く明るい青空がに見えている、振り返る東の空には雲が広がっている。
いい加減歩くのも嫌になってきた頃、どうやら稜線といった雰囲気が漂い始めた。
稜線が近くなって、深い谷間と山肌しか見えなかった景色に変化が見え始めた。
振り返る東側の景色が徐々に広がり始め、夕張山地の山々が雲に隠れながら見え出した。
稜線に出ればもっと素晴らしい景色がと、少し元気が出てくる。
西側にも少し雲が出始めてきたようだ、「お願いだから、もう少し晴れていてね!」
もう少しで稜線だ
C450mの峠に出た、空一杯に広がる青い色が気持ちを大きくしてくれる。
林道は二手に別れ、一方はそのまま西の由仁町方面へ下っていて、一方は南の雨霧山の方へ延びている。
雲に霞む夕張山地
西側に広がる石狩平野、長沼丘陵、支笏湖の山々などを眺めながら、稜線上を南へ延びる林道をさらに辿る。
林道には兎や狐などの真新しい足跡が縦横に付いて、彼らの活動振りを想像するだけでも楽しい。
間もなく林道は稜線から離れ東へと下っていく。
地図を見れば、雨霧山はここから稜線沿いにすぐの筈。
今日初めて林道から外れ、適当に斜面に取り付く。
雨霧山の山頂は本当にすぐそこだった。
西側は少し視界が開けているが、他の方向は木々が混み遮られて視界は良くない。雪に隠れているのか、山頂を示すものは何も無い。
高度計とGPSをC'Kして雨霧山山頂を確認、一番高い所にザックを降ろす。
長沼丘陵を望む
西側には安平町、由仁町や栗山町の平野が広がり、その奥には安平丘陵・長沼丘陵が低く横たわっている。
さらにその向こうには苫小牧、千歳、恵庭、札幌等の石狩平野が広がっているが、あいにく霞んでいてよく見えない。
樽前山、風不死岳、紋別岳なども確認できるのだが、霞んでいてようやく見えると言った程度だ。
かすかに樽前山などの山々が
全く風も無く、陽射しも強く温かい、昼寝をしたくなるような穏やかな雨霧山山頂である。
狭い山頂に食べ物や飲み物を広げ、ささやかなお誕生日パーティの開催だ。
キタコブシの莟やホウノキの新芽も大きく膨らみ、キツツキも盛大なドラミングで一緒にお祝いしてくれているようだ。
○○回目のお誕生日、おめでとう!
晴れていれば東側に良く見える筈の夕張岳だが、雪雲に隠れてしまっていて残念だ。
山頂から南へ続く山並みはどれも同じような連なりで判別は難しい、南東に鬼首山と思われるピークが目を引く位である。
同じような山並みが続く
30分以上も山頂で過ごし、食べ物も飲み物もお腹に納まってしまった。
美しい名前に惹かれて訪れた「雨霧山」は、山としての面白みは欠ける山だったけれど私達にとっては記憶に残る山となった。
気分の良い思いと笑い声を残して、雨霧山を後にする
「さよなら、そしてありがとう!」
急斜面を慎重に林道まで降り、後は往路をそのまま引き返す。
雪と空のコントラストが美しい。
往路を引き返す
林道を下るにつれ、雪がザラメ状になってきた。
スノーシューやストックにまとわりつき、払い落とさないと高下駄のようになってしまう。
気温が高くなる春独特の現象だ。
崖から転がり落ちる雪まくれの数が往路より格段に多くなっている。
斜面に亀裂が走り、全層雪崩が起きそうになっている所も何カ所か見られた。
転げ落ちている「雪まくれ」
山頂から1時間半、登山口へ到着し、やっと長い林道歩きから解放された。
雨霧という美しい響きの山名に惹かれて訪れた雨霧山、何の変哲も無い低山の連なりの中のポコに過ぎなかった。
そんな目立たないピークの一つに何故「雨霧山」の名をつけたのだろう?
その由来を知りたいものだと思った。私達にとっては思いがけずに、「カミさんの誕生日の山」と言う記念の山となったのである。
GPSトラック
・喘ぎつつ登れば峠にさんさんと陽は温み増しこぶしふくらむ・雪にいね見る空の色雲の色浅き春なり我が誕生日
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