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ペケレベツ岳
プロローグ
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早朝の国道は車も少なく快調に走り、日勝トンネル日高側駐車場には8時前に着いた。
準備を整えトンネル横から、「何だ?」と言う顔をして走りすぎていくトラックの運ちゃんに手を振りながらトンネルを越えて歩き出す、彼らからは物好きな連中にしか見えない筈だ。前夜降った雪が10cmほどあり、薄汚れた雪を隠し、木々の枝にも真新しいエビの尻尾が付いて美しく輝いている。
4月末とは思えない、季節が違ってしまったような気分である。
取り付きからの国道と北側の山
スキー場のような広いオープンバーンの斜面をゆっくり登って行く、ペケレベツ岳へは東寄りの1359P方向へ登るのが良いのだが、初めてのカミさんに日勝ピークを踏ませたいと真っすぐに登っていく。
日勝ピークへ
途中で一休みし、歩き始めて1時間ほどで日勝ピーク(1445m)へ着いた。
南側にこれから訪れるペケレベツ岳を始め、さらに向こう側に北日高の山々がズラリと並び立っている。
北側には双珠別岳、狩振岳、トマムなどの北部日高の山々。大雪や十勝、夕張の山々は頭を雲に隠され少し残念だ。
ペケレベツ岳(中央左)と北日高の山々
ピークにはまだ埋まっているだろうと思っていたハイマツが半分ほど姿を現している。
ハイマツが出てくると自由に歩けない、歩きにくい上に落とし穴もあるからだ。カミさんは登りながら思い浮かんだ歌を忘れないよう手帳に書き付けている。
チロロ岳
日勝ピークでの展望を満喫し、稜線を東側の1359mPへと進む。
コルから登り返すのは面倒と1160mコル辺りを目指して樹林帯をトラバース気味に進む。
トドマツなどの樹林帯は音を遮り静か、「シ〜ン」とした森に私達の足音だけが響いている。コルの少し手前で稜線に出ると、ペケレベツ岳がこれから辿る稜線とともに正面に佇んでした。
ペケレベツ岳
一旦下り、夏道が通っている1359mPへの登りへ掛かる。
途中からこれを巻いてしまおうと西側をトラバースしていく。
しばらく進むとハイマツ帯に行く手を遮まれた、埋まっている所を選びながら進むがとうとう捕まってしまう。
動きがとれない、助けて〜!
バランスを取りながらハイマツの枝から枝へ、乗り移っていく。
ハイマツの落とし穴に嵌まり込み、抜け出すのに一苦労。
「ヒエ〜!」這々の体で稜線に逃げ登った。急がば回れ!と言うけれど、「楽したければ回り道」なのであった。
這々の体でハイマツから逃げて
小さな雪庇の出ている稜線をペケレベツ岳に向かって登り出す。
風が強くなって来た、今まであまり感じなかったのに風の通り道なのだろうか?
吹かれると寒く感じるが、パーカーを着込むほどではないとそのまま歩く。カミさんが少し遅れ気味になって来た。
聞くと、太腿が痙攣していると言う。
少し休みゆっくりジグを切って登るが、斜行すると余計に負担がかかるみたいと言うので、様子を見ながら直登して行く。
大丈夫?
山頂へ着いたらゆっくり休んでカミさんの足を休ませようと思っていたら、山頂には強風が吹き荒れている。
とても休んでいる雰囲気ではない、ザックからパーカーを引っ張り出して着込みフードを被ってホッとする。夏にはハイマツに邪魔されて山頂からの見晴らしは余り良くなかった記憶があるが、積雪期はハイマツが埋まっているので遮るものの無い展望が堪能できる。
剣山から久山岳、芽室岳、ペンケヌーシ岳、チロロ岳などが清々しい姿で出迎えてくれている。
チロロ岳
振り返れば、日勝ピークから続く稜線と沙流岳、遠くには東大雪や表大雪、夕張などの山々も姿を見せ始めている。
芽室岳
風も強いが、気温も低い。体感温度はかなりのものだ、久々に震え上がる。
カメラの設定を変えるため、インナー手袋だけでいたら指先の感覚が無くなってきた。
寒いよ〜!
寒さに負けて、写真だけ撮ったら即、風のない所まで下って休むことにする。
それにしても白く輝く山並みは美しく感動する。
山頂から北の景観、中央が日勝ピーク
ゆっくり足を休ませていないのでカミさんの太腿の状態が心配だ。顔色も冴えない。
寒さと痛さに耐えて
1313mコルへ逃げ降りる。
下りの方が太腿への負担が増える、短い距離だが何度も休みながら降りてきた。
コルまで降り、樹林帯へ入ると風は無くなり陽射を浴びてホッとしながら大休憩。
熱いコーヒーで体を温め、おにぎりでお腹を満たし、フルーツで気力を回復する。椅子のような枝にカミさんを座らせ、太腿や膝をマッサージ、にわか素人治療院の開店である。
左の太腿が堅く張っている、どうして良いか判らないし強く押してさらに痛めたら大変だ。
出来るのはひたすらさすり、撫でるだけ。
痙攣を改善する即効性の漢方薬やギネシオ・テープを持って来なかったのが悔やまれる。休憩している間に、これまで雲に隠されていた東大雪の山々がはっきり見えるようになってきた。
石狩連山、ニペソツ、ウペペサンケなどがキリッとした美しい姿を見せてくれた。
「きれいだね〜!」思わず歓声が上がる。
東大雪の山々、左から石狩岳、ニペソツ、ウペペサンケ
休んだお陰か、痛みも消え、痙攣も納まったと言う。
ゆっくりゆっくり戻ることにする。
トラバースした方が近いが横傾斜は負担が大きいと、稜線伝いに歩く。
稜線伝いに1359mPへ
1359mPへ戻ってきた。
カミさんは時々立ち止まっては太腿を摩っている、何とか騙し騙し大丈夫のようだ。ここからは大斜面を下るだけだ。
足に負担をかけないよう尻滑りを試みるが、重い新雪で滑らない。
ここでも尻滑りボードを持ってくればと悔やむが無い物ねだりをしても仕方がない、慎重にゆっくり下る。
一本、見とれるほど上手なシュプールが一気に下っている。
こんなに滑れたら楽しいだろうな〜。ねたましいほど上手で見事なシュプールだった。下るに従って、見下ろしていた双珠別岳や熊見山が目線と同じ高さになり、次いで見上げるようになれば、国道を走る車の音が大きくなり日勝トンネルは間もなくだった。
残雪期の北日高の山を楽しもうと訪れたペケレベツ岳は季節外れの新雪に覆われ輝く美しい姿で迎えてくれた。
久しぶりで見る北日高の山々、大雪や夕張の山々も素晴らしかった。でも今回の山行のビック・イベントはカミさんの足の故障、痙攣であった。
本人も不思議がるが、大して歩いた訳ではない、キツい山だった訳でもない。
それなのに、なのである。
たまたまの事、体調が思わしくなかっただけと思いたい。大事に至らなくて良かった!
一時はどうしようかと思った。
最悪の場合は背負ってと思ったが共倒れが良い所、とても現実的では無かったろう。老化と共に、これまでには考えられなかったような事が起きるのかも知れない。
必要以上に恐れる事は無いが、色々対処法を考えておかねばならないだろうな〜。
そんな事を湿布薬の臭いが満ちあふれた風呂上がりの部屋で思った。それにしても、ペケレベツ岳はカミさんにとって鬼門のような山なのかしら?
・心臓よ悲鳴あげるな急坂の むこうに待つは春の樹氷ぞ
・痙攣の不安がよせる左足 日頃の無礼詫びつつ撫でる