トヨニ岳(1527m)

日高 2009.4.13(月) 曇りのち晴れ


 

トヨニ岳
トヨニ岳北峰(右)とピリカヌプリ(中央奥)

 

2009.4.13(月)
野塚トンネルP 0135
稜線出合 0315
1251mP 0425
トヨニ岳南峰 0550
トヨニ岳北峰 0630〜0700
トヨニ岳南峰 0745〜0810
1251mP 0850
稜線出合 1000
野塚トンネルP 1055

トヨニ岳

トヨニ岳は北峰(1527m)、南峰(1493m)、東峰(1425m)の三つの峯からなり、南から見るとコウモリが羽を広げたような形をして南日高の山々の中でもその存在感を強くアッピールしているように感じる。

またトヨニ岳は日高山脈最南端のカールを持つ山でもある。
国道236号線「天馬街道」が開通以来、南日高の山々へのアプローチは便利となったが、登山道は無いので夏の沢からか積雪期に登られている。

 

プロローグ

トヨニ岳には2006年の5月に初めて訪れ、南日高の主稜線の素晴らしさに大感激した記憶がある。
もっともその時はトヨニ岳南峰を北峰と勘違いし南峰で引き返し、悔いを残した。
そして南峰から眺めたピリカヌプリの優雅でたおやかな姿は何時か訪れてみたいと私の心に深く刻み込まれたのであった。

実はコンディションに恵まれた前回と同様の時間(3時間半)でトヨニ岳南峰まで行ければ、ピリカヌプリにチャレンジしてみようと秘かに考えていた。
トータル14時間と想定して逆算、予備時間を含めて夜中から歩き出す事にした。
カモシカ山行(夜間登山)はした事が無い、夜に細く狭い雪の主稜線を歩くの気乗りがしない。
が、それでも、あえて挑戦する事にした。
それだけ私にとってピリカヌプリは魅力溢れる遥かな山なのだ。

 

漆黒

前夜、野塚トンネル十勝側駐車帯で車中泊。
眺める山肌は1週間前とは大違い、様相が一変している。
このところ続いた5月から6月並の陽気と気温が、山の雪を一気に溶かしたのだ。
予定尾根への取り付きは笹やブッシュが出ていて苦戦しそう、特にルートが見えない夜は敬遠したい。
そこで谷を登って稜線へ出る事にする、雪崩が怖いが気温の下がる夜中なら大丈夫だろう。

準備を整え、午前1時半まさに丑三つ時、ヘッドランプを点けて歩き出す。
長い行動時間になる事も考え、ビバークの用意も抜かりなくしている。
ランプを点けていても光の届く範囲はせいぜい5〜10m、谷の全体像は判らない。
小さなデブリのような固まりにゾッとし辺りを見回すが雪崩の兆候等、判る筈も無い。
それでもこの土日に歩いた人のトレースが所々にあり、出合う度に安心する。

真夜中で気温も下がる時間なのに、雪は緩んでいてズブズブである。
おまけに10歩に1回位はズボ〜と膝上まで潜り、歩きづらい。

漆黒の狭い谷間から見える空は両側の尾根に遮られ細長く、西側半分には星が見えているが東側は真っ暗だ。多分雲がかかっているのだろう。
軟雪に足を取られる度に悪態をつきながら登って行くと次第に傾斜がきつくなり、主稜線のシルエットがはっきり見えてきた。

 

月光

主稜線に飛び出た。
谷の漆黒とは違いほんのり薄明るい。月明かりが山々を、稜線を照らしている。
満月を少し過ぎた楕円の月、薄曇りなのだろう赤っぽい色の月だ。

ただ風が強い、踏ん張っていないとよろけそうな西風である。
パーカーを着込み、フードを被る。
ストックをしっかり突き、体のバランスをとる。

進む方向に、トヨニ岳のシルエットが影絵のようにうっすら見えている。

トヨニ岳
主稜線出合いからのトヨニ岳(帰路撮影)

主稜線には幾つものトレースが、この土日にはかなりの人が訪れたのだろう。
稜線上の雪も締まっておらず、足を取られる。
ヘッドランプでは判らないが風下側には雪庇が出ている筈、出来る限り風上側を歩くが歩きにくい所ではついつい甘えてトレースを利用してしまう。

何カ所か、細く狭い所がある。
両側が切れ落ちているのは判るのだが、どの程度なのかどんな感じなのか見えないだけに余計に怖い。
慎重に、神経を張りつめて渡る。
夜間歩くのは慣れていないせいもあるが、やはり危ないし余計な気を使う。
慎重になるだけペースは遅くなる。

 

黎明

1251mPから1322mPにかけては、早くから雪が溶け岩やハイマツが姿を見せる所である。
今年はどうなのだろう、暗くて様子を見る事は出来ない。

ヘッドランプに光の中に岩屑が映し出された、確認すると岩が完全に露出しておりハイマツも出ているようだ、前回より溶けている感じだ。
東側の斜面には雪が付いているけれど、行く手はどうなっているか判らないし、滑れば何所までも落ちるだけだろう。

仕方なく、岩の出ている稜線に沿って乗り越えて行く。
手を置く場所を照らして確認し、足の置き場を照らしながら、まさに一挙手一投足をランプで照らし確認しつつ、時間の掛かる事おびただしい。

1251mP
1251mP付近の稜線(帰路撮影)

この岩の稜線と格闘している間に、黎明となり少しずつ明るくなってきた。
周囲が見えてくるだけで、ありがたい気持ちになってくる。

トヨニ岳南峰から東峰への吊り尾根が白くはっきり見えてきた。
南峰手前の1473mPが凛々しく見え、稜線の雪も締まってきた。
1473mP手前にテントが一張り、ピッケルが3本立ててあった。
起こさないように出来る限り静かに横を通過したが、アイゼンの爪音がいやに高く感じられた。

東峰トヨニ岳南峰から東峰への尾根

 

オ〜、 お久しぶり!

1473mPに立つと、何とも懐かしい素晴らしい景観が待っていてくれた。
トヨニ岳からピリカヌプリ、神威岳の大景観である。
立ち尽くし、見とれる。「お久しぶり!」
嬉しくなり、気持ちも弾む。

主稜線
右からトヨニ岳南峰、北峰、主稜線の先にピリカヌプリ、左に神威岳

南峰である。
時間は0550、4時間半が掛かっている。前回はここまで3時間半だった。
夜間、軟雪、強風、岩の稜線、体力の低下もある、仕方がない。
最終決心は北峰でと、グルリと辺りを一瞥して稜線を北へ踏み出した。

コルへと下る途中、テントを張った跡が2カ所。
やはりピリカに行くには、一泊が常識なんだよな。
それに引き換え何と言う自身の非常識さ。

コルからは北峰が存在感を主張しているように屹立している。
朝日を受けて、薄桃色に染まった山肌が美しい。

トヨニ岳北峰北峰

 

最敬礼!

北峰に着いた、ここからの景色は初めてである。
ピリカへと続く稜線が手に取るように眺められる。
1512mPまでの平坦な主稜線、そこから急激に下って1338mのコルへ、そしてそこから標高差300mを一気に立ち上がるピリカの南稜と切れ落ちた谷、想像していた通りの景観だ。

ピリカヌプリへピリカへ続く道

ピリカヌプリはその名の通り、美しく堂々と鎮座している。
あの頂きに立ってみたい。その思いが昂る。

ピリカヌプリピリカヌプリ

だが、時間は0630。仮に順調に行って来たとしても北峰に戻るのは1330、下山するのは1730以降だ。
体力が持つとは限らない多分へばるだろう、相当の確率でビバークする事になる。
無理だ! 諦めよう。

もしかしたら、という淡い妄想をきっぱり断念。
食い入るように眺めながら、大休止。コーヒーがお腹に染み入るようだ。

南峰北峰からの南峰と東峰

せめて1512mPまで行こうかと思ったが、未練がましいと思いを断った。

多分、もう立つことは無いピリカヌプリへ最敬礼をしてお別れだ。
「夢を見させてくれて、ありがとう!」

 

清々しい!

決心してしまえば、気が楽だ。
時間は十分すぎるほどある。のんびりゆっくり楽しみながら下る事にしよう。
何となく焦るような気持ちがあった往路とは違い、何か清々しいような気持ちさえする。
そんな気持ちを察したのか、お天気も曇り空から青空へと変わり風も弱くなった。

南峰へ戻って来た。
東峰へも薄いトレースが着いている、前回は東峰から上二股へ廻って降りたが今日はそのまま往路を引き返そう。

東峰東峰

トヨニ岳から見る南の主稜線には、野塚岳・オムシャヌプリ・先週歩いた十勝岳・楽古岳などが並び立っている。
何時見ても胸躍る思いにさせてくれる大好きな景観である。霞んでいるのが残念だ。

南の稜線南の主稜線を見る

岩の出ている稜線を慎重に通過する。
前方遠くに3人の人影が、1437mPにテントを張っていた人達だろう。

明るい時に見ると、張り出している雪庇にはクラックが入り始めている所がかなりある。
トレースはその外側を歩いていて、ちょっと怖い。
そういう自分も雪崩の危険を冒して谷を登って来たのだから人の事は言えないのだが・・・。

稜線上の雪庇雪庇

下降尾根に入る。
明るく周囲も確認できるので、谷ではなく尾根を降りる。
グズグズ雪も下りではさして苦にならない、滑り落ちながら野塚トンネルへと戻って来た。

 

エピローグ

トヨニ岳。
山そのものもとても良い山だけど、トヨニ岳を見ながら歩く日高主稜線が私は好きだ。
今回も、最高のコンディションではなかったけれど、良い表情で迎えてくれた。

あわよくばと思った「ピリカヌプリ」は妄想と終わり、挑戦する事も叶わなかった。
それでも悔いは無い。
思い焦がれるだけで、けっして成就しない夢もあるのだと思う。

それも人生。
こんなこと言うと「たかさん、何時からそんなに枯れてきたんだい?」と冷やかされそうかな・・・。

 

 

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