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プロローグ
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タケノコ採りの車が点々と停まる峠道をオロフレ峠へ向かう。
曇り空から時折差し込む陽射しが清々しく、車の窓を開けて走れば「山は良いな〜」と気持ちも軽い。峠に着き準備をしていると一組のご夫婦が近づいてきて「これからですか? 私達も登ろうと思っていたんだけど、昨日徳舜瞥山で車上狙いにあって窓ガラスを割られ大変な目にあってしまい今日は止めにしました」と言う。
徳舜瞥山の登山口は以前から車上狙いが多いとして評判が悪い。
警察や地元山岳会などが協力してなんとか解決して、この汚名を晴らして頂きたいと思うのだが。折角遠くからいらしたのにお可哀想にと同情するが「貴方の車もやられそうな感じのする車だな〜」なんてデリカシーの無い言葉は余計だったな〜。
歩き始めるなだらかな樹林には、もう散ってしまっているがミネザクラが多い。
シラネアオイ、ツバメオモト、ミヤマスミレもまだ沢山の花をつけている、でも昨日までの大雨に叩かれた姿は少し可愛そう。
ツバメオモト
羅漢岩の手前の南斜面に点々と散らばっているピンク。
イワカガミ、オロフレ山の名物の一つでまさに今が旬!
「可愛いね〜」思わず足が止まる。一時は盗掘で見られなくなるのではと心配されたが、最近はかなり回復したようだ。
保護活動や人々の意識の高まりのお陰なのだろう。
イワカガミ
白花もある。
膝の負担を和らげるためのんびりゆっくりが今日のモットーだ、マクロレンズに交換してしばしイワカガミとオシャベリだ。
白花のイワカガミ
何でもそうだが、今が盛りのものは美しい。それが生命力と言う力なのだろうか?
花も木も動物も、人間だって・・・。
そんな話をしながら、イワカガミを慈しみ写真を撮る。
間もなく、遥か下まで切れ落ちた荒々しい岩の谷が現れる。
羅漢岩、崖の縁の細い道を膝に変な力がかからないよう注意しつつ下りそして登って行く。
羅漢岩
人の手が届かない険しい岩場にはチングルマが可憐な花をつけ始めている。
彼らにとっては安全で快適な場所なのだろう。
岩場のチングルマ
そして足元にはマイズルソウが見落としてしまいそうな白い小さな花を付けて佇んでいる。
ミヤマダイコンソウの葉を見つけるが、花はまだのようだ。
マイズルソウ
カミさんは「確かこの辺りにとても色の奇麗なカタバミがあったと思うんだけど・・・」と探していたが見つからなかった。
少し時期が違ったのかもしれないな。
羅漢岩から1062mのコルまでは平坦な尾根道だ。
シラネアオイの群落が続き、もう少し時期が早かったら息苦しいほどの見事さでは無いだろうか。目立つ花ではないが「ハリブキ」を見つけた。秋には赤い実が美しく目立つ花である。
茎も葉も鋭い刺で武装し人を寄せ付けない見るからに恐ろしそうな小木、それでも虫には来て欲しくて花を咲かせる。
ハリブキ
左手に小さな岩峰がある。
イワヒゲが岩にまとわりつくように咲いているので、私達は必ず立ち寄る場所だ。
少し急な踏み跡を辿る、いつもなら走り上がる所なのだが今日は膝に注意しながら一歩一歩慎重に確かめながら岩の上に立った。
ここには「山神」の石柱が建っている、どういう意味なのかな。まさか・・・。
山の神かい?
イワヒゲはこれからのようで、まだ少ししか咲いていなかった。
岩峰の上は風が吹き通り気持ち良い事この上ない、しばらく居ると寒いくらいだ。
広がる岳樺の新緑が瑞々しく目にしみる。
イワヒゲ(カミさん撮影)
コルで一休み、膝への負担を考え超スローペースで歩いたせいでここまでに3組の人達に追い抜かれた。
いつもとは逆に「頑張って下さい」と励ましやねぎらいの言葉を掛けられる。
チョッピリ違和感を感じ淋しいが、当たり前のように受け止める年齢なのだと感じさせられる。
冷たくしてきたコーヒーやおにぎりを食べ、咲いているウコンウツギやヨツバシオガマ、ハクサンボウフウなどを愛でる。コルからは少しきつい登りとなる。
膝の様子を確かめながらゆっくり登って行くと、これまた咲き出したばかりの「カラマツソウ」や「チシマフウロ」が出迎えてくれ辛さを感じるいとまもないくらいだ。
カラマツソウ(カミさん撮影)
「私を撮らないで行っちゃうの?」と言われているようで、その都度足を止め、写真を撮る。
カミさんも「かわいい〜」と写真を撮っている。
チシマフウロ
濃い色、薄い色と変化の多いハクサンチドリも目を楽しませてくれる。
始めて見た時、どうしてこんな珍しい形がと不思議に思った花だ。ハクサンチドリ
「ダイコンソウが咲いているわよ」の声
見ると岩陰にひっそりとモデルさんのような一輪、
どうすればこの表情を表現できるのか・・・私には難しい。
とても可憐で愛おしい一輪であった。
ミヤマダイコンソウ
のんびり、のんびり2時間も掛けて登ってきた。
幸い、膝に痛みも違和感も無い。
花達に元気をもらい、励まされ、登ってきた山頂は雲に覆われ視界は無いけれど、やっぱり気持ち良く嬉しい。
コーヒーやゼリーを頂き、度には人間様もと記念撮影。
さて、登れば下りが待っている。
膝には登りより下りの方が掛かる負担が大きい。
ストックを利用しつつ、そっと足を置きゆっくり体重をかけながら慎重に降りる。
花を見ていると注意がおろそかになりそうだ。
コルまで戻ってきて一安心。
麓にかけて広がる緑、特に岳樺の新緑が美しく見とれてしまう。
新緑の美しさが目にしみる
コルからは再び花や緑を愛でつつ、のんびり登山口へと戻った。
多くの花に出会え大満足のオロフレ山、花の名山の名に恥じぬ素晴らしさであった。
お陰で左膝のリハビリ登山第一段は大いに楽しみながら無事終了で一安心。
でも家に帰ってから少し痛み、風呂上がりに貼り薬を使った。
主治医の先生の言う事を信じ、徐々に負荷を大きくして存分に歩けるよう回復したいと思う。
だが焦りは禁物だ、再び痛めれば元も子もない。
焦らず慎重に粘り強く、半年を目標にリハビリしていこうと思う。今年訪ねるつもりだった日高の山々よ、しばらくの間、機嫌良く待っていておくれ。
・若き日に探しあぐねたイワカガミ群れ咲く山路二人で歩く
・共に老い共に痛みをさぐりつつ行けばオロフレなだらかに待つ