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朝焼け
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朝焼け
ゆっくりと朝食を摂って、出発準備。
テントに泊まったFMさん達が6時頃、出発するのを見送る。
FMさん達
私たちも少し遅れて出発だ。
朝の花々に挨拶しながら、ハイマツの道を抜ける。
少し歩いて暑くなって来たのでシャツを調整しようと立ち止まる。カミさんが「あら! 帽子に挿しておいたサングラスが無いわ」眼鏡止めの鎖だけが首に掛かっている。
「ハイマツに取られたんだね。とても見つからないよ、諦めよう。」1枚脱いで一息ついていると若いご夫婦がやって来て、「これ、落とされませんでした?」
サングラスを拾って下さったのだ。このサングラスこれまでも2度山で落とし、幸運にもその度に拾われカミさんの手元に戻って来ている、所謂ついているサングラスなのである。
その旨を話しながらお礼を言うと「ハイマツの中で光っていましたよ」と笑顔で颯爽と登って行かれた。
有り難うございました。今度は落とさないでね
五色岳に着くと若いご夫婦はすでに化雲岳へ向かっていた。
朝の清々しい大景観が広がっている。逆光気味になっている東側と南側は薄いもやが掛かり墨絵のような印象だ。
その割には視界が利き、阿寒や日高の山々がしっかり見えている。
何層にも重なって見える朝の景観、遠くは日高山脈
昨日歩いて来た沼の原もニペソツを従えて静かに横たわっている。
沼の原とニペソツ
FMさん達一行もやって来た。
これから沼の原、クチャンベツへ降りるそうだ。
しばし歓談、記念写真を撮り合った。
本来なら五色岳から化雲岳はアップダウンのほとんど無い快適なプロムナード。
でも昨日の情報では羆が出没しているとのことで、ルンルン気分とはいかない。私はうるさいので熊鈴を付けていない、ラジオをつけ、笛を吹き、気配を探りながら進むことにする。
10分も歩いた時、ハイマツの道の両側に明らかな羆の掘り返しが点々と続いているのを見つけた。
小さなシャクナゲなどは根こそぎ掘り返され放り出されている。
直径・深さ共に20cmほどの穴がいくつも空けられ、土は湿っていてまだ新しい。
羆の掘り返し
辺りの様子を注意深く探りながら、笛を吹く。
気配は無いが、もしかしたらと思うと気持ちの良いものではない。羆の落とし物も何カ所かある。
一つはご丁寧にも、木道の上にしてあった。
ハイマツの中の見通しの利かない道は緊張を強いられるが、ハイマツ帯を出れば見通しも利き安心だ。
そこは一面のお花畑、怖さを忘れ、美しさに酔いしれる。
広がるお花畑
五色岳から化雲岳までの間に私たちが確認出来た花だけでも、エゾツツジ、トリカブト、タカネトウウチソウ、ウサギギク、ヨツバシオガマ、ウメバチソウ、イブキトラノオ、コガネギク、クモマユキノシタ、ウスユキトウヒレン、アズマギク、チシマツガザクラ、エゾノツガザクラ、アオノツガザクラ、チシマギキョウ、イワギキョウ、ワタスゲ、エゾカンゾウ、ヒメクワガタ、コマクサ、エゾルリソウ、エゾコザクラ、クルマユリ、ホソバノキソチドリなどなどが途絶えること無く続いていた。
クモマユキノシタ
花々を愛でながら時間をゆったりかけて進んで行く、羆の恐さはすっかり忘れ、我ながら能天気なものである。
足が進まない〜!
化雲岳の特徴でもある大岩の陰にザックをデポし、小化雲岳への稜線に足を踏み入れてみた。
この道は私も初めて通るルート、どんな花達に出会えるか楽しみでもある。化雲岳から北へ延びる断崖、迫力を持って迫ってくるようだ。
連なる断崖
道は緩やかなアップダウンを繰り返しながら小化雲岳へと延びている。
道ばたにはコマクサが目立つが、さすがに時期遅れで傷ついたものが多く可愛そう。五色岳〜化雲岳と距離も離れていないのに、花の種類も数もかなり違う。
全体に花が少ないのだ。どうしてなのだろうか?
ブラブラと1947mPまで歩いてみたが、大して変化も無いので引き返した。
イワギキョウ
化雲岳から少し西に来て、十勝連邦が良く見える。
黄金が原やその手前を流れているクワン沢やクワァンナイ川源流部の地形も確認出来る。
小さな湖沼群が宝石のように日の光を受けて輝いていて美しい。
黄金が原とオプタテシケ山
昼前には化雲岳へ戻って来た。
空身でのんびり歩いただけなので、疲れも無く気持ちも軽い。
お天気も上々、その割には歩いている人の姿が見えなく寂しい感じの化雲岳だ。
化雲岳山頂にて
天沼方面に向かうべく南へ1911mPからコルへ降りると、右手に雪渓の溶けた水を集めた小さな池があった。
青い水と雪の白が印象的、ちょっと立ち寄ってみることに。
奇麗な池のほとりで
透き通った冷たい水、雪の冷気、ゴロゴロ石、草地に咲く花々、何とも気持ちの良い雰囲気である。
のんびりしようとお昼ご飯、そしてお昼寝タイム。山歩きというと、汗を一杯かいて次のピーク目指してひたすら頑張る。
そんな歩き方をして来た私にとって、今回のようなゆっくりのんびり山行は初めてである。
慣れないが、実に気持ちが良く、なにより心が豊かに優しくなれるのが自分でも分かり嬉しい。
色々な歩き方があっても良いのだと実感したひと時であった。岩場から「チュ! チッ!」という鋭い鳴き声が頻繁に聞こえてくる。
「鳴きウサギかしら?」
「じっとして眺めていれば、見れるかもよ」二人とも何気ないそぶりながら実は真剣に鳴きウサギをウオッチする。
あちこちから、時にはお尻の下から鳴き声が聞こえる。「あっ! 居たわよ!」
20m位離れた石の上に座って、吠えるように鳴き声を上げている1匹。
その鳴き声に呼応するようにさらに10mほど遠くの石の上にも1匹。「ウ〜ン・カワイイ〜!!」初めて見ることが叶ったカミさんは感激のようすである。
望遠レンズに交換する余裕が無く、花用のマクロレンズのまま撮影したが距離が遠く鮮明に写すことは出来なかった。
鳴きウサギ
ちょうど良い時間になったと、コルから直接ヒサゴ沼へ降りる道を選択する。
しばらくはゴロゴロ岩を縫うように進む、歩きにくいことこの上ない。
昨年、こんな所で転び肋骨を折ったのだった。慎重に歩いて行くと雪渓に出た。
やれやれと雪渓の上をヒサゴ沼へ向かって降りて行く。
静かに佇む別天地のようなヒサゴ沼が見えて来た。
ヒサゴ沼
雪渓尻の流れで体を拭き、食事用の水を汲む。
冷たくて手が切れそうな鮮烈な水の流れである。
岩に付いた苔の緑が美しい、傍にはクルマユリが可憐な花をつけていた。
クルマユリ
ヒサゴ沼避難小屋に着くと、今日も一番乗り。
昨夜一緒だったご夫婦のものと思われるザックが2個、停滞している人の物と思われる荷物が1つ、お留守番をしていた。折角持って来たのだから、お天気さえ問題なければテントで泊まりたい。
3時の天気予報を聞いてから決心することにし、小屋の周囲を散策する。
イワイチョウが咲くヒサゴ沼
沼の水はきれいに見えるが、飲用はやめた方が良さそうだ。
沼の周りは花も多く、沼は意外に大きい。
東側にはニペソツ山が夏雲を背景に屹立していた。
ヒサゴ沼とニペソツ
ヒサゴ沼は開放的で伸びやかな、すこぶる気持ちが良い別天地。
惜しむらくは、トイレが汚いことだ。
昨日の忠別岳避難小屋のトイレと同様に掃除をしようと思ったが、デッキブラシも無いし、その気も失せる汚れ方だった。
へそ曲がりは世の中結構居るものだけれど、○○曲がりも居るらしい。「山のトイレを考える会」の事務局に、各トイレに掃除用のデッキブラシを置くように進言してみようかしら。
「お前も会員なのだから自分で持って行け」なんて言われるかもな〜。
午後3時の天気予報では、十勝北部、上川に雷注意報が出ているそうだ。
実際に石狩岳方向の積乱雲が発達しているように見える。
雷雨に叩かれるのは遠慮したい、テントは止めて小屋泊まりに決め、場所を確保する。4時過ぎから続々と登山者達が到着し始めた。
昨夜ご一緒のご夫婦も帰って来た。
小屋に荷物を置いてトムラウシを往復してきたそうだが、まだ元気一杯の様子である。5時過ぎには、小屋は概ね満杯状態。
テントを張る人も出始めた。
中には大丈夫かと心配になるほど疲れ切っている人も。
場所を譲り合い、皆さん寝場所を定め、夕食の準備を始める。
私たちも軽量化で代わり映えしない夕食を作り、流し込む。沼の原や石狩連山方向には稲妻が光り、雷鳴が轟いたが、ヒサゴ沼は平穏に過ぎた。
夕食を摂り終わって片付けをしながら外に出てみると西の空が茜色に染まり、夕焼けショーの真っただ中。
慌ててカメラを取りに小屋へ走る。
戻って来ると、すでにショーは終わりを告げようとしていた、残念無念!
夕焼けショー
沼のほとりで若いご夫婦と会話。
彼らの疲れを知らない体力にはとてもかなわない、羨ましい限りだ。
でも、歳には歳なりの楽しみ方もある。
私たちがカムイミンタラを3日間に渡って楽しんでいると話すと、「そういう楽しみ方もあるのですね」と言っていたが、彼らには体力にものを言わせて踏破する方が楽しい年代の筈だ。あれこれ話しているうちに日は沈み、満月が雲の間から顔をのぞかせた。
明るく奇麗な月、石狩岳がシルエットで見えていれば絵になったのだが雲に隠れていた。
満月が
カミさんによると、夜中のヒサゴ沼は満月でさざ波が輝き、その反射がテントを照らして、それは幽玄な幻想的な世界であったという。
そう、やはり此処は「カムイミンタラ」だったのだ。
・地に頬をすりつけて撮るこまくさの
淡きピンクの口元愛し・雪渓よりい出たる瀬音高くして
イワイチョウ群れ沼まで続く