千早林道から見る南狩場山
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狩場山
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賀老高原キャンプ場から千早林道を走ると間もなく、「林道の補修工事のため、通行止め」の標識。
「聞いてないよ〜!」と言いたい所だが仕方ない。
車を置いて約4kmの林道を登山口まで歩く。(本工事は1週間ほどで終了見込みとのこと)林道の途中からは南狩場山の姿が眺められ、勇壮な滝が落ちる沢を何本も横切っていく。
車では見逃してしまう、歩きならではの光景だ。
沢を見ながら
約1時間の林道歩きで登山口へ。
やや荒れた登山道を淡々と登りだす。
初夏ならばスミレが咲き乱れる道も、今の時期は何も無く見通しも利かず、辛い道だ。
それに昨日の疲れが残っているのか、体が重く感じられテンションも低下気味。岳樺と背の高い笹の中を1時間近く登り、やっと5合目。
時折視界が開け、景色が見られるようになる。
南にカスベ岳、メップ岳、その向こうに遊楽部連山が朝日を受けて横たわっている。
遠くには遊楽部連山の姿が
そして日本海には奥尻島の姿も。
奥尻島
素晴らしいお天気だ。
山頂からの大展望が楽しみである。
標高1200m付近から通称「下のお花畑」。
すでに盛りは過ぎているが、色とりどりの花が咲いて美しく、元気が出てくるようだ。お花畑の斜面
再び深い根曲がり竹の中を登ると、左から真駒内コースが合流してくる。
ここからが通称「上のお花畑」、エゾゼンテイカ、ミヤマキンポウゲ、ヨツバシオガマ、ウメバチソウ、ハクサンボウフウなどが、まだ沢山。
広いお花畑をトラバース気味に斜上する、気持ちの良いプロムナードである。
お花畑をトラバースしながら南狩場へ斜上していく。
2/3ほど横切った所で声のようなものを感じ、ふと見上げると30m弱上の草地に小熊を見つけた。
2頭の小熊である、親も居る筈だと緊張して見ると、小熊の3mほど前の草から頭を出して私を見つめている母熊と目が合った。まん丸な顔をしている。私をじっと見ているが、穏やかな目に見えた。
顔の輪郭には黒ではなく、褐色というか茶褐色の毛が生えている。
10秒ほどして稜線方向へ移動し一旦見えなくなったが、数秒後ハイマツから首を持ち上げるように頭を出し、もう一度私を見ている。明らかに様子を確認している。これまで何回か熊の姿は目撃しているが、こんなに近くで遭遇したのは初めてである。
でも、不思議に恐ろしさとか怖さは感じなかった。
ただ下手に動いてはまずいと思い、「ほ〜ほ! ホ〜イホイ!」と声を出して彼らに私の存在と敵意の無いことを伝え、彼らを注視していた。合計30秒ほどであったろうか、親子はそのまま稜線方向へ登りながら姿を消した。
姿を消してから、写真を撮れば良かったと思ったが、時すでに遅し。
もっとも、とても写真を撮れる精神状態ではなかったのだが・・・。
どっと疲れが出た感じになり、少し進んだ岩が点在する所で腰を下ろして休憩。
単独の男性がやって来て、道を譲りながら熊と出会った話をすると、「本当に居るんですか? 怖いな〜!」と急遽10秒置きに笛を吹きながら登っていった。その豹変振りが可笑しくて、笑ってしまった。
お花畑を横切り大きな岩がゴロゴロしている急坂を登り切ると南狩場。
南狩場への急坂
南狩場は、岩稜になっている。
周囲がなだらかなだけに、その屹立した姿が目立ち、その変化も面白い。
南狩場と狩場山(左)
短い距離だが、狭い尾根を岩を乗り越え、木を潜りすり抜けて登れば、後は嘘のように広く平らな草原をのんびり歩くだけだ。
草原を気持ちよく
此処には草原ばかりでなく、高層湿原まであり驚かされる。
湿原にはイワイチョウが群生していた。
湿原には池も
やがて廃道になっている「千早旧道コース」の標識がある。(標識には島牧コースとあった)
本来ならこの標識は取り去り、立ち入り禁止の標識を設置すべきなのだろう。
間違って入り込む人がいないよう願うばかりだ。そしてすぐ向こうにはド派手な色の鳥居、山頂である。
山頂
先ほどの単独男性が休んでいる。
話を伺うと、愛知から来られているとか。
北海道の山へは何回も訪れているとのこと、嬉しいことだ。残念ながら、周囲は雲に覆われ大景観は望むべきも無い。
まっ、羆の親子に出会えただけで良しとしよう。
涼風を受けながらお昼、食欲は余り無いがトマトとキュウリが美味しい。
それだけではバテルとフランスパンにバターやミルクを塗り、無理矢理水で流し込む。姿を変えた南狩場を見ながら帰路につく。
南狩場の崖の下は遡行の困難さで知られる、須築川の源流だ。
南狩場の崖
南狩場を越え、「上のお花畑」が見える所まで戻って来た時である。
登山道の下側を先ほどの親子熊が一列になって小走りに下っているのを見つけた。
今度は500m以上の距離があり、傍観者として眺めていた。彼らは狩場山のこの一帯を縄張りとしているのだろう、そんな気がする。
登山者との遭遇が心配される、お互い注意し合い、万一の事態だけは避けたいものだ。
草地を下る親子熊
一足先に降りた単独男性が接近したのか、鋭い笛の音が連続的に響いてきた。
きっとビックリしたことだろうな〜。お花畑からは昨日登った大平山がしっかりと姿を見せていた。
大平山
二日間に渡って楽しんだ道南の山。
明日はお天気が崩れるようで、予定していた雄鉾岳はまたにしよう。大平山では期待していなかった「オオヒラウスユキソウ」に出会えたし、狩場山では予想もしなかった親子熊に出会えた。
言ってみれば「遭遇の山旅」であったのかも知れない。いずれにしても記憶に残る山旅になったことは間違いなさそうだ。