オオヒラウスユキソウ
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大平山(おびらやま)
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夏休みの恒例行事となっている、孫達が灼熱地獄の東京から避暑にやって来た。
11歳と3歳の男の子である。
その精力的なことと言ったら・・・、ジジ・ババは見ているだけでも目が窪んでしまう。肉体的にも精神的にも疲れ果て、カミさんには悪いが逃げ出すことにした。
目指すは、道南の大平山、狩場山の二山、お天気が持てば雄鉾岳も訪れたい。久しぶりに目にする日本海は強い日射しを受けて青く美しい。
思う存分楽しんで、英気を回復したいと思った。
夕方、島牧の河鹿トンネル出口の広場に着いた。
車の窓を開け涼風を受けながら食事を摂っていると、蚊の大群が車の中に侵入しているのに気付く。プ〜〜ン・・・、パシッ!
プヨヨ〜ン・・、ピシャ!
以後延々と、空襲と対空砲火による戦闘の応酬が続いた。戦果は撃墜、約30数機。
被爆、4カ所。
撃ち漏らした敵機によるゲリラ・テロ攻撃、一晩中。 くそ〜!
夜中、蚊の攻撃に起こされると、雨が降っている。
次に起こされた時は、星が瞬いていた。朝、目覚めると速い流れの雲から細い雨が断続的に降っている。
下がるモチベーション、シュラフに潜り込む。
雲の切れ間から青空が覗くようになり、慌てて食事を摂り出発だ。露で濡れることを想定して雨着を着込んだ。
泊川ぞいの林道を少し進んで左手に入ると登山ポストが設置されていた。
泊川の清流
道はシダ類が密生する沢地形の湿っぽい滑り易い道だ。昨晩からの雨の影響もあるのだろう。
粘土質の滑る急斜面、見晴らしも風も無く、ひたすら耐える時間が続く。
雨着で草露からは守られるが、汗でびっしょり。これでは同じだと、雨着の上を脱ぐ。やがて顕著な右手の尾根に取り付くが、木々に覆われ見晴らしも無い。
エゾアジサイ、キツリフネなど僅かな花が単調さを慰めてくれるようだ。やがて標高650m過ぎで尾根を右側に乗っ越すと樹林帯は終わり草付きの急斜面に出た。
アザミが身の丈より高く育っている。
振り返ると、日本海と狩場山が大きく目に飛び込んで来た。
狩場山と日本海
雨の心配は全くなくなった、照りつける陽光、きらめく海、暑さが心配になって来た。
一部ロープが設置された急な斜面を登り切ると、標高810mの小ピーク、第1ピークである。
第1ピークで涼しい風に吹かれながら大休止。
暑さに火照った体に風が優しくトマトの瑞々しい果肉が美味しい。そして見上げる先には堂々と立ちふさがるような第2ピーク(1109m)の姿が・・・。
第2ピーク
第2ピークの登りに取り付く、緩むことの無い一直線の登りである。
周囲はお花畑状となり最盛期はいかほどかと思うばかり、盛りは過ぎているがそれでも十分目を楽しませてくれる。薄肌色の殻に茶色の線が入ったカタツムリが多い。
余り興味が無いので触りもしなかったが、帰ってから調べると「カドバリヒメマイマイ」というこの山に多い種類なのだそうだ。
狩場山
やがて白い石灰岩が目立ち始め、荒々しい岩場が続く稜線の下を行く。
コガネギク、モイワシャジン、エゾシオガマ、トリカブト、トウゲブキなどを愛でながら歩いていると、白い星形の花が・・・。
この山の特産、オオヒラウスユキソウである。
オオヒラウスユキソウ
「まだ、咲いていてくれたんだ〜!」
もう遅いだろうと思っていただけに、嬉しい。
正直あまり好きな花ではないのだが、白い産毛に覆われたような花は清純だ。道の傍にも咲いているが、石灰岩の岩場にへばりつくように沢山咲いている。
そんな地形に似合っている花だという印象を強くした。
ウスユキソウが咲く岩場
道は気持ちの良い草付きを斜上し、第2ピークを僅かに巻いて第3ピークへ向かっている。
花も多く、足取りも軽い。
第3ピークへ
小さな雲の固まりが流れて来た。
周囲の様子が一変、雲に覆われた眺めも良いものだ。
雲に覆われる岩稜
ウスユキソウばかりではなく、赤紫の今が旬という感じの花が咲いている。
初めて見る花だ。リンドウのようにも見えるが違うようにも・・・何だろう?
帰ってから調べると「チシマリンドウ」であった。
とても可憐で、華やかな花である。
チシマリンドウ
ウスユキソウなど花達に見とれながら、第3ピークに近づく。
短い距離ながら薮が濃い所が何カ所か出てくる。
第3ピークの向こうに山頂らしいピークが見えている。それは山頂ではなく大平山の南東に位置する1170mPであった。
第3ピーク(中央)、山頂は第3ピークの左奥、右は1170mP
大平山山頂に着いた。
これまでの荒々しい岩場や開けた風景が嘘のような樹林に半分囲まれた場所、杭が一本立っているだけの山頂である。(山頂標識は落ちていた)
きっと、大景観が待っているのだろうとの予想は大はずれであった。それでも北側には寿都方面の景観を見ることができる。
寿都方面の景観
小さな雲の固まりが流れて来て南側の景観も隠れてしまった。
見下ろすと、登って来た第2ピーク、第3ピークが存在を示すかのように浮かんでいた。
雲に覆われる第2・3ピーク
第1ピークまで花を楽しみながら降りる。
光りの具合によってウスユキソウの白さが変わるようで面白い。
この白い産毛は何の為のものだろう?
エゾノホソバトリカブトも紫色を輝かせて咲いている。
トリカブト
第1ピークを下り、樹林帯そして沢地形へと下る。
濡れた粘土質の急斜面はものすごく滑る。
気を抜くともんどりうってひっくり返る、ズボンのお尻は泥がべったりだ。這々の体で登山口へ戻ったのは、登り始めて8時間近くも経っていた。
初めて見た大平山のウスユキソウ、礼文島のレブンウスユキソウに次いで二度目の出会いである。
何故か余り好きになれなかった花なのだが、いとおしく思えるようになって来た。貴重な植生を持つ大平山、訪ねてその脆弱な地質や環境を肌で感じることができた。
珍しい貴重な植物の生きる山である。
いつまでも楽しめるように、一人一人が注意して大切にしていきたいものだ。
沢地形や樹林帯の為、650mより下ではGPSの感度不良でトラックが乱れている |