恵庭岳山頂から望む支笏湖全景
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恵庭岳
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ここ数年風邪も引かず健康を謳歌していたのだが、今年は大いにやられてしまった。
3月漁岳に遊んだ翌日に風邪を引き、大した事は無いと医者にも行かずゴロゴロしていてすっかりこじらせてしまった。
おまけにカミさんに移し、さらに再び移されて、結局3週間以上も咳と痰、微熱に苦しんでしまった。やっと良くなって山へ行きたいと思うようになった4月8日、絶好の素晴らしいお天気である。
まだ風邪の抜け切らないカミさんには申し訳ないが、ごそごそ準備をして家を出る。オコタン分岐に車と停め、オコタンペ湖へ通じる道路を歩く、昨日降った雪が化粧雪となり周囲を白く染めている。
約30分ほど歩いて、適当な所から左手の恵庭岳北東尾根目指して取り付いていく。恵庭岳北東尾根は下の写真で説明すると、左から斜上する低い稜線に沿って中央右のポコ(C952mP)へ、そこから中央の山頂岩峰へ続く尾根を辿るルートである。
北東尾根と言いながら核心部とも言えるC952mPからの尾根は、北西に延びていて若干の違和感を感じてしまう。
山頂岩峰へ続く尾根を辿る(オコタンペ山から)
東側から爆裂火口沿いに登る夏道は8合目付近から上は立ち入り禁止となっているが、冬に登られる北東尾根は山頂岩峰の真下へ出てしまうからか、登る人数も少ない為か、山頂へ立つのも黙認状態になっているようだ。
久しぶりの雪と氷の恵庭岳山頂からの支笏湖を始めとする大景観を期待して訪れた。
オコタン分岐から30分程歩いた付近から恵庭岳北東尾根へと登りだした。
C952mPを経由するので概ね南へと進路を取る。
なるべく南へと斜上して行くが、かなりの斜度であり時折たまらずジグを切る。尾根は木々が混み見通は無いが、時折山頂岩峰が垣間見える。
山頂岩峰
所々やや複雑な地形もあるが南へ進めば間違いなくC952mPへたどり着く。
昨日降った雪が春の汚れ雪を隠し、美しくも静寂な世界が広がっている。
日差しは強く周囲は春の気配、木々の芽も赤く色づいて膨らみだし、もはや冬の厳しい雰囲気は無い。
狐やウサギの足跡も何か軽快で、ウキウキ弾んでいるように感じられる。
静寂な雪原を歩む
C952mPでコンパスを切り、概ね直角に左の東〜南南東へ方向を変える。
ここからは1080m付近を除いて急登の連続、深いラッセルの時には辛い登りとなるだろう。
幸いこの日は雪も締り、愚直にゆっくり足を運べば、面白いように高度が上がってゆく。尾根からは山頂岩峰と一本右の尾根にある岩峰が迫力を持って見え、元気を与えてくれるようだ。
山頂岩峰(左)などを望みながら尾根を辿る
振り返れば、漁岳・小漁山・オコタンペ湖が木々の間から姿を見せている。
先日歩いた漁岳からオコタンペ山の稜線もはっきり見えていた。
小漁山(左)、漁岳(中央)、右手前にオコタンペ山、左手前はオコタンペ湖
堅い雪と腰近くまで潜る吹きだまりそして急斜面に苦戦を強いられつつ、周囲の景色や近づいて来る山頂岩峰に励まされながら高度を上げて行く。
C1250m付近で山頂岩峰の少し下にある大岩に辿り着いた。ここからは大岩の基部を右に巻き山頂岩峰の下を登って、山頂直下のルンゼから山頂へ岩を攀じる。
まさに冬の恵庭岳の核心部なのである。大岩でスノーシューとストックをデポし、アイゼンに履き替えピッケルを持つ。
さすが春で厳冬期のように堅く凍てついた雪ではないが、滑ったら停まらないトラバースと日陰の堅氷が待っている。
小漁山の向こうに羊蹄山と尻別山が親子のように並んでいるのを見ながら、パンと温かいコーヒーで一息入れる。
羊蹄山(右)と尻別山
大岩の基部を慎重に回り込む、ちょっと嫌な感じの所には有り難い事に数メートルのフックスロープが設置されていた。
回り込み、斜面を直上すると山頂岩峰の基部である。
山頂岩峰
この大きな山頂岩峰の右側を巻いて行く。
日陰の部分は凍り付いていてアイゼンが気持ちよく利く。
山頂岩峰の下を巻いてルンゼへ
次第に岩が多くなる、滑って転んだら大怪我間違い無しだ。
狭い急なルンゼを足場を探り、ピッケルで確保しながら慎重に進む。
誰も居ないけれど、見えも外聞も無く一歩一歩を丁寧に時間をかけて運んでゆく。ルンゼを登り切ると急に視界が開け今まで見えなかった支笏湖が右前方に姿を見せるが、愛でる心の余裕は無い。
目の前には山頂への最後の岩場、5mほどだが垂直だ。
どう登ろうかとルートを探っていると、雪に隠れてフックスロープが垂らされているのを見つけた。
掘り出してC'Kしてみると、しっかりしていて大丈夫そうだ。
有り難いと感謝しながら、ロープとアイゼンの前爪を頼りに岩を登り切った。
山頂の一角に立って緊張から解き放たれた目に飛び込んで来たのは、オコタンペ湖と小漁山そして羊蹄山の美しい姿であった。
山頂の一角からオコタンペ湖と小漁山、そして羊蹄山
そしてそこから数メートル先に山頂標識が・・・。
春の日射しを浴びて岩の氷も溶け出して優しい表情をしている。
恵庭岳山頂
「お久しぶり!」10年振り位の冬景色の恵庭岳山頂である。
狭い山頂に立って思い切り深呼吸!
風もなく暖かい、眼下に広がる支笏湖、その深い優しそうな湖面の群青色と風不死岳・樽前山、紋別岳・イチャンコッペ山の雪の白さが対照的に映えている。
恵庭岳山頂からの支笏湖全景
支笏湖の北側の紋別岳がその姿を支笏湖に映している。
恵庭岳の爆裂火口の向こう側には幌平山とイチャンコッペ山が柔らかな丸い姿を横たえている。
支笏湖を挟んで対岸には風不死岳と樽前山が重なり合いながら佇んでいる。
支笏湖温泉地区のモーラップ山などがこじんまり座っている。
そして支笏湖の西側には白老台地から美笛地区へと緩やかな曲線を描いて湖面が広がっている。
静かな心休まる美しい景観である。
暖かい陽光を浴びながら、先ほどまでの緊張とは打って変わった安らぎの一時である。
見慣れた景観なのだが、その度心を打たれるものがある。菓子パンやゼリー、コーヒーでお腹を満たしながら、惚けたような時間を過ごす。
苫小牧や日高方面はやや霞んでいて遠望は利かないが、北や西側はクリヤーで何処までも澄み切っている。
無意根岳や余市岳、札幌岳や狭薄岳、札幌市街地も良く見えている。
特に印象的なのは眼下のオコタンペ湖と漁岳、そして羊蹄山やニセコ連山などの景観である。
北西方向の大景観、手前下の尾根が登って来た北東尾根
30分以上も山頂に滞在していると、いくら春の陽気でも寒くなって来た。
名残惜しげにもう一度景観を見渡して、下山する事にした。「素晴らしい大景観をありがとう!」
下山も山頂岩峰下までは緊張の連続である。
急な所では後ろ向きになり前爪を蹴り込み、ピッケルを刺して確保しながら慎重に降りる。
斜度が緩くなり気を許すと、昨日降った雪が弱層となって滑り落ちるのに巻き込まれそうになる。
登りより時間をかけて山頂岩峰の下の大岩へと降りて来た。ここでスノーシューに履き替え、登って来た尾根を滑り降りる。
急斜面だけに面白いように尻滑りを楽しめる。
標高差100m程を一気に何本か、気持ちよく滑り降りた。オコタンペ湖へ通じる道路へ降り立ちオコタン分岐まで、山頂から僅か1時間半で降りてきた。
緊張感溢れる山頂部の岩場、遮るものの無い美しい大景観、静かな樹林帯、恵庭岳は期待に違わぬ素晴らしさで出迎えてくれ包んでくれた。
さすが支笏湖の盟主、素晴らしい山である。