白老岳山頂からの南白老岳
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南白老岳
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目覚めて見ると晴れている、天気予報も曇り時々雪だったのが晴れに変わっている。
それではと急遽、南白老岳に行ってみる事にした。
だが千歳は晴れているのに西の空はどんより暗く、支笏湖を過ぎる頃からは小雪が舞い始めた。ありゃりゃ! 美笛峠を過ぎると道路は積雪状態、中笛橋の駐車スペースに車を停めてしばらく様子見だ。
イジイジしていても仕方ない、テンションは下がり気味だが、まあ予報を信じて行ってみよう。二の沢へ延びて来ている尾根を歩き出す。
昨夜からの雪は5cm程、堅く締った古い汚れた雪面を隠す化粧雪だ。
歩き始めて約30分もすると、雪は止み、雲に切れ間が見えだした。
「良いぞ〜! お願いだから晴れてちょうだい!」白老岳の姿もうっすら見えだした。
白老岳
お天気は急速に回復しているようだ、青空の面積がどんどん大きくなっている。
木々の枝先に付いた氷が朝日に反射してキラキラ輝いて美しい。
尾根は緩やかに、そして徐々に傾斜を増しながら白老岳手前のC880mPへと向かっている。
一本尾根で間違いようの無い明瞭な尾根筋だが、赤いテープが点々と付けられている。
左手には恵庭岳、振り返れば羊蹄山の姿も垣間見られるようになって来た。C880mPに立つと、目の前に白老岳がその全容を惜しげも無く見せている。
風のせいか地形のせいか、いつもの事だが白老岳の山頂部は凍り付いており、陽光を浴びてテラテラ光っている。
白老岳
そして今日の目標である南白老岳もすっきりと見えだした。
ここからは、まだ円錐形には見えないけれど肩までの傾斜は相当なものだ。
南白老岳の向こうにはホロホロ山、徳舜瞥山の姿も見えて来た。
南白老岳
ここから白老岳へは北斜面に回り込み登るのが易しい一般的なルートなのだが、あえて直登することにした。
アイゼンに履き換え真っ直ぐ登る。
山頂直下に小さな雪庇が出ているので、少し南側に巻いて行く。
雪面はガリガリ、アイゼンが気持ちよく利いて不安は無い。急斜面を凌げば傾斜はゆるんで、山頂は目の前。
北斜面は岳樺と深雪の斜面、南斜面はハイマツが埋もれたガリガリ斜面だ。やや雲が多く、遠望は利かないが陽も射し青空が嬉しい。
何と言っても、目指す南白老岳の姿に眼を惹かれる。
美しくも凛々しく険しいのだ。
北側には草笛山(945m)の向こうに恵庭岳や樽前山・風不死岳が姿を見せている。
草笛山と恵庭岳(左)、風不死岳・樽前山(右)
そして南側には南白老岳とホロホロ山・徳舜瞥山が圧倒的な存在感を見せている。
白老岳山頂からの南白老岳とホロホロ山
4月の中旬と言うのに、白老岳山頂は冬の佇まいだ。
頭を出しているハイマツには分厚い氷がまとわりついているし、山頂標識も氷に覆われている。
風も強くさすがに刺すような感じは薄いが、パーカーを着なければ居られない寒さである。
羊蹄山(右)と尻別山
熱いコーヒーで体を温めながら南白老岳へのルートを眺める。
40度は越えているだろう急傾斜は辛いだろうが覚悟の上だ。
樹林帯の雪面に大きな亀裂が走っている、雪崩れる危険もありそうだ。
山頂稜線にはかなり大きな雪庇が張り出している、これも要注意。頭に叩き込む。風で体が冷えないうちに南白老岳へ行こうと、あっさり白老岳山頂を後にした。
カリカリの斜面を注意しながら下っていると、C880mPに10人程の人影があるのが目に入った。
きっとお天気を期待してやって来た人達なのだろう。
南白老岳とのコルへ降りながら登るルートをC'Kする。
コルで気合いを入れ直し、南白老岳の急斜面へ突入する。
アイゼンをフラットに置こうとするのだが、アキレス腱が延びきり悲鳴を上げている。
前爪で登れば良いが、今度はふくらはぎに負担がかかり長くは続かない。
斜度はゆうに40度を越えているだろう、たまらずジグを切る。
アキレス腱は楽になるけれど体勢は不安定となり一歩一歩を慎重に時間をかけて登るしかない、ピッケルを持って来るべきだった。
大きな木の幹に体を寄りかけ、しばし休憩。なんとか肩の部分まで登ると傾斜は僅かに緩み、ホット一段落。
切れ落ちた南東斜面と張り出す雪庇が目に入る。
最後の詰めを慎重に丁寧にと心に刻み、樹林帯から外側には出ないよう注意しながら山頂へと足を運ぶ。
急に傾斜が緩み30m程先の木の枝に結ばれた赤テープがヒラヒラ風に舞っている。
南白老岳山頂である。無事辿り着けて正直嬉しい。
ザックを降ろし、初登頂の喜びに満ち足りながら周囲を見渡す。
山頂から白老岳ふり返り見れば、先ほどの人達が白老岳山頂に到着しつつある所だった。
遠くて定かには分からないけれど、喜びが伝わって来るような動き、身振りである。
「御目出度うございます! 良かったですね!」
白老岳南面
僅かな違いなのに、先ほどの白老岳山頂とは打って変わって風もなく穏やかだ。
初登頂の感激に浸りながら周囲の景観を眺めつつ、軽食を口にする。
南白老岳から白老岳(右)、草笛山、紋別岳(中央奥)、恵庭岳(左)
南側にはホロホロ山、徳舜瞥山がどっしりした山容を並んでみせている。
ホロホロ山(左)と徳舜瞥山(右)
先週遊んだ恵庭岳もひときわ存在感豊かに佇んでいる。
恵庭岳
南側の真下には、道々白老・大滝線が走っている。
もう除雪は終わっているようにも見えるが、今年の開通は何時なのだろう?
今なら、薮も出ておらず比較的楽に登れるかも知れない。白老岳の人影も居なくなった、私もそろそろ下山するとしよう。
急斜面の下りは正直怖い、下が見えない傾斜である。
怖くて尻滑りをする気にもなれない。
一歩一歩を慎重に下り降りる。
コルに降り立ったときは、本当にホッとした。
コル付近からの白老岳南面
C880mP近くまで戻って来ると、風を避けられる窪地に10人程のグループが固まって休憩していた。
挨拶しながら傍を通り過ぎると、皆さんからトレースのお礼や挨拶を言われる。
トレースと言ったってラッセルした訳でもなく大仰なと思っていたら、私のトレースに一部の狂いも無く乗って登って来ている。
格好の道案内となったようだ。
それならもっと効率的なルートを考えつつ歩けば良かったなと苦笑いである。明るい陽光を燦々と浴びながら雪原を歩いていると、朽ちかけた大きな古株がぽつねんと立っていた。
この大木が盛だった頃と今とでは世の中どう変わったのだろう?
長い時間の尺度で生きて来たこの木と私たちの過ごす時間の尺度は全く異なる。
あくせくして目先の事やぎらついた欲求ばかりを追い求める事から離れ、時には長い悠々とした時間の流れに身を置いてみたらと古株は言っているようにも思われた。
悠久の時間を経て・・・