ピパイロ岳からの1967m峰
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歩き出すとやや霞がかかっているが、今日歩く稜線は一望だ。
霞んで見えるピパイロ岳を遠望しながら、あんな先まで行って帰って来るのだから人間の足も大したものだと、変な感心をしてしまう。
歩く稜線を望む。中央右が1967m峰、右がピパイロ岳
稜線上には所々雪が残っているが、予想したより少ない位。
このところの陽気で一気に溶けてしまったのではなかろうか。
残雪を渡るNGさん
鞍部や風下側に入ると日差しが強く暑いぐらい、それが風上側に出ると雨着を着て丁度良い。
そんな強風を受けて、花達が左右に大きく揺れている。
せっかく咲いているチシマザクラの花びらが風にもぎ取られそうになり可愛そう。
チシマザクラ
チングルマ、ミヤマシオガマ、タカネオミナエシ、エゾノツガザクラ、イワウメ、イワヒゲ、コケモモなど、おなじみの花達が花をつけていてついつい足が止まってしまう。
ミヤマシオガマ
ミヤマダイコンソウ、ハクサンイチゲ、ハクサンチドリ、ウグラバハクサンチドリ、雪が溶け湿った場所にはショウジョウバカマと見飽きる事は無い。
NGさんはカメラを仕舞う暇もなく、横から真上から下からと撮り続けニコニコと嬉しそう。
ショウジョウバカマ
1856m峰から1967m峰にかけては、岩が多くなってくる。
稜線歩きだけに激しいアップダウンも無く、休まなくても身体は軽く、呼吸も楽だ。エゾノツガザクラには色の薄いものも多かった、混合種なのかしら・・・。
エゾノツガザクラ
ハクサンイチゲも株が大きいのか、花の直径が3cm以上もあるものも珍しくない。
その根が美味しいのか、羆の掘り返しが至る所にあって気味が悪い。
ハクサンイチゲ
まさに花の稜線、霞んでいて大展望の稜線が期待出来ないだけに、嬉しい花のお出迎えである。
タカネキスミレの黄色の花も可愛らしく目立つ。
タカネキスミレ
1967m峰の大きな山容が近づいてきた。
さすが幌尻岳、カムエクに続く、日高第3峰。立派で大きい。
今回の登山口を流れていた二岐沢、その源流部は1967m峰なのである。
1967m峰へ歩むSGさん
2005.6に1967m峰を初めて訪れたとき、ガスの中で辿り着いた山頂で待っていたものは、丁寧にピンクテープが巻かれた小さな石だった。
そんな事を思い出しながら登り詰めた1967m峰、そこにはあの石と1967m峰と書かれた小さな板きれがポツンと置かれていて、何故か安心したような気持ちになった。
1967m峰山頂からのピパイロ岳
振り返ると歩いてきた稜線が手に取るように見渡せる。
よく歩いてきたと思わせる距離感である。
1967m峰から幌尻岳方面
1967m峰から一旦コルまで下がり、ピパイロの西峰へ向かう。
2005.6の時は、ずっと雪渓上を歩いたのだが今回は一部だけだ。1911mPからピパイロ岳への長い山頂稜線上も花が多い。
ミネズオウ、ヒメイソツツジなどを始め、多種の花が咲いている。
特にNGさんお目当ての花も僅かだがあり、写真撮影に余念がない。いくら待っても来ない、危険な所は無いからと先にピパイロの頂上へ。
しばらくしてSGさんが一人でやってきて、NGさんは風に揺れる花と格闘中、ピパイロ岳山頂には行かなくて良いと言っていると。
ありゃりゃ、それではと急ぎ引き返す。NGさん、ザックを風よけにしているがなかなか花の揺れが止まらないのだ。
狙った一輪の花に30分以上の時間をかけて粘っている。
その忍耐力に敬服である。
その一枚をご紹介しよう、さすが私のとは一味も二味も違う写真なのである。
NGさん渾身の一品
まだまだ粘りたい気持ちのNGさんに、帰りも時間がかかるからと切り上げてもらい帰路につく。
帰路も花と展望を楽しみながら順調に歩き、予定より早い午後3時にはテントに帰ってきた。やっぱり日高の稜線歩きは良いな〜!
帰ってきたNGさん(左)とSGさん
この日、歩きながら何人かの人に出会った。
ツアーの人と単独男性2名である。
その内の一人は東京から来たと言う30代と感じられた人で、伏美岳からペテガリまで10日の計画で歩くと言う。
凄い事を計画する人も居るものだと感心し驚きもしたが、この時期七つ沼から流れ出る新冠本流を下り、エサオマン北カールへ突き上げるポンベツ沢を遡行できるものかと不安に思った。
私自身は遡行した事は無いので、このルートを歩いた事のあるSGさんに意見を求めると、夏でも厳しかったが雪の残る今の時期はもっと厳しいと思うとの事。
この人の技量や装具を知らないので何とも言えないが、大変なルートであることは間違いなさそうである。
聞けば、日高は初めてとの事で彼自身も不安で私たちに尋ねたのだと言う。止めろと言うような僭越な真似は出来ないけれど、相当のリスクがある事、もし危険を感じたら新冠本流をそのまま下って新冠湖に出るか、七つ沼に引き返すルートがある事を伝えエールを送った。
夕方その男性が私たちのテントに立ち寄り、今回は止める事にして今日は幌尻岳まで空身で行ってきたこと、計画は再度検討し実力相応のルートで日高に挑戦したい。今日はアドバイスを有り難うございましたと丁寧な言葉である。
しばらく雑談をしつつ、これが本当に勇気ある撤退なのだと思った。
きっと良い登山家、山大好き人間になるに違いないと、人ごとながら嬉しく思った。