お花畑から樽前山・東山
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プロローグ
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朝7時前に樽前山7合目ヒュッテに着く、何人もの交通整理の係員が誘導作業に当たっている。
朝早くからありがたい事だ、挨拶を交わしお礼を述べる。
車はほぼ満車状態、これから来る車は一部は登山道脇へ、それ以外は5合目ゲートで立ち入り規制となるそうだ。
手軽に訪れられ、花も楽しめる樽前山、週末は楽しむのも一苦労である。大半の人が真っ直ぐ樽前山へと登って行くが、ヒュッテ前から風不死岳への道に入る。
最初はミヤマハンノキとウラジロナナカマドの林、林床にはマイズルソウが白い可憐な花をつけている。
すぐに林を抜けると、私が勝手に樽前ガーデンと呼んでいる中腹に広がる広大なお花畑にでる。
支笏湖や紋別岳、風不死岳を眺めながら、ゆったりした気分で歩ける別天地だ。
今日は朝方の霧が少し残っていて、全体が穏やかにうっすら煙っている。
霧でしっとりと煙る支笏湖
景色とともに目に飛び込んで来るのは、点々と白く咲く花達。
まずはウコンウツギ、薄黄色の花を沢山つけた小木でラッパ状の花と花びらのオレンジや赤の斑点が可愛らしい。
ウコンウツギ
例年なら少し盛りを過ぎる頃のイソツツジが、咲きだしたばかりの新鮮な姿を見せている。
まだ蕾の方が多いぐらいだ。
イソツツジ
圧倒的な量、一面イソツツジで白くなっている所では、ほのかに良い香りが漂っている。
イソツツジと同じ頃に咲くマルバシモツケは、さらに蕾のものが多い。
白が強いもの、ピンクが強いもの、僅かだが色の変化も面白い。
マルバシモツケ
そして山腹に転がっている岩にイワヒゲがしがみつくように根を広げ、可憐な花を付けている。
鱗状の緑濃い葉は、名の通りまさしく髭である。
イワヒゲ
樽前ガーデンから見る樽前山は、幅広の丘のようにも見える。
すでに雪は溶け、花々に埋め尽くされたその姿は優しくうららかだ。
花々の咲き競う樽前ガーデン
道は樽前ガーデンから岩尾根へと続き、風不死岳への分岐に至る。
右に風不死岳、左に樽前山、正面に932m峰、振り返れば支笏湖と通って来た樽前ガーデン、広々として気持ちも大きくなる気持ちの良い岩尾根である。細い岩尾根にはびっしりとイワヒゲが張り付き、タルマイソウが蕾を付けている。
気の早いものは花をつけだしている。
タルマイソウ
風不死岳へ進む、道は緩やかな登り、両側に咲くイワヒゲやイソツツジ、タルマイソウを愛でながらしばらく歩けば、風不死岳登山口。おしゃれな看板が掲げられている。
1時間も歩いてやっと登山口、少し違和感を感じる方も多いかも知れない。
この周辺にはマイズルソウの白い花が目立つ。
もう少し経つと、コケモモやシラタマノキの花達が多い所でもある。
ミツバツツジが萎れかかったピンクの花をぶら下げ、また来年来てねと言っているようだ。
マイズルソウ
平坦だった道は風不死岳に取り付き、急に険しくなって来る。
ゴツゴツした岩が増え、両手両足総動員。
滑らないよう慎重に歩く。やがて鎖場になる、しっかりしてはいるが頼りすぎないよう三点確保で乗り越える。
周りの大岩にはミヤマダイモンジソウ、夏の終わりには優雅で可憐な花を見せてくれる。
鎖場
鎖場を過ぎても厳しい登りがしばらく続き息も弾んで来る頃、大きな岩の小さなピークにでる。
最初の偽ピークである。
初めて風不死岳を訪れた時、ここを山頂が山頂ではないと気づいてがっかりしたのを思い出す。偽ピークで一息入れて、笹に覆われた岳樺林を進む。
見通しも利かず、笹のため花も無い単調な道、小鳥のさえずりが気を和ませてくれる。やがて次の偽ピーク、岩場のコブにでる。
本来ならここから白老岳、徳舜瞥山、ホロホロ山などが見渡せるのだが、霧から変わった低い雲に覆われ隠れている。
この付近は、ミヤマハンショウヅル、ナガバツガザクラが見られる所だ。
ミヤマハンショウヅル
岩場のコブから風不死岳山頂は、もう目と鼻の先だ。
この稜線には、ハクサンチドリが咲いている。
色の薄いもの、濃いもの、花弁の斑点にも個性が表れて面白い。
ハクサンチドリ
風不死岳山頂に着いた。
360度の大展望と言いたい所だが、霧から変わった低い雲が周囲を覆い隠している。
支笏湖の湖面もぼや〜としているし、恵庭岳すら見えない。
樽前山が何とか見えている程度である。
上空は晴れているのだが・・・
山頂でゆっくりコーヒーを飲み、ゼリーやフルーツを楽しんでいると続々と登山者達がやって来る。
職場の仲間、親子連れ、ご夫婦、単独の男女、老若男女様々で初夏の風不死岳は大にぎわい。
狭い山頂は楽しげな笑い声に包まれ和やかな雰囲気、皆さん楽しそう。30分も経つと込み合うようになって来たので、場所を譲り下山する事に。
下山中も何組ものパーティとすれ違った。
下山は往路を戻らず、932m峰から樽前山を経由する事にした。
風不死岳登山口まで45分、932m峰まで1時間で降りて来た。
この頃から日差しが強くなり暑くなって来た。
932m峰から見る、溶岩ドーム
気温は多分25度位か。
本州や四国九州の方なら25度なら暑い内には入らないと言うだろうが、私にとっては酷暑に近い。
疲れてはいないのに気力が湧いて来ない。
いつもだったらここから西山を廻って東山へ、そしてヒュッテへと戻るのだけれど、そんな気になれなくてダイレクトに東山へ向かう。暑さに強いタルマイソウはともかく、強い日差しに照りつけられたイワヒゲは可哀想。
日陰を作ってやったり水をかけてやりたくなる、同類相哀れむとはこの事と言うのだろうか。
イワヒゲ
快適なプロムナードである樽前山の稜線歩きも、こう暑いと辛く長く感じてしまう。
水をカブ飲みしながら気力喪失の敗残兵のようにトボトボ歩く。
普段は快適な稜線歩きも・・・
いつもは可愛いと愛でるタルマイソウも、気持ちが萎えた時には暑苦しくウザク見えるから不思議なものだ。
タルマイソウ
東山山頂は人も多かったけれど、それに劣らず虫も多い。
とてもゆっくりする気になれず、そのまま通過して下山した。戻り着いた7合目ヒュッテでは車がぎっしり、満車で係員の方が走り回っている。ご苦労な事だ。
今年の樽前山・風不死岳の花巡り、雪融けが遅かったせいで色々な花を一気に見ることができてラッキーだった。
多くの人が訪れていたけれどゴミも目立たず奇麗な山で気持ちよく過ごすことができ嬉しかった。
一人一人の小さな配慮がこの気持ちよさを創ってゆく源だ、私自身もそれを大事にする一人としてこれからも生きていきたいと思った。