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プロローグ
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考えてみると恵庭岳には秋にばかり訪れていたように思う、夏の様子はうろ覚えである。
登山届け記帳所には相変わらず、第二展望台から先は立ち入り禁止である旨が大きく書かれている。苔むした涸沢の中を少し進んで樹林帯へと入っていく。
涸れ沢から樹林帯へ入っていく
2004.9の台風18号で大量になぎ倒された風倒木も今はすっかり片付けられ支障なく通ることができる。
そんな樹林帯の中にノリウツギの白い花が目立ち、エゾアジサイの美しい青が心に染みる。
エゾアジサイ
恵庭岳に多い、ツバメオモトやサンカヨウが早くも青紫の実をつけている。
オオバタケシマランの赤い実が何とも可愛らしい。
オオバタケシマラン
その他にもイチヤクソウやニガナなども花を付けている。
やはり秋とは違う夏の風情である。
4合目を過ぎるとこれまでのトドマツ林から岳樺の林へと変わり、傾斜は目に見えて急になってくる。
ここから恵庭岳らしい厳しい登りの連続となる。夏の強い日差しを浴びて、汗が流れ落ちる。
暑い、熱い! 余りの暑さに体中の力が抜けていくような感じがする。
クエン酸のスポーツドリンクを水に溶かし、気持ちを立て直す。
飲んだ分以上に汗となって出てくる。シャツはグショグショ、眼鏡は曇る。6合目を過ぎて名物のロープ場、登りと下りのコースが分けられている。
ロープ場
しっかりロープのお世話になって長いロープ場を登り切る。
傾斜がキツいだけに石を落とすと止まらない、落石には十分注意したい所である。
ロープ場の急壁を登り切ると間もなく岩場の第一展望台。
ザックを放り出すようにひとまず休憩である。ここまで登山口から約2時間である。
一気に視界が開け支笏湖の一部が見えてくる。
何時見ても、静かな落ち着いた景観だ。
第一展望台からの支笏湖
風は凪いでいて、流れる汗は止まらない。
汗を拭いつつ、トマトをかじる。美味い! 生き返る!
見上げれば爆裂火口の奥に山頂岩峰が姿を見せている。
第一展望台からの山頂岩峰と爆裂火口
展望台の岩場にはヨツバヒヨドリが咲き競い、雄大な景観に風情を添えている。
イワヒゲも多く、さぞ初夏には見事であろう。ここからは爆裂火口北側の尾根を登っていく。
サンカヨウの白く粉を吹いたような青い実が沢山、つい手が出てしまう。
秋には垣間見えるオコタンペ湖も夏は木々の葉が茂り、ほとんど見る事は出来ない。
やがて山頂岩峰の基部に着く。
行く手に立ち入り禁止のロープが何重にも張られている。
ここが恵庭岳の暫定山頂だ。
15年ほど前の地震で山頂岩峰の一部が崩れ、それ以降危険だと立ち入り禁止になっているのだ。
恵庭岳登山の本当の醍醐味は、ここから岩場を登って山頂に立つこと、そして遮るもののない眺望・特に支笏湖の大展望を満喫する事にあるだけに、立ち入り禁止は残念だ。さりとて、決まりは守らなくてはならない。
暫定山頂からの景観を満喫しよう。
暫定山頂
近いだけに山頂が間近に見えている。なかなかの迫力である。
以前より崩壊で痩せたかにも見える山頂岩峰である。
山頂岩峰
オコタンペ湖を見てみようと北西側を覗き込んだ時である。
何てこった! そこには羊蹄山が姿を見せているではないか!
「ガ〜ン!」判断を誤ったか・・・。何とも複雑な心境である。
くっきりと姿を見せていた羊蹄山
気を取り直し、第二展望台からの景観を楽しむ。
本来は大きく広がる支笏湖がここからは一部しか見えない。
第二展望台からの支笏湖
この支笏湖の向こうに樽前山と風不死岳が重なって屹立している。
恵庭岳から一直線に延びる火山構造線が支笏湖を横切って風不死岳・樽前山へと続いているためだ。
樽前山と風不死岳が重なって見える
山頂岩峰とその下の崩壊した岩石が転がる岩壁そして爆裂火口が自然の凄さや脆弱性を見せつけている。
山頂岩峰
下を見れば爆裂火口が見下ろせ、その先には支笏湖や紋別岳、イチャンコッペ山が佇んでいる。
空には秋のようなウロコ雲、激しかった登りを忘れさせるような静かで美しい眺めである。
第二展望台から爆裂火口と支笏湖を見る
岩に腰を下ろし、景観を堪能しながら早お昼。
キュウリやトマトが美味しい。
最近、行動食としてお気に入りのドライフルーツも食べ易くて美味しい、水を余り必要としないのがありがたいのだ。小1時間もゆっくり過していると、何人もの人達が続々と登ってきた。
狭い暫定山頂は一杯になり、場所を譲って下山する。下り専用のロープ場を慎重に下って、花達に挨拶しながら登山口へ戻った。
下りのロープ場
羊蹄山に嫌われて、急遽訪れた恵庭岳。
厳しい登りは暑さも加わって大変だったけれど、夏らしい登山に大満足。
地元の山は「おらが山」、何時訪れてもやっぱり素晴らしい、そして暖かく迎えてくれる。
恵庭岳、ありがとう。だが、三度連続でお天気が悪く諦めた羊蹄山がすっきりとした姿を見せているのを見た時は正直ショックだった。
羊蹄山からあざ笑われているような気がした。
こうなったら、笑顔で受け入れてくれるまで羊蹄山を思い、訪れ続けるしかない。
そう思った。
2004.10の恵庭岳 | 2003.10の恵庭岳 |