カムエク〜コイカク

カムイエクウチカウシ山(1979m)〜コイカクシュサツナイ岳(1721m)

日高  2010.8.3(火)〜8.7(土)

 


 

kamu
カムエク(奥)とピラミット峰

 

カムエク

カムエク(カムイエクウチカウシ山)は日高山脈第二の高峰である。
その大きく三角錐の堂々たる姿は日高最高峰の幌尻岳に勝る風格を漂わしており、日高山脈の盟主とも言われている名山である。

日高を歩き始めた岳人はカムエクの勇姿を見て、いつかはとカムエクへの登頂を目指す人が多い。
アイヌ語で「羆が崖から踏み外す」の意味と言われる山名、1970年に福岡大学の学生が羆の習性を知らずに襲われ3人が犠牲になったことでも知られる山だ。

山深さと登路となる沢の困難性からそれなりの経験を有する岳人のみが山頂を極められるとされていたが、現在は登山道が整備され沢には巻き道が付きほとんど靴を濡らさなくても登る事が出来るようになって多くの人達に楽しまれている。

ただ日高を愛するものの一人として、果たしてこれで良いのかと自問自答する日々でもある。
日本でせめて日高山脈ぐらいは人の手がほとんど入らない原始に近い状態を維持すべきではないかと言う思いがあるのだ。
ぜひ多くの方々で議論して頂きたいものである。

私は日高の山が大好きであるし、畏敬の念も持っている。
それだけに日高特に中部日高の山々へ足を踏み入れるのは自身の技量が相当になってからと決めていた。

2008年6月に初めて1839峰を訪れ、胸が熱くなる大きな感動と喜びを得た。
今回も同様の感動を得たいと思い、カムエク〜コイカクの縦走を計画した。
計画の概要と実際の行動の概要は次の通りである。

お天気は7月の長雨も解消し、この1週間、日高・帯広地方は晴天または晴れ時々曇りの予報が続いていた。

日時
計画の概要
行動の概要
8/3(火)
登山口〜七ノ沢〜八ノ沢出合 登山口〜七ノ沢〜(増水の札内川徒渉に苦戦)〜八ノ沢出合〜C900m雪渓
8/4(水)
八ノ沢出合〜八ノ沢カール〜カムエク山頂〜八ノ沢カール C900m雪渓〜八ノ沢カール〜カムエク山頂〜ピラミット峰〜C1602mコル
8/5(木)
八ノ沢カール〜ピラミット峰〜1823m峰 暴風雨と濃霧の為、停滞
8/6(金)
1823m峰〜1643m峰〜コイカク〜上二股〜札内ヒュッテ 早朝、風でテントのポールが折れる。
昼まで強風と濃霧の為、岩陰に避難。
昼から1602mコル〜ピラミット峰〜八ノ沢カール
8/7(土)
予備日 八ノ沢カール〜八ノ沢出合〜七ノ沢〜登山口

 



 

第一日目

 

2010.8.3(火)
日高山脈山岳センター 0815〜30
登山口ゲート 0850〜0905
七ノ沢出合 1030〜45
八ノ沢出合 1245
C900m雪渓 1430

ありがたい施設

中札内村から道々静内中札内線を走るとピョウタンの滝傍に「日高山脈山岳センター」がある。
ここで登山届けや下山届けを受け付けている、さらに色々な情報を提供してくれ相談にも乗ってくれる。
バブル期に建てられ外観は至って立派だが中身に乏しい施設が溢れている中、この山岳センターは中身が充実している。
運営する人達の熱意がそうしているのだろう。
我々登山者にとっては、大いに利用すべき嬉しい施設である。

この日も長雨と大雨の後だったので札内川の増水について情報や注意を頂き余計な不安を払拭することができた。

またここから約8kmほど行くと「札内ヒュッテ」がある、無料で利用出来る嬉しい施設だ。

 

必死!

道々静内中札内線の行き止まりゲートがカムエクへの実質的登山口である。
ゲート前には車が5台ほど止まっていた。(このうち釣り人の車が2・3台あったようだ)
準備を整え、歩き出す。
ここから林道を七ノ沢出合いまで約2時間、さらに札内川を約2時間遡った所が八の沢出合だ。
計画では八の沢出合いまでだが、高速道路のお陰で予定よりだいぶ早く歩き出すことができ、うまく行けばカールまで行けるかも知れないと期待する。

七ノ沢出合で私より1時間半前に山岳センターを出たと言うガイド2名に連れられたパーティに追いつく。
ガイドさんは120リットルザックを背負っている、仕事とは言え大変な荷物である。
ヒマラヤなどではガイドは自分の荷物しか持たず案内と客の対応に専念する。
日本のガイドさんはポーターの役目も負うのだから任務量は大きくなるばかり、疲れて客の安全や快適さを犠牲にしては元も子もないと思うのだが・・・。

彼らを追い抜かせてもらい、札内川沿いを進んでいく。
最初の徒渉点に来て、川の様子を見て驚いた。
大雨後3日が経っているのに白く泡立てながら流れている、渡れるだろうか?

札内川増水が続く札内川

山岳センターの人は危ないとは言っていなかった「減水しているが、まだ増水中だから気をつけて」とアドバイスされたのだ。
自分の技量が未熟と言う事だな、と思いつつ駄目だったら諦めようと恐る恐る慎重に踏み入った。
浅い所でも足がすくわれるような感じ、足を踏ん張りストックをしっかり刺して渡り始める。
水は膝、太腿、一物と深くなっていき、水圧も増えてくる。
どうやら川の中央部の岩から次の岩までの3mぐらいが特に流れが激しく深いようだ。
手前の岩に寄りかかって一息入れ、上流に向かって両足とストックの4点でしっかり確保し、岩登りと同様に3点確保をしながら、片足を僅かに前横に進める。
とたんに掛かる今までとは比較にならない圧力、なにくそともう一度体重と重心を思い切り上流側にかけ少しずつ踏み出す。
腰まで水に沈む、重心を前に思い切りかける、前傾しているので水は胸を越えて襲ってくる、しぶきが顔まで掛かる。

必死だった。ただただ重心を前にかけ続け、少しずつ出来るだけ滑らかに動いていく。
片足が次の岩の陰に入ったと思ったら急に軽くなる。
「やったぞ!」僅か3mが勝負であったが、私にとっては必死の徒渉であった。
対岸に上がったら水の冷たさがやたら感じられた。
もしかしたら水の冷たさでは無く、肝が冷えたのかも知れないな。

八ノ沢出合までは、大半が札内川左岸の巻き道を歩く。
徒渉は2回だけだ。
八ノ沢出合手前でもう一度「必死の徒渉」。
渡り終わった対岸でしばらくひっくり返って放心状態だ。

後から冷静に考えてみたら、一人で渡ろうとせずガイド連れの一行が来るまで待って、協力して乗り切るのが正解だったと思った。

 

八ノ沢下部

八ノ沢出合いの必死の徒渉を終え、200mも行くと林の中にテント場があった。
多分ツアー用のテントなのだろう、6人用か8人用の大きなテントが2張、設営されていた。

今日の予定はここまでだったが、まだ時間は午後1時。
もう少し上まで行ってみようとテン場を後にする。
八ノ沢左岸に立派な巻き路が付いている、沢登りの覚悟なら滝も無いから沢の中を歩いて何の支障もないのだが、楽に早く八の沢カールへ行く為の登山道のイメージだ。

変化の無い平凡な沢沿いを歩きC750m付近まで来ると、正面に八の沢カールとカムエクの姿が見えた。
ああ、あそこが・・・。憧れの場所を初めて目にする喜びである。
予報に反し雲が多く山頂を隠そうとしているのが気になるが、肝心の明日からは晴れてくれるだろうと高度を上げる。

八ノ沢
カムエクと八ノ沢カール(中央の雪田部分)

標高800mを過ぎ、この辺にテン場があると言う情報を得ていたので気にしながら歩くが見落としたのか見つけられなかった。
その内、C900mの三股に出た。二股と紹介してある記録もあるが左右から滝が落ち込み明らかに三股である。
それを意識しないとここを1000m三股と誤認してしまうかも知れない。
異なるのは1000m三股は左右だけでなく正面も滝である事、900m三股は左右は滝だが正面は流れであることだ。

雪渓が広がっていて良い感じである。
薄く心もとないスノーブリッジが風情を添えている。

スノーブリッジと滝スノーブリッジ

 

雪上の一泊

1000m三股から上は斜度も急になりカールまではテン場は無いと聞いている。
カールまで後2時間位だろうが初めてで迷う事も考えると3時間は見ておきたい。
とすれば午後2時半なので、今日はこの辺りで泊まりたい。

C900m雪渓の上部左岸に草付きがある。
テン場に良さそうな感じだったので見に行くが、平らな所が無い。
それではと、雪渓の平らな場所にテントを張る事にした。
マットを敷けば冷たさも伝わらない一夜の宿である。

午後の一時を豪快な滝見と洒落込みながら、たっぷりのコーヒを入れ寛ぐ。
ドライフルールの甘みが胃の腑に染みる。
沢は轟々たる音を響かせているが、気持ちは静かだ。

1機のヘリが上空を旋回している。
カムエクかカールで何かあったのだろうか?
明らかに何かを捜索している感じである。
何事も無ければ良いが・・・、自分はお世話にならないよう十分余裕を持って慎重に行こうと再認識。

滝
滝と残雪を楽しみつつ寛ぐ

午後4時半過ぎ、テントでシュラフの入ってのんびりしていると、カムエクから戻ってきた一団が脇を通過していく。
「お疲れさま〜!」と声をかけると、ちょっとビックリしたような返事が返ってきた。
今から降りると、八ノ沢出合には午後6時近くになるだろう。
私には考えられない行動時間帯である。ツアーでは当たり前の事なのだろうか?

アルファ米のみの夕食、粗末だが軽量化の為に自分で選択した食事。
下山までの数日間はこれが続くが苦痛ではない。
豪華な食事を楽しむ山行も良い、ゆっくり団欒しながらの山行も格別だ、景色を見ながらの山行は堪えられない、でも今回の山行はそれとは違う。
自分の夢を満たすため、日高の厳しい山々を繋ぐ事。そのためには他の事はどうでも良い。
いつもは花を見るのも楽しみの自分だが、今回はそれも二の次だと思っている。

さあ、明日は晴れてくれよ!
そう願いつつ、シュラフに潜り込んだ。

 


第2日目に続く

 

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