羊蹄山 (1893m) 真狩コース

ニセコ  2010.8.14(土)  曇り時々晴れ時々霧


 

羊蹄山
羊蹄山の噴火口「父釜」

 

2010.8.14(土)
登山口 0430
4合目 0545
7合目 0650
山頂 0810
お鉢巡り 0820〜1020
5合目 1140
登山口 1240

羊蹄山

本来の山名は後方羊蹄山と書いて「しりべしやま」と言う、しかし今はすっかり羊蹄山の呼び名が定着しているようだ。
その他にも蝦夷富士、マッカリヌプリ、マチネシリなどとも呼ばれている。
全国に多くある所謂「ふるさと富士」の中では、姿形とも圧倒的な存在だと思う。

近くには親子のような形の「尻別山」や幾つもの火山群を持つニセコ連山があるけれど、羊蹄山はその親分圧倒的な存在だ。

羊蹄山は端正な円錐型の独立峰、花も多く、360度の大展望が望め、多くの人が季節を問わず訪れている支笏洞爺国立公園の盟主なのである。

 

ボッカ訓練

私は富士山型の山がどうも好きになれない、正直に言えば嫌いである。
学生時代のしごかれた辛い経験がそう思わせるのである。
ボッカ訓練と称して、3歩登れば2歩下がると言われる富士山の須走コースをザックに砂を入れて、だただ登る。
楽しむとか景色とかそんなものには縁もない、ひたすら重い砂を背に喘ぎ登るだけの、訓練と称するいじめであった。

それがトラウマとなって富士山型の山は眺めて美しいと思っても、登ろうと言う気持ちになれないのである。
でも北海道に住み羊蹄山を何度も何度も眺めているうちに、食わず嫌いで終わってしまって良いのだろうかそれでは羊蹄山に申し訳ない、一度は訪れ自分の思い込みを正そうと思うようになった。

しかし逆に私がそう思っているのを見透かしたように、これまで何回か訪れる度に必ずお天気が悪くチャレンジする事すら許してもらいない状態が続いたのである。
この7月に訪れた時も朝起きると濃霧、とても晴れそうな気配を感じなかったので引き返しその足で晴れていた恵庭岳に登ったら、恵庭岳からすっきりをした羊蹄山の姿を見せつけられ、複雑な思いを禁じ得なかったのである。

 

樹林帯

羊蹄山真狩登山口は真狩名水公園の脇から山側に入り、キャンプ場などが整備された羊蹄山自然公園の先にある。
夏休みの時期とあってキャンプ場は大にぎわい。
どの家族やグループもテント一つではなく、寝泊まり用の大型テントと炊事や団欒用のメッシュ・テントの2張りを設営している。
私の子供達が小さかった頃とは全くの様変わりで驚く。
そんな光景を横目に眺めながら、早朝まだ薄暗い山麓を歩き出した。

エゾマツなどの深い樹林帯の中を登っていく、樹林で視界が得られない変化に乏しい単調な登りは合目標識と時間の経過だけが頼りの余り面白くない登りである。
3合目付近からは尻別山に掛かる雲が茜色に色づいているのが目に入る。
「良いお天気になって下さい」と羊蹄山の神様に祈りを捧げる。

尻別山
茜雲漂う尻別山

その後、樹種はエゾマツから岳樺に主役は変わるが深い樹林帯は変わらない。
気温は然程でもないが、風が通らず蒸し暑い。

設置してある合目標識、一合を登るのに約20分のペース。
5合目近くで一時樹林の間から洞爺湖方面の視界が開けた。
周囲は晴れ有珠山は見えているが洞爺湖には霧が掛かっている。

洞爺湖
5合目付近から洞爺湖方面を見る

 

富士山だな〜?

道には溶岩も出てくるし、火山特有の赤茶けた砂混じりの斜面、そんな雰囲気は富士山そっくりだ。
沢型はすべて枯れ沢だし、富士山に多いアザミも見られる。
ジグを切りながらの単調な登りがただひたすら続くのも、富士山そっくりだ。

もう50年も前の事なのに嫌な思い出が頭に浮かんできて、暗い気持ちになり吐き気すら催す。
トラウマと言うのは恐ろしいものだ、今もいじめ問題が世間の関心を集めているが、いじめられた子供が辛い思いを一生背負っていくなど可哀想でならないし許されない。

せっかく訪れた羊蹄山だ、そんな暗い思いにとらわれずに楽しむ事を考えよう。
気持ちを切り替え、歌を口ずさみながら歩く。
ありがたい事に8合目を過ぎると花も多くなって目と心を癒してくれる。

花
エゾオヤマリンドウ、ハハコグサなど

残念なのは空は晴れているのに、雲が流れて周囲の視界が利かない事だ。
そのうち晴れる事を期待してガレ場を進む。
間違って入り込む人がいるのか、幾つもの涸れ沢には立ち入り禁止のロープが張ってある。

 

爽快!

8合目からトラバース気味に西へ進むと避難小屋と真狩山頂への分岐。
山頂へと向かう、この辺りから森林限界となり周囲の視界も開け、山頂稜線がハッキリ見えだした。

山頂稜線山頂稜線

気持ちの良い風にザックを降ろしゆっくり休憩。
ブランチ代わりにおはぎを口にする。雲で周囲の景観は見えないが、気持ちが良い。

避難小屋がすぐ近くに見えている。
かなり古く傷んできていると聞いているが、この山唯一の小屋である。
登山者達の人気も高い、何とか維持してもらいたいものだ。

避難小屋
9合目付近に建つ、避難小屋

お鉢周り

真狩側の山頂稜線に着いた。
お釜が目の前に広がっている。直径は約7・800m、深さは150mぐらいだろうか?
なかなかの雄大さ、東側半分の火口壁はゴツゴツした荒々しい岩場が続く険しい光景が、西側半分はなだらかな優しい光景が続いている。

火口を覗き見る火口

時間は朝の8時過ぎ、先日の日高で心配をかけたカミさんにTel。
「もう着いたの? 素晴らしいお天気でしょう?」
苦笑いしながら、今回も羊蹄の神様に嫌われ、周囲の景色が雲で覆われている事などを話す。
「まあ! そんなに行いが悪かったかしら・・・?」

お鉢真狩側山頂稜線

火口壁に沿って反時計回りにお鉢巡りをしてみる事に。
火口壁の内側はよく見えているのだが、周囲は雲が掛かりほとんど何も見えないのが残念だ。
続く岩場には白いペンキでコースが示され、快適に歩けるし、なかなか勇壮な稜線風景である。

稜線
気分爽快な岩場を辿る

 

トレイルラン

最近各地の山で見かけるようになった、トレイルラン姿の人が追いついてきた。
ランニング姿に小さなザック、実に軽快だ。
道を譲りながら聞くと、2時間で登ってきたそうだ。
30歳前後の人であったが、軽やかに走り抜けていく。

山と言うと私などは、しっかりした装備でゆっくり確実にと思ってしまうが、違う観点から楽しむのも一方だと思う。
歳をとるとつい自分のそれまでの観念に固執してしまう、若い人達の新しい感性を評価する事も必要だと思った。

 

続々!

半時計周りに火口壁を歩く。
羊蹄山に付けられた4本の登山道が次々に合流してくる。
まずは喜茂別岳コース、次いで京極コース。
京極コースの合流点が、羊蹄山の最高点、頂上だ。

各コースから登ってきた人達が点々と山頂稜線を歩いている。
幾つかあるピークでは、ゆっくり休んでいる人も大勢。
グループ、カップル、ご夫婦、家族など夫々、羊蹄山を満喫し楽しんでいるようだ。

火口
右の低い所が真狩コースの山頂部

普段、滅多に人に会う事のない山ばかり行っている私には、まさに一年分の人達に出会った感じで戸惑う。

 

花と恵み

火口壁の山頂稜線には人も多いけれど、花も多い。
イワギキョウやエゾオヤマリンドウが盛である。

イワギキョウイワギキョウ

花だけではなく、コケモモの真っ赤な実が日射しに輝いて光っている。
ガンコウランの黒い実が目立たぬようにひっそり隠れている。
どちらも動物や鳥達の大事なエサだから、断わりを入れて少し頂く。
コケモモは甘酸っぱく少し渋みもあって大人の味だ。
ガンコウランは噛むとジュースが口に広がり、渇きを癒してくれる。

 

ご機嫌は?

お鉢をほぼ一周して、倶知安側の比羅夫コース合流点にやって来た。
ここには旧山小屋のコンクリートの土台だけが残っている。
丁度座るのに良い高さなのか、何人もの人達が腰を下ろして休んでいる。
私もお仲間に入れてもらい、腰を下ろす。

周囲の景観が見えていれば、素晴らしく気分の良い所だろう。
雲に切れるのを待つが、切れそうで切れない。
近くのニセコ連山も見えないのである。
神様のご機嫌は、いささか斜めらしい。

景観
空は晴れているが、景観はいまいち

真狩コースまで戻ってきた。
ゆっくり休んだり、花を見たりしながら約2時間のお鉢巡りであった。
見下ろすと、避難小屋で休んでいる人達が豆粒のように見える。

避難小屋
避難小屋と真狩の町を見下ろす

登っているときは雲に隠れていた洞爺湖がやっと姿を見せ始めた。

洞爺湖
左上に霞みながら洞爺湖が

お鉢に別れを告げて、真狩コースを下り始める。
時間は10時過ぎ、まだ登って来る人が大勢いる。
出会う人達は一応に苦しそうで辛そうな表情、暑さと単調な急な登りに参っているのだろう。
こういう富士山型の山は、景色の良い所、休み易い所を見つけては休み、自分を慰めながら登るのが良いかも知れない。
ただひたすら登るのは、まさに訓練。辛いだけだ。

 

エピローグ

相思相愛と言う言葉があるが、その反対に相手を心から思わなければ愛されないのも事実だろう。
富士山型の山を好きになれず、羊蹄山にも冷たかった私を、羊蹄山も冷たくあしらうのは当然の事だ。

数度目の訪問を許してくれた羊蹄山、だが心を開いてはくれず、自慢の景観を見せてはくれなかった。

羊蹄山を登った正直な印象は、姿形だけではなく登る道も雰囲気も富士山に似ていて、何の変化もない道をただひたすらに富士山のように登るだけ。
まさにあの辛く嫌だった、ボッカ訓練を思い出させる、良く言えば一種の体育訓練そのものであった。

羊蹄山、この山を楽しむには単独ではなく、気のあった仲間達とワイワイ・ガヤガヤと賑やかに、辛さや単調さを吹き飛ばしながら登るのが似合っていると感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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