|
十勝岳新得コース
|
新得コースの登山口へは、トムラウシ温泉の手前約10kmの曙橋(ヌプントムラウシへの分岐)を過ぎてすぐのシートカチ林道へ左折、約12.5kmでシートカチ第5支線林道に右折、しばらく上り坂を行くと変形のT字路にでるのでここを右折。高原状の気持ちの良い道を行けば左側に立派な登山口の標識が立っている。
登山口から概ね西へエゾマツや岳樺の林を進んで行く。
標高900m位だがすでにハイマツが混じっている。
道は度々手が入っているのだろう、笹や邪魔な枝等は刈られ奇麗に整備されている。ありがたい事だ。
気持ちよく歩けるハイマツの道30分も歩くと背の高いハイマツと笹の道に変わり、木々の間から十勝連峰の山並みが見え始めた。
見事な紅葉に期待が高まる
晴れているのだが風が強く、ハイマツを吹き抜ける風がゴォ〜!、ビュウビュウ!とすさまじい音を立てている。
昨日、台風並みに発達した低気圧の影響で北海道北部地域に被害を与えた強風のなごりが残っているようだ。そのせいか、山々の中腹以上は激しい動きの雲に覆われ姿を見る事は出来ない。
そして雲に覆われた山肌には、うっすら白いものが見えている。
十勝岳山頂付近ではかなりの積雪と強風を覚悟しなくてはならないようだ。
風が吹き荒れ、雲に覆われた十勝岳。山腹には雪が見えている。
C1150m付近で道は右手の沢に降り、沢沿いを進むようになる。
秋というのに豊かな水が流れ、ナナカマドの実が赤く色付き、木々の葉も黄色に染まって秋らしい清々しさだ。
秋色の沢が落ち着いた雰囲気を漂わせる
そして右手の小さな丘を乗っ越すと、上ホロカ川本流に出合う。
上流には一条の滝が白く落ちているのが小さく見える。
この辺りの紅葉もなかなかのものである。
上ホロカ川の谷 正面に一条の滝が小さく見える
ここまで登山口から約1時間、写真を撮りながらチョッピリ休憩。
ホロカ川を飛び石沿いに渡りペンキマークに導かれ、右手の尾根を登って行く。
この日初めての急登だが、僅かな時間で汗をかく暇もない。
緩やかな尾根を登って行く。周囲の木々が赤や黄色に染まりだしハイマツの緑とのコントラストが美しい。
左手が開け始め、紅葉の斜面とその向こうに下トロカメットク山と境山が見えだした。
紅葉と下ホロカメットク山(左)と境山
紅葉はハイマツの占める部分が多いため、全山紅葉とはいかないが、思わず足が止まってしまうほどの鮮やかさ。
それなのに歩いているのは私一人、紅葉で有名だけれど人で混雑する山より格段に気持ちが良い。
こんな素晴らしい紅葉を独り占めとは申し訳ない位だ。しばらく紅葉を満喫しながら歩くと、急に周囲が開け小さなカール状の雪田跡に出た。
大きな岩が点在する夏には大きなお花畑になる所である。ここからの紅葉風景がまた素晴らしい。
遠くに東大雪の山々を眺めながら
ハイマツの緑の絨毯の上に黄緑から黄色そしてオレンジ・赤へと変わって行く紅葉のグラデーション。
遠くには東大雪の山々が浮かんでいる。
この辺りの標高は1550mほどだ。
樹林帯の中に居るときは良いのだが、開けた所に出ると強風で体が押され力を入れていないとよろけてしまう。しっかり踏ん張ってシャッターを押す。
雪田跡からハイマツの中を少し登ると樹林帯は終わり、火山特有の砂礫や火山礫の山肌に変わる。
遮るものが無くなり、強風にさらされる。冷たく痛いぐらいだ。堪らず、パーカーと冬用手袋を取り出し身につける。
周囲は噴火の際、焼かれたのかハイマツが白骨化して累々と横たわっている異様な光景が広がる。
白骨化したハイマツが広がるようになる
強風の中、登って行くと雲の中に入り、やがてC1650mPと思われる尾根上の台地のような所に来た。
後ろを振り返ろうとしたときである、強風にあおられ体がふらつき二三歩右によろけた。
踏ん張ろうとしたが何かにつまずいて堪えきれず横転し、脇の深さ2mほどの沢地形に転落してしまった。
惨めな気持ちになる。「あ〜あ、何てこったい!」これが今回の山行のターニング・ポイントだった。
「何もこんな風の中登る事無いじゃないか! 何も見えないし寒いだけだ!」
そんな思いに何の抵抗も無くうなづく自分が居る。
いつもなら、選択肢が二つあれば厳しい方を選ぶのを信条としている自分なのに・・・。慎重に立ち上がり、チョッピリ躊躇したものの振り返りもせず、あっさり下り始めてしまった。
「楽しくなくちゃ、面白くないよ」と言い訳しつつ・・・。
引き返して来て、上を振り返る
雪田跡まで戻って来た。
美しい紅葉が待っている。
それらを眺めるも、何となく気持ちが晴れ晴れしない。
中途半端で下山して来たのが原因だろう。風の避けられる所で腰を下ろして大休止。
おやつを食べコーヒーを飲むが、気持ちはうつろ。
「もう一度登ってみようか? そんな事したってしょうがない。」心の中で自問自答する。
『美しい紅葉は自然のなすがまま、美しく染まる時もあればそうでない時もある。
自然のなすままが美しいのであれば、気持ちの思うままにしても良いのでは無いか?
気力が奮い立っている時もあれば、萎え勝ちの時もある。
今日は気力が萎え、気持ちが弱くなってしまった。そんな時もあるし、あって良いのだ。』
そんな風に思い、自己嫌悪に陥るのは止めようと思った。
十勝岳の美しい紅葉を目に焼き付け、登山口へと戻る。
つい、クヨクヨと思いに沈みそうになる自分自身の気持ちを振り切るように一気に登山口まで下った。
まだ時間は午前10時半、温泉にでもゆっくり入り美味しいものを食べて気持ちを立て直そうと林道を走る。
しばらく走っていると何か違和感を感じる。
車を停めてC'Kする、なんと左後のタイヤが鋭いものでも踏んだのかバーストしてボロボロになっていた。今日は厄日なのか?
タイヤ位で済めば御の字だ、コントロールを失って谷に転落したかも知れないのだ。
そう思いつつ、タイヤ交換。その後は、慎重に、丁寧に、幹線道路へと向かった。