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プロローグ
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今年は10月半ばにかなりの雪が降り平地でも積雪となった、恵庭岳を始めとする支笏湖周辺の山々は一斉に雪化粧をしそのまま冬に突入かと思われた。
ところが11月下旬に暖かい日が続き、山々の雪も大半は溶けてしまったようだ。
支笏湖から見る恵庭岳もほとんど雪は見当たらず、紅葉の終わった晩秋の姿を見せている。
支笏湖畔から見る恵庭岳
支笏湖のポロピナイから札幌方面に向かい丸駒温泉への道を左に分けたすぐの所に恵庭岳の登山口がある。
雪はほとんど無いようだが、第1展望台から第2展望台へは日陰の北斜面を行くので雪が残り凍っているかも知れないと足回りはスパイク長靴にする。15年ほど前の台風で発生した大量の風倒木の影響がまだ残る殺伐とした2合目から3合目を過ぎ、深い森林の急斜面を淡々と登っていく。
クマゲラの甲高い鳴き声があたりに木霊し、豊かな森を感じながらの登りである。厚く落ち葉が敷き詰められた斜面はサクサクという枯れ葉の音それにザッ・ザクという音が入り交じっている。
霜柱を踏んでいる音である。3・4cmの霜柱が一面に立っている。
霜柱
すでに紅葉も終わり葉も落ちて辺りは茶色一色の世界、そんな中アズキナの赤く透き通ったような実が唯一の色彩のように点々と残っているのが印象的だ。
アズキナの実
5合目付近から道はいよいよ急になり恵庭岳らしい雰囲気となる。
夏場なら汗を搾り取られる急坂、澄まして歩けるのはこの時期の特権だ。6合目からのロープ場を登り切れば、第1展望台はもうすぐだ。
硫黄の臭気が漂い始め、薄い噴気が見え始めた。
第1展望台からの火口壁と山頂岩峰
爆裂火口と山頂岩峰が恵庭岳特有の景観を造り出している。
支笏湖と紋別岳の織りなす景観は何度見ても清々しく心が洗われるようだ。
支笏湖
第1展望台にも雪は全く無い。
ただ気温はさすがに低く、フリースを着込む。
佇む山頂岩峰が迫力満点、漂う噴煙が活火山であることを改めて認識させてくれる。
山頂岩峰
第1展望台からは北斜面を登るようになる。
道にはうっすら雪が覆い、気温が低いため凍りついている。
アイゼンは大げさだが山靴では神経を使うだろう、その点スパイク長靴は安心だ。第2展望台に到着。例の如く立ち入り禁止のテープやロープがしっかり張られている。
仕方ない、ここからの景色を満喫するとしようとザックを降ろし立ち入り規制の看板を何気なく見ると、岩が崩れ危険なので立ち入らないようとの表記とともに立ち入る場合は十分な装備と責任を持って登るようにとの記載がある。良いの〜?
それなら遠慮なく山頂へ行かせてもらおうとルンルン気分でテープを潜る。第2展望台からは雪の量もやや多くなり、堅く凍りついている。
急斜面のトラバースもあり、軽アイゼンが必要な位。
山頂岩峰が大きく聳え立ち、岩山の恵庭岳らしい雰囲気を漂わしている。
山頂岩峰
間もなく冬のルートである北東尾根にある大岩の上部を通過し、山頂岩峰の下を巻きながら山頂へ続くルンゼへ登っていく。
羊蹄山が白い姿を優雅に見せ始めた。
羊蹄山が見え始めた
山頂へ続くルンゼ付近はわずかな距離だが堅く凍てついた急な斜め斜面でスパイク長靴でも不安な感じ。
ストックと露出している岩を利用して慎重に通過する。
ルンゼを登り切ると山頂はすぐだが、冬には雪と氷に覆われ気がつかなかったけれど岩が崩壊し不安定で切れ落ちた所を攀じる。足を滑らせれば爆裂火口へ一直線だ。
5mほど左の岩場を攀じた方が安全かも知れない。8ヶ月振りの恵庭岳山頂である。
4月初めは白一色で雪と氷の世界だった、雪のない山頂は本当に久しぶり。15年ぶりだろうか?オコタンペ湖と漁岳・小漁山が日射しを受けて鮮やかな表情を見せている。
オコタンペ湖と漁岳(右)、小漁山(中央左)
支笏湖が風不死岳・樽前山をバックに鈍く輝いている。
こうして見ると恵庭岳〜風不死岳〜樽前山が一直線に並んでいる事が一目瞭然だ。
この三山を結ぶ線上は火山帯で支笏湖の湖底からは温泉が噴出していて湖水の対流に一役買っているそうだ。
恵庭岳山頂からの支笏湖と風不死岳
そして北西方向には無意根岳・中岳・並河岳・喜茂別岳・小喜茂別岳が兄弟のように並んでいる。
まるで大きい順から整列しているかのようだ。
奥左から子喜茂別岳、喜茂別岳、並河岳、中岳、無意根岳
南西には徳舜瞥山、ホロホロ山が姿を見せている。
どうも1000m付近に逆転層があるようで、それより下は霞んでいるが、それより上はクリアーに見え面白い表情だ。
徳舜瞥山・ホロホロ山、逆転層の下は白老三山
恵庭岳からの景観で忘れてならないのは羊蹄山であろう。
この日もすっかり冠雪した優美な姿を見せていた。
まさに富士山と見紛うばかりの姿ではある。
羊蹄山
弱い北風が吹き寒い、シャッターを押すため手袋を外している右手の感覚がなくなりかけてくる。
手袋をし、両手をこすり合わせ、熱いコーヒーを入れたカップで暖める。
コーヒーを飲みパンをかじる。体の中から暖かくなってくる。強い日差しを受けたオコタンペ湖の青さが眼に痛いよう。
今日のオコタンペ湖は緑色ではなくサファイアのような鮮やかなブルー、美しい。
ブルーに輝くオコタンペ湖
そして南東には日高の山々が白く着飾って一列に並び立っている。
これだけハッキリ見えるのは余りない事だ。
白く浮かぶ日高の山々、手前は紋別岳
小さなお地蔵様がこれまた小さなお社に安置されている。
昔からあったのだろうか? 記憶にない。
4月に訪れた時は雪の下に埋もれていたのだろう、気がつかなかった。大展望に時間も忘れ見入ってしまう。
気がつくとすでに45分も景色を眺め立ち尽くしていた。
記念写真を撮り、下山にかかる。
山頂直下から第2展望台まで堅く凍った斜面に長靴のスパイクを食い込ませ、慎重の上にも慎重に降りて来た。いくらスパイクと言ってもアイゼンとは安心感が全く違うのである。
それにしても夏山の恵庭岳山頂は本当に久しぶりだったし、素晴らしかった。
第2展望台の設置看板をきちんと読まなければ、立ち入り禁止と信じ切ってそこで引き返した筈。
しっかり確認しないと大損する典型のようなものである。きっと十数年も立ち入り禁止となっていて山頂に登れない不満が市などに届いたのだろう。
本来、登山は自己責任のスポーツであり、遊びなのだ。
例え怪我をしても行政などに責任転嫁をせず、万一の救助費用も自分で出す。
何より事故などを起こさないよう万全の準備と技量の維持を図る。
こうする事が登山愛好家の基本なのだと思う。だから行政側も事故が起こったからと言って、羹に懲りてなますを吹くような規制処置を採るのは慎重にしてほしいと思うのである。