|
恵庭岳
|
2月も後半となれば北海道でも春の気配がそこはかとなく感じられ始める季節である。
確かに先週は気温も上がり暖かく雪解けも進み、用もないのに外に出たくなるほどであったが、今週に入って寒の戻りなのか一気に冬へ逆戻りの気配。オコタン分岐の駐車帯で車の外気温度計は-14℃を示していた。
いつも通りピートテックのタートルネックシャツとメリノウールのレイヤードそれに体が暖まるまでとフリースのアウター、下は同じくピートテックのタイツにオーバーズボンで歩き出す。
オコタンペ湖に通じる道は朝は日陰となるためか、シンシンと冷えている。
手袋の中で指を開いたり閉じたり、グーパーを繰り返しながら血行促進に努める。
昨年4月の時は、オコタンペ山への取り付き点付近から真南へC952mPを目指したが、今回はもう500mほどオコタンペ湖寄りに進んでから取り付いた。
労力は同じようなものではないかと感じたが、木々の密集程度が低い分、今回のルートのほうが登り易いような気がする。昨日降った新雪が20センチほど、木々の枝には霧氷、抜けるような青空、それらが朝日に輝いて美しい。
青空に新雪と霧氷が輝く
C952mPでコンパスを切り、山頂へ向かう明瞭な尾根をひたすら辿る。
雪はスノーシューを履いて脛〜膝位、軽い雪でラッセルも苦にならない。
途中、C1120mで一旦平らになり次いで山頂基部の大岩目指して登っていく。遮られていた冷たい風が左から吹き付けるようになり、フリースを脱いでマウンテンパーカーを着こむ。
寒さで顔が痛い、ネックウオーマーを眼の下まで引き上げると防げるがそうするとメガネが曇る。
痛し痒しである、仕方なくネックウオーマーは顎のあたりで妥協する。雪が締まっている所と柔らかくズボズボ沈んでしまうところが交互に現れ始めた。
腰近くまで落ち込むと、足掻いても足掻いても遅々として進まない。
雪面を見て締まっているかどうかを判断しようとするのだが、新雪が積もっていてどこも同じように見える。
まさに蟻地獄、途方にくれ、ふと見上げると隣の尾根の岩峰が、じっと見守っているようだった。
蟻地獄に苦戦
深く柔らかい雪に悩ませれつつ、ようやく山頂基部の大岩近くまで登ってきた。
昨年はこの大岩のすぐ脇をフィックスロープに助けられつつトラバースしたが、今回は少し下を大きく南側に回りこんで山頂岩峰へ向かった。
また昨年はこの大岩でアイゼンに履き替えたが、今年は雪がたっぷりなので岩峰までスノーシューで登り切った。
凛々しく聳えたる恵庭岳山頂岩峰岩峰下でアイゼンに履き替え、ストックに変えてピッケルを持つ。
そこからは青黒く透き通った空をバックにオコタンペ湖や小漁山・漁岳、羊蹄山や尻別山が歓迎するかのごとく姿を見せていた。
遠くに羊蹄山など
山頂の岩峰は雪と氷を纏い、人を寄せ付けぬ厳しさ。
凛々しいとはまさにこの事を言うのではなかろうか?
山頂岩峰
岩と極寒とが共演する自然の厳しさである。
声もなくただただ圧倒されてしまう。
山頂岩峰
山頂岩峰を大きく回りこみ、ルンゼを攀じる。
新雪が20センチほど積もっているので、払い落とさないと手がかり・足がかりが判らない。
面倒臭がって滑ればただ事では済まない。
慎重にルンゼを攀じると、右手に支笏湖が広がり、目の前には山頂が待っている。
恵庭岳山頂(下山時撮影)
最後の岩場を5mほどフィックスロープのお世話になりながら攀じれば、1320mの恵庭岳山頂である。
切れ落ちている岩に注意を払い、山頂標識に立つ。
山頂からの支笏湖、風不死岳・樽前山の景観(パノラマ合成)
寒い! とにかく寒い!
大景観を眺めるより、写真を撮るより、まずはパーカーの下にフリースを着込み、フードを被り、熱い飲み物を摂る。
指先の感覚がなく、テルモスの蓋がなかなか回せない。こんな寒さは久しぶり、今季初めての経験である。
晴れて日中なのに気温が上がっていないよう、風もあるから体感温度はかなりのものなのだろう。
山頂から支笏湖と風不死岳・樽前山を望む
切れ落ちた山頂の真下には爆裂火口が広がり、その向こうにイチャンコッペ山や紋別岳が控えている。
真下に爆裂火口、イチャンコッペ山(左上)と紋別岳(右上)
指先の感覚がないため、カメラのセッティングを変えたりシャッターを押すのが思うように出来なくてもどかしい。
カップに熱いお茶を入れ、風を背にしてカップを手のひらで包み込むが、感覚は戻らない。
涙が滲み、頬はチリチリ痛い。北西側には先週歩いたオコタンペ湖が眼下に横たわり、小漁山が存在をアッピールしている。
そしてその向こうには羊蹄山やニセコの山々、無意根山などの姿がくっきり見えている。
極寒の美しさである。
オコタンペ湖と小漁山、遠くに羊蹄やニセコ・無意根山
そして西にはホロホロ山と徳舜瞥山がこれまた凛々しい姿で屹立している。
右奥にホロホロ山と徳舜瞥山
昼食に菓子パンを熱いコーヒーと一緒に食べる。
パン生地や具がボロボロ、パサパサしていて美味しくない。
コンビニのパンだからというわけでなく、寒さによるものなのだろう。もう一度、極寒の恵庭岳山頂の景観を心に焼き付けて下山にかかった。
山頂からルンゼ、岩峰下までは登りより下りのほうが緊張の連続だ。
ピッケルで足場を切り、三点確保をしながら慎重に降りる。
怖いところでは見栄も外聞もなく後ろ向きになってアイゼンの前爪を蹴り込みながらクライムダウン。
山頂直下、ここからルンゼを下る
僅かな距離だが慎重に時間をかけ、山頂基部まで下ってきた。
「もう安心だ」と下ばかり見続けてきた視線を上げると、山頂岩峰の凛々しい姿が登頂の余韻を味わう如くそそり立っていた。山頂岩峰
その後は自分のトレースを辿って、難なく下山。
だが、指先の感覚は戻らない。帰宅してから近くにある温泉に行き、ゆっくり入浴。
指に変色などはないけれど、1時間以上温泉に浸かっていても感覚は戻らない。
夜もTVを見ながら指のマッサージ。大分感覚は戻ってきたが、布を一枚挟んでいるかのようだ。翌日HP作成でパソコンに向かっているが、まだ感覚は元に戻らずキーの打ち間違えを何回もしている。
まあ、外見上異常はなく感覚だけなので少し時間を於けば元に戻るだろう。
それにしても、想像以上の寒さだったのだな〜。