強風吹き荒れる漁岳
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漁岳
オコタンペ山
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2011.3.11、東北・関東地方の太平洋側をマグニチュード9と言う未曽有の巨大地震とそれに伴う大津波が襲い、幾つもの市町村が壊滅状態となり何十万という人々が被災し、何万という尊い命が奪われた。
さらに津波によって福島第一原子力発電所が甚大な被害を受け、放射能汚染という新たな副次的災害を引き起こし、日本はまさに未曽有の大災害・危機に見舞われている。復興には10年単位の長い時間が必要となろう、被災地域の皆様の辛苦を思うと言葉もない。
少しでも手助けをして差し上げたいと思うのみである。
だがそう思っても、年寄りがボランティアに行ったとしても足手まといになるばかりで役には立つまい、義援金をお送りするぐらいが関の山だ。何もお役に立てない自分を恥じ、せめて歌舞音曲を慎み、質素に暮らすことで、被災者の皆様のお気持ちに沿おうと思った。
それなのに、それなのにである、10日が経ち2週間が経つと、何故か理由もなくイライラし意気消沈し優しい気持ちになれない自分になりつつあるのに気付き始めた。被災者の皆様を支える立場の者が元気をなくし優しさを無くしていては、支援することもできなくなってしまう。
被災した人たちへの支援の気持ちを持ちつつ、いつも通り元気に活動的に過ごすことが、復興への活力なのだと思い始めた。
私にとって元気の源は山歩き。
近くの山を歩いて元気を取り戻そう、そう思うだけで気持ちは軽くなる。
そこで以前から気になっていた、紋別岳東尾根ルートを歩いてみようと思い立った。
支笏湖北側に位置する紋別岳には南東側から管理道路を辿って行くか、南からの送電線尾根を辿って登るのが一般的である。
所が私の住む千歳市方向からは紋別岳の直ぐ北側のC806mピークから東へ延びる明瞭な尾根が見える。
この尾根を辿り山頂へ登ってみたいと思っていたのだ。抜けるような晴天の朝、久しぶりの山行へ勇んで家を出る。
地図もしっかり準備した、GPSにも計画したルートを設定してある。
初めてのルートに期待も膨らみ、気持ちも弾む。
支笏湖道路を走り、取り付き予定の林道入口に着き準備を始めようとして驚いた。
雪がないのである。今年の支笏湖は異常なぐらい小雪だったが、早くも雪が溶け地面が見え出し、あちこちから笹が顔を出している。
これでは途中まで相当の藪漕ぎを強いられそうだ。どうしよう? とりあえず東尾根からの紋別岳は諦めよう。
徳舜瞥山あたりに転進しようか? いや、アイゼンは持ってこなかった。
とすれば、樽前山や風不死岳も無理だな〜。
そうだ、漁岳にしよう。うまく行けば2月に途中撤退した小漁山まで足を伸ばせるかも知れない。
そう考え、漁岳林道へ向かうことにした。
朝の支笏湖畔からは恵庭岳と漁岳が静かに佇んでいた。
支笏湖と恵庭岳 右奥に漁岳、左には丹鳴岳
漁岳の登山口である漁岳林道入口に駐車し、歩き出す。
昨日の日曜日に多くの人達が訪れたらしく一級国道と言っても良いようなトレースが伸びている。
そのトレースに沿って約40分、左手の緩い尾根に取り付く。
明るい陽だまりの中、雪もしっかり締まってツボ足でも問題ない。
ツルアジサイの枯れ花が、今年の冬芽も膨らみだして間もなく訪れるであろう、世代交代を待っているかのようだ。
今年の冬芽が膨らみだした、ツルアジサイの枯れ花
時折見える漁岳の山頂には笠雲のような雲が出て、雪煙が舞っているのが見える。
今日は「天気晴朗なれども風強し!」のようだ。
幸い、登っている尾根は風下で風は感じられない。
「上は風があるみたいだな 」と感じたが、気にもせず足を運んでいた。C901mのポコを巻いて稜線に出る。
北西の風が吹きつけるがさして気にすることもなく、小さなアップダウンのある稜線を効率的なルートを選んで登っていく。
ダケカンバの新芽の赤と白い稜線、そして青空のコントラストが美しい対比を描いている。
芽吹いてきたダケカンバの赤と雪の白、空の青とのコントラスト
振り返ると、オコタンペ山と恵庭岳、そして紋別岳とイチャンコッペ山が仲良く端座している。
厳冬期の厳しい姿はすでになく、春らしい優しく穏やかな表情だ。
オコタンペ山(手前)と恵庭岳、その左に紋別岳とイチャンコッペ山
漁岳山頂への大斜面手前のC1175mP近くへやってきた時である。
小さなポコに立つと、唸るような風音と凄まじい北西の風、吹き飛ばされそうになり思わずしゃがみ込む。
風の息の間にポコの風下側へ避難、様子を見る。
まさに山が泣いている、ゴウゴウ・ビュウビュウ! 凄まじい風音。
そして春の重くなった雪面の雪を剥ぎ取るように舞い上げ吹き飛んでいく。しっかりパーカーを着こみ、ネックウオーマーを鼻まで引き上げる。
漁岳山頂部は雪煙と雲で荒れ狂っているように見える。
写真を撮ろうと構えるが、中腰ではふらついてしまい膝をついて体を固定する。
いやはや、耐風訓練には最適かもしれないが出来れば遠慮したい強風である。
雪煙と雲が舞い飛ぶ漁岳
少し我慢していれば弱まるかも知れないと、耐風訓練のつもりで足を進める。
いつでも耐風姿勢を取れる心づもりの一歩一歩だ。大斜面まで来たが、強風は止む気配すらなく吹き荒れている。
雪煙と雲が入りまじり、吹き荒れる漁岳山頂部
予想もしていなかった風である。こんな気圧配置だったかな〜?
風を背に耐えていると股の間をすり抜けた風が春の重い雪をさらい、林の中を通りすぎていく。
気温が高めだからなんとか耐えられるが、これで気温が低かったらと思うだけで怖くなる。
重い雪を飛ばしながら吹き荒れる風
耐風訓練はこれまでと、あっさり引き返すことに。
稜線の風下側を選びながら降り始める。
風を背にしながら稜線を下る、視線の先にはまだ凍てついているオコタンペ湖、そして恵庭岳と支笏湖の景観が広がっている。
風がなければ腰を下ろしてゆっくりしたい雰囲気のところだが、今はそれどころではない。
恵庭岳と支笏湖 手前には凍てついたオコタンペ湖
支笏湖のさらに右手の西側には徳舜瞥山とホロホロ山の姿が見えている。
やはり風が強いらしく、雲が沸き上がっているようだ。
徳舜瞥山とホロホロ山
そして風上の北西には小漁山が堂々とした姿で雪煙を吹き上げていた。
小漁山
C901mP近くまで戻ってきた、幾分風も弱くなった感じ。
それならまだ時間も早いので、オコタンペ山に寄って登山口へ戻ることにする。
我ながら計画性のない朝令暮改の繰り返し、こういう山行はいけないなと思いつつ自分に妥協する。このあたりで2名の単独男性とすれ違う、山頂部の風が強いことを知らせて注意して行くようアドバイス。
漁岳へのトレースと別れ、オコタンペ山へ続く稜線を進む。
途中の小さなポコは西側を巻いた、この稜線から見るオコタンペ山は丸い優しい姿をしている。
オコタンペ山
30分強で一年ぶりのオコタンペ山山頂へ、やはり風が強く時折地吹雪状態になっている。
先ほどと僅かな距離だが、恵庭岳やオコタンペ湖の見える角度が異なり明らかに違った印象だ。
オコタンペ山付近からの恵庭岳とオコタンペ湖
お腹が空いたので山頂下の木の陰で風を避けコーヒーを飲みパンを食べていると、女性中心の10名ほどのパーティが突然山頂に現れた。
強風の中をようようたどり着いた感じの一行は、わずか30秒で挨拶をすることもなく来た道を引き返していった。漁岳と小漁山、そして歩いてきた稜線をもう一度目に焼き付けて、下山にかかる。
漁岳(右)と小漁山(左)、 漁岳から伸びてきている歩いてきた稜線
ここでも北尾根を下ろうか北東尾根にしようか逡巡した挙句、ストックを放り投げ、先が向いた北東尾根を下ることにした。尾根を駆け下り登山口へ戻ると、先ほどすれ違った単独男性2名も戻ってきたところ。
聞けば、二人とも無理せず途中から引き返してきたそうだ。
少し雑談したり情報交換して帰路についた。支笏湖では風を感じる程ではなかったが、いつもより波立ち、力強い表情をしていたように感じた。
支笏湖と風不死岳(右)、樽前山(左)