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十勝岳
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軽量化を図ったザックを車に家を出たのは5/25の1430、望岳台へ着いたのは夕日で十勝連山がほのかに赤く染まる1800だった。
吹上温泉付近からの美瑛岳
やや灰色かかった夕闇に不気味な赤色の太陽が沈んでいく。
十勝岳の噴煙が薄桃色に染まり、雲ひとつ無い空が明日の晴天を約束してくれているかのようだ。
望岳台から十勝岳の噴煙
コンビニ弁当の簡単な夕食を食べると、もうすることもない。
シュラフにくるまっているうち、知らずと寝入ってしまっていた。
年を取ったせいなのか、早く寝たためか、午前3時前には目が醒めてしまった。
パンとコーヒーだけを摂り、明るくなると同時に歩き出す。
雪の状態によって変わるだろうが、今日の行動時間は12時間近くが予想されるからだ。白銀荘への道を分けると雪が繋がり始めるが、夏道も出ている。
夏道をゆっくり登って約1時間で美瑛岳への分岐、そのまま雲ノ平をトラバースしてゆく。
日の出前の光を浴びた富良野岳が凛々しい。富良野盆地はまだ薄暗く定かではない。
朝の富良野岳
やがて夏道は雪に覆われ姿を消した。記憶を呼び覚ましながらトラバースを続けポンピ沢へと進んで行く。
朝日が美瑛岳の真後ろから登ってきた。晴れているのに何か薄らボンヤリとした景観に気持ちも晴れずテンションも上がらない。
ぼんやりとした日の出と美瑛岳、左奥は美瑛富士
体の調子がいつもと違う、何処がどうとはっきり言えないが何かが違う感じ。
気持ちに張りが出ないと言うか、気持ちが萎えると言うか、体が重いと言うか・・・。そんなことを気にしながら歩きつつ、ポンピ沢手前の大きな抉れている沢は上流部の埋まっている部分を横切る。
ふと気づくとポンピ沢の渡渉地点よりかなり上部に居るのに気づいた、下降して沢を横切りそのまま尾根へと取り付く。
しばらく登ると小さな岩稜が出てきた。
はて、どう進めばいいのか? あたりを眺めて驚いた。
美瑛岳への取り付き尾根の一本南側の尾根に居るではないか!
あわてて地図を取り出す。何をぼんやりしていたのだ!
C'Kすると岩稜の上付近から左にトラバースしていけば本来のルートに合流できそうである。
下って登り直すのは大変だ、ダメもとで行ってみようと更に上を目指す。
でも駄目だった、ハイマツが行く手をしっかり阻んでいた。
仕方ないと下降。
地図上の取り付き地点付近まで降り、ルートを探すが見つからない。
多分道が通っているハイマツの尾根の直ぐ右横に、雪が繋がっている細い谷のような斜面が延びている。
これを辿って稜線まで出れば問題はない筈だ。
意を決して細い急な雪の斜面に取り付く、少し緩んでいる雪だがアイゼンはしっかり効いている。
かなり登った所は、さらに細くなりルンゼ状の斜度50度は超えるだろう超急斜面になっている。
ハイマツに掴まりつつ頑張るが、如何とも難しくなってきた。
安全を考え諦め、慎重に下降する。再びルートの取り付きを探すけれど、見つけることは出来なかった。
2時間以上の彷徨、すっかり疲れて気力が萎えてしまった。
体調が思わしくなかったことも影響しているのだろうが、気分転換に何か食べようと思っても食欲もない。
ぼんやりどうしようかと考える。
南東になだらかに広がっているC1772mPを超えていけば美瑛岳と十勝岳の稜線に出ると思われるが、またハイマツや岩に遮られたらと思うと行く気になれない。
これを超えていけば十勝岳への近道?
結局もと来た道を戻って、避難小屋から十勝岳へ変更だ。
十勝岳避難小屋に戻ってきたのは8時半、出発してから5時間が無駄になったことになる。
避難小屋から雪を繋ぎつつ昭和火口へと登ったが、左の岩尾根には夏道も出ている。
登りは夏道を、下りは雪を繋いでと言うのが楽かもしれない。昭和火口に出ると、隠れていた十勝岳が上機嫌で出迎えてくれる。
雄大でたおやかな姿に息を飲む。
グランド火口を挟んでの十勝岳
昭和火口からしばらくはスリバチ火口とグランド火口を眺めながらの平坦な道、なだらかに波打つ大雪原と十勝岳や美瑛岳、鋸岳などの険しい山々との対比を楽しめる時間でもある。
スリバチ火口の向こうには美瑛岳
C1621mからは一変して十勝岳の肩への真面目な登り。
30分の頑張りと読んで足を進めるが、体調が悪く苦しい。
いつもなら挑戦意欲満々で張り切る場面なのだが、気分が乗らない。1泊2日のザックが重い。
何度も立ち止まり、45分も喘ぎ、肩へと登る。
C1621mからの登り
肩からは本当に指呼の間、僅かなのだが遠くに感じられる。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
この一歩、この一歩。亀の足で良いと足を前に出す。
十勝岳山頂
急に風が強くなってきた。南寄りの風がこれまで遮られていたのだろう。
冷たい風でかえってシャキとなれたような気がする。ようようの思いで山頂に立った。
十勝連山の山々ははっきりとその凄みのある姿を見せているが、大雪や夕張山系の山々は眼に薄い膜が貼ったように薄らボンヤリとしか見えない。
今の私の気持ちを代弁しているかのようだ。
山頂からの美瑛岳 右奥にトムラウシ、左奥に微かに旭岳
上ホロ〜富良野岳の山々は鋭い山容を誇らしげに見せている。
今日泊まる予定の上ホロ避難小屋も直ぐ近くに見えている。
十勝岳から富良野岳へ続く山々
風下側に腰をおろし、気力を奮い起こそうと食事にするが、コーヒーしか欲しくない。
いつもは何でも美味しい美味しいと口にする私なのに、食欲が無いのである。
無理やり小さなチーズを一つ口にする。予定通り上ホロ避難小屋で泊まるには何の問題もないけれど、このままの体調では楽しめない。
明日には体調が戻るかも知れないが、苦行のような一日を過ごしても仕方ない。
重いザックを担いできたけれど、このまま下山しようと心に決めた。
気温が上がってきたのか、時々踏み抜きながら肩まで降り、その後は尻滑りで楽をしながら下山した。
美瑛岳と鋸岳
残雪期の十勝連山を縦走しながら堪能しようという目論見は、体調不良やルートの見失いと言うアクシデントで残念ながら叶わなかった。
この所、年に数回今回のような体調不良に陥る。
これも歳のせいなのかも知れない、そうだとすれば本当に余裕のある計画にして不慮の出来事に備えておく必要があるだろう。
こんな気にさせた今回の山旅であった。下山後は近くの白銀荘で温泉に入り、頭も体もリラックスさせて帰路についた。
ポンピ沢周辺での彷徨の軌跡が苦戦を物語っている。ああ恥ずかしい! |