南面から仰ぎ見る暑寒別岳
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暑寒別岳
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雨竜沼湿原の入り口、南暑寒荘一体はゲートパークとして整備され、宿泊施設、キャンプ場、管理棟、駐車場などが整備されている。
雨竜町から約25kmを走り、夕方7時過ぎに一夜を過ごすゲートパーク駐車場へ着いた。施設内には公衆電話ボックスや自動販売機まであり、一晩中大型発電機が唸りを上げ電気を供給しているのには驚いた。
自然の中に身を置き、安らぎを求めて来る人達のために一晩中電気を供給することが妥当なのか、考えさせられる一面である。何はともあれ、明日は早朝出発の予定である。
早々に食事を済ませ、シュラフにくるまった。
朝0330に起床、おにぎり一個をお腹に収め、準備を整える。
この時期、雪解けでぬかるみが多かった記憶があり、足元はスパイク長靴にした。
管理棟で環境整備協力金500円を支払い、長い山旅の第一歩を踏み出す。最初の吊り橋を渡ると間もなく「白竜ノ滝」、斜め上から見下ろす滝の風情は高千穂峡の真名井の滝を彷彿とさせ、なかなか良いものだ。
白龍ノ滝(落差約35m)
二番目の吊り橋を渡り、ゴロゴロ石の多い斜面をジグを切りながら高度を稼ぐ。
ほぼ登り切り斜度が緩む地点で冷たい湧き水が流れる小沢を過ぎると、湿原の入り口である。閉ざされていた視界が一気に開け、平らな湿原と南暑寒別岳・暑寒別岳が朝もやの中にその姿を惜しげもなく見せていた。
朝もや漂う雨竜沼湿原と南暑寒別岳(中央)・暑寒別岳(右)
心配した霧の心配は無く、清々しい快晴のお天気だ。
池塘に映える逆さ暑寒別岳の姿も美しい。
池塘に映る、南暑寒別岳と暑寒別岳
ただ残念なことに湿原はまだ早春の気配、花はミズバショウやエゾノリュウキンカ・ショウジョウバカマが主体、エゾカンゾウなどはまだ蕾を付け始めたばかりの様子であった。
すでに7月に入ったというのに、平地の4月終わり頃の陽気なのであろう。
それでも丹念に見ながら歩けば、モミジカラマツ、ハクサンチドリ、ミツガシワ、チングルマ、ミツバオウレンなどが咲き始めていた。
モミジカラマツ
雨竜沼湿原に咲くショウジョウバカマは一般的な薄紫のものからピンク、赤と色の変化が面白い。
濃い赤の花も目にすることが出来た、珍しいように感じる。
濃い赤のショウジョウバカマ
丈の小さいハクサンチドリが草に隠れるように咲いていて、ひときわ可憐。
ハクサンチドリ
そしてミツガシワが端正な花を咲かせている。
ミツガシワ
湿原にひとまず別れを告げて、南暑寒別岳への登りにかかる。
ダケカンバとチシマザサのなだらかだが単調な道には、サンカヨウ・ツバメオモト・オオカメノキなどの花と共にミネザクラの群落が満開の美しさを見せていた。
満開のミネザクラ
さすが豪雪地帯の山である、標高1000mを超えると雪田が現れはじめ登山道は雪溶けで小川と化している。
山靴であれば神経を使わなくてはならない場面であるが、スパイク長靴だからジャブジャブ歩けるし滑る所も平気の平左だ。幾つかの雪田を抜けると、展望の南暑寒別岳山頂である。
下界は一面の雲海、その上に山々が頭を出し、静な幻想的な景観を描き出している。
ひときわ眼を引くのは黄金山、小さいながらも富士山型の山容が存在をアッピールしている。
南増毛の山々、日本海を覆う雲海の遙か向こうには、積丹の山々、ニセコ連山、札幌周辺の山々の姿が浮かんでいる。
南暑寒別岳山頂から南西方向を見る。中央右下は黄金山。
そして何と言っても南暑寒別岳からの景観は暑寒別岳と群別岳、奥徳富岳にかけての山々の連なりであろう。
残雪模様の山肌は山々に陰影を与え、山深さを強調しているかのようである。
奥徳富岳(左)〜群別岳(中央左)〜暑寒別岳(右)へと続く山並み
そしてその中で私が最も心を惹かれる大好きな山は、群別岳。
浜益岳から見る鋭角的な鋭い姿、幌天狗からの姿、奥徳富岳から、黄金山から、そして暑寒別岳からと微妙に姿形は変わるけど、その存在感は変わらない。
そんな群別岳に憧れ続け、ようやく念願かなったときの喜びは今でも鮮明に憶えているのだ。
その群別岳をアップで切り取ってみた。
初登頂の感激は今でも忘れられない群別岳
素晴らしいお天気と大景観、今日の山行はまだ道半ばなのを忘れ、南暑寒別岳山頂で一人感動しまくっていた私なのである。
南暑寒別岳山頂にて
さて今日の目標、暑寒別岳へのチャレンジである。
南暑寒別岳から見る稜線は一旦大きく下がり、コルから急角度で暑寒別岳山頂へ向け突き上げている。
これまで何度も踏み出すことに恐れを感じ、躊躇してきた道である。弱気の虫を押さえ、意を決し、ロープが設置してある山頂からのガレ場を降りていく。
登ってきた東尾根とは比較にならない急斜面を一直線に降りていく。
登り返しを考えるだけでも嫌になる下りである。コルを過ぎるといよいよ暑寒別岳への登りに入る。
北東斜面に広がる大きな雪渓の縁を回りこむようにして尾根道は付いている。
所々に群れ咲いているオオバキスミレが目に優しく力を与えてくれる。
オオバキスミレ
小ピークを幾つか越えていく、アップダウンが煩わしいが、良い目標にもなり目安にもなる。
少しづつ姿を変え大きくなってくる暑寒別岳、挑む気持ちに変わりはない。
小ピークから見る暑寒別岳の勇姿、次の目標はあの岩場の崩壊地だ。
C1250mにある崩壊地、左側が崩れガレ場で足場も不安定だ。
慎重に通過していると、紫色の小さな塊があちこちに点在している。
崩壊地に点々と紫の群れが・・・
何だ? より慎重に足場を固め、近づいてみる。
クワガタである。8月ごろに咲く花と思っていただけに驚く。
確たる自信がなく帰宅後調べてみたら、菊葉クワガタで開花時期も6〜8月とあり、知識を新たにした思いだ。
キクバクワガタ
崩壊地を過ぎると距離は短いが日高を彷彿させる、とてつもない急斜面になる。
空が狭い、ともすれば萎えそうになる気持ちを奮い立たせ、一歩一歩をとにかく頑張る。
終わりのない登りはない、この一歩・次の一歩を頑張れば乗り越えられる筈だ。急に空が広く大きくなった。
左手に群別岳・奥徳富岳が間近に迫り、振り返れば南暑寒別岳と歩いてきた稜線が下方に見えている。
キツイ暑寒別岳への稜線を登り切ったのだ。
急斜面を登り切ると、岩混じりの道となり雪渓を幾つか横切りながら岩を積み上げたような山頂へ向かう。
山頂直下には見事なお花畑が幾つかあり、ハクサンイチゲやシナノキンバイ、ミヤマダイコンソウ、ミヤマキンポウゲ。ミヤマキンバイ、ショウジョウバカマ、ウコンウツギなどが咲き乱れている。
まさに天上の楽園、一息入れたくなる景観だ。
山頂直下のお花畑と群別岳(右)
ついに山頂に立った。
山の神コースや箸別コースから来た人が休んでいるし、続々と山頂へ向かってくる人達が見える。
何度も立っている山頂なのだが、今回の山頂はこれまでとは一味違い、喜びも格別だ。浜益岳とこの春に登った幌天狗が指呼の間、懐かしい思いがする。
浜益岳(中央右)と幌天狗(左)
そして稜線越しに鋭く端正な姿をみせている群別岳と吊尾根で結ばれている奥徳富岳が一段と凛々しく見えている。
群別岳(右)と吊尾根で結ばれている奥徳富岳(左)
山頂からの大景観に浸り、呆けたようにただただ見入る。
積丹岳や羊蹄山、ニセコ連山が、雲海の日本海を挟んで見えている。何という壮大さだ。
そんな景色に見入りながら昼食にするが、菓子パンだけで味気なく食欲が沸かない。
疲れ過ぎなのだろうか? ミニトマトとゼリーがわずかに食欲を刺激してくれるようだ。本州からのツアー登山の人たちがやってきて、急に賑やかになった。
多額の費用と日数をかけての山旅だから喜びも格別なのだろう。はしゃぐ気持ちもよく分かる。
山頂の一角を彼らに譲り、少し離れた所に腰を落ち着ける。
それにしてもガイド任せなのか、下調べもせず地図も持っていないのか、声高の見当違いな山座同定にただ苦笑するしか無い。お花畑を堪能しながら、長い復路への闘志を高めた。
山頂直下のお花畑
苦しく辛かった登りも下りとなれば嘘のように鼻歌交じりだ。
笹や枝をつかみ、快調に下る。
コルまでに二人の単独男性と三人パーティと出会った、いづれも雨竜沼からの暑寒別岳往復登山だろう。
さすがに皆さん、苦しい表情。励ましと情報を提供してすれ違う。コルから南暑寒別岳への登り返しは、正直つらかった。
晴天で気温が上がったことも影響したのだろうが、暑さにへばり、急登に気持ちが萎え、何度もひと息入れながらの登り返しであった。登山者で一杯の南暑寒別岳はそのまま通過して直下の雪田まで行き、しばらくひっくり返って体の火照りを和らげた。
降りた湿原もひたすら暑く、気力を振り絞って木道を歩き、行き交う多くの花めぐりの人達のペースに合わせて、ようようの思いでゲートパークへ戻って来た。
累積標高差約1800m、歩行距離27Km、所要時間11時間は、67歳の私にとって過酷かも知れないと正直思っていた。
しかしこれまで何度も歩いてみようと思っていたのに、チャレンジもしないで諦めるのは情けない。
そんな思いで挑んだ今回の雨竜沼湿原〜暑寒別岳山行。期待していた雨竜沼湿原の花は時期が早すぎ早春の気配、花々が咲き乱れるのは2・3週間後からであろう。
暑寒別岳への道は予想通りの厳しいアップダウン、精神的にも辛く、特に南暑寒別岳への登り返しは厳しいものがあった。
灼熱地獄のような暑さも大変なものだった。
反面、大展望と可憐な花たちの姿が、勇気と頑張りを与えてくれたように思う。老いると自分の意志に関係なく、体が動かなくなるそうだ。
そうなって人様にご迷惑をおかけしたら申し訳ない。
これからは自分で難しいと思ったら、少し余裕のある方法や手段を探してみよう。
探せなかったら、諦めれば良い。「老いては麒麟も駄馬に劣る」と言うではないか!
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