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夕張岳
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数日続いた雨がちのお天気も回復したこの日、登山口へ続く林道は木漏れ日に木々の葉が輝き清々しい。ただ道は水たまりだらけで気を抜くと派手に水しぶきを撒き散らし、車は泥まみれだ。
登山口には5・6台の車がすでに停まっているが最盛期に比べれば嘘のような静けさだ。準備を整え歩き出す。
直ぐに横切る小沢は数日来の雨を集めて滝のよう。
滝を思わせる小沢の流れ
馬の背コースは帰りに歩くことにして、冷水コースに入る。
最初こそ歩きやすい道だが、間もなく樹林帯の中の結構な登りとなる。
出だしで体も暖まっていない、意識してゆっくり登る。
数日来の雨で登山道は小川状態、歩きにくい。約1時間で冷水の沢の水場、とうとうと水が流れている。
いつもならここで一杯御馳走になるところだが、湿度が高いせいか喉も渇かず通過する。
さらに少し登ると前岳の沢の水場、次いで馬の背コースが合流してくる。そして時期ならばシラネアオイの群落が辺りを埋め尽くしている石原平を過ぎて、望岳台へと進んで行く。
ここまで誰とも出会うこともない、花の時期の夕張岳では信じられないような静けさが辺りを支配している。
これが本来の夕張岳の姿なのだ。
樹林で妨げられていた視界も望岳台からは開け、夕張岳のたおやかな女性的な山容や周囲の山々が眺められるようになる。
望岳台からは間近に見える滝ノ沢岳の岩混じりのゴツゴツした姿、遠くに凛々しく聳え立つ芦別岳の姿が印象的だ。
望岳台からは滝の沢岳(左)と芦別岳(右)が望める
南岳の中腹をトラバースするように進んでいくと左手前方に夕張岳が望めるようになる。
お天気は急速に回復し晴れ間が多くなってきているが、夕張岳には雲がまとわりついている。
三角錐の釣鐘岩、ガマ岩や男岩などの岩峰が女性的ななだらかな夕張岳に緊張感と言うか締まりを与えている。
雲流れる夕張岳
この辺りからは平坦な高原状の尾根を景観や花を楽しみながら楽しく歩けるところ。
でも今日は何となく感じが違う、気配を感じるのである。
「何の?」勿論「山おやじ」のである。
見られているような、近くにいる感じがするのだ。
背の高い笹が生い茂っている所など嫌な感じがする、出会いたく無い。
笛を吹き、声を出し、手を打ち鳴らしながらこわごわ通る。男岩
案の定、新しい糞や掘り返しが見られる。
お互いの幸せのために、熊さん登山道から離れた所に行ってくださいな。
前岳湿原から蛇紋岩崩壊地、吹き通しの間はお花畑が続き、6・7月は花に呼び止められ足が進まなくなるところである。
8月も終わりに近くそんなことはあるまいと思っていたのだが、いや〜、さすが花の名山。
まだまだたくさんの花が咲いている。まずはユウバリリンドウ。
ピンクががった薄い赤紫色の尖った花冠が可愛らしい。
ユウバリリンドウ
8月も終わりだから花はないだろうと何となく思っていたが、考えてみればリンドウなど秋の花が咲き始めて当たり前だ。
そういえばエゾオヤマリンドウも濃い紫の蕾を大きく膨らませている。シロウマアサツキやエゾノシモツケソウも秋色になりかけている草原にアクセントを添えている。
シロウマアサツキ
余り目立たないナガバキタアザミが明るいピンクの花を誇示している。
その可憐さに驚き、見なおしてしまったほどだ。
ナガバキタアザミ
花を楽しみふと振り返ると、前岳が端正な姿で屹立していてちょっと登ってみたくなる。
誘惑されている感じである。
端正な前岳、登ってみようか?
気持よく木道を歩いていると、大好きな花「ミヤマアケボノソウ」を見つけた。
よく見ると点々と沢山咲いている。
いや〜嬉しい! 決して目立つ派手な花ではないのだが、粋な感じが大好きなのだ。
ミヤマアケボウソウ
華やかで艶やかな舞妓さんに対して、粋でシックな芸者さんのイメージ。
そんな感じがするのだ。久し振りに見るアケボノソウに見入っていると、傍らにタカネナデシコが咲いている。
まさに舞妓と芸者がお互いを引き立てあっているかのようだ。
タカネナデシコ
熊ヶ峰と釣鐘岩の合間から振り返ると静に広がる湿原と前岳、遠く連なる山々の姿が調和して美しい、心が洗われるようだ。
心安らぐ穏やかな景観
辿り着いた吹き通しには、すでに花柄になって突き立っているユウバリソウの枯れた姿が印象的。
今はユキバヒゴタイとユウバリリンドウが主役になっている。
その他にはトリカブト、エゾオヤマリンドウ、ウサギギクなども彩りを添えている。
吹き通し(地面が見えている所)から一登りで夕張岳山頂だ
吹き通しからはハイマツの中をジグを切って15分も登れば、待望の夕張岳山頂だ。
山頂直下には小さな神社が祀られていて、感謝の気持ちを込めてお参りする。山頂に居た人が降りるところで、一人ぼっちの山頂である。
晴れてはいるのだが、山頂と同じぐらいの高さの雲が点在していて見通しを邪魔している。
芦別岳の山頂にも雲がへばりついている。
山頂から前岳方向、右下に夕張岳神社が見える
静で平和な光景だ。
時間は11時過ぎお腹も減った、菓子パンを頬張りながら景観を楽しむ。
日差しが暑いぐらいだが、持ってきた熱いコーヒーが美味い。
アキアカネがすごい数で飛び回り、ザックや帽子にも止まって羽を休めている。
芦別岳
ここ数年は混雑覚悟で花の時期の夕張岳を訪れていた。
少し時期を外した夕張岳は本来の静寂さを取り戻し、とても安らげる。
やはり山は静な方が良い、決して人嫌いなわけではないが正直そう思う。
ゆっくりとした時を過ごし、下山にかかる。
下山途中も花々を楽しみ、写真を撮る。
トリガブトとリンドウの濃い青紫が秋を思わせる。
トリガブト
その中でウメバチソウの純な白さが一際清潔感を強調しているようだ。
エゾシモツケの赤が対照的だ。
ウメバチソウ
ミヤマリンドウの明るい青が小さいながら目を引いている。
私はこの青がとても好きだ。
ミヤマリンドウ
花を楽しみながら往路を戻り、馬の背分岐からは馬の背コースを辿る。
静かで深い樹林の中を淡々と下れば、約1時間で夕張岳ヒュッテだ。
古いプレハブのヒュッテだが、立て直すのか基礎の土台工事が進められていた。
訪れる人の多い夕張岳に似合ったふさわしい小屋になれば良いと思う。