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低温
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冬は樽前山の7合目ヒュッテに通じる道々と登山道は閉鎖になる。
夏場なら車で20 分ほどの車道を2時間以上かけて歩いていく。辛いと言えば辛いのだが、何時もは何となく車で通り過ぎてしまう所をのんびり歩くのも良いものだ。
シ〜ンと静まり返った深い森、たっぷりの雪が全ての音を吸収してしまっているかのよう。
時折聞こえるのは梢の揺れる音と鳥たちのさえずり、見えるのは真っ白な雪と黒々とした樹々、狐や兎の足跡が動きを感じさせる唯一のものだ。1時間15分で樽前錦岡線と樽前登山道との分岐点、ちょっと一息である。
樽前山登山道ゲート
ここから7合目ヒュッテまで約1時間、ヒュッテの管理人さんが使用するスノーモービルのトレースの上を歩いていく。
ヒュッテに到着、ここからは森林限界を超えるため風にさらされ雪も堅くなる。
パーカーを着込み、フェイズマスク・オーバーミトンで武装する。
アイゼンを履き、ストックに換えてピッケルを持つ。樹林帯を抜けると広大な雪原に出る、ここからが冬の樽前山らしい景観と歩きを楽しめる。
7.5合目付近から山頂を見る 溶岩ドームはまだ見えない
風が強くなってきた、雲の流れが速い。
932m峰と風不死岳がキリリとした表情で並んでいる。
932m峰(左)と風不死岳
そして北には支笏湖が静かに佇んでいる。この表情を見ると「ああ、樽前山に来たんだな〜」と思い、気持ちが優しくなる。
私の好きな景観の一つである。
支笏湖と紋別岳などの山並み
冬の樽前山、私は7合目ヒュッテから概ね山頂に向かって直登していく事が多いのだが、今日は何時にも増して風が強そうなので少しは風が避けられるだろうやや左にトラバース気味に登る夏道沿いに行く事にした。
雪の斜面は風紋が様々な形をして表れ、吹きだまりあり、カチカチに凍りついた所ありと変化が激しい。
風が次第に勢いを増し始めた、雪を巻き上げ襲いかかってきて体に当たるとバチバチ音を立てている。
ふと見る風不死岳に雪雲がかかり始めている。
北西にあった雪雲が風不死岳にもかかり始めた。
少し急いだ方が良いと、夏道沿いから真っ直ぐ山頂へ突き上げるルートへ変更する。
風が真正面からとなり冷たく辛い、涙が出て眼鏡が曇る。
ピッケルを刺し体を確保しながら着実に高度を稼ぐ。ますます風が強くなってきた、耐風姿勢をとらないと飛ばされそうな勢い。息が詰まる。
風の息の間にふと見上げると、雪煙に太陽がぼんやり見え七色に輝いて幻想的な風景が展開していた。
耐風姿勢で耐える時間が長くなってくる、どうしよう? もう少し頑張ろう。
地吹雪と風紋
風と闘いながらも一歩一歩高みへと登り、山頂までほんの一息約20〜30mの所までやって来た。
また風がまともに吹き付ける、ピッケルを深く刺し耐風姿勢をとってやり過ごす。
10秒、20秒、突然辺りがまっ暗になったように感じた。
見回すと稜線を越えて来る黒い固まりのような雪雲が見え、一瞬にして猛吹雪。
2〜3m先が見えない。少しオーバーだが、バーチゴ(空間識失調)に入ってしまったような感覚、前後左右上下がハッキリ認識できずピッケルに掴まっているのにゆらゆら揺れるような感覚なのだ。
「これはいけない!」とっさにそう思った。
風の息の間、吹雪で周りは見えないけれど地面は見えふらふらする感覚は元に戻った。体の向きを変え、風を背中から受ける方向へ降り始める。
アイゼンを食い込ませ、慎重の上にも慎重に一歩ずつ。
降りている方向が正しいのか不安だが、こんな所でGPSをC'Kしているゆとりはない、風をやや左真後ろから受けながら降りれば間違いはない筈と信じて降りてゆく。10分も経っただろうか、周囲が明るくなって雲の下へ出た。
吹雪は続いているが明るくなり周囲が見え始め、ヒュッテの方向もしっかり確認できる。
「いや〜 ビックリした!」
恐怖の時間を過ごし地吹雪の斜面を見つめる
ヒュッテに戻り暖かい飲み物を口にしてホッとする。
冬山に天候の急変はつきものだが、今回は予想していなかっただけに驚いた。
甘く見たと言われても仕方がない、GPSを何時でもC'K出来るよう腕に付けたり、デポ旗を付けたりとすべき事はあった。
天気予報で石狩北部には暴風雪警報が出ていたのだから、荒れる可能性は高かったのを晴れているから大丈夫と出かけて来たのも間違いだった。
これからはより慎重に状況判断を間違えずに行動しなければと改めて思った。