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蝦夷松山
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蝦夷松山の登山口は函館市陣川にある。
土地勘のない私はカーナビ任せ、道が入り組んでいるのか交差点を何度も曲がらされる。
音痴ではないつもりだが、方向感覚がおかしくなるほどだ。着いた所は「栗の木公園」と言うバス停の近く。
なるほど、栗の大木が立っている。
石仏が祀られた栗の大木がある。
探しても登山口という標識もなければ駐車場もない。
仕方なく邪魔にならないよう付近の道路脇に車を停める。歩き出す道は幅広く、荒れ加減だが車も通るようだ。
5分も行くと十字路に出た、ここにも標識はない。
クルマが走っていなそうな右の道を選択、すぐ左手に菩薩様などを祭ったあづま屋がある。
その後何ヶ所か分岐があるが、いづれも標識などはなく樹の幹に緑のペンキで◯や→が示されているのが頼りである。
道には落ち葉が厚く積もり足に優しく歩くのに気持ち良い。
栗の毬が沢山落ちている、一昔前は人々が拾い集め、糧としていた生活の場であったのだろう。
点々と石仏が祀られた気持ち良い道
道の両側には点々と石仏が祀られている。
見ると、四国八十八ヶ所霊場を模した石仏で一番霊場から順に設置されている。
四国歩き遍路をした私達は、懐かしいお寺の名前が刻まれた台座と石仏を拝見しながら遍路話に花を咲かせた。
四国八十八ヶ所霊場を模した石仏
このような簡易的な巡礼施設は全国各地にあるが、距離的に遠い北海道には特に多いように感じる。
それだけ信心されている方や行きたくても行けない人が多いということなのだろう。
やがて巡礼の道とも別れ、登山の道。
だがやはり道標などはない、もしかしたら営林署など行政の登山への理解が今一歩なのかも知れないと思った。歩く山は何の変哲もないのだが、静で平穏な感じ。
カミさんは、「生まれ故郷の裏山に雰囲気がとても似ているわ。小さな時にはこんな山の中をランやお花を探して歩きまわったのよ」と嬉しそう。この山は湧き水が豊かなのだろうか?
小さな水流があちこちに見られ、小さな泥濘みもあちこちにある。
普段なら難なく避けられる泥濘みだが、晩秋の今は落葉で隠されているので踏み込んでは「わぁ〜」とか「きゃ〜」とかせわしない。歩き始めて約40分、小さな沢を渡っても道はさらにゆっくり登っていく。
お喋りをしつつ何時もより少し早めのスピードで歩いていたカミさんが急に立ち止まり「ちょっと変だわ」
顔色が蒼白、目もうつろだ。
このところ出ていなかった喘息の発作が起き、気管が狭まって呼吸が出来ないようだ。
ザックを下ろし、持参の薬を吸引する。
5分ほど安静にしていたら、薬が効いて呼吸が普通にできるようになって一安心だ。薬は本当に有難いと思う、しかし一方では害もあるわけで健康の有難さを痛感する。
登山は中止して下山しようと考えたが、本人はもう大丈夫と言う。
それならと、呼吸を乱さないようなペースを作りながら私が先導して歩くことにした。発作で休んだ所からすぐに、林道が走っていた。
車が走った跡があり、ワダチが新しく今朝のものらしい。
林道を横切って少し登ると道がYの字に分岐している。
左は花の道、右は頂上との標識。
私たちは右の山頂への道を進んだが、途中合流してくる道はなかった。
花の道って、どこに行くのかな?
お花畑があるようには思えなかったけど・・・。梢の間から蝦夷松山の山頂が垣間見えてきた。
いよいよ蝦夷松山本体へ取り付いたのだ。道が急激な変化を見せ始めた。
それまでの落ち葉のゆるやかな道から、笹の刈分け道へ、そして岩混じりの道、次いで岩の間をすり抜けていく急坂へ、最後は大岩を攀じて登るように変わるのだ。蝦夷松山登山の最後を飾る大岩はしっかりしたロープが付いているので難しくはないが、それなりに緊張する。
思わずシュリンゲを出そうかと思ったほどだ。
ヨイショ! ロープに助けられて
最後の最後は「蝦夷松山」と大きく墨書された板が取り付けられた大岩を乗り越えれば、蝦夷松山の山頂である。
岩の上に立つと、足元が切れ落ちた高度感溢れる開放感。
そして目の前には函館市街地が、くっきりと広がっている。
丁度、函館山からとは逆方向から見る位置関係だ。
山頂から函館市街地と函館山を見る
目と鼻の先に立派なゴルフ場が広がっているのは何とも興醒めだが仕方ない、先程の林道はゴルフ場から続いているようだ。
昨日登った、当別丸山もしっかり見えている。
函館方面以外は低い雲に覆われ、三森山や袴腰岳は頭を雲に隠している。これから向かう予定の雁皮山も黒い雲に覆われ始め、今にも降り出しそうだ。
低い雲に覆われ出した雁皮山買い求めた七飯町名産のリンゴを美味しくいただきながら、山頂での時間を楽しむ。
写真に夢中になっていると「足元に注意して、踏み外したら大変よ!」
蝦夷松山山頂にて
午前中は晴れで、午後から曇りの予報だったが少し早まっているのだろうか?
函館方面だけでも日が射し、良く見えるのは幸いだ。
お陰で函館の地形が概ね分かったような気がした。
この山頂からの夜景は素晴らしいだろうなど、出来そうにもないことを想像してしまう。
山頂からの函館市街地と函館山
函館山をしっかり見て、出来れば函館市街を眺めてみたい。
今回の山旅の願いは十分すぎるほど得られた。
さらなる望みは次回以降に譲り、雨の振り出しそうな雁皮山も今回は諦めることにした。
道東の標津岳で雨に降られ、寒い思いをしたのを体が覚えているのだ。リンゴをもう一個食べ、温かい飲み物を摂り、もう一度景観を眺めて、下山することに。
下山も最初は岩場だから細心の注意を払いながら慎重に降りる。
登り以上に設置されたロープに助けられる。
整備してくださっている方々に感謝だ。
足の置き場を確認しながら
岩場をやり過ごせば、後はゆるやかな下り道を歩くだけ。
キノコをひっくり返したり、コシアブラの透き通った葉を探したり、木の種類を確かめたりしながら快調に下っていく。すると下から人の気配、10人ほどのパーティが賑やかに登ってくる。
脇に寄り道を譲って待っていると、その中の人から「ブログ見てますよ」とか「昨年は恵山に行ってましたね」と声をかけられる。
スレ違いだから話をする暇もなく、ただ「どうも」と頭を下げただけだったが、ちょっぴり恥ずかしくちょっぴり嬉しい気分だ。
多分、同じメーリングリストHYMLの人達だろうと思った。
こういう出合いをきっかけに新たな交流が始まることも多い、大事にしなければ・・・。
出会った皆さん、きっと何かのご縁でしょう、これからもよろしくお願いします。この日は更に男女3人のパーティともスレ違い、挨拶を交わした。
山頂から小1時間で、麓まで戻ってきた。
再び、石仏を見ながら四国遍路の話で盛り上がる。
私の古希に当たる来年は、もう一度四国歩き遍路をする予定なのだ。
健康で過ごせるよう努力して願いを叶えたい。そう強く思った。下山し、車を走らせていると晴れてきて蝦夷松山も雁皮山もしっかり見え始めた。
登っていった人達はきっと存分に楽しめたことだろう。
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