何を思い、佇ずむのか?
オロフレ山は二つの顔を持っていると感じている。
一つは夏山の寛容で優しく花に満ち溢れた誰に対しても愛想の良い顔。
もう一つは天候急変を常とする積雪期の油断ならない手厳しい冬の顔である。オロフレとはアイヌ語で「赤い水の流れる川」の意味と云うが、そんな川は近くに無い。
白水川という逆にやや白濁した水の流れる川があり、その川の事だと云う説があるが昔は赤い水が流れていたのかしら?
ともあれ今は標高930mのオロフレ峠から簡単に登れ、花を楽しめる山として老若男女・いや正確には老中男女に愛されている山である。
オロフレ山 手前の尖塔は小岩峰
約1週間前、オロフレ峠へのゲートが開放されたという情報を得て今年は早めに訪れてみたいと思っていた、だけど毎日霧っぽい天気で薄ら寒く出かける気にはなれなかった。
6/16(日)、起きるとこの日も濃霧だが予報は晴れだ。
日曜日で混むかもしれないが貴重な晴れの日を逃したくはない、思い切って出かけることにした。千歳から苫小牧、白老、登別と海岸沿いは深い霧の中、車で走るにも気が抜けない。
北海道には梅雨はないと云われるが6月〜7月の太平洋岸は毎日のように海霧に覆われ、蝦夷梅雨と言われているほどだ。
ところが登別からオロフレ方面へ登りだしてしばらくすると、突然霧が切れ晴れ間が広がりだした。
登山口のオロフレ峠は快晴とはいかないが青空が見える薄曇りの天気、花を見るには絶好のコンディションである。
午前8時、オロフレ峠の駐車場には既に10台以上の車が停まっていた。
皆さん花狙いのようで、人の少ない時間帯にゆっくり花を見ようと足早に登山口へ向かっている。オロフレ峠周辺とオロフレ山と反対の来馬山への取り付き付近に毎年チングルマやチシマキンバイなどが咲いているところがある。
今年も白い花が咲いているのが見え、まずはそちらに立ち寄ってからと近づくと残念なことにチングルマは既に盛りを過ぎ花に勢いがない。逆にチシマキンバイとミヤマオダマキはまさに咲き始め、朝の雫をまとって輝いている。
チシマキンバイ
初っ端から旬のお花のお出迎えとは嬉しいかぎり、期待が高まるな〜!
開花したばかりのチシマキンバイ
どんな花でもそうだけど、咲き出した旬の花が雫をまとった姿は無条件で美しく、絵になる。
盛りを過ぎ傷みかけた花を自分に重ね、いたわり合うように眺める時の複雑な心境は、歳をとってみなければ判らない。
雫をまとったチシマキンバイ
オロフレ峠からC1003mPで稜線に出るまでは、僅かな距離の樹林帯。
花を探しながら足元ばかりを見て歩くと、低く出っ張っている枝に何度も頭をぶつけ悲鳴を上げる。樹林帯にはシラネアオイ、ツバメオモト、ミヤマスミレが咲き、ミネザクラの散った花びらが道を飾っている。
シラネアオイ
シラネアオイは登山口から山頂まで、ツバメオモトとミヤマスミレはC1062mP付近まで咲いていて、いろいろな表情の花を慈しむことが出来た。
木漏れ日に映えるシラネアオイ
大きな群落もあれば、こぢんまりと咲く花もあり、花の生き方もそれぞれだ。
こぢんまりと、家族でまとまっているみたい
登山口からひと登り、C1003mPからオロフレ登山は気持の良い稜線歩きに変わる。
羅漢岩、小岩峰、C1062mP、そして最後に待つ急登へと花と景色を眺めながらオロフレ山ならではの稜線歩きである。花はここからが本番、種類も数も多く本当に楽しめる。
稜線から見る羊蹄山とニセコ連峰、左には霧に覆われた洞爺湖
羅漢岩へ通じる緩やかな稜線、私の目は草地をキョロキョロ舐めている。
確か、イワカガミがこの辺りから・・・。「あった!」
ピンクの小さな塊がポツンポツンと草地に落ちているようだ。
二年ぶりの再会。
薄いピンクのイワカガミ
花をアップで撮るとき、花弁や蕊など特定の場所にピントを合わせるのはカメラのオートフォーカスの苦手な部分。
そのため花好きの人の殆どはマニュアルで撮影する。しっかりピントを合わせるため三脚をセットしてじっくり撮影したいところだが、今日は日曜日で人も多い。
通行のじゃまになってはと、三脚は諦め手持ちでの撮影だ。
手が震え、ピントがなかなか決まらない、呼吸が苦しい、ああ・・・!
白に近い、イワカガミ
それにしても不思議な形をしている。
本によると「5弁にわかれ更にその先が細く裂けている」とあるが、ラッパ状の花の中程から先が細かに裂け、華やかと云うか豪華と云うか妖しさと云うか、なにか惹きつけるものを持っている。
濃いピンクの、イワカガミ
イワカガミと云う名は岩場に多く葉が硬くツヤツヤして鏡のようなことから、岩鏡と呼ばれるようになったと聞いている。
花の色形よりも葉の特徴から名を付けた昔の人の感性は、何と奥ゆかしいのだろう。
私のような凡人なら、花の色や形から受ける印象や連想する名を考えると思うのだが・・・。
羅漢岩では、恐ろしほど切り立った岩場に張り付くように群れ咲いているチングルマが楽しみだ。
群落と言えば「チングルマ」を連想するほど、群れ咲く姿が一般的。
ここ羅漢岩でも切り立つ岩場を白く染めるほどだ。
岩場を白く染めるチングルマの群落の一部
群落と言うと語弊があるかも知れないが、ノウゴウイチゴも量的にはチングルマに負けてはいない。
道の両側を白い細帯のように染めて咲いている、でも決して目立たない。
この花も奥ゆかしいのである。
ノウゴウイチゴ
群れ咲く花のもう一つの代表は、スミレかもしれない。
色んな種類のスミレがあるが、どれも群れ咲く印象がある。
オロフレでも点々と自分たちの居場所を守りながら、ひっそりと群れ咲いている。
ミヤマスミレ だと思う・・・。
私にはスミレが正直よく分からない。どのスミレも同じように見えてしまうのだ。
一度きちんと覚えなくてはと思うのだが、見ると「ああスミレだ」と見過ごしてしまう。
今回も他にたくさん咲く花達にかまけて、よく見るチャンスを逃してしまった。
この日のオロフレ山、花のチャンスと思った人が多かったようで大変な人出。
山頂から登山道を見下ろすと、言葉は悪いが蟻のように連なって登ってくる人達の行列が目に入るほどなのだ。
平日に滅多に人に合うこともない山行を常としている私達にとって、この混雑は新鮮な驚きでもあった。
「本州の山みたい、北海道でもあるんだね!」
コルから見た、オロフレ山
そんな中、何人かの方からお声を掛けていただいた。
曰く「あら! たしかブログを出している方ですよね。」
「あれっ! オジロワシ・・・の方では?」
「あらまあ! お久しぶり・・・。」
皆様、お声を掛けて頂き有難う御座いました。とても嬉しゅうございました。
私たちのことを知る人など居る訳ないと思っていたのだが、多分カミさんの帽子や服装が何パターンしか無くいつも同じようなので、気付かれた方が居たのだと思う。
中でも、2009.8に大雪の忠別小屋から五色岳へ行く途中、カミさんが帽子に挿していたサングラスをハイマツに取られ無くしたのを見つけて届けて下さったご夫妻に再会できたのは懐かしくも嬉しい出来事だった。
「こんにちわ・・・」 コルにて
C1062mPからはオロフレ山山頂へ突き上げる急斜面の直登尾根、細い尾根に細かなジグを切りながらの辛い登りを励ましてくれるのが、尾根に咲く花達である。
点々と励ましてくれる花達が
ハクサンチドリ、カラマツソウ、チシマフウロ、ミヤマダイコンソウ、シラネアオイなどが、まさに咲き始めの旬な姿で出迎え励ましてくれている。
花達を愛で、カメラに収めるのを言い訳に、しばし休憩できるのも有り難い。
ハクサンチドリ
見晴らしの良い、風通しも良い尾根からの景観も辛い登りを助けてくれるありがたい存在だ。
左手には優美な羊蹄山とニセコ連峰が佇み、オロフレ山本体の右手には支笏湖の風不死岳と樽前山がシルエットのように見えている。
尾根から望む、羊蹄山とニセコ連峰
ラン科のハクサンチドリ、千鳥の嘴のように尖った花弁と舌のように広がる唇弁が面白くも不思議な造形で、その人気の高さもよく分かる。
花弁と唇弁の形、バランスが美しくも面白い
ハクサンチドリとカラマツソウが良い具合に並んで咲いていたので、コラボでと撮ってみたがカメラの絞りを絞るのを忘れ、カラマツソウがボケすぎてしまった。失敗・失敗!
カメラのセッティングを忘れ、手前のカラマツがボケすぎてしまった。
登り着いた山頂にはすでに20名以上の人が・・・。
ゆっくりしたいけれど、次々に登山者が上がって来る。山頂からはやや霞み気味で雲も多く大展望とは言えないが、それなりに景観も楽しめた。
朝の濃霧が解消しないのか洞爺湖は霧に覆われ、太平洋は霧の下だ。
オロフレ山山頂から徳舜瞥山・ホロホロ山。右に風不死岳・樽前山
山頂にいる多くの方々は晴れやかな表情で、お弁当やおやつを口にしながらおしゃべりしたり、写真を撮ったり、ゆっくり寛いでいる
静かな中にも豊かで心地良い時間が流れていくようだ。私たちもゆっくり過ごしたいが、何回も来ているし来ようと思えば何時でも来れる。
登ってくる人達に山頂を譲ろうと、写真を数枚、パンを一切れ、冷たい飲み物を口にして、下山することにした。
山頂から 霧の洞爺湖。左は有珠山、右のトンガリは昆布岳
山頂を後にし、続々と登ってくる人達と道を譲りあいながら、急な尾根を下っていく。
傍らに咲くカラマツソウやダイコンソウに目が行きがちになるが、足元に注意をはらい慎重に。
ミヤマダイコンソウ
ミヤマダイコンソウが逆光を浴び、茎や葉の毛が美しく輝いている。
可憐だが良く見ると花の蕊は勇ましい。
ミヤマダイコンソウ
チシマフウロも咲き出したばかりの花が多く、若々しい張りのある姿がとても良い。
チシマフウロ
そしてサンカヨウも数は多くないが、綺麗な姿を見せていた。
サンカヨウ
30人以上の大パーティをやり過ごすのに不安定な姿勢で長い間待たされたりもしたけれど、譲り合いながらコルまで降りてきた。
洞爺湖を覆う霧と山々が織りなす影絵のような景観は、しばし見とれてしまうほど美しかった。
霧と山々が織りなす、美しくも幻想的な景観
オロフレ山、絶好の花日和に訪れることが出来、大満足だ。
殆どの花が咲き出したばかりで勢いがあり元気、いわゆる旬の花ばかりであった。それにお天気も薄曇りで陽射しも程よく、花がしおれることもなかったし、霧の雫が可憐さを引き立ててもいた。
花の名山「オロフレ山」だが、こんなに満喫したのは初めての経験だった。
帰りの車の中でも花の話題は尽きず、満ち足りた気分で帰宅することが出来た。
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