暑寒別岳 (1491m)

増毛   2013.7.24(水)   晴のち曇

 


 

 

暑寒別岳
暑寒別岳(左) と 西暑寒別岳(右)

 

 

・暑寒別岳

暑寒別岳は増毛山地の盟主・最高峰。
展望も良く、山頂台地のお花畑も豊かだ。
山頂からは増毛山地はもちろん、樺戸や大雪・夕張の山々、日本海を越えて札幌周辺の山々、羊蹄山・ニセコの山々をも眺めることが出来る。
天候が良ければ、天売・焼尻島や利尻山、日高の山々を遠望することができるそうだ。

増毛山地には登山道のある山は少なく、そのすべてが暑寒別岳に集中している。
道の無い群別岳や浜益岳、幌天狗、雄冬山などは、沢からか積雪期に登られている。
暑寒別岳へは、暑寒荘からの暑寒コース、箸別小屋からの箸別コース、雨竜沼湿原からの雨竜コースの3本が整備されている。

前日雨竜沼湿原での花巡りを堪能した私達、この日早朝に留萌のキャンプ場で目覚めた。
気にしていたお天気は大丈夫、暑寒別岳がスッキリした姿を見せている。
キャンプしている人たちを起こさないよう静かにキャンプ場を後にする。

今回私達が辿るのは、暑寒コース。
かなり前、カミさんと箸別コースから登ったのだが、霧と雲で何も見えず残念な思いをした。
今回はぜひ大展望とお花畑を存分に楽しみたいと思っている。

 

・長〜い北尾根

暑寒コースの登山口には暑寒荘と云う立派な小屋が建ち、トイレなども完備されている。
「渓流の森」の名で遊歩道などが整備され、単なる登山口というより自然探索路の拠点として整備されているようだ。
準備を整え朝の5時半に出発。

登山道は暑寒別岳から北へ伸びる尾根に概ね忠実に付けられていて、距離は8kmと長い。
この日は陽射しが厳しく気温も高く暑くなりそう、ペース配分を一定にと私がペースを刻む。

道は全体を通してダラダラ登り。
尾根に取り付く1合目までは普通だが、その後6合目付近までは平地かと間違えるぐらいのダラダラ登り。
合目標識がしっかり付けられ、ゆっくり歩いて各合目間が20分弱だ。

深い樹林帯の中の道、林床部には花が列を作って咲いている。
白と黄色のハナニガナ、ブタナ、オニシモツケ、マイズルソウ、ゴゼンタチバナなど種類は少ないけれど、量は多い。

でも、ゆっくり花を楽しむことは出来ない。
虫・虫・虫・・・・・
虫よけ剤をたっぷり塗っているのに、効き目は無い。
耳に、鼻に、ところ構わず突撃してくる。
サングラスの内側に入り込み、出られないと目の周りで暴れまくる。
とても始末におえない、スプレーを歩きながら噴きかけるが効果は一瞬だけ。
とても花を楽しむどころでは無いのである。

 

・アラ〜!

6合目付近まで登ってくると樹林が切れ始め、風も通り始めた。
風が通れば虫は少なくなるし、涼しく感じられる。
それに閉ざされていた視界も開け始める。
ありがたい!

見え出した暑寒別岳は、西暑寒別岳と共にしっかりその姿を見せ、山頂での大展望の期待が高まる。
「もうすぐ行くから、待っててね〜!」


それなのに、それなのにである、7合目から見る暑寒別岳は・・・。

暑寒別岳

 

なんという事だ、山頂が雲に覆われている。
でも全体としては青空が広がっている、一時的な雲の筈だと強引に信じこむ。

7合目を少し過ぎた所が、滝見台。
西暑寒別岳の荒々しい山肌の雪渓が溶け、流れ出る水が大小様々の滝となり沢筋に沿って流れ落ちている。
なかなか壮観な光景である。

滝見台
西暑寒別岳の荒々しい山容 雪解け水が滝となって流れ落ちていた

 

滝見台から見ても目ざす暑寒別岳は頂上だけが雲に覆われている。
日頃の行い振りが、占われているかのようだ。

山頂
山頂には雲がベッタリ張り付いている

 

7合目付近からは斜度も高まり、2ヶ所ほどのザレ場にはロープも設置されている。
斜面は急になり汗も噴き出るが、虫がいないのは天国だ。

あと1時間強かなと思われる地点で、腹が減っては戦にならぬとばかりパンを口にする。
コンビニで買ったパンは、パサパサして喉を通らない。
水と北竜町で買ってきたトマトの水分で流し込む。

8合目
このパン、パサパサだわ。 トマト頂戴!

 

・着実に!

ダラダラ上りが続いたせいか、急な斜面を目の前にすると気後れしそうになる。
何でもないふりをして、ゆっくり一定ペースで足を踏み出す。

ロープが設置してあるザレ場は、滑りやすく登りにくい。
足の置き場を考えコースを選びながら登れば、思ったより早く登り切る。
カミさんも淡々と付いて来る。
これなら楽勝だ。

振り返ると日本海と増毛・留萌の町並みが、穏やかで美しい景観を見せている。

日本海
日本海と増毛や留萌の町並

 

・日頃の行いは?

8合目・9合目を経て山頂直下までの急斜面を淡々と登り切り、山頂部の台地へ飛び出た。
ここから山頂へは僅かだ。
先頭をカミさんに譲り、花の多くなってきた山頂台地をのんびり進んでいく。

山頂台地
山頂台地を行く

 

山頂を流れる雲は切れ間を見せながらも濃淡を繰り返し速いスピードで流れている。
山頂が見えたと思うと、30m先が見えなくなると云う具合だ。

雲
濃い雲が流れてくると

 

花が沢山咲いていて、可愛い。
じっくり楽しむのは帰りにして、まずは山頂に直行。

山頂での大景観は?  
私の日頃の行いは?  
果たして・・・。

山頂
今回も何も見えない・・・

 

山頂は真っ白で何も見えない。
花達だけが、可憐な姿を流れる雲に霞んで見せている。

「雲の流れは早いから、きっと晴れるさ!」
「この前と同じね。暑寒別の神様は簡単には見せて下さらないのかしら?」とカミさんは半分諦め気分。

ともあれまだ9時過ぎ、時間は十分ある。
食事でもしながら気長に待つとしよう。
不味いパンをゼリーやトマトでごまかしながら、お腹へ流し込む。

流れる雲の切れ間から、西暑寒別岳の山稜や近くの雪渓が垣間見える。
だけど雨竜沼湿原も群別岳も浜益岳も依然として見ることはかなわない。

とりあえず、山頂の花を楽しむことに。
タカネトウウチソウが霧をまといながら、綺麗に咲いている。

タカネトウウチソウ
タカネトウウチソウ

 

ハイオトギリも鮮やかな黄色を辺りに振りまいている。

ハイオトギリ
ハイオトギリ

 

コガネギクも数多く咲いている。
アキノキリンソウとの区別が私には難しいが、小さめなのと葉の鋸歯の有り無しで・・・。

コガネギク
コガネギク


サマニヨモギも沢山咲いていた。
目立たない花だが、良く見れば多くの小さな花が集まって一つの花を形作っている可愛い花だ。

サマニヨモギ
サマニヨモギ

 

1時間以上山頂で粘ってみたが、雲は晴れはくれない。
雲の流れは早く、切れるかなと思うと別の方向から流れこんできて視界と閉ざす。
一番視界が良くなった時が、こんな具合。

雲の晴れ間
一瞬の雲の切れ間、西暑寒別岳方向の山稜

 

やっぱり私の日頃の行いがそれなりだったと云うことなのか?
暑寒別の神様は、良く見ておられる。
「行いを正して出なおして参ります」とすごすご引き下がる。

無念というより自制の念を新たにして、下山することに。

 

・花巡り

山頂台地を下山しながら花を見て歩く。
登山道の周りは一面のお花畑、歩きながら目についた花だけだが紹介しよう。

まずは数多く咲いていたチシマギキョウ。
上を向いている花が多かったので、イワギキョウかと思ったが良く見るとチシマギキョウばかりだった。

桔梗
チシマギキョウ

 

タカネナデシコが鮮やかなピンクで目を惹く。
数は少ないようだった、時期的には終わりなのかな?

タカネナデシコ
タカネナデシコ

 

アザミも目立っている。
種類はよく分からないが、チシマアザミではなかろうか。

アザミ
チシマアザミ

 

ウメバチソウは咲き出したばかり、どれも凛として勢いもあり美しい。

ウメバチソウ
ウメバチソウ

 

ミヤマオグルマも細かいうぶ毛に覆われて、控えめに咲いていた。

ミヤマオグルマ
ミヤマオグルマ

 

ミヤマリンドウが鮮やかな青色を見せている。
この青色、私の好きな色の一つだ。

ミヤマリンドウ
ミヤマリンドウ

 

カミさんが小さな花を見つけた。
花の丈は10cm程度。クワガタだと思うが、種類はよく分からない。
エゾヒメクワガタではないだろうか。

エゾヒメクワガタ
エゾヒメクワガタ?

 

暑寒別岳の山頂台地はまさに花盛り。
数々の花達が入り交じって競い合っている。
晴れている時も綺麗だろうが、霧に霞む草原に浮かぶ色とりどりの花々は幻想的だ。

はな
色とりどりの花が咲き競う

 

ヒゴタイの仲間も幾つも見られた。
花の丈が30cm位あったので、ナガバキタアザミかも知れない。

ナガバキタアザミ
ナガバキタアザミ?

 

固有種のマシケゲンゲも咲いていた。
開花したばかりのようで数は少なかったが、固有種を見られて幸せ気分。

マシケゲンゲ
マシケゲンゲ

 

珍しくもないが、アズマギクも咲いていた。
まだ咲いていてくれたの? という感じだった。

アズマギク
アズマギク

 

暑寒別の花は本当に種類も数も多い。
丁寧に見て回ったわけではないが、この他にもリンネソウやヤナギギランなどが数多く咲いていた。

7月初めに訪れた2年前、その時は今回と全く違ってハクサンイチゲやチシマノキンバイソウ、ミヤマダイコンソウ、ミヤマキンポウゲ、ミヤマキンバイ、ショウジョウバカマ、ウコンウツギなどが群れ咲いていた記憶がある。

夏の間、いつでも花を楽しめる貴重な山であるのは確かなようだ。

 

・最強の襲撃者!

山頂台地の花を堪能し、本格的な下山に移る。
9合目までの急なザレ場を慎重に降り、山頂の見納めとなる7合目付近までやって来た。

「雲が取れて晴れていたら悔しい」と意識して振り返らなかった山頂に意を決して目線を移す。

目線の先には、しっかり雲に覆われたままの暑寒別岳山頂の姿。
ホッとし嬉しいような気持がする反面、そんなことを喜ぶ自分自身に少々忸怩たる思いも。

カミさんも同じような思いだったらしく
「晴れていたらどうしようと思っていたわ」と複雑な心境を吐露する。

雲の山頂
雲に覆われた山頂に、安心したような嬉しいような複雑な心境

 

7合目からの樹林帯では、虫が心配。
朝ほどでは無いだろうと楽観しつつ、虫よけ剤を丹念に塗りこむ。

ところが、ところがである。
5合目、4合目と降るに従って、虫達の攻撃が執拗になってきた。

先を歩くカミさんの周りを蚊柱と云うか、虫柱が離れず舞っているのが後から歩く私から見えるのである。
虫除けスプレーを後ろから噴きかけるが、すぐに集まってくる。

長袖シャツではなく半袖に紫外線防止のアームカバーをつけているカミさん、薄いアームカバーの上から刺され、腕の裏側を叩きながら歩いている。

顔や眼・耳への攻撃も凄まじい、払っても払っても襲い掛かってくる。
まさに特攻攻撃。
手を振り回し続けねばならないので、ストックは何の役にも立たない。
ついには自分の顔や頭を平手打ちし続け、自虐行為そのものである。

カミさんの歩くスピードが早まった。
後から聞くと、虫を振り払いたい一刻も早く車に辿り着きたい一心で必死に歩いたとのこと。

正直、虫達との戦いは悲惨で、刺された箇所の多さより、精神的に追い詰められ叫びだしたい気分に襲われたのだった。

この時期、暑寒別岳を訪れる方は防虫ネットを用意されるよう忠告いたします。

 

・さくらんぼ

虫の徹底攻撃にやられ、敗残兵さながらの精神状態で駐車場へ戻ってきた。
車の傍にへたり込んで、後始末。

そこに駐車していたワゴン車から男性が降りてきて話しかけてきた。
滋賀県から来られたご夫婦で、暑寒別岳を目指したが奥様が体調不良になり苦労しながら下山してこられたとのこと。
そして諦めるわけにはいかないので、明日再挑戦すると云う。

きっと奥様の体調不良も虫達の執拗な攻撃による影響が大きかったのでは・・・。
本来ならせっかくの機会でのあるし色々お話をさせていただきたかったのだが、虫にイライラして下山したばかりの無愛想な態度で接してしまった。

大変申し訳ありませんでした。
せっかく一夏を北海道の山へお出で下さったのですから、精一杯楽しまれてくださいね。

後片付けを済ませ顔や手足を洗い身も心もスッキリさせ、途中の果樹園で名産のさくらんぼを買い込み、今回の増毛山地の山旅に区切りをつけ帰路へとついた。

 

 

・オジロワシ歌壇

 

 

・暑寒別の雪渓はるかなひと処
        細々白く滝は生まれる

 

・纏われる蚊も生きねばと思いつも
       「献血します」と云う度量なし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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