2.北海岳へ

 

・雪と花と!

黒岳から石室を経て北海岳へ向かう私達を桂月岳から伸びる荒々しくも格好の良い稜線が見送ってくれる。

稜線
桂月岳から伸びる荒々しくも格好の良い稜線

 

石室へはゆるやかに下っていく。
植生が黒岳の上り斜面とは異なってきて、これまで見られなかった花が増えてきた。

キバナシャクナゲ、イワウメ、メアカンキンバイが目立ち、クロマメノキやミネズオウの姿も。

クロマメノキ
コケモモに似たクロマメノキの花

 

「この白い花はなんでっしゃろか?」関西弁の男性二人が尋ねてくる。
「キバナシャクナゲですよ」と言うと
「黄花と云うたかて、白やおまへんか?」

「ミネズオウが綺麗で可愛いね」とカミさんと話していると
「ミネスオウと云うんやて。タダで聞かしてもろて儲かったわ!」
なんとも関西人らしい人である。

 

石室付近にはチングルマやエゾノツガザクラも沢山咲いていた。


チングルマ
チングルマ

 

石室で少しの時間、休憩しながら花を眺め、おやつを口にする。


石室
石室にて

 

石室を出ると急に人が少なくなった。
黒岳までの賑わいは何処に行ってしまったのかと思うほどだ。
北海岳には概ね南西方向へ進み、沢の流れる低地帯を進んでから尾根に取り付く。

北海岳への尾根への取り付きまで、ほとんどが雪の上。
雪と緑が織りなす縞模様を縫うように歩いて行く。
白と緑と空の青だけのちょっぴり不思議な世界の中をさまよい歩く気分である。

縞模様
白と緑と青の世界をさまよい歩く

 

ミネズオウやエゾコザクラが可憐な花を咲かせている。
どれも可憐で可愛く愛おしい。

カミさんと花の話や笑い話に興じると、私たちの後には笑い声が残っているようだ。

ミネズオウ
ミネズオウ

 

ミネズオウが上手く撮れない、自然の特徴を活かそうと群落を狙ってみる。
少しはマシかな?

ミネズオウ
ミネズオウの群落

 

エゾコザクラの蕾がクリッと丸くなっていて可愛くも面白い。
花びらを少しづつ広げながら長細い形になり、開花するのだ。

エゾコザクラ
エゾコザクラの蕾

 

 

エゾコザクラ
エゾコザクラ

 

雪が溶けたばかりの林床部には、清楚なエゾイチゲが今頃咲いている。
季節が後戻りしたような光景である。

エゾイチゲ
エゾイチゲ

 


・オ〜イ、こっちだよ〜!

雪に埋まった沢地形を2本渡って、北海岳への上りに入る。
周囲を彩る花達に気を紛らせながら、斜上していく。

ジムカデが下向きの花を付けている。
イワヒゲと少し似ているが、ジムカデの方が密集していないせいか清楚に見える。

ジムカデ
ジムカデ

 

しばらく登って斜度が緩んだ辺りから下を見ると、トムラへ縦走するご夫婦が雪原を歩いているのが見えた。

そして、あっ!と思った。
彼らは北海岳への尾根取り付きを通り越している。
登山道は雪原を進む方向から斜め後ろにあって見逃す可能性があり、真っ直ぐ方向にも薄いトレースが付いていた。

大声で間違っているのを知らせるが、声が届かない。
そのうち可怪しいと思ったのか、後ろを歩いていた奥さんが戻ろうとしてご主人と何か話している。
でも結局、彼らはそのまま直進するルートを選んだ。

間違ったと分かれば引き返すか、上に伸びている雪渓を伝って登ってくるだろう。
頻繁に彼らをC'Kしながら行こう。
危険が及ぶようならその時またどうするか考えようと決め、私たちは北海岳へと足を進めた。

北鎮岳
北海岳への登りから北鎮岳がどっしりした姿で鎮座しているのがよく見える。
画面右下に道迷いして少し離れながら雪面を歩く夫婦二人の姿が見える


・稜線歩き

御鉢平を廻る稜線に出た。
ここからは大きな高低差のないゆるやかな気持の良い稜線歩き。

ここからも花が多く楽しめる。
稜線上は早くから雪融けが進んでいたのだろう、イワウメは盛りを過ぎ、メアカンキンバイが全盛期、イワブクロも咲き出している。

イワブクロ
イワブクロ

 

カミさんが白いイワブクロを見つけた。
私は初めて見る白いイワブクロ、興奮状態で写真を撮ったのだが見事失敗。
焦ったり急いだりせず、平常心が大切だと思い知らされた。
せめてもう1枚撮っておけば・・・。

白いイワブクロ
白いイワブクロ 焦ってピンボケ

 

陽射しはあるが、暑いほどではない。
稜線の心地よい風を受け、気持ちよく歩く。
御鉢平を挟んだ北鎮岳が存在感を増している。

稜線が開け、白雲岳の姿が見え出した。

白雲岳
稜線上から見る 白雲岳

 

気にしていた縦走夫婦の姿が見えない。
心配していたら、登山道から70〜80m下の藪を登っているのを見つけた。
幸い藪は薄く、彼らの上半身が藪の上に出ている。
多分道を失ったことに気付いて、細い雪渓をつないで伝って登ってきたのだろう。

声を出し手を降っていると、私達に気がついた。
身振り手振りで登山道が通っていることを知らせ、登ってくるよう指示する。
苦戦するだろうが、頑張って藪漕ぎしてもらうしか無い。
彼らもその気なのが解り、ちょっぴり安心する。

 

・爽快!

来た方向を振り返ると、烏帽子岳が青空を背景に美しくそびえ立っている。
丸い優しい形の山が多い大雪では珍しく尖った姿ではある。

烏帽子岳烏帽子岳

 

歩いてきた大きな残雪の向こうには、黒岳と桂月岳が仲良く並んでいる。
ほぼ平らな所を歩いてきただけなのに、結構疲れてきた。
北海岳に着いたらゆっくり休憩しよう。

黒岳
黒岳(右)から歩いてきたルートがよく見える

 

稜線にはイワウメが多い、埋め尽くしているという表現がピッタリの場所も幾つか。
でも稜線上のイワウメは盛りをやや過ぎているのが多かった。

そんな中、薄いピンクのイワウメを見つけた。
色変わりなのか、それとも受粉が終わったというサインなのか、よく分からないが初めて目にする花である。

イワウメ
薄いピンクのイワウメ

 

イワツメクサも点々と咲いている。
私はナデシコ科の花が一様に好き。
イワツメクサやハコベは目立たないし珍しくもないが、見ると癒される感じがするのだ。

イワツメクサ
イワツメクサ

 

チングルマやエゾノツガザクラ、キバナシャクナゲなどが群れ咲く斜面が幾つもあった。
雪や山影に溶け込んで、大雪ならではの雰囲気の良い景観になっていると思う。
こんな素晴らしい景観に浸りながら歩ける爽快さと幸せを感じつつ、ゆっくり歩を進めた。

群落
白雲岳と残雪を背景に広がる花畑の斜面

 

・雲が〜!

北海岳山頂にやってきた。
ここから眺めるトムラウシや十勝連峰の残雪模様も期待してきた眺望の一つである。

なのに、雲が〜!
まだ昼前だというのに、十勝連峰やトムラウシには夏雲が湧き山々の姿を隠そうとしている。
「待ってよ〜。お願いだから・・・」

十勝連峰
北海岳山頂からトムラウシと十勝連峰を見る
山頂部が湧きだした雲に覆われ、姿を消しつつある。

 

旭岳方向にも雲が湧き出し始め、速いスピードで広がりつつある。
今日は大景観は無理かも、明日に期待だなと割り切る他無い。

旭岳
雲が湧き出し、旭岳(中央後ろ)に迫っている
稜線は間宮岳へと続き、御鉢平を取り囲む

 

山頂からは御鉢平を挟んで北鎮岳や比布岳、安足間岳などが豊富な残雪を抱えて屹立している。
御鉢平はなんとも不気味な気配を漂わせ、生き物が立ち入るのを拒否しているようだ。

御鉢平
御鉢平を挟んで屹立する北鎮岳(右)、安足間岳(左)など

 

雲は西から南西方向に湧き出していて、北や東は抜けるような快晴の青空だ。
お昼ごはんを食べながら気持の良い青空を見上げていると、凌雲岳の真上の空を真二つに切り裂いて一本のコントレイルが伸びていく。
美しい、まさに一幅の絵なのだ。

コントレイル
澄み切った青空をコントレイルが切り裂いていく

 

北海岳から北東方向には黒岳・桂月岳、更にその向こうにはニセカウや平山がクッキリと姿を見せている。
いつまでものんびり時間を費やしたい、そんな平和な一時。
優しい時間が静かに流れてゆく。

北大雪
凌雲岳(左)、桂月岳(中央)、黒岳(右)の向こうにはニセカウや平山など北大雪の山々が

 

 

 

「大雪・チンタラ花めぐり」

1日目 その3へ

 

 

 

 

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