3.白雲岳へ

 

・軽やかアップダウン

いつまでも気持ちよく寝転がっていたい北海岳から次の目標である白雲岳へと南東へ向きを変える。
北海岳から白雲岳に至る道も、標高差の少ない軽やかアップダウンの気持ち良い散策路、カミさんの体調も概ね回復し花と景観の大雪を満喫する。

北海岳の南東斜面も花が多い。
キバナシャクナゲ、イワウメ、エゾノツガザクラがその主役を務めるが、チシマクモマグサやエゾオヤマノエンドウなども助演賞もどきの活躍だ。

チシマクモマグサは同じユキノシタ科のウメバチソウにちょっと似ているかな?

チシマクモマグサ
チシマクモマグサ

 

エゾノツガザクラは色の変化の多い花、濃いピンクもあれば薄いピンク、白に近いピンクもある。
夫々どれも可愛らしい。

エゾノツガザクラ
濃いピンクのエゾノツガザクラ

 

・すごい女(ひと)

ゆるやかな北海岳の斜面を下っていると、白雲岳方向から単独女性が大きなザックを担いでやってくるのが目に入った。
極めて軽快でしっかりした足取り、只者ではない気配・雰囲気を漂わせている。
カミさんも気付いたようで、「すごいわね」

すれ違い挨拶するのを楽しみにしていたら、北海岳を東を巻く踏み跡のない雪渓を迷わず登っていった。
凄い女性も居るものだ、歩く姿から技量を推し量るのは無理があるかも知れないが、相当な技術・技量を持った人ではなかったかと感じた。

 

・一線を画す

白雲岳と北海岳のコル付近からは烏帽子岳が間近にスックとした端正な姿を見せている。
尖った山容も目立つけれど、山体を織りなす赤や白の縞模様は土や岩の成分が異なっているのだろうか?
烏帽子岳は姿といい、色といい、周囲の山々とは一線を画す特異な山ではなかろうか。

烏帽子岳
烏帽子岳

 

少し角度を変えてもう1枚。

烏帽子岳
烏帽子岳

 

主演女優は私?

 

白雲岳の登りにかかる辺りから、エゾオヤマノエンドウが急に多くなってきた。
花達にもしっかりした勢力範囲があるようで、なかなか面白い。

エゾオヤマノエンドウ
エゾオヤマノエンドウ 山は後旭岳

 

キバナシオガマも姿を見せ始めた。
私は白雲岳避難小屋の周りや小泉岳周辺では何度も見ているが、この付近で見たのは初めてである。
何時見ても、小鳥のクチバシを思わせる花は色も形もよく目立つ。

キバナシオガマ
キバナシオガマ

 

懸命に咲く花達には、その場その場での主演や助演の賞を差し上げたい気分さえする。
例えば「白雲岳北斜面の主演女優賞」はエゾオヤマノエンドウさんとか・・・。

残っている雪渓にヒビが入り、大きく崩れだしている。
崩壊した所の高さは10m以上もあり、凄まじくも恐ろしい光景だ。
そこから続いている小さなクレバス状の割れ目を渡るときも、いささか緊張を強いられた。

雪の崩壊
崩壊した雪原は凄まじい、すぐ後ろの山は北海岳。

 

・や〜めた!

お天気は良く晴れているのだが、南西や西の雲は益々発達しているよう。
楽しみにしている白雲岳からのトムラウシや十勝連峰の展望はどうだろうか?
旭岳方向の山肌を白く染め分ける雪の縞模様は見えるだろうか?

やがて白雲岳と赤岳を結ぶ道と北海岳と忠別岳を結ぶ道が交差する地点にやってきた。
白雲岳に行くときは通常ここに荷物をデポする地点だ。

南の方向を眺めると、雲は昼より更に発達しトムラウシや十勝連峰は頭を隠している。
これでは期待している展望は無理。

白雲岳からの大展望は明日の楽しみにとっておこう。
安易な方にはすぐ乗る私だ。「今日はや〜めた!」

真っ直ぐ避難小屋へ直行だ。

避難小屋への下りは大半が雪に覆われ、滑落に注意しなければならないが夏道を下るよりずっと楽ちんだ。
小屋を見下ろせるところからは高根ヶ原とトムラウシが霞んで見えていた。

トムラウシ
トムラウシを眺めながら、避難小屋へと慎重に下る

 

慎重に雪渓を下り、小屋近くまで降りてくると雪解け水が足元を勢い良く流れている。
辺り一面分厚い雪に覆われ、とても7月とは思えない光景だ。
小屋前のテントサイトになる場所も一面の雪、管理人さんが雪を掘り起こした所だけ地面が出ている。

小屋の水場も雪の下、ここも管理人さんが2mほど掘り下げ、水を採れるようにしてくれていた。ありがとうございます。

 

 

4.避難小屋で

 

・足を伸ばす

小屋に着くと管理人さんが出迎えてくれた。
挨拶を済ませ、宿泊を申し込む。
管理人さん曰く、「そんなに込まないだろうし温かいから二階にどうぞ」とのこと。

二階に上がり場所を適当に決め、荷物を整理。
やはり疲れていたのだろう、座るとホッとし眠くなる。
夕食用の水を汲みに行き、その後は足を伸ばして小1時間のお昼寝だ。

 

・お花見物

白雲岳避難小屋の周囲は、以外にも花が多く驚くことが多く、隠れ名所の一つである。
それを期待して、カミさんと花見物に出かける。

高根ヶ原の途中まで行きたかったが昼寝をして時間が無くなってしまい、本当に小屋の周辺だけの散策だ。

ミヤマリンドウ、イワウメ、キバナシャクナゲ、チシマキンレイカ(タカネオミナエシ)、ホソバウルップソウ、アズマギクなどなど、さすがに量はまだ少ない。

ミヤマリンドウの鮮やかな青色はとても好き、心が洗われるような気になるのだ。

ミヤマリンドウ
ミヤマリンドウ

 

イワウメは咲き出したばかりの花があり、新鮮な旬の花を楽しめた。

イワウメ
咲き出したばかりの旬のイワウメ

 

小屋の周りでも薄いピンクのイワウメを見ることが出来た。
咲き出したばかりでも薄いピンクで、受粉とは関係ない色変わりしたものらしい。

イワウメ
薄いピンクのイワウメ

 

キバナシャクナゲも新鮮な感じだった。

キバナシャクナゲ
キバナシャクナゲ

 

強かった陽射しも弱まり、夕方の気配が辺りを支配しだす。
トムラウシを覆っていた雲も勢いを弱め、山々が顔を覗かせ始めた。
さすがに雄大、惹きつけられるように見入ってしまうのだ。

トムラウシ
トムラウシと高根ヶ原

 

時間を変えてもう1枚。
十勝連峰は霞んでいるが、トムラウシは今日一番の勇姿である。

トムラウシ
避難小屋から高根ヶ原とトムラウシ


小屋の周りのチシマキンレイカ(タカネオミナエシ)は、まだ蕾。
蕾からは綺麗に咲いた花を想像するのは難しい。

チシマキンレイカ
蕾だったチシマキンレイカ

 

ホソバウルップソウは逆光の夕日を浴びてシルエットとなり花の外側の花びらを輝かせている。

ホソバウルップソウ
ホソバウルップソウ

 

アズマギクも優しい表情を見せている。
もしやと思っていたトクヤクリンドウ(クモイリンドウ)は、大きな株が元気に育っていたが花は当分先、まだ蕾すらつけていなかった。

アズマギク
アズマギク

 

・清潔!

白雲岳避難小屋に着いたら確認したいことがあった。

それは今から6年前の2007.7に「山のトイレと考える会」の活動の一環として、各山小屋のトイレにゴミの投棄防止とトイレ紙の持ち帰りを呼びかける表示板を取り付けたのだった。
それがどうなっているか? トイレはどんな状態か? 確認したかったのである。

皆さんは山小屋や避難小屋のトイレというとどんな状態を思い浮かべられるだろうか?
多分マイナス・イメージの強い印象をお持ちの方が大半だと思う。
小屋は素晴らしく快適なのだがトイレは密閉された空間で、中に入ると眼や鼻を刺激する強烈な臭いと汚れに二度と使いたくないと感じる方が多いのでは。

その点、白雲岳避難小屋のトイレは管理人さんのご努力もあって極めて清潔、綺麗な状態が保たれている。
それだから使う人も配慮するのだろう、トイレにゴミや紙もほとんど捨てられておらず、臭いもしない。
私が取り付けた表示板もしっかり扉と個室の中に取り付けられていて、山トイレの活動をやってよかったと感じた一時だった。

 

・やっぱり心配!

夕方にかけて小屋泊まりの登山者たちが続々と集まってきた。

その中に、トムラまで行くというあの岡山のご夫婦の姿も、私達より約3時間遅れての到着である。
実のところ、到着が遅いので北海岳から引き返したものと思っていた。

緑岳
夕日を浴びる緑岳(右)と小泉岳に続く稜線(避難小屋から)

 

疲れたのだろう、しばらく二階でぐったりしていたが、そのうち二階に居た管理人の交代要員の方にトムラ行きの相談をし始めた。
北海岳で道を失って苦労したことも話している、彼らに登山道の位置を知らせ藪を漕いで登るようアドバイスをしたのが私であるとは全く認識していない様子。

管理人さん、最初は聞いているだけだったが心配になったのだろう、色々尋ねた上で無理せず止めるようアドバイスをしている。
それでもご主人はなんとしてもラストチャンスだから行きたいと譲らない。

最終的に管理人さんも「止めなさいという権限はない。
どうしても行くというならお天気を見て、道中にある位置表示や道標を見逃さないよう。
ヒサゴ沼まで12時間ぐらい見込んで行動してください。」とのことでひとまず決着。

私は管理人さんが的確なアドバイスをされたので余計な口出しはしなかったが、彼らの歩きぶりなどを実際に見ているので心底心配だ。
翌日の行動中も、下山後も、カミさんと彼らは大丈夫だろうかと何度も話題にしたのだった。

 

・変な集団!

夕方遅く12名の集団がやってきて、小屋は満員状態に。
二階にも若い女性中心の6名が、場所を譲りあう。

若い集団なのだが山岳部やワンゲルとも思えない、山好きのサークルでもない雰囲気だ。
服装や持ち物はしっかりしているのだが、ピンクのザックや派手な服装など新品ばかり。
サブリーダー役と思われる女性に「学生さんですか? 同好会か何か?」と聞いてみた。

大学の講義の一環でやって来た学生で、山は素人ばかりだという。
更に聞くと、北大の地球科学に関する講座で永久凍土などの寒冷地の地質を勉強している人たちらしい。
私が尋ねた女性は大学院生で、富山大学を卒業して北大に来ているとのこと。

そこで私の山仲間で、数年前まで北大に在籍し今は富山大で教鞭をとっているSさんのことを話すと、彼女いわく「よく知っています、富山大では公私とも大変お世話になりました。とても良い素敵な方です」

実に奇遇、世の中広いようで狭いものだと、思わぬ話の展開に打ち解け、笑いあった。

 

・無意識のマナー

この日の白雲岳避難小屋は40数名が、さらに雪の上にテントが2張りと超満員状態。

幸いなことに皆さん良識ある人達ばかりで、お酒を飲んで騒ぐ人も居ないし、お喋りに興じる人も居ない。
消灯の目安である8時より早い、7時半には皆さん就寝体制だ。

私は車中泊の車の中ではよく眠れるのに、小屋ではなかなか眠れない。
この日も疲れているのに寝付けない。
いつものことだ、横になっているだけでも十分な休息だとぼんやりしていた。

そのうち部屋の端と端の人が二部合唱を始めた、なかなか息があっていて面白い。
そこに突然ジェット戦闘機が急上昇・急降下を繰り返す。
金ノコをひき出す人も現れる。

皆さん無意識・無意図の結果なのだから致し方無い。
でも、この無意識・無意図の行動を防止できる方策や薬を開発したら、ノーベル賞ものだろうなどと妄想してしまう。

翌朝カミさんに聞くと、隣に寝ていた女性が領空侵犯や領海侵犯を繰り返した末、強制上陸を何度も試みるので堪らず外に避難したら、天の川が手に取るようで本当に美しかったそうだ。
そんな素敵な天の川を見られたのも、無意識・無意図の結果であればノーベル賞は要らないのかもしれない。

 



「大雪・チンタラ花めぐり」

2日目へ


 


 

 

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