・朝の山頂
午前4時前に目覚める。
早出組はテントを撤収し出発準備に取り掛かっている。
私たちは急ぐ必要は全くない、しばらく朝寝を楽しんで目覚めのコーヒーだ。テントから首を出せば、まばゆい朝日と日陰のコントラストが美しい。
朝の南沼キャンプ地 遠くの山並みは日高山脈
今日の概ねの予定は、山頂からの景観を楽しんでからヒサゴ沼付近まで花と景色を。
その後は北沼や南沼の湖沼群を散策、時間があればトムラウシ公園の楽しむつもりだ。朝食を摂り、サブザックの軽装で山頂へ向かう。
疲れていると結構辛い山頂への登りも、空身同然だとあっという間だ。
山頂に立ち圧倒的な存在感で目に飛び込んでくるのは、やはり旭岳など表大雪の山々と十勝連峰の勇姿だ。
トムラウシ山頂からの旭岳〜北海岳の山並み
旭岳とお鉢廻りの山々・白雲岳が高みをつくり、クッキリ姿を見せている。
残雪模様も少なくなってはいるが、鮮明で美しい。
一方の十勝連峰も優雅とさえ言える山容を惜しむこと無く見せている。
十勝岳だけがひときわ鋭く、色も変わっていて目立つ。
遠くには芦別岳や暑寒別岳の姿も見えている。
トムラウシ山頂からの十勝連峰
カミさんも表情晴れやかに素晴らしい大景観を見入り、トムラウシの記憶をリセットしている。
朝日のシルエットになりながら、東大雪の山々や阿寒・北見の山々の姿も見えている。
石狩岳・音更山など(右)と武利岳・武華山など(左) 中央に北見富士
石狩岳手前の台地は五色ヶ原
石狩連山の南には、ニペソツやウペペサンケ、然別湖周辺の山々が雲海を従えている。
ニペソツ(左)、ウペペサンケ(中央左)など
丹念に山座同定して楽しんでいると、さすが2000mを超えている山頂、寒くなってきてダウンを着こむ。
遙か南には日高山脈が、長大な姿を横たわらせている。
ここしばらく訪れていない日高の山々、眺めていると無性に行きたい気持ちに襲われた。
長く連なる日高の山々
目を転じ、三川台からツリガネ山・コスマヌプリ・オプタテシケを眺めていると、空中遊泳しているかのような錯覚に陥った。
手前から ツリガネ山〜コスマヌプリ〜オプタテシケへと続く縦走路が一望
そうこうしている内にヒサゴ沼から一番乗りの若者がやって来て挨拶。
写真を撮り合い、私達が扇沼山から来たとルートを指し示すと知らなかったと興味を示していた。
トムラウシ山頂にて
・ぐーたら三昧!
トムラウシ山頂で小1時間も大景観を楽しみ、そのまま北沼・ヒサゴ沼方面へアテもない散歩に出かける。
ゴロゴロ岩の積み重なる山肌を慎重に降り、北沼の畔へ。
北沼と表大雪の山々
北沼は南沼と比べて一段と神秘的な印象を受ける美しい沼だ。
周囲はお花畑が広がり、雪が溶けたばかりの場所には春の花が咲き、季節感が分からなくなる程だ。道端の岩に腰を下ろしぼんやり眺めていると、巻き道を通ってきた人が残っている雪渓を横切っていく。
北沼の辺の雪渓を歩く登山者
群れ咲くエゾコザクラが逆光の朝日を受け、輝き綺麗だ。
エゾコザクラ
エゾノツガザクラも逆光に透けて、ボンボリか提灯のような印象だ。
透けてボンボリか提灯のようだ
こちらは逆光に光り輝く花と比べては可哀想か・・・。
北沼を後にして、三々五々やってくるヒサゴ沼からの登山者たちと挨拶を交わしながら、ゆるやかに広がる台地をのんびり北上する。
北沼
この辺りは数年前多くの人が遭難した悲惨な事故現場。
穏やかな日差しを受け静かに広がる台地からは想像もできないが、それが自然のもう一つの顔なのだ。イワギキョウが美しい旬の姿で咲いている。
エゾコザクラなど春の花を見たばかりなので、ちょっと不思議な感じがする。
イワギキョウ
大雪の山並みを眺めながらゆっくり歩を進める醍醐味はなんとも言えない贅沢さ。
気持も優しく大きくなるようで笑顔が絶えない。
大雪の山並みを眺めながら
チシマツガザクラが最盛期、一つ一つは目立たない花だけれどこれだけ大量になると圧倒されて声も出ない。
大雪の花は種類も量も想像外で驚かされる。
チシマツガザクラ
日本庭園の天沼が見えるところまでやって来た。
岩と花そして雪と水が織りなす自然の造形美。
貴重なそれらをゆっくり気の済むまで堪能できる幸せに感謝しながら心に刻む。
岩と雪と水と花が、独特の自然美を創りだす
・桃源郷
日本庭園にある天沼やトムラウシ山頂付近の北沼・南沼などの湖沼群。
雪と水のコントラスト、青白く輝く水面、畔を彩る花々とまさに桃源郷。今日はその桃源郷に身を委ねて時間を過ごせるのだ。
エゾヒメクワガタ
エゾヒメクワガタが群落を作っている。
ぼんやりしていると青紫の小さな塊が視界のあちこちに映り込む。
踏まないように撮影するのも大変なぐらいだ。エゾコザクラやミヤマキンバイ・キバナシャクナゲなども雪の溶けた水辺で盛りを迎え、8月とは思えない鮮やかな色を振りまいている。
エゾコザクラやキンバイが咲き乱れる水辺の花畑
チングルマは水辺では可憐な花を咲かせ、その2〜3m上では穂を輝かせていている。
知らない人にはとても同じ花とは信じられない光景だろう。
雪融けの水辺の少し上は、チングルマの穂が輝き
水辺では花真っ盛りのチングルマ
湖沼の水辺は風もなく穏やか。
水清く透き通り、水面を泳ぐ虫の影が底の岩に映っている。まさに岩と草の緑、青い水、残雪の白、そして花の白・黄色・ピンクが夫々を主張しながら調和して見事な景観を創り出している。
動きたくない、ただぼんやり時間が過ぎていく。
せわしない登山とは無縁な時間、これが幸せと云うのだろうか?
静かで美しすぎる沼の畔
そんなお花畑で記念の1枚。
ハクサンイチゲの群落にも出合った。
もう、何でもありだし何があっても驚かない。
みんな素直に受け入れられる。
ハクサンイチゲ
岩と花に囲まれて、お昼寝でもしたくなる。
そんな雰囲気が辺りを支配している。
岩と緑と花に囲まれて
ふと見やると残雪期に行こうと計画していたニペソツが、「来ないのかい」と話しかけてくるように端座していた。
ニペソツと花
・テン場でマッタリ!
日本庭園や湖沼群を堪能し、午後早くに南沼キャンプ指定地へ戻った。
トムラウシ公園にも行こうかと思っていたが、午前中でゲップが出るほど堪能し十分だ。午後はテント周りでマッタリした時間を過ごす事に。
でも、ついつい何か体を動かしたくなる。「豪華ホテルで1週間も何もせずに過ごすのが、最高の贅沢」なんて聞くけれど、貧乏性の私達にはとても出来そうにない。
土曜日のせいでトムラウシ日帰り登山の人が多い。
単独で、カップルで、団体で、山頂を目指している。
それでも列をなして歩かねばならない富士登山などと比べれば、恵まれていると思う。夕方からテン場にやってくる人達が増え、テントは20張り以上に。
フルーツやゼリーのデザート付きの夕食を食べ、コーヒーを啜る頃には暗くなる。
今夜も昨夜以上の星空だ。
星空を覗き、お喋りをしている内、いつの間にか寝入っていた。
・オジロワシ歌壇
・稜線をぽつりぽつりと人行きて
泣きたいほどの晴天にあう・精霊も棲むや大雪百花咲く
もつれる蝶は逢いたき父母か