扇沼山(1625m) 〜 トムラウシ山(2141m)

 

大雪   2013.8.2(金)〜8.4(日)   晴れ

 


 

十勝連峰

 

 

・トムラウシ

トムラウシは大雪山と十勝連峰のほぼ中間の山奥にどっしりと聳える大きな岩山。
山全体に幾つものピークや湖沼を持つ複雑な地形で、山頂の周りには岩と雪と高山植物が織りなす庭園が幾つもあり、多くの人が憧れる山である。

登山ルートは何本もあるが、いずれも長い。
最もポピュラーなのはトムラウシ温泉からのルートで、日帰り登山が可能である。
黒岳や五色ヶ原、天人峡から化雲岳を経て南下するルートや十勝連峰から三仙台・黄金ヶ原を経て登るルートは、途中2〜3泊が必要だ。
この他に扇沼山から三仙台・黄金ヶ原を経由して登るルートもある。

トムラウシ
五色ヶ原からトムラウシ

 

私は、トムラウシ温泉、黒岳、五色ヶ原、十勝連峰からの各ルートは歩いているが、扇沼山からのルートは未踏であった。
トムラウシのみならず、黄金ヶ原や日本庭園、トムラウシ公園、湖沼群などを存分に楽しみたいと南沼キャンプ指定地に2泊の予定で、扇沼山から訪れてみた。

 

・鍵

扇沼山へは美瑛町俵真布から上俵真布林道を通って登山口へ向かう。
上俵真布林道に立ち入るには、美瑛または旭川の森林管理署で鍵を借りる必要がある。
平日の0800〜1700の間に借りることができるが、数が限られているため必ず借りられるとは限らない。
少々面倒なのだが、登山口の駐車スペースも少ないし仕方のない事だろう。

美瑛の丘
美瑛の丘

 

私たちは8/2(金)の朝から入山と考えていたので、木曜日の午後に美瑛の森林管理署を訪れ鍵を申請した。
前回の7/10には連休前で借りることが出来なかったけれど、今回は希望通り借りることができホッとした。

ちなみに林道の鍵は電子錠で、鍵と言っても通常のものとは全く違う形。
しっかり使い方を教えてもらい、受け取った。

 

鍵を受け取ってから時間もあるので、美瑛の丘や白金地区に足を伸ばし時間つぶし。
美瑛の丘はなだらかな曲線を描き、畑で作業するトラクターも絵になる風景が広がっている。

美瑛の丘
美瑛の畑と家

 

白金では、青い池と白髭の滝などを見て回った。

青い池
美瑛の青い池

 

曇り空ながら、青い池は美しい色を見せていて感激した。
晴れていれば、もっと美しく光り輝く風情を楽しめたことだろう。

滝
白髭の滝

 

白髭の滝も青白色に流れる川に落ちる姿が優雅である。
その後、不動の滝などを見て周り、東川の道の駅で翌日の登山に備えた。

 


 

 

トムラウシの山旅 1日目

 

・ムレムレ!

8/2(金)、朝6時前に扇沼山の登山口である台地林道入口に到着。
上俵真布林道に使われている電子錠は初めてで、なかなか開けられず焦った。

準備を整え6時に出発。
先日の暑寒別岳に懲りて虫除け剤をしっかり塗り蚊取り線香も腰にぶら下げた。
ここ三日間ほど雨がちだったのと今朝も霧雨が降って、湿度が高くジメジメしている。

2kmほどの台地林道、数年前まで車で入れたそうだが今は荒れて進入禁止。
道端にはノウゴウイチゴが真赤な実をつけていて美味しい。

林道から山道へ入り、小さな沢状の道をゆるやかに登っていく。
粘土質で雨が降ったらドロドロの滑りやすい道である。

針葉樹が多い樹林帯は風も通らず、ムンムンムレムレで暑い。
雨で湧いたのか、虫も結構多い。
幸い、霧は晴れて青空が広がりだした。

1時間半ほどで樹林帯を抜け、ゴロゴロ岩が積み重なったロックガーデン。
風も通り始め、ホッと一息。休憩だ。

ザレ場
大石が積み重なるロックガーデン

 

 

・初見参!

ロックガーデンを抜けると、傾斜が少し強まりジグを切りつつ登っていく。
左手に垣間見える旭岳を眺めながら一頑張りすれば、扇沼山山頂へ飛び出した。

扇沼山
扇沼山山頂から硫黄沼と十勝連峰

 

初見参の扇沼山山頂は、燦燦と陽光が降り注ぎ風も通って爽やかだ。
初めて見る硫黄沼に歓声を上げ、正面に屹立している十勝連峰の端正な姿に心を奪われる。

歩き始めて約2時間、急ぐ必要もなくのんびり寛ぐ。

扇沼山からの景観は素晴らしく、何より初めて見る角度からの景観は新鮮だ。

表大雪や十勝連峰の存在感が圧倒的だが、カミさんの目は先日登った芦別岳に釘付けだ。
「夫婦岩はあれかしら? キレットはあそこね。 長くて辛かったわ〜!」

何はともあれ、のんびり気の済むまで大景観を楽しもう。
今日は南沼まで行けば良いのだし、それが難しければ三川台まででも構わない。
そう思うと気持に余裕ができ、重い縦走装備も気にならない。

 

・プロムナード

扇沼山から兜岩までは概ね平坦な稜線歩き。
予想もしていなかったが、この稜線には花が多く嬉しい。
旭岳を左手に見ながら花を楽しみつつ歩く、爽快なプロムナードだ。

旭岳
旭岳を眺めながら

 

アカモノ、チングルマ、エゾノツガザクラ、アオノツガザクラ、ウサギギク、エゾツツジ、ミヤマリンドウなどなどが途切れなく咲いていて見るのも忙しい。

アカモノ
アカモノ

 

コケモモ、ガンコウラン、クロマメノキが実を付けている。
コケモモはまだ渋くて不味いが、ガンコウランとクロマメノキは甘くて美味しいのがある。



花畑
花畑も

 

つまみながら美味しい木を見つけると、「熊さんに叱られるかも・・・」など言いながら座り込んで口に放り込む。

アオノツガザクラ
アオノツガザクラ

 

表大雪ではあまり見かけなかったアオノツガザクラも、沢山咲いている。
地質が異なるのだろうか?

振り返ると、硫黄沼が遠くなり違った景観を見せている。
あちこちの谷から雲が湧き出し始めた。

十勝連峰
十勝連峰と硫黄沼

 

道はやがて稜線から外れ、兜岩を巻くように下って三川台へ上り返していく。
北の谷から湧き上がる雲が兜岩を隠そうとしている。

兜岩
兜岩へ稜線を行く

 

右手にはオプタテシケからコスマヌプリ・ツリガネ山と続く稜線が見え、美瑛富士から暑さに参りながら縦走した時のことを思い出した。

ウズラバハクサンチドリが咲いているのをカミさんが見つけた。
久しぶりに見るウズラバに「この前見たのは何処だっただろう」など、ひとしきり話に花が咲いた。

ウズラバハクサンチドリ
ウズラバハクサンチドリ

 

雲は勢いを増し、兜岩が隠れ始めた。
三川台から黄金ヶ原を歩く間、晴れていてほしいな!

兜岩
雲に隠れ始めた兜岩

 

・ズブ濡れ!

兜岩を巻くように山腹をトラバース気味に斜めに降る。
ハイマツが笹に変わり、濡れた笹でびしょ濡れだ。
今更雨具を着てもと、濡れて歩く。
チシマノキンバイソウやミヤマキンポウゲの鮮やかな黄色が目に優しい。
エゾノレイジンソウは目立たないが、貴族の冠を想像させ気高く感じられる。

エゾノレイジンソウ
エゾノレイジンソウ

 

兜岩の真下で小さな涸れ沢を渡り、三川台へと登り返す。
やや退屈な登りが続くが、笹がハイマツに変われば花も多くなり三川台は近い。

 

・雪が多いな!

三川台に到着。
時間は11時を回っている、お腹も空いたと大休止。

兜岩
三川台付近から兜岩(右)と十勝連峰

 

濡れた体の手入れをして、お昼にする。
コンビニのおにぎりだけでは淋しいと、沢山持ってきたオレンジやトマト、きゅうりで気持は豊か。

黄金ヶ原の向こうには、トムラウシが大きな山体をどっしり見せている。

トムラウシ
どっしりした姿を見せるトムラウシ

 

ユウトムラウシ川の源流部の箱庭のような景観をカミさんに見せようと、ハイマツ帯が切れている所へ。
ハイマツの切れ間から眺めると・・・。

前回歩いたのも今回と同じ8月初めだったのに、今年のほうが圧倒的に雪が多い。
雪が多すぎて水を採るのも苦労する感じだ。

箱庭
箱庭のようなユウトムラウシ川源流部

 

 

・南沼へ

三川台から黄金ヶ原を通り南沼のキャンプ指定地まで、ゆっくり歩いても2時間程度。
うねうね続く広大で美しい黄金ヶ原を堪能しながら歩くのは、今回の山行の目的の一つでもある。

振り返ると三川台とユウトムラウシ川源流部、そして歩いてきた兜岩や扇沼山がしっかり見えている。

三川台
ユウトムラウシ川源流部と兜岩、その奥に扇沼山が見える

 

黄金ヶ原には大小の湖沼群が点在し、広大な原には多くの花が咲き競っている。
全体には夏の花から秋の花へと移り変わろうとしている時期で紫色が目立っている。
黄金ヶ原の様子は、三日目の帰路のページでしっかり紹介するとしよう。

のんびり散策しながら黄金ヶ原を楽しみ、南沼へ。
そこには、記憶通りの雪と水のコントラストが美しい南沼の光景が待っていてくれた。

南沼
南沼

 

キャンプ指定地へは、南沼からほんの一登り。
10分ほどで今日のお宿が見えてきた。

 

・マッタリした時の流れ

キャンプ指定地には、既に数張りのテント。
水場の傍に場所を見定め、仲間入りをさせてもらう。

設営を終わり荷物を片付け、温かい飲み物を。
私はコーヒー、カミさんは紅茶。
お菓子はないからドライフルーツで我慢する。

他愛のないお喋りをしていて気付いた。
カミさんはトムラウシ温泉から登っているので当然このキャンプ地は知っているはずなのに、ほとんど覚えていないようだ。
山頂からの大景観と下山が長かったこと、帰路途中に腰が痛くなって大変だったことだけが、トムラウシの記憶らしいのだ。

やはりせわしない登山は、記憶さえ不鮮明にしてしまう。
その点、今回は余裕たっぷり。
潤沢な時間を贅沢に使い、大いに楽しみ、記憶もしっかり残したい。

午後3時頃から雲が流れ山頂が時折隠れるようになってきて薄ら寒い。
山頂は明朝にして、キャンプ地でまったりした時を過ごす。

数張りだったテントも夕方以降次第に増え、15張りほどに。

テン場
南沼キャンプ指定地

 

夜8時頃までは、話し声や笑い声が聞こえていたがやがて静かに。

空には天の川がクッキリと流れ、怖いほどの数と大きさの星が手を伸ばせば届くぐらいの近さに輝いていた。

 

 

・オジロワシ歌壇

 

 

・急坂を登りつめれば雲海の
      かなたに暑寒別は小島となりて

・三川台秋の気配の風吹きて
      藍清々し岩桔梗咲く

 

 

 

 

 

 

 

 

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