楽古岳
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・楽古岳
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今夏は花の時期に大雪の山々を幾つも訪れ、それこそゲップが出るほど花を堪能し楽しんだ。
秋になって日高の静けさと落ち着いた紅葉を期待して訪ねようと思っていたのだが、10月初旬に雪が降ったという情報があり中旬には台風の影響で強い寒気が入って北海道の山は何処もかなりの積雪となった。
このままでは日高主稜線の山を訪れないままシーズンが終わってしまいかねない。雪山覚悟で行ってみようと、楽古岳を訪れた。
楽古岳にはこれまで杵臼コース往復、札楽古〜杵臼縦走、コイボクシュメナシュンベツ沢コースと登っている。
今回は約10年ぶりの杵臼コースである。
杵臼コースの基点、楽古山荘
楽古岳に向かう車中から見る空は月が煌々と輝き星が瞬いて、素晴らしいお天気が予感させられた。
ようやく明るくなった朝6時、登山口である楽古山荘に到着。防寒具を再確認し、大展望を期待して一眼レフと望遠レンズもザックに入れた。
雪道を予想して足回りはスパイク長靴だ。山荘前で沢を渡り林道跡を行く。
まだ薄暗い沢沿いの紅葉が結構綺麗、もしかしたら期待できるかも・・・!
朝のメナシュンベツ川
10分ほどで林道跡と別れ沢沿いの河畔林を進んでいく、枯れ葉が一面積もっていてボンヤリしていると道を失いがち。
いや、道を失うほど周囲の広葉樹やシダ、苔むした岩などが調和しあって醸しだす落ち着いた雰囲気が素晴らしいのだ。
谷間でまだ陽が差さず薄暗いのだが、思わず何枚かシャッターを切る。
良い雰囲気の林の中を
尾根に取り付くまで数回渡渉が必要だ。
所が最初の渡渉地点で思わず「嘘だろう!」
いや〜驚いた、これまで何でもなく飛び石伝いに渡っていた沢が増水して滔々と流れている。
秋のこの時期、通常であれば水は減るのが当たり前。
それなのに飛び石伝いでは渡れない水量なのだ。
増水していた沢の流れ
山靴で来なくて良かった〜!
長靴でも油断すると濡れてしまいそう、強い水の流れに逆らいながらストックでバランスを取り苦労して渡渉した。
登山道入り口である上二股から尾根に取り付き、最初はジグを切りつつ高度を上げていく。
ミズナラやダケカンバの巨木が茂る道はやがて直登に変わり、急な尾根をひたすら生真面目に登っていく。この時期、標高800m近くまで木々は色付いた葉を付け森全体を彩っていた。
鮮やかさには欠けるが、しっとり落ち着いた森の風情だ。
落ち着いた風情の彩り
初めて楽古岳に登った時、あまりもの急傾斜に驚き・疲れ果てた覚えがある。
それほどこの尾根道の斜度はきつい。
何ヶ所か平坦になる部分もあるので平均すれば然程ではないかもしれないが、厳しい山の多い日高でも5本の指に入る急勾配ではないだろうか。それほど厳しい登りを汗をかかないよう意識してゆっくり登る。
それでも日差しを受ける標高1000m位からは、汗が額から流れ落ちる。C1100m付近で一旦斜度は緩み平坦になる、ここが7合目で樹林が切れて視界がひらける。
楽古岳の肩が望め、山頂が雲に巻かれているのが見える。
7合目から見る楽古岳の肩(左) と 山頂(右)
雪は楽古岳の山頂部にまだらに見える程度で大分溶けたようだ。
でも谷を挟んだ対岸のC1365mPの北側の沢は雪で埋まっているし、山肌も白い。
楽古岳からC1365mPへ続く稜線
7合目でドライフルーツを口にしてパワーを補強。
頭の上は特上の青空だ、ときおり湧き上がる雲が覆うがお天気に問題はないようだ。
元気を出して肩へと踏ん張る。
笹がハイマツに変わり、直登の道が再びジグを切るようになるとC1317mの肩は近い。
肩に飛び出て直角に右へ曲がる。
細い稜線が山頂へ真っ直ぐ向かっている。
冷たい北風が吹き付け、熱かった体が一瞬にして震え上がる。
フリースを着込み、防寒手袋に変え、耳カバーを付けて一段落。ハイマツの陰から楽古岳山頂が見えてきた。
何と、雪煙が盛大に舞い上がっているではないか! ええ〜?
姿を現した楽古岳山頂
雪煙! と一瞬感じたのは、吹き上がっている雲。
風上側は晴れているのに、稜線から雲が湧き上がり北風に乗って吹き上がっているのだ。北側を見ると、思ったより雲が多く主稜線の山々を隠している。
大展望を信じて登ってきただけにショックは大きい。
肩から見る 北側の十勝岳
低い雲さえ無ければ、快晴なのだ。
「雲よ、消えろ〜!」 と念じつつ、細い稜線を山頂へ詰める。
残っている雪は固く締まって歩き易い。
ダケカンバやハイマツに付いた霧氷が美しい稜線を詰めれば、山頂は近い。
霧氷の稜線
山頂に到着、新しい標識が出迎えてくれる。
かつてのユニークだった山頂標識は二つに割れて地面に置かれていた。
新しい山頂常識
かつての標識もそのユニークさで物議をかもしたりしたが、新しい標識は風呂屋の看板みたいで風情など全く感じられない。
標識なのだから分かれば良いのかも知れないが、チョットな〜。
それにしてもこのお天気は何なのだろう?
1400〜1500m位に低い雲が流れ視界を塞ぎ、しかも全体に霞んでいる。
高気圧が張り出し、スッキリ晴れた透き通るような天気を期待して来たのに・・・・。
目の前の十勝岳とオムシャヌプリが見えるだけ
すぐ北側の十勝岳とオムシャヌプリの山頂は、流れる雲の隙間から時折姿を見せるが、その北へ続く日高主稜線の山々の山頂は低い雲の峰に隠されている。
さらに東側や南側も霞んでいるし雲も多くて展望を楽しむどころではない。
何か、信じていたものが裏切られたようで哀しい。仕方なく風下側に移動して風を避け、お腹を満たす。
ドライフルーツ入の硬いパンと熱いコーヒーが良く合って美味しい。
カミさんに電話してみると、千歳は雨だという。
気圧配置が急変したのか?
雨の心配がないだけでも、良しとしなければ・・・。仕方なく、狭い山頂を右往左往。
地面に置かれていた旧標識でも。
気楽な子で 楽古かな?
エビの尻尾ならぬ氷の尻尾があちこちに出来ていた。
長さ20cmに長く出来た氷の尻尾
少し待ったぐらいでは天気の回復は望めないし、寒い。
諦めてザックを背に、三角点の触れて下山にかかる。風が強いせいだろう、稜線のダケカンバは傷めつけられ捻れているものが多い。
耐えた証として、一本の木を切り取ってみた。
風雪に耐えた証
肩から7合目への尾根道に入ると風は遮られ、急に暑くなる。
水分をたっぷり吸った道は落ち葉に隠れ、滑りやすい。
二度ほどおもいっきり滑って大転倒、苦笑いしたその先にはアポイ岳が霞ながら見えていた。
遠くにアポイ岳
慎重に歩いても下りは下り、登るのに3時間近く費やした道を1時間と少しで降りてきた。
帰りも渡渉に苦労し、美しい河畔林を楽しみながら楽古山荘へ戻った。
山腹の彩り
大展望を楽しみ、あわよくば紅葉もと、お天気を見極めて訪れた楽古岳。
残念ながら大展望は得られなかったが、晩秋の静かな楽古岳を贅沢にも独り占めだった。もうすぐ日高は冬将軍の支配下で、私などは近寄ることも出来なくなる。
又来年、訪ねて行くのでよろしくね。