雪化粧した伯母子岳から
熊野古道の小辺路は高野山から熊野本宮大社を最短距離で結ぶ道。
古来から参詣道として利用されていたわけではなく、生活道路として・商人たちの使う道として利用されてきたという。
その道が近代に入ってから熊野三山への最短ルートの参詣道として活用されたのだろう。
皇族貴族の人たちが99の王子を巡りながら参った信仰の道が、中辺路。
それに反して庶民たちが最短ルートで熊野三山に参った道が、小辺路。
参詣道らしい風情には乏しいけれど、紀伊山地の自然の中を縦断する道である。紀伊山地の西半分、すなわち十津川の西側は東西に延びる山地が南北に何本も走り、小辺路は3つの1000m級山地を縦断しながら伸びている。
テントや小屋泊であれば2泊3日で十分歩けるが、旅館を利用すると宿は谷間にしか無いので3泊4日で歩くのが一般的な行程である。
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期待を込めて
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杉林に混じる落葉樹の紅葉が美しい
小辺路に入るとバッタリ人がいなくなった。高野山は人で溢れかえるようだったのが信じられない思いだ。
私達二人の杉の枯れ葉を踏むカサカサという音と風が梢を鳴らす音だけが響いている。すすき峠を通り、一旦大きく下り川を渡ると大滝と言う集落。
ほんの数軒の小さな集落、高野槇やシャクナゲの苗木を育てて生計を立てているようだ。
人気はないが「トイレをどうぞ」という粋な標識も立てられ、歩く人への配慮が感じられ有り難い。
これも世界遺産効果か?
念願だった熊野古道を歩き出す
この日は全国的に寒波が入り北海道では市街地でも雪が降ったという。
高野山でも-0.5℃まで下がり、今季の最低気温だった。
稜線を吹く風はさすがに冷たく、雨着の上を羽織って調度良い体感温度だ。
小辺路は山というより丘陵地を縫うように続き、その山地は全てと言ってよいほど杉の植林地。
後から聞いた話では、紀伊山地は全て民有地で国有林は放棄された土地だけなのだそうだ。
だから本来の自然を守るより生活のため高値で売買できる杉や檜、高野槇などの植林が盛んになったのだろう。
杉の植林地が一面に広がる
小辺路はその民有地の中を通っていると言うより、通してもらっているのが正確な表現なのだ。
それだからか参詣道を示す標識などは要所要所にあるものの、四国遍路道のように頻繁ではないので時折疑心暗鬼に陥ることがある。
やがて道はスカイライン道路に合流する。
スカイラインの名の通り、車はすごいスピードで走っているので少々怖い。
端のその又端、草地の上を歩く。30分ほどの水ヶ峰分岐でスカイラインと離れ、昔ながらの参詣道に戻る。
ここで昼食休憩。コンビニで買ったバクダンおにぎりは一つで十分な量だった。空は時雨模様になり、小雨に混じってアラレが降りだした。
風も冷たく、動いていたほうが温かいと歩き出す。山肌に光があたっているところもあり、雲に覆われている所ありの時雨独特の空模様だ。
時雨模様になってきた
やがてタイノハラ林道という舗装道路と合流したり離れたりを繰り返しながら稜線上を進んでいく。
紀伊山地の山々の姿が雲の間から見え隠れしている。
明日通る、伯母子岳はどれなのだろう?
雲の間から垣間見えた紀伊山地の山々
道は今日の宿がある大股へ向かってゆるやかに下りだす。
途中、尾根筋を下る参詣道と林道とに別れている。
今日の宿は林道を下るとすぐと案内看板が出ていたが、どちらを通っても大した差はないだろうと参詣道を下る。この下りは結構長く高低差もある。堪らず途中で一休みしながら下った。
結構きつい下りが続く
大股の集落まで降りてきた。
川沿いにある小さな集落、今夜の宿である「かいらぎ荘」は約1Km歩かねばならなかった。
素直に林道を下ればよかったのに・・・。かいらぎ荘はかなり古い民宿。
気さくなご主人がほぼ一人で切り盛りしている宿だ。
今時珍しい障子一枚で鍵もない部屋だが、なにかと使いやすくしつらえてあり快適だ。
暖房も十分で食事も美味しい。
昨日のお高く留まった宿坊とは大違い、私はこちらのほうが断然好きだ。ご主人のすすめもあり、お風呂は近くの温泉まで送り迎えをしてもらいゆっくり疲れを癒やした。
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