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お接待
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昨日と打って変わって良いお天気。
深い霧が出ているが、これは晴れる前兆。かえって良い雰囲気の中を歩けるだろう。大雲取越取り付きの人家を過ぎると小辺路とは違う古道らしい苔むした風情の石畳の道。
霧でしっとりした空気が苔や石・杉と相まって、まさに神々の住む世界に入り込む雰囲気だ。
歴史を感じさせる古い参詣道
約30分も歩くと円座石(わろうだいし)と言う熊野古道を紹介する写真には必ず登場する場所に。
大きな岩に梵字が三つ掘られている。熊野三山の三人の神様がここに集まりお座りになって談笑したり相談されたりした場所という。
円座の大きさから判断すると、神様たちはそんなに大きい方ではなかったようだ。
そんなことを想像していると丁度光が幾筋か円座石に差し込んで、現実と寓話の世界が渾然一体となってくるような不思議な感覚に陥ってしまう。
円座石
円座石を後にして、ゆるやかな勾配の苔むした石畳の参詣道を気持ちよく登っていく。
道の雰囲気がとても素敵で、昨日までの小辺路とは同じ杉林でも受ける印象が全く異なってくる。
気持ちの良い杉林と参詣道
やがて胴切坂と呼ばれるこのルート最大の急傾斜かつ長い登りが始まる。
確かに結構な登りだが、道の雰囲気がよく霧も晴れてきて杉林を抜けてくる朝日も清々しい。
一度も休むこと無く淡々と登り切ってしまった。
胴切坂を登る
上り詰めた所が越前峠、標識こそあるが見通しも利かなければ休む場所もない。
仕方なく写真だけ撮って通り過ぎる。
越前峠
大雲取越ルート最大の難関はクリアーしたが、コースとしてはまだ1/3、残り9kmもある。
ゆるやかなアップダウンと雰囲気の良い道が後押ししてくれなければ、いい加減嫌になってしまう道である。
雰囲気の良い道が続く
点在している石を見ていて気がついた。
熊野には丸い石、卵型の石が多いのだ。
この石に厚く苔が付いていると、剪定した庭木のように見える。
木かと思って触ってみると、硬い石なのだ。朝のうちは斜めに差していた陽の光が徐々に角度を増してくる。
それにつれて気温も上昇、木肌から蒸気が沸き上がっている。
光が生み出す陽矢が神々しさを醸し出す。
光が風情ある景観を生み出している
大分下って三軒茶屋と言う所からは暫くの間、舗装道路と合流したり離れたりを繰り返す。
車も時々通っていて那智大社はもうすぐの気配なのだが、なかなか遠い。陽矢に元気をもらい、励まし合って下っていく。
思わず手を合わせたくなるシーンも
この日は土曜日、土日で熊野那智大社から熊野本宮大社へ歩く人達とすれ違うようになってきた。
三々五々、10人ほどの人達とすれ違い挨拶を交わす。私達は下りだけれど彼らはこれから長い登り、皆さん一応に辛そうだ。
船見峠からは太平洋が見えるとあったが、霞んでいて海岸線が何とか認識できる程度。
あと1時間と頑張るが実際はもっと時間を要した。
小口を出発して6時間半、人や車のザワザワした気配を感じだして間もなく熊野那智大社に降り立った。時間は午後1時半近くだった。
大雲取越の道は評判通り、かつての参詣道を彷彿とさせる神秘的で素晴らしく気持ちのよい道だった。
特に今回歩いた前半部分はその素晴らしさに疲れも感じないほどであった。私にとって大雲取越の道は熊野古道の中でもお気に入りの道になった。
土曜日とあって熊野那智大社は大勢の人たちが訪れていた。
七五三なのか正装した子どもたちと両親、じいちゃん・ばあちゃん連れが多い。その中へ不釣り合いな格好の私達が入り込んだのだから目立つ。
皆さんの汚いものを見るような視線が刺さり、チョッピリ痛かった。ごめんなさいね。でも私達もお参りするために歩いてきた。
端の方からそっとお参りさせていただいた。
熊野那智大社
カミさんは2年前に娘と紀伊半島を旅行した際、那智大社に立ち寄っている。
その時、年も忘れて平安時代の衣装を借りて娘と一緒に写真を撮ったのを大事な思い出としているらしい。
「貸し衣装、着てみるかい?」
背中を思い切り叩かれた。
邪魔にならないよう端の方から
那智大社の隣に青岸渡寺が負けじと立派な伽藍を誇っている。
どちらにも丁寧にお参りさせていただいたが、ここは般若心経で良かったのか分からず手を合わせるだけに。
青岸渡寺
昔描かれた熊野那智大社の曼荼羅図があったので、この機会にご紹介しよう。
那智の大滝と三重塔は判るが、他は今とどうなのだろう?
でも雰囲気はこの曼荼羅のとおりだと思う。
那智大社にまつわる曼荼羅図(wikipediaより)
人の流れに従って、那智の大滝へ。
三重塔と大滝は絵葉書のような絵になる所だ。
人が少なくなるのを待って一枚。
三重塔と那智の大滝
那智の滝へは、かなり長い階段を下っていく。
神社やお寺などの階段を登り降りする時いつも思うのだが、左右どちら側を歩くのが良いのだろう。
お互い避けて通れば良いとは思うが、混んでいるときなど決め事があれば整然と通れる。
ちなみに那智の大滝への階段には右側通行でお願いしますとの看板があり、皆さんそれに従っていた。大滝は下から見上げるとさすがに大きい。
水量は然程でもないが、圧倒的な高さである。
素晴らしい!
和歌山出身の同期が何時も自慢していたのをふと思い出した。
那智の大滝
那智の大滝を見たあと、熊野古道を紹介する記事や写真に必ずと言ってよいほど登場する大門坂を下ってみる。
僅かな距離だがさすがに整備された参詣道、道幅も広くその両側にそびえ立つ杉の巨木も威圧感十分だ。
大門坂
写真などを見て訪れる人が多いのだろう、多くの人が登ってくるがその大半の人は悲鳴を上げ息を切らして可哀想。
昼なお暗い巨木と苔むした石段、それだけでも昔ながらの参詣道として絵になる景観だ。
そんな風景には若い女性がお似合いだろうが、ここはジジババでご勘弁。
大門坂と巨木達
そして、ジジ・ババ
熊野那智大社をゆっくり参拝してから、私達は翌日から歩く中辺路に向けJRで田辺に移動した。
那智から田辺への普通列車は2両編成のワンマンカー。
乗車しようとドアに向かったが、ドアが開かない。
ドア開閉のボタンがあったので押してみたが駄目。
焦った、焦った!幸い、ホームにいた若い人が運転手に連絡してくれ乗車することが出来たが、乗り降りは一番前のドアのみ可能だったのだ。
飛び乗った車内で高校生たちに笑われるは、とんだ失敗をやらかしてしまった。
でも、駅には乗り降りは一番前のドアからなんて、どこにも表示していなかったけどな〜・・・。ともあれ明日から最後の熊野古道、中辺路だ。
有終の美を目指して、がんばろう!
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