恵庭岳 (1320m)

道央   2014.3.17(月)   晴れ

 


 

 

岩峰
C1260m大岩付近から見上げる恵庭岳山頂岩峰

 

2014.3.17(月)
オコタン分岐 0800
尾根取り付き 0820
C952mP 1040
C1260m大岩 1145
恵庭岳山頂 1205〜1220
山頂岩峰直下 1240〜1300
C952mP 1345
オコタン分岐 1505

プロローグ

2月後半、何かと戸惑い・慌ただしく過さざるを得なかった。

カミさんが乳がん検診で精密検査が必要と指摘され、札幌がんセンターでマンモグラフィー及びエコー検査、その結果さらに細胞診が必要とのことで癌が疑われる部位の一部を切除して調べるために検査入院、と思わぬ事態に振り回されたのだ。

最初は癌体質の家系ではないし大丈夫だと安心していたのだが、事態が進むにつれ不安が嵩じていく。
明るく振舞っているが、カミさんの胸中を思うといたたまれない。

3/17(月)は診断結果を聞きに行く日。
丁度、娘が帰宅していて札幌まで付き添い送ってくれることになった。
私は家に居ても心配でウロウロするだけ、どうせ何も手に付かない。
幸い、この日は全道的に穏やかに晴れて温かいとの予報。
カミさんの検査結果が異常なしであることを願い、思い切って山に出かけることにした。

 

オコタン分岐

オコタン分岐に着くとすでに何台もの車が、皆さん登山準備に余念がない。
伺うと漁岳を目指す方がほとんどのようだ。

今日は一人静かに歩きたい気分、ワイワイと楽しく話しながら登る気にはなれない。
そこで人が少ないであろう恵庭岳に狙いを定めた。
C952mPからC1260mの山頂直下までの急斜面は深雪でキツイかもしれないが、今日はそんな斜面に体当たりでぶつかってみたい気がするのだ。

オコタンペ湖に通じる冬季通行止めの道道は法面工事も終わり立ち入りはOKだ。
ゲートから約500mの所から単独のスノーシュー・トレースが左の北東尾根方向に伸びている。
私はいつも通りオコタンペ湖近くから取り付くつもり、うっすらスキーのトレースが残る静まり返った道をツボ足で進んでいく。


オコタンペ山
オコタンペ山へ繋がる尾根と稜線

 

大苦戦!

オコタンペ山への取り付きを過ぎ、40Kmの速度標識付近でスノーシューを履きC952mP目指して左に踏み入っていく。
前回訪れたのは3年前だから地形はボンヤリとしか覚えていない、記憶をたどりながらとにかく南へ向かえば良いのだとコースを選ぶ。

明るい日差しを浴び静まり返った雪原は、気持が良い。
ダケカンバの枝先が赤く染まりだし芽吹きの準備を始めている。季節は確実に春へと進んでいるのだ。
夕方迎えに行った時のカミさんの気持ちが、このように静かで晴れやかであって欲しいと心から願う。

芽吹き
春に備え、枝先を赤く染めだしたダケカンバ

恵庭岳北東尾根への登り、思ったより雪が深く柔らかい。
硬く締まった所を探しながら登るが、ズボ〜!と太ももまで落ち込んでしまうと抜け出るまで一苦労。
深雪と格闘し喘ぎながら一歩一歩登っていくとたちまち汗びっしょりだ。
振り返ると自分の作ったトレースがうねうねとした影を造って続いている。

たまらず何度も立ったまま息を整え、ドライフルーツを口に放り込む。
「辛くキツイ」でも今日はこの苦しみを敢えて望んだのだ、もがき苦しみ乗り越えるのだ。

これまでの経験では取り付きからC952mPまで1時間〜1時間半ぐらいだった筈なのに、この日は結局2時間以上。
ようやくピークに辿り着き時計をC'Kした時は、正直山頂までは無理だなと思ったのだった。

 

ありがとう!

C952mPから北東尾根は南東に向きを変えC1080mを経由してC1260m大岩へと更に斜度を増しながら続いている。
行ける所まで行って引き返そうと歩き出すと、目の前にスノーシューのトレースが・・・。
ゲートからすぐに尾根に取り付いた人のトレースだ。
有り難いと利用させて頂く、雪は少し硬くなり深いところでも膝位だが傾斜は急だ。
そんな斜面を一本のトレースが力強く切り裂いている。
先行者の苦労が容易に想像できる、それを利用させてもらい本当にありがたく感謝。

C952mPまでの辛さは何処にいったのかと感じるほどの快適さ、先行者に追いついたらお礼を言ってラッセルを代わらなくてはと思いつつ快調に高度を上げていく。
C1080mで一旦平らになる。C1260m大岩に続く斜面が見えてきて先行者の姿を探すが見えない。
トレースだけが力強く伸びている。

尾根
C1260mへと続く尾根、見える岩稜は一本南側の尾根

 

少し登ってから振り返るとオコタンペ山から漁岳に続く稜線がハッキリ確認できる。
漁岳もスッキリと晴れて優雅な姿を見せている。

漁岳
漁岳(中央)から南に延びる稜線が右に曲がりオコタンペ山(右中央)へ続いている

 

さらに少し高度を上げた地点からはオコタンペ湖と小漁山が素晴らしい景観で迎えてくれる。
オコタンペ湖はまだ一面真っ白な冬の姿だ。

オコタンペ湖
小漁山(正面)とオコタンペ湖

 

春の気配!

朝方ややどんよりしていたお天気もどんどん良くなり頭上は抜けるような青空が広がっている。
山頂部はまだ真冬だろうと思っていたが木々の枝先はほのかに赤く色づきだし、木々の間から垣間見える山頂岩峰も雪や氷の衣を脱ぎ純白から黒へと模様替えだ。
春は着実にやってきている、季節は必ず巡り、明けない夜はない。
状況を把握し、できることに全力を尽くした後は結果を受け入れる。
そんな生き方をこれからもしていこう。

先行者のトレースのお陰で思ったより体力を使わずに登れている。
もしかしたら・・・、そんな思いが私を後押ししてくれたのか間もなくC1260mの大岩の下へ。
目の端に何か動くものが、見ると一人の男性が大岩横の斜面で休憩中だ。

挨拶を交わし、トレースを利用させていただいたお礼を申し上げる。
まだ若いがっしりした人で既に山頂に登り、昼食準備中のようだ。
見上げる山頂岩峰が凛々しい。
厳冬期の厳しい姿は既に無く、そこはかとなく優しさが漂っているようだ。

岩峰
優しさも感じられる岩峰

 

少し角度を変えて、

山頂岩峰

 

時間は正午少し前、C952mPから約1時間で大岩まで登ってきたことになる。
先行者に感謝・感謝である。
少しの時間ではあったがお喋りをし、再度お礼を言って、山頂を目指す。

 

慎重!

何時もはここから山頂岩峰基部まで直登して登り基部を回りこんでルンゼに出るのだが、先行者のトレースは真っ直ぐルンゼに向かっている。
ルンゼ手前でアイゼンに履き替え、ストックをピッケルに変える。

岩峰
基部から見上げる岩峰

 

山頂まで僅かな距離だが、ここからが一番緊張する所。

ルンゼ
ルンゼを詰める

 

一歩一歩アイゼンの歯がしっかり食い込んでいるのを確認し、岩角を掴み、ピッケルを打ち込み、体を引き上げていく。
不安を感じたら強引な事はせず、何度でもやり直す。
落ちたらただでは済まない。
下山のことも考えながら安全第一で攀じていく。

ルンゼを登り切ると、何時ものことながら右手に支笏湖が初めて姿を見せ感動する。
でも心穏やかに眺めるのは後回し、緊張を持続させながら山頂への最後の岩を攀じる。
今回はロープがしっかり出ていて利用できるのが有り難い。

山頂部へ登り切り、先行者がビビったと言う山頂標識手前の右側が切れ落ちている気持ちの良くない所を慎重に渡り登れば恵庭岳の山頂だ。

 

 

大景観!

諦めかけた恵庭岳山頂から見る眺め、澄み切った青空と溢れる陽光に山々も湖も喜んで小躍りしているかのように感じる。
気持ちが晴れ晴れする素晴らしい展望だ。
カミさんの検査結果が幸いなものでありますよう、山々に一礼してお願いする。

大景観をまずはオコタンペ湖・漁岳方面から見てみよう。
漁岳・小漁山など支笏外輪山がクッキリとした姿で白く輝いている。
漁岳に登った人たちもきっと大歓声を上げながら楽しんでいるに違いない。


オコタンペ湖と小漁山の向こうには羊蹄山や尻別岳、無意根三山(右奥)など

オコタンペ湖はまだ真っ白、流入する沢付近の雪も溶けておらず春の気配を感じさせない佇まいだ。
山は冬の装いのほうが凛として見え好きだが、オコタンペ湖だけは白いのっぺりした冬の装いより美しい色合いに変化する湖水が見える時期の姿が私は好きだ。

漁岳
漁岳(右)と小漁山(中央)そしてオコタンペ湖、右下に延びる尾根が登ってきた北東尾根

 

目を支笏湖に転ずると。
支笏湖の色が何となく春めいて華やか。
風も弱く、寒さも然程ではない。
パーカーを羽織れば寒さは感じないし、カメラ操作のため薄手の手袋になっても冷たくはあるが痛くなるほどではない。

支笏湖
恵庭岳山頂からの支笏湖と風不死岳・樽前山


風不死岳・樽前山の雪も少なくなっているかの印象を受ける。
少し引いて全体を見てみると。

支笏湖
これで支笏湖の中央部分、全体の1/2位か

春霞なのか、遠景は霞んで苫小牧や白老の海岸線はボンヤリしているし、日高屋夕張の山々の姿は確認できない。

上の写真の西側には、美笛の湖岸まで支笏湖は広がりそこからオコタンまで外輪山は急な崖となって湖に落ち込んでいるのがよく分かる。

白老
支笏湖の西側、右奥遠くに徳舜瞥山・ホロホロ山、その手前に白老三山が見えている

 

そして支笏湖の東側は、モーラップから外輪山はゆるやかに立ち上がり、紋別岳・イチャンコッペ山と続き急角度で支笏湖に落ち込んでいる。
湖上の風も弱いのだろう、さざ波一つ無い静かな湖面が広がっている。

紋別岳
支笏湖東側、左奥にイチャンコッペ山、中央右に紋別岳。

 

山頂岩峰から切れ落ちている爆裂火口を覗きこむと。

爆裂火口
爆裂火口、これ以上怖くて身を乗り出せない。

 

山頂のオコタンペ湖寄りの岩の上から覗きこむと、ほぼ真下に先行者の男性が下山を開始したのが見て取れた。
大きくコールを掛け、トレースのお礼の気持ちを込め手を振って感謝と下山の無事を伝える。
彼も何度も手を振って応えてくれる。ほんのり心が暖かくなった。


小漁山とオコタンペ湖

 

ほっと一息

風が弱いと言ってもこの時期、恵庭岳山頂は体を動かさないと寒い。
取り敢えず、ルンゼ下まで下降することに。

慎重の上にも慎重に、アイゼンがしっかり食い込んでいるのを一歩ずつ確認し、岩角の雪を払い、ピッケルを差し込んで確保しながらの降下である。
登りより時間がかかったかもしれないほど慎重に山頂の岩場とルンゼを降りきった。

スノーシューをデポしてある所でアイゼンを脱ぎ、ほっと一息ついて休憩だ。
時間は午後1時少し前、お腹も空いた喉も乾いた。
サンドイッチとデコポン、それに熱いコーヒーと紅茶の質素な昼食だが、空腹感と達成感で吸い込まれるようにお腹の中へ。

目の前には小漁山とオコタンペ湖、贅沢な主菜を眺めながら大満足の昼食だった。

岩稜

 

座り込んだ横は岩峰の垂直な壁、その向こうには漁岳から北側の狭薄山や札幌岳などの景観が広がっていた。

岩峰
山頂岩峰の向こうには漁岳(中央左)や狭薄山・札幌岳などの姿も

 

北東尾根

カミさんを迎えに行く時間もあり、あまりゆっくりとしていられない。
昼食を食べ終え、早々に下山にかかる。

スノーシューの浮力を利用しながら滑りながら下っていく。
バランスを崩して二三度大転倒し深雪で起き上がるのに大変な思いをしたが、登りに比べれば天国と地獄だ。

C1080mを経由しC952mPへ、苦戦しながら登ってきたルートで降りるより北東尾根をそのまま下ったほうが楽かもと思い立つ。
北東尾根はかれこれ10年前に一度往復しているが、あまり記憶に無い。
尾根通しだから迷う心配は薄いし、先行者のトレースもあるはずだ。

尾根は以外に広く樹林もスッキリしている。
気持ちの良い樹林帯が続き、距離が長いだけあって斜度も緩い。

雪原
気持ちのよい樹林帯が続く北東尾根

 

しばらく歩いて気がついた。
時々交差していた先行者のトレース、登りのトレースだけで下りのトレースがない。
もしかしたら、私がオコタンペ湖近くからまっすぐに登ったと言ったので私のトレースをたどったのかもしれないな。

北東尾根はかなり下の方がやや複雑な地形になり、地図判読が必要な所も出てくるがこの日は先行者や薄いスキーのトレースもあり無事にオコタン分岐へ降り立った。

 

 

異型細胞?

迎えに行ったカミさん、検査結果を聞くと「癌では無いそうよ。でも異型細胞が見つかったの。」
異型細胞って何だい?

要約すると、将来的に癌に変化するかもしれない細胞が見つかったそうなのだ。
その為、3ヶ月毎の継続的な観察・検査が必要なのだという。

言い換えればこれから当分の間、しっかり管理してもらえるわけだ。
万に一つ、がん化すれば即座に対処してもらえる。
そう考えることにした。
幸い、生活や運動に何の制限もない。

やりたいことをし、楽しみたいことを楽しみながら、健康管理をしっかりしてもらえると思って、今までどおり明るく生活していこうと確認し合った。
オメデトウの意味ではないが気分転換を兼ねて、春のお洋服を買い求めて帰路についた。

 

 

 

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