春爛漫の色模様
日高山脈の南側から東そして北側へと、グルリ一周あてのない花巡りの旅を楽しんできた。
例年この時期は残雪の山を訪れるのだが、今年は椎間板ヘルニアの手術で良くなっていたカミさんの腰の状態が思わしくない。
そこで、のんびり気ままに花と自然を楽しもうと思い立ったのだ。まずは南日高の様似周辺から襟裳付近、そこから広尾にかけての「ぶらり旅」。
そして大好きな日高の山並みを眺めながら、裾野に踏み入ったり、十勝の以前からお気に入りの場所での花巡りを楽しもうという算段である。1泊2日の腹づもりだが、宿泊先も日程も気分次第。
ぶら〜り・ぶらりの気まま旅だ。
様似山道は断崖の続く危険な海岸線を避けて通るため、江戸時代に開削されたシャマニ(現在の様似)の冬島〜幌満を結ぶ約7.2Kmの山道。
明治に入り海岸にトンネルが開通したので山道は廃道と化したが、花や歴史が趣味の人向けの道として残っていた。
最近ではアポイ・ジオパークのフットパスとして整備されつつある。
様似山道名物 エゾオオサクラソウ
今回私達は山道東側の幌満からコトニまでの約5Kmの道を歩き、花を楽しんだ。
粋だね〜!
幌満のコミュニティセンターに車を停め、幌満橋を渡ってすぐに下に降り上流へ少し進むと様似山道入り口だ。
浅い谷をゆるやかに登り始めると早くもポツポツとピンク色が目の端々に・・・。
勿論この山道の名物と言っても過言ではない、「エゾオオサクラソウ」。
カミさんの「お久しぶり」と再会を喜び合う気持ちも判るような。
今年も咲いてくれたのね〜。
ここのエゾオオサクラソウは5月後半まで楽しめるが、この日はまだ咲き始め、芽吹いたばかりのものや蕾のものが多い。
それでも圧倒的な数で「私を見て・見て!」と足を引っ張られ、ちっとも足が進まない。
エゾオオサクラソウ
蕾も良く見るとなかなか可愛い。
蕾状態のエゾオオサクラソウ
小さい谷一面がエゾオオサクラソウのピンクで覆われている感じを受けるけれど、白や紫・黄色がアクセントをなすように所々に見えている。
オオバナノエンレイソウ、スミレ、ネコノメソウなどの花である。その中から斑入りの葉に特徴のあるフイリミヤマスミレ、スミレの識別が苦手の私にもひと目で分かるスミレである。
フイリミヤマスミレ
そしてこちらも多かったミヤマスミレ。
もしかしたらタチツボスミレかな・・・。
ミヤマスミレ
数は少なかったが、ホソバノアマナも咲いていた。
白に緑のラインが何とも粋で好きな花である。
ホソバノアマナ
様似山道では白花のオオサクラソウに出会えるのを楽しみにしていた。
カミさんもしっかり覚えていて、場所も二人共同じ所を指さした。
でも残念ながら花はない。時期的に早かったのか、あるいは・・・。
展望
ルランベツの沢を渡り、尾根を乗っ越し、オオホナイ(深い)の谷を渡る。
登る時に手術した所に痛みが出るというカミさんを気遣い、登りは特に慎重に時間を掛けて歩く。途中、断崖の上から海と海岸線を望める所がある。
見晴らしの効かない林の中を歩いてきたので、僅かな展望でも気持ちが休まり有り難い。
見下ろすと国道や海から突き出す岩が真下に見え、崖の端に立つと足がすくむ。
山道の通る崖の上からの展望 遠くの岬は襟裳岬
ここではセンボンヤリがかなりの数、花や蕾を付けていた。
この花は花自体も慎ましやかで可愛いが、赤い小さな蕾がとても愛らしかった。
センボンヤリ
崖のふちにはエゾオオサクラソウが海を見つめ何かを考えているかの風情が印象的だった。
海を見つめるエゾオオサクラソウ 何を思うのか?
コトニへ
やがて山道は尾根を歩くようになり、アポイ岳が枝越しに見えるようになると山道の中間点。
道にはヒトリシズカが目立つようになってきた。ところどころに群れ咲いている姿は清楚で好きだが、あまりに多く群生しているとウザい。
「君は一人静かに咲いているのが好きなのではないの?」と訊ねたくなる多さである。
ヒトリシズカ
エゾオオサクラソウは山道の全域を通じて万遍なく咲いている。
何時間も同じ花に囲まれていると感激も薄くなって、少し変わった表情の花を探して気持ちに変化をつけてみる。これは中央の花から貴方は誰なの? 何かご用? と問いかけられた感じを受けた花。
花芯が目の玉みたいに感じられたのだ。
「あなたはどなた? なにかご用?」
次の谷へ降りる斜面は大群生地、一面に広がるピンクは圧巻である。
斜面一面がエゾオオサクラソウのピンクに覆われる
春爛漫!
やがて山道は斜面を降り昆布干場へ、道は舗装道路に変わりコトニへと続いている。
アポイ岳の稜線がたなびき、山裾一帯は桜や新緑の春らしい風情に覆われ素晴らしい雰囲気。
日本人で良かったと思える時でもある。
春爛漫の装い
海岸線
コトニで海岸線の国道へ、バス停があり見ると次の幌満方面のバスは1時間40分も待たねばならない。
それではと、国道と旧国道を使って海岸線沿いに幌満まで戻ることにした。
実際に歩いてみると、海岸線は岩が海中まで突き出ている所が多く、通過するのに難渋したであろうことが実感できる。
岩が海の中まで突き出ていて、とても渡れない。
大きな岩山には明治や大正時代に掘られたという細く狭いトンネルがあったが、今は放置されている。
旧国道で車両進入禁止になっている部分は一部はあるが多量の落石で塞がれていた。
山道の崖の上から見えた海中から突き出している岩の傍を通って進んでいく。
崖上の見晴らし台から見えた 大岩。
一つの岩の天辺には一羽のカモメが見張り番を。
魚の群れが来ないかな〜?
以外に早く幌満へ戻った。
海岸線を走る道路のありがたさが身にしみる思い。ちなみに、山道を幌満からコトニまで花を見ながらのんびり歩いて約4時間。
国道を戻るのに約1時間であった。
様似町の親子岩近くに観音山という標高100mほどの小山があり、町の公園として整備されている。
噂ではこの小山周辺にも結構花があるらしい。せっかくのぶらり旅、どんな所か知らないが立ち寄ってみることにした。
オオ〜!
スポーツ公園脇から山頂へ続く道を歩き出すと、横の斜面にオオバナノエンレイソウ、カタクリ、エゾエンゴサクなどが点々と咲いている。
「まだカタクリやエンゴサクが咲いているんだね〜」など話しながら歩けば10分ほどで山頂付近、アイヌの石碑が立っていた。
それによると、この小山は海のアイヌと山のアイヌが争い戦った時の砦でもあったらしい。山頂部は平地になっていて、それこそ花の競演場。
花がなくても駄目元だと思っていたので、予期せぬ素晴らしいプレゼントに思わず歓声を上げる。まずは緑と白の絨毯がお出迎え。
オオバナノエンレイソウが群れ咲いていた。
オオバナノエンレイソウ
結構な群生地、しかもエンレイソウは旬の花ばかりだ。
オオバナノエンレイソウ
カタクリやエゾエンゴサクはさすがに時期を過ぎてはいるが、遠目から見れば見事なものだ。
旬の時期に訪れればさぞ美しいことだろう。
カタクリの群落
三十三観音像
山頂部には点々と33体の観音像が野仏のように祀ってある。
明治時代に近くの寺の住職が祀ったもので、それ以前は円山と呼ばれていたが、それ以降観音山と呼ばれるようになったそうだ。この観音様たちと花が調和して和やかな気配を周囲に漂わせている。
優しそうな表情の観音様
こちらは恥ずかしがり屋さんのようだったので、花に焦点を合わしお顔をぼやかしてみた。
少し恥ずかしがりの観音様
桜と展望
そして桜もかなりの数があり、いずれも満開だ。
桜
一角には展望台もあり、芒洋と広がる太平洋、親子岩、様似の町並み、アポイ岳などが一望できる。
観音山展望台から 桜とアポイ岳
この展望台から見る、親子岩を前景にした夕日も見事だそうだ。
少々気を引かれ悩んだが、もう少し先まで足を伸ばそうと観音山を後にした。
親子岩 夕日はさぞ見事だろう様似町の観音山、以後私のお気に入りに入るのは確実。
多くの人たちに見て頂きたいような、あまり知ってほしくないような複雑な心境でもある。
その他
その後、幌満峡・ニカンベツ川付近を散策したり、襟裳岬〜広尾間で花探しをしたが、どこも似たような花。
もしかしてと微かに期待していた「ヒダカイワザクラ」や「ソラチコザクラ」にはお目にかかれなかった。広尾シーサイドパークのオオバナノエンレイソウ群落地は時期が早くて一部しか咲いていなかった。
でも満開となったら、それは凄いだろうと思わせる花園であった。日没間近になり、何処に泊まろうか相談。
広尾でも良いが温泉がない、たしか更別には温泉や宿泊施設もあった筈と足を向けた。
これもぶらり旅の気軽で良いところである。
・若葉洩る陽に色冴えて大桜草
様似古道にかわらず咲けり・「なあんもだ」「なあんもだよ」と譲り合い
観音山は花咲き盛る