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プロローグ
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毎日が日曜日の私達、この日が土曜日であることをすっかり忘れていた。
孫を広々した所で爽快な気分にさせてやりたかったのだが、樽前山7合目ヒュッテに着いて驚いた。
何人もの係員が駐車場整理をしていてすでにギッシリ。私達の車でちょうど締めきりだった。
大勢の登山者がひしめき、ざわざわした行楽地のような雰囲気。平日にしか来ない私達にとって少なからずカルチャーショック。
夏休みに入ってぐづついた日が続き、やっと晴れる予報のこの日を待ちかねてやってきた人が多かったのだろう。ちなみに私達が下山したお昼頃、ヒュッテから100mほどは幅広い道路沿いにぎっしり車が止まり、それから道幅の狭まる下側は駐車禁止で樽前山登山道のゲート下で待たされている状態だった。
花や紅葉の時期の土日は混みあうこと必至なので、早めに出かけられることをお勧めします。
多くの人たちはヒュッテから東山目指して登っていく。
山登り初体験の孫には助走のない急な登りは辛いだろうと、お花畑を通って風不死岳へと向かう平らな道を歩き出す。ナナカマドの林を抜けると広い草原、眼下には支笏湖が広がっている。
「広いね!」孫の第一印象だ。
「気持ちが良いでしょう? ここはお花畑なのよ」カミさんがガイド役だ。
支笏湖を眼下に見下ろして
シラタマノキの実がたくさん、「一つ採っていいから匂いを嗅いでごらん」
「よく分からない・・・・」
「じゃ、潰して嗅いでごらん」
「あっ、湿布の・・・」
「食べるともっとよく判るぞ、毒じゃないから」
「ゲェ!」進んでいく正面には風不死岳と932m峰が大きく出迎えている。
風不死岳(右)と932m峰(左)
岩尾根を登り、風不死岳との分岐へ。
先週ニペソツ山では咲き始めだったイワブクロ(タルマイソウ)、ここでは終わりの時期を迎えている。
樽前山に多いからタルマイソウとも呼ばれていると説明し、シラタマノキと2種類を何度も確認して学習会。分岐で一休み、ドライフルーツなど甘いものを勧めると「良いの?」と戸惑いの表情。
「良いんだよ」山では疲れる前に食べるのが常識と説明すれば、嬉しそうに頬張る。
甘いものを頬張って、一休み
932m峰への道をとる。
傾斜がきつくなり、火山礫の滑りやすい道。
勝手に歩いて足を滑らせたりしていたが、私達の歩き方を見て小幅の足どりで付いて来る。おしゃべりをしながら登っていく、さすがに若くて元気。
汗をかき暑そうだが、呼吸に乱れはない。
樽前山を眺めながら
登る斜面にはウラジロタデとシラタマノキ、所々にネジバナが濃いピンクを、イワギキョウが鮮やかな青を見せている。
今日はタルマイソウとシラタマノキそしてイワギキョウを覚えようと、何回も復習。
本人はもう分かったと言うが、3日後に覚えていたら大したものだ・・・。
イワギキョウ
樽前山のネジバナは増えているような印象だ。
ネジバナ
932m峰へやって来た、見せてやりたいと思った羊蹄山はどうか?
残念! 尻別山は見えているのに羊蹄山には雲が・・・。
おやつを食べながらおしゃべりしていると、さかんに手を振り回したり顔を払ったりしている。
何匹か飛び回っている虫が嫌なのだ。
これは刺さないから大丈夫と言っても、気になって仕方ない様子。
虫除けスプレーを渡すとこれでもかとたっぷり吹きかけている。
虫などに縁のない生活を送っている都会っ子、仕方ないのかも知れないが少々情けない。
虫なんかに負けるなと思う気持ちをグッと堪える。「男だろ!」は禁句だそうだ。932m峰にはイワギキョウ、ウラジロタデのほかコガネギクも咲きだしている。
コガネギク
932m峰から樽前山を眺める孫とカミさんをモノクロで一枚。
樽前山を眺める 孫とカミさん
外輪山の稜線まで上り、西山へ反時計回りに進んでいく。
932m峰から樽前山へ
溶岩ドームの奇っ怪で迫力ある姿に興味津々の様子。
カミさんが成り立ちなどを易しく教えているが、あの大きなドームが一晩で出来たということが信じられずに何度も聞き返している。
これが一日で出来たの〜?
西山への登り斜面で急に「車には何処から行くの?」
外輪山の反対側の東山を指して「あの山の裏側に降りるとヒュッテだよ」と言うと、急にやる気を失ない疲れたような表情。「どうした?」
「なんだか 疲れた」
「じゃ、西山でゆっくり休んでお昼ごはんにしましょう」とカミさん。
「虫がいるから嫌だ。車に帰りたい。」疲れもあるのだろう、だがそれより気持ちが萎えてしまったようだ。
そろそろ限界かな?
少々お疲れ気味?
「よ〜し、それじゃ支笏湖に行ってアイスでも食べようか?」
息子だったら蹴飛ばしていただろうに、孫には甘い爺婆なのです。雲の多かった空は青空が大半になって、支笏湖の湖水が本来のブルーに輝きだした。
羊蹄山にはしつこい雲が退かず、頭を隠している。
西山からの支笏湖
西山からゆるやかな稜線を東山へ、途中の樽前神社奥の院でお参り。
薄暗い石室で何を祈ったのか? 神妙な顔つきではあった。
眼下に見える苫小牧や白老の海岸線、少し前まで霧だったのだろう視界がもやっていてスッキリしない。
スッキリしない海岸線
噴煙を上げる溶岩ドームを左手に眺めつつ、外輪山の稜線を一路東山へ。
この付近は外来植物だとして何度も根絶やし作戦が行われているコマクサが根付いた所。
抜かれても抜かれても、樽前山が好きなのですと花を咲かせ続けるコマクサ。
今年は徹底的に抜き取られたそうで姿は見えない。
外来種は排除すべきだ。それは理解できる。
でも20年近く他の植生に影響を与えることもなく樽前が好きだと咲き続ける花にそろそろ居住権を与えて上げても罰は当たらないと思うのだが・・・。樽前の神様はいかがお思いでしょうか?
のんびり東山へ
近づく東山の頂上には沢山の人影、続々と登っている人の列も。
こんなに盛況な樽前山、初めて見るかもしれない。
山頂には30人以上の人影が見え、続々と後に続く人達の姿も
話しかけてもテンションが上がらない孫の様子に東山はパスして、分岐からそのままヒュッテに下る。
滑りやすい砂礫の斜面、「わあ〜」「あっ」など叫びながら足を滑らせ苦戦している。
しばらく苦労していたが「そうか!」とカミさんと同じ所に足を置き、同じ歩調で降りている。
「善し、善し」そんな様子を見て嬉しく内心ニヤニヤしていた爺なのでした。
登ってくる大勢の人達と挨拶を交わしつつすれ違う。
支笏湖がいつもと変わらぬ美しい表情で静かに佇んでいた。
静かに佇む支笏湖を見ながら
疲れたのか僅か支笏湖温泉までの間にも船を漕いていた孫、湖畔でアイスやジュースを買ってもらいようやく笑顔を見せた。
楽しみにしていた孫との初山、孫だけでなく私達も気遣いで結構疲れた山行なのでした。
・蝦夷春蝉(はるぜみ)の大合唱に樽前の
裾はふくらみはじけて真夏
・思春期の孫と登った樽前山
記念写真は即かず離れず