春の妖精を訪ねて

道央・日高   2015.4.12(日)、13(月)    晴れ

 


 

春の妖精たち

 

夜明けの春

4月に入り全国各地から桜の便りが届き、「ああ・春だな〜!」と感じるようになった。
北国でも庭の雪が溶けクリスマスローズやクロッカス・スノードロップが咲き出し、近所の雑木林には福寿草やフキノトウが目立つようになってきた。

これからしばらくの間は春の妖精達の可憐な姿に力をもらい、元気づけられる季節である。
それだけではなく、この春は私にとって殊の外嬉しい春なのでもあるのだ。
何故ならこの冬は私の人生始まって以来の厳しく長い闇夜だったのだが、今まさにその夜が明けようとしているからなのだ。

 

艱難辛苦

昨年私たち夫婦は比較的体調に優れ、初夏から秋にかけてお天気が良ければ毎週のように山歩きを楽しんだ。
体調が良かったからなのだが、年齢的に山を楽しめる時間が少なくなっているのが自明の理なので焦りのようなものが無かったと言ったら嘘になる。

知らぬ間の無理がたたったのか、10月中旬頃から膝に痛み注意していたのだが軽い段差を踏み外した途端に激痛が走り歩けなくなってしまった。

MRIで見ると脛骨上部が灰色に変色、診断によれば微小骨折と言ってポキっと折れるのではなく変色した部分が脆く崩れるように微細に多重骨折しているとのこと。
当然のごとく運動はおろか歩行禁止、家庭内でも松葉杖。
それまで毎日1万歩のウオーキング・週一の山歩きの日課だったのが、ひたすら読書三昧の毎日へ強制的大変身を強いられたのである。

歩行禁止は2月まで続き、徒然草の「おぼしきこと言わざれば腹膨れるわざなり」ではないが、ストレスが溜まるのみならず本当に皮下脂肪が腹回りにたっぷりと付いてしまった。

3月から僅かづつ歩行が許され、プールでの水中運動から。
ウオーキングも千歩からスタートして膝と相談しながら少しづつ増やし、3月末にはゆっくりながら八千歩位歩けるまで回復した。

本当に辛く長い時間だった。自分自身のみならずカミさんにも大変な心配と迷惑をかけてしまった。
でも少しづつ歩けるまでに回復し、山はまだ無理だが平地や丘をゆっくり歩くことは出来そうだ。
それだけでも嬉しい。

待に待っていた春、少しづつ明るさと希望が見えてきた気がする。


 

春の妖精

「お花でも見に行きましょう」とカミさんに誘われた。
とぼとぼ歩きながらリハビリに励んでいる私を元気づけようと思ってのことだろう。

花の情報もまだ届かない4/12 4/13の両日、千歳・厚真・新冠・静内・様似付近に春の妖精たちを訪ねてみた。
足を庇いながらだから、車で近くまで行け、足場も平地で良い所のみ。
正直大きな期待は出来ないが、外に出かけられるだけでも十分嬉しい。

自宅付近の雑木林で目につくのはフクジュソウとフキノトウぐらい、それでも久しぶりに吸う外の空気が美味しくフクジュソウも輝いて見える。

フクジュソウ
フクジュソウ

いくらでもあるフキノトウ、春の香りを楽しむべく夕食の蕗味噌に10個ほど頂く。

 

例年山菜狩りに行く厚真の丘陵の道端には元気一杯の行者ニンニク。
葉をむしって香りを嗅ぐだけで元気が出てくる。
しっかり採りたい気分だが、足を痛めては元も子もない。香りだけで満足しよう。

アイヌネギ
行者ニンニクとフクジュソウ

 

南側の窪地の陽だまりにアズマイチゲと数輪のカタクリが咲きだしているのを見つけた。
ストックを慎重に使いながら傍まで降りて、ご挨拶。

カタクリ
咲き出したカタクリの蕾

 

モデルになってもらって写真にも挑戦。
しばらく触っていなかったせいか、カメラ操作を忘れかけ手が動かないのがもどかしい。

カタクリ
カタクリとアズマイチゲ

 

純白のアズマイチゲ、薄いピンクと濃いピンクのカタクリ、夫々個性を発揮している。
彼らの春を謳歌する姿はそれだけでも素敵だが、花が終れば潔く姿を消し他の花に場所を譲るいさぎよさが私は好きだ。
自らもそうありたいと強く思うのである。

アズマイチゲ
アズマイチゲとカタクリ

 

日高路の花

次いで新冠の判官館付近と静内周辺の牧場地帯へ。
緩やかなアップダウンを膝と相談しながらゆっくり慎重に歩く。

エゾエンゴサクが所々群れを作って咲いている。
青い絨毯に思わず歓声が上がる。


日差しを受けて輝くエゾエンゴサク

 

私の好きな明るい水色の花が多く気分は上々だ。
そんな気持ちを明るく幻想的な雰囲気で表現してみる。


明るく幻想的に・・・

 

薄紫の花も上品に楚々とした姿で咲いている。


薄く上品な青紫のエゾエンゴサク

 

牧場では今年生まれた仔馬が疲れたのか草地にお腹を出してお昼寝、傍らで見守っている母馬の優しい目線が私達の心まで柔らかくもみほぐしてくれるようだ。
しっかりエスコートしてくれているカミさんも楽しそう。

カミさん
エゾエンゴサクの咲く原で

 

静内から襟裳にかけての海岸線は白く凛々しいオオバナノエンレイソウの多い所だが、まだ芽吹いたばかりで葉を広げきっていない小さな芽が元気に育っている。
花が楽しめるのはあと1っヶ月ぐらい必要かな?

様似ではカタクリの小さな蕾が沢山、花はもう少し先の感じだった。
その代わり薄ピンクのアズマイチゲをあちこちで見ることが出来た。
アズマイチゲは通常は純白か花の付け根がうっすらとピンクがかっているものが多いのだが、花全体が薄いピンクで珍しく、カミさんと大喜びして小1時間も楽しませてもらった。

アズマイチゲ
ピンクのアズマイチゲ

 

花の性質なのか土壌のせいなのか私には分からないが、花全体に紅がかかっている。
白のアズマイチゲも清楚で可愛いが、こちらも負けず劣らずほんのり色香を感じさせ素晴らしい。

 

 

 


花全体が薄い紅というかピンクに染められている。

 

様似の高台から眺める海は茫洋としていてまさに春の海。
のどかで心やすまる景観が広がっていた。

海
春がすみに煙る茫洋とした日高の海

 

出かけてきて良かったという思いを噛み締め海を眺めながらお弁当を口にする。

やはり私にはアウトドアが気が休まり似合っている、地道にリハビリを続けて今年中には山歩きが出来るよう励んでいこうという気持ちが沸々と強くなる。
同時にカミさんの「少しづつでいいのよ。歩けるようになっただけでも有り難いのだから・・・」が素直に受け入れられる。

様似にて

 

風雪に耐え点々と祀ってある観音様。横を通りながら思わず頭を下げる。

観音様

 

 

輪廻

最後に様似の冬島から様似山道を少し歩いてみた、ちょっとしたチャレンジ気分である。
軽い山道を登り緩やかな谷へ、再び尾根を乗り越え谷へ降りる。
下り坂では膝が痛み辛いが、予想以上に踏ん張れ我ながら嬉しくなる。

オオサクラソウが至る所で芽吹き始め、凄い量だ。
クリンソウも谷筋の湿った所に群生している。
花はまだ先だが、例年通り楽しめるだろう。
他にもネコノメソウやヒメイチゲ、ヒトリシズカなどの姿も多い。

オオサクラソウ
気の早いオオサクラソウが蕾を付けていた

 

おしゃべりをしながら先を歩いていたカミさんが「ひぃ!」と息を飲んだ。
白骨と化した鹿のものと思われる頭蓋骨が野ざらしになって枯れ葉の上にのっている。
頭蓋骨だけで他の骨は見当たらない。
一体どんな状況で頭蓋骨だけが残っているのだろう。

骸骨
鹿と思われる頭蓋骨

 

後頭部の骨の噛み合せが実に精妙で不思議な模様を描いている。
赤児や子供のものは噛み合わせが緩いそうなので、これは成獣のものだろう。

骸骨

 

諸行無常・輪廻転生というけれど、どんな事情があったのか、どんな状況に遭遇したのか分からないが、私達が見つけたのも何かの縁。
鹿のものだとは思いつつも、頭を下げ冥福を祈った。

また近くの老木の太枝が折れた跡に洞が出来、その脇に小さな命が萌え出していた。
無残というより何か命の尊さ、偉大さのようなものを感じさせられた。

洞
懸命に生き、後を託した太枝

 

白骨化した骸骨と言い、折れた巨木の洞と言い偶然出くわした事象なのだが、何かの因縁・暗示のようにも感じられた。
古希を越えた年齢がそうさせるのかもしれない、4ヶ月も足を痛めて引きこもっていたせいなのかもしれないが、全てをあるがままに受け入れ精一杯生きていくことの大切さ・尊さを改めて痛感するとともに自らもそうように生きていきたいと思った。

 

帰路につく私達を、まだ僅かに残雪残るアポイ岳が見下ろしていた。
「きっと次は登山に来るからね」そう言葉を掛けた。

アポイ岳
アポイ岳

 

オジロワシ歌壇

 

 

・観音山の風のうちなるリハビリの

         夫にエンゴサクに春の陽うらら

・君と行く襟裳の海は日に映えて

         今日ある幸せ噛みしめている

 

 

 

 

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