海霧 (Sea Fog)
7月に入って天気予報は比較的良いお天気を伝えている、TVを見ると少し北にある札幌では予報通り晴れているのに千歳は低い雲が垂れ込め気温も低い。
どうやら海霧のようだ、この時期太平洋上に濃い海霧が発生し南風が吹くと太平洋側南岸地域を覆うのだ。
この海霧、釧路の代名詞にもなっているほどだが南岸沿いはどこも夏の風物詩。風物詩と言っても決してロマンティクなものでは無く、霧というより霧雨で気温も低く農作物の育成に影響があるばかりで無く、船や航空機の運航にも多大な影響を与える厄介者なのだ。
千歳は海から北に約30Km離れているのに南風だと侵入してくる、海沿いの苫小牧などは一日中霧や霧雨で覆われる日も多い。7/12(火)、目覚めると低い雲に覆われてはいるが青空が雲に透けて見え隠れしている。
「これは晴れる!」
急遽、近場の樽前山か風不死岳に遊ぼうと家を出た。
端境期
車で樽前山7合目ヒュッテに向かっていると、急速に青空が広がりだした。
人間勝手なもので、晴れれば晴れたで「こりゃ、暑くなるかも!」7合目ヒュッテの駐車場に着いたのは0730、さすがに平日ガラガラだ。
樽前山を楽しもうか、風不死岳にしようか、ヒュッテから石尾根に続くプロムナードを歩きながら決めることに。歩き出して5分で樹林帯を抜け、見晴らしの良い樽前山7合目付近をトラバースするプロムナード。
樽前山麓の原生林と支笏湖そして紋別岳が織りなす美しい景観が広がっている。
支笏湖と紋別岳
景観とともに楽しみのお花は、イソツツジやマルバシモツケ、イワヒゲなどはさすがに終わっていて花柄だけが残っている。
「花は終わって端境期か。花がダメなら風不死岳で景色を楽しもうか?」イソツツジとマルバシモツケで白く彩られている風情に慣れている私たち、花が無く草の緑が目立つ草原はちょっと不思議で戸惑いを感じる。
花が終わり山頂稜線が目立つ樽前山
視界良好!
山腹のプロムナードから石尾根をゆっくり登っていく。
タルマイソウとも呼ばれるイワブクロとシラタマノキがこの辺から多くなり花をつけている。そして嬉しいのは視界がすこぶる良いことだ。
開けている東から南東にかけて、千歳や苫小牧の街並みはもちろん夕張山地や日高の山々がしっかり見えて気持ち良い。
夕張山地の山々 左に芦別岳、右に夕張岳
「芦別の北尾根が良〜く見える。あの時は頑張ったね。」
「本当に辛かったわ。戻りたくてもダニが降ってきた沢が怖くて、進むしかなかったんだもの・・・」
「あの時の赤黒くテカテカしたダニ、休む度にダニ取りだったし、12時間も歩き通したしね」そんな話に花を咲かせていたら、イワブクロが「私も見て!」とアッピール。
「可愛いよ〜!」
イワブクロ (タルマイソウ) が花盛り
風不死岳分岐までやってきて、一休み。
まだ8時すぎだから暑さは感じないが、日差しは厳しく暑くなりそうな気配濃厚だ。一休みしながら夕張や日高の山座同定を楽しむ。
「あの尖りが戸蔦別岳だから、その右が幌尻岳、左はチロロかな?」
「夕張岳は今の時期、お花はどうかしら?」
石尾根から夕張山地(左側)と日高山脈(右側)を眺める
休憩しながら樽前の花は楽しめそうもないので風不死岳の大景観を楽しむことに決め、風不死岳登山口方向へ分岐を右へ。
今までこの連絡路を意識したことなかったのに、結構な登りに感じられる。
それだけ体力が落ちていると言うことなのだろう。
いやはや淋しく感じられるが、それが現実。しっかり受け止めよう。シラタマノキの大群落が至る所にあり、イワブクロも多い。
群れて咲いているのを見つけたので、写真を一枚。
群れ咲く、イワブクロ(タルマイソウ)
木漏れ日の道
樽前山と風不死岳の間にある932m峰を巻いて、風不死岳に取り付いていく。
木の無い樽前山と違って、風不死岳はその名の通り樹林の覆われている。
「フップシ」「フップ・ウシ」はアイヌ語で、トドマツの多い山の意味である。
ただ実際にはトドマツだけでなく、ダケカンバやエゾマツも多い。木々が多いため、直射日光に晒されず木漏れ日の道を歩けるのはありがたい。
所々、小さな湿原を思わせるところもあり癒される。また小さな鎖場や岩場など変化もあり、単調さからも救われる。
鎖場
岩場付近では厳しい日差しに晒されるが、コメツツジが可憐に咲いて元気をくれる。
コメツツジ
風不死岳を初めて訪れる人がたいてい騙されるのが偽ピーク。
その最初の偽ピークまでは、かなりの登りで岩場や足場の悪い所もあるので要注意。そして山頂すぐ南の偽ピークまで登れば、視界が開け羊蹄山やホロホロ山、オロフレ山など北から南西にかけての展望が広がる。
まったり!
ヒュッテを歩き始めてから2時間45分、概ね2年半ぶりの風不死岳山頂に到着。
「お久しぶり!」と三角点にタッチ。待っていたのは、視界最高の大展望。
冷たい飲み物を口にしながら、心ゆくまで景観を楽しむ至福のひと時。
風不死岳山頂から支笏湖と恵庭岳これを味わうために山に登る。
そう言い切っても、私にとっては決して過言ではない。澄み切った空に雲の表情も良い、支笏湖ブルーが誘い込むよう、湖面に映る雲、そして山々。
支笏湖と白老台地、遠くに羊蹄山・尻別岳やホロホロ山、手前に白老岳
腰を下ろし、ゆっくり景観を眺めながらゼリーやフルーツを楽しむ。
強い日差しが気になるが、気持ち良い事この上ない。
山頂で
風不死岳山頂付近に咲いていたのは、白と黄色のニガナとヨツバヒヨドリぐらい。
ちょっと寂しいがその代わり景観がご馳走だ。
風不死岳山頂から樽前山
朝はあんなにくっきりしていたのに、日が高くなるに従い遠くが霞み出した。
日高の山々は見えなくなり、苫小牧の海も朧になった。
支笏湖と紋別岳(右)、イチャンコッペ山(左)
やがてヒュッテからも北尾根からも登山者が次々やってきて狭い山頂は手狭になってきた。
私たちはゆっくり休んだし、大景観も楽しんだ。
来る人たちに場所を譲り、下山にかかる。その前にもう一度支笏湖ブルーと大景観を。
「夏の風不死岳も良いけれど、やっぱり凛とした冬の風不死岳が素敵だな」と思う。
羊蹄山と尻別岳
ヘロヘロ!
安全下山を意識して、ゆっくり確実に降りてゆく。
何人かの人たちとすれ違う。
若い女性たちの賑やかで元気なこと、少し疲れ気味な人、同年輩のご夫婦、レトリバーを連れた超元気で逞ましい単独女性、「皆さんもう少しで素晴らしい大展望が待っていますよ〜」樹林の少ない樽前山の領域に戻ってくると、激しくも厳しい日差しが容赦なく照りつける。
頭がボーとなり、やる気もその気も無くなってくる。
暑いのに汗が出ない、残り少なくなった水を分け合う、もう少しだ。
先を行くカミさんの背中にも疲れが見え、俯き加減。当然私もそのように見えている筈。数年前「年々体力が衰えていく」と嘆いていた友人の言葉を笑って聞いていた自分が、今その言葉を実感している。
悔しいが、頑張ろうと思っても以前のようには頑張れない。
ある本に、年を経て今まで出来ていたことが出来なくなると人間はふた通りに別れると書かれていた。
一つは、出来なくなったらすっぱり諦め同好の人たちと集うことで満足する人。
もう一つは、出来なくなっても出来る範囲で諦めずに執着する人。多分私は、後者なのだと思う。
醜態を晒すだけなのかもしれない、だがそれも一つの生き方には違いない。
頑張らないで休み休み、3時間掛かるなら5時間で、一日なら二日で行けば良い。
やれるところまでやってみたい。家に戻ってお風呂に入りながら、そんなことを考えていた。