シューパロ湖から夕張岳を望む
夕張岳
痛めた膝をいたわり昨年一年間、リハビリに励み山への誘惑をひたすら我慢した。
そしてこの春から半ば恐る恐る半ば満を持して山歩きを再開した。
驚くほど体力が低下しており我ながら呆れるほどだが、膝は時折痛むものの何とか動いている。膝を長持ちさせるには負担を軽くするのが一番だが衰える一方の体力を考えると、小さな喜びを長く何回も楽しむか、大きな喜びを優先させるのか。
相反する二つの辻褄を合わせ、後悔しないよう上手くやりくりしていかなければならないのだ。
さて前置きはこの辺にして本題に。
今年は気温が低いせいで山の花が例年より遅れている。
期待して行った6月末の富良野岳は時期尚早でがっかりだった、それならば夕張岳はどうだろう?
固有種のユウバリソウやシソバキスミレなどは咲き終わっているかも知れないけれど、ムシトリスミレ、シロウマアサツキ、イワイチョウなどは楽しめるはず。
そう思うと居ても立ってもいられなくなって、カミさんを誘って訪れてみた。
もちろん、「お花を見に行くのだから吹き通しまでよ。膝を大事にしないとダメでしょう。」とのお達しには必ず従うとの約束でだ。
冷水コース
この時期は霧の季節でもある。
この日も夕張にかけて濃い霧に覆われていた、シューパロ湖付近で霧は解消し夕張岳こそ見えないが霧の低い雲が山肌を登り始め、晴れてくる感じである。
早朝のシューパロ湖 夕張岳は見えないが晴れてくる予感
登山口へ向かう林道は雨がちの天気が続いたせいもあって、ぬかるみ水溜りが至る所に。
ようやく着いた登山口駐車場、以前の駐車場より200mほど手前の林道脇に5・6台がやっとの狭さだ。準備を済ませ、5時過ぎに歩き出す。
ヒュッテに続く林道は所どころ崩壊し深い溝ができている。
ヒュッテ手前の分岐から沢沿いに行く冷水コースに入る、早朝の登山道はまだ薄暗く鳥の声も無い静けさだ。「この道、こんなに紫陽花が多かったっけ?」と思うほど、エゾアジサイが目立つ。
まだ色づいていない黄緑の蕾が多かったが、あと1〜2週間もすればアジサイ街道と呼んでも遜色無い道となるだろう。
エゾアジサイ
冷水の沢の水場は近いという印象が強かったのだが、意外に遠く登りもきつい。
これも体力が落ちているからこその感じなのか。湿った森の中は苔も多い、カミさんがまるで王冠のような杉苔を見つけ「かわいい〜!」
王冠を思わせる円形に育った杉苔
歩き出して約1時間半、水場までやってきた。
途中エゾアジサイ、ウバユリ、オオハナウド、ウツボグサなどを楽しみながらだったが、こんなに遠かったんだな〜。
小休憩しながら水を汲み、ミゾホオズキやズタヤクシュ、クルマムグラなどの花を愛でる。
オオバミゾホオヅキ
笹かぶり道
水場の沢から前岳の沢を通り、一登りすればシラネアオイの群生地である石原平。
さすがに花はとっくに終わっているが、一面シラネアオイの葉が茂っている。聳り立つ前岳の腹を巻くように進んでいく。
この付近ではコバノイチヤクソウとハクセンナズナ、ミソガワソウが目に付いた。
コバノイチヤクソウ
コバノイチヤクソウはベニバナイチヤクソウと比べると清楚で上品な感じの花、色の与える効果なのかな?
ハクセンナズナ
姿の良い滝ノ沢岳や雄大な芦別岳が見え始めると、望岳台だ。
予想通り霧が解消して晴れ間が見え出した、久しぶりの清々しいお天気である。
滝ノ沢岳
埼玉から来て北海道の山を訪ね歩いている男性と栗山の初登山に挑戦中の男性と一緒になり、しばし山の話に花を咲かせる。
カノコソウが咲いているのを見つけ、じっくり観察し写真に撮る。
とても可愛いい可憐な花だ。
カノコソウ
この付近から憩沢・前岳湿原・ガマ岩と夕張岳の誇る花々を満喫できる花畑が続くのであるが、
数年前と登山道の様相が大きく変わっていて驚いた。登山道の整備が手薄になり山側の木の枝や草が伸びているため結果的に道幅がとても狭くなり、油断すると谷側に落ちてしまう危険な状態になりつつある。
それだけでなく笹がすごい勢いで道に蔽い被っているのだ。
道を失うほどでは無いが、とても煩く花を楽しむどころでは無い状態だ。登山道の整備は手間も人手もかかり大変なのは十分理解できる。
だけど花の百名山とされるほどの人気の名山、関係機関と連携して登山道の整備に当たって欲しいと痛感した。
憩沢
憩沢は花で埋まっていた。
シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲ、エゾノリュウキンカ、シソバキスミレ、チングルマ、ハクサンチドリなどなど。
細い谷筋が黄色で染められ埋まって美しい!
シナノキンバイ
色の濃いシナノキンバイ、花の量も多く形も大きいから谷筋を占有しているように見える。
でも良く見ると、小さく細いキンポウゲや地面を這っている黄スミレなどもたくさん咲いている。
さすがは花の名山・夕張岳である。
ミヤマキンポウゲ
黄色が目立つ中、白のイワイチョウもたくさん咲いていた。
星型の小さな花がまとまって咲くイワイチョウ、私の好きな花の一つである。
もっともこの花の葉が黄色く色づき、銀杏のようになったのを見た記憶は無い。
イワイチョウ
前岳湿原
憩沢から少し登った開けた場所が前岳湿原。
ミヤマアズマギクやチングルマ、シナノキンバイ、ウサギギク、ミヤマリンドウ、エゾヒメクワガタなどが咲き競っている。
その中で赤紫と白が模様になって見える花が目につく。
ムシトリスミレである。
虫捕りの名の通り食虫植物、葉に粘液を分泌して虫を採るそうで花で採るのでは無いそうだ。
スミレの名が付けられているが、スミレの仲間では無い。
ムシトリスミレ
ウメバチソウが咲き出していた。
純白のキリッとした清純な印象の花である。
ウメバチソウ
ウサギギクもたくさん咲いていた。
前岳湿原から下にも咲いていたが、すでに旬の時期を過ぎているものが多かった。
ここから上では、まさに旬の花! 勢いある元気をくれる姿である。
ウサギギク
前岳湿原からは夕張岳の大きな山容が釣鐘岩と熊ガ峰を従えているのが眺められる。
面白みは少ないが、山の大きさを感じられる景観ではある。
釣鐘岩(左)と熊ガ峰(中央)を従えて屹立する夕張岳
ガマ岩
前岳湿原を過ぎると立岩・男岩・ガマ岩と大きな岩が点在するなだらかな尾根道を進む。
本来なら花を愛でながらの気持ち良い道なのだが、今は道を覆う笹が煩く鬱陶しい。チシマフウロやシロウマアサツキ、イブキトラノオ、トオゲブキ、オオタカネイバラなどこれまでとは少し違う花たちが咲き競う場所だ。
チシマフウロ
シロウマアサツキが何か所も群生しており、周囲はネギ臭い香りに包まれる。
我が家の庭で育っているアサツキと一見して見分けができないが、これも食べられるのだろうか。
群生するシロウマアサツキ
ガマ岩の横までやってきた。
この付近は蛇紋岩が露出していて、花を求めて立ち入る人が後を絶たないそうだ。
後世の山好きにも美しい花を残すために、「とっていいのは写真だけ」を守っていきたいものだ。もっとも大砲のような超望遠レンズを持って行かなければ、写真も撮れないが・・・。
ガマ岩
標高1400m湿原
ハイマツが目立つ尾根道を進みヒョウタン池を過ぎれば、標高1400mの湿原。
広々していて気持ちもゆったり。
標高1400mの湿原お花畑を超えた所から振り返る
イブキトラノオは白っぽい淡紅色の花が多いのだが、真っ白な花を見つけた。
まだ開ききっていないので、そう見えたのかもしれない。
イブキトラノオ
チシマフウロは珍しくもないが、浅い緑に包まれてしっとり優しく咲く姿は優雅そのもの。
それにひきかえ、厳しい日差しを浴びて咲く花は可哀そう。
優しく咲くチシマフウロ
ヨツバシオガマも濃いピンクの花を付けて咲いていた。
ヨツバシオガマ
吹き通し
釣鐘岩と熊ガ峰の鞍部を乗り越えれば、今回の私たちの目的地である吹き通し。
蛇紋岩が露出して夕張岳特有の花々が咲く所として名を馳せている場所である。その代表格ユウバリソウはさすがに時期が遅く、花穂は花を落とし枯れた茶色に変わっている。
大雪などに咲くホソバウルップソウの白色変種なのだと思う。ザックを降ろし、広い場所にシートを敷いて大休憩。
ゼリーが美味しく喉を流れ落ちる。タカネオミナエシ(チシマキンレイカ)が点々と咲いている。
ナンブイヌナズナかと思ったけれど、そうであれば葉がもっと丸いはず。
タカネオミナエシ(チシマキンレイカ)
山頂に目をやると、埼玉の人が山頂への中間で頑張っている。
栗山の人も疲れているようだが山頂に向かおうとしている、皆さん頑張って!タカネツメクサが小さな群落を作っている。
その表情を忠実に再現してみる。
エゾタカネツメクサの群落
気持ちの良い風に吹かれながら、ドライフルーツ入りの堅焼きパンを。
噛み締めているうちに甘さがジュワ〜と口中に広がり美味しい。
平地では何でもない普通のことが、山では幸せに感ずることができる。だから好きなんだな。塩分を少しは摂らないと富良野岳で経験したような痙攣を起こすかもとカミさんが心配する。
山陰の旅で購入した乾燥梅の塩漬けを水を一緒に流し込む。
膝は今の所痛みも無いし、大丈夫。
夕張岳吹き通しで芦別岳をバックに
お腹を満たし、吹き通し一帯を花を探してウロウロ。
とても綺麗なヨツバシオガマ、あまりに美しくハクサンチドリかと思ったぐらい。
綺麗なヨツバシオガマ
ユキバヒゴダイはまだ蕾、黒く硬い蕾が花の時をじっと待っている。
クモマユキノシタが星を散りばめたような花を付けている。
私はこの花が大好き、ダイモンジソウも好きだからユキノシタ科の花がお気に入りなのかも。
クモマユキノシタ
お天気は日差しも出るが雲も多い。
それでも芦別岳がしっかり見え、南西には穂別の坊主山なども良く見えている。
芦別岳の少し左に見えている鋭鋒はシューパロ岳か? さらに左に崕山が見えている。
気温も丁度良く、暑くもなく寒くも無い。絶好の登山日和だ。
釣鐘岩(左)と芦別岳
登山口からのんびり花を愛でながらでも約4時間と少し。
今回は吹き通しまでの山行だったが、なかなか充実していて楽しかった。
付き合ってくれたカミさんに感謝しつつ、下山にかかる。強くなった日差しが厳しくなり始めたが、下山時にも花を楽しみ無事下山することができた。
冷水の沢付近で出合った、太い枯れ木に巻きついたツルアジサイ。
逆光の葉に一条の光が当たり、陽に透ける葉と花が一際美しかった。
ツルアジサイ
さすが花の名山
今年は気温が低く、どの山も花の時期がずれこみ残念な思いをした人も多かったと思う。
私たちも富良野岳では肩透かしを喰い期待外れに終わった。だが、夕張岳はさすがに花の名山。
密かに期待していたミヤマアケボノソウには出会えなかったが、多くの花々を愛でることができ感激を新たにできて嬉しかった。ただ多くの人が訪れる夕張岳、登山道が痛み始めている現実に胸が痛む。
この歳で積極的に整備に関わることには無理があるけれど、お手伝いできることがあれば関わりたい。
どうか訪れる多くの人たちが楽しめ、その期待を裏切らないよう、大変ではあるけれど力を尽くして頂きたいものである。