恵庭岳 (1320m)

道央   2019.5.30(水)   晴れ時々曇り

 


 

恵庭岳

 

お久しぶり〜

恵庭岳には2014年3月に訪れて以来5年間、足が遠のいていた。
2014年9月の記録的大雨による大規模な土石流が登山道脇のポロピナイ沢を襲い、国道を含んだエリアが通行不能になりその復旧に約1年を要したのである。

5年の時間が経過しても恵庭岳は変わらぬ勇姿で屹立しているが、私の方は体力が衰え恵庭岳にはもう登ることは出来ないかもと思い始めていた。
それが先週のイチャンコッペ山で「時間はかかっても余裕を感じつつ自然を観察しながら歩く」楽しさを実感して、気持ちも楽になった。
「以前と同じようなペースで歩けなくても、楽しめればそれで良し」なら、再び訪れてみたいと思えたのだ。

「ちょっと無理かも〜」と言うカミさんを半ば強引に誘って、恵庭岳登山口へ。
支笏湖へ向かう新緑のグラデーションが様々な色合いに変化してとても美しい。
「お久しぶり〜!」と挨拶しながら、部分的に作り直された登山道を歩き出す。
もちろんペースは超スロー、「今日の山頂は何処になるのかな?」「きっと綺麗なツバメオモトに出会えるよ」などなど、決して「頑張ろう!」など出来もしないスローガンは口にしない。

 

道は荒れても、心は静か

3合目近くまで旧登山道に概ね沿って作られた道を進む、ズタヤクシュやクルマバソウの小さな可憐な花が出迎えてくれ嬉しい。ミミコウモリは準備中らしく花芽が伸びていない。
やがて風倒木地帯へ突入、台風による風倒木が累々と重なり合う光景は死の世界。
そこを切り裂くように作られた登山道、大変な汗とご苦労の結晶のはず、荒れているなど文句を言う資格は私にはない。ひたすら感謝である。

3合目付近から道は恵庭岳本体へ取り付き、旧登山道を辿るようになる。
岩を乗り越えながら次第に傾斜を増していく道、こんな時こそ余裕を意識し花を探しつつ歩みを進める。

恵庭岳
岩を乗り越えながら・・・

7合目の第一展望台までは樹林帯の中で見通しは利かない。
淡々と登るしかない苦しく辛い道のりだが、楽しみを見出せば辛さを忘れてしまう。
「居たよ、貴婦人が〜」待っていたツバメオモトのお出ましだ。

ツバメオモト
ツバメオモト

先週イチャンコッペ山で見かけたツバメオモト、恵庭岳には沢山ある。
とても上品で清楚な花、まだ時期が早いのか花をつけているのは僅かで多くは株を大きくしている最中らしい。小さな株は樹林の中に沢山、花の時期が楽しみである。

ツルシキミの白い花も咲き出している。
一見すると沈丁花に似ている可愛い花だが、有毒とのことなので注意が必要だ。

ツルシキミ
ツルシキミ

ミヤマハンショウヅルも恵庭岳では良く見られる花、今回は時期的に早く僅かな数しか見られなかった。
下向きにうつむきながら咲く花はシャイなのかなと思うけど、半鐘から名付けられたと聞くと意外に派手で目立ちたがり屋さんなのかもしれないな。

ミヤマハンショウヅル
ミヤマハンショウヅル

 

シラネアオイも咲き始めている。
人の心を優しくさせる柔な色合い、花びらも柔らかくひらひらしている。
色は淡い紫色が多いが、白花や赤みが強いもの弱いもの、紫が濃いもの薄いものと変化が多い。

シラネアオイ
シラネアオイ

 

斜度は段々と急になり6合目付近からは軽いジグを切りながら、さらにはロープ場も出てくる、そして登りと下りでルートが分けられた長く急なロープ場、恵庭岳の難所の一つである。
足を踏ん張りながら登るも急なザレ場で靴が滑る、すると握っている腕に全体重が・・・、キツイけれどロープは離せない。

やっとの事でロープ場を登りきり、岩の斜面を少し行くと第一展望台だ。

恵庭岳美しくも静謐さが広がる支笏湖

今日の支笏湖は風がないようで鏡のように静か、湖面に映る雲が靄のようにも見え幻想的。
この景観を眺められただけでも登って来た甲斐があるというものだ。本当に美しい。

目を転じれば恵庭岳の山頂岩峰と爆裂火口が荒々しい表情で佇んでいる。

山頂岩峰
恵庭岳山頂岩峰と爆裂火口

荒々しさと静粛さ、恵庭岳が持つ相反する二面性、これがこの山の特徴でもある。

展望台の岩に腰を下ろし、景観を眺めながらコーヒーとチョコケーキ。
これでは足りず、おにぎりも。至福のひと時である。

展望台にて
至福のひと時を楽しむ 表情にも余裕が

傍の岩にイワヒゲが咲いている、まだ咲き出しの旬の花たち。
たちまちモデルさんへと変身してもらう。

イワヒゲ
イワヒゲ

イワヒゲは比較的長く鑑賞できる花だけど、旬の時期は短く咲いていても縁が茶色に変色していることが多い花でもある。
咲き出したばかりのイワヒゲは透き通った純白に輝き、惹き込まれてしまう。

イワヒゲ
イワヒゲ

 

欲望に負け・・・

第一展望台で30分近く休息し、次の第二展望台へと向かう。
爆裂火口の縁を辿り岩混じりの道を斜上していく、深く薄暗い樹林の中にサンカヨウの白い花が点々と浮かんでいる。

超スローなペースでリスムを刻むことしばらく、爆裂火口の縁の小さな空き地である第二展望台へ飛び出した。
山頂岩峰が間近に見えている。

山頂岩峰
恵庭岳 山頂岩峰

私の記憶にある2・30年前の恵庭岳山頂岩峰とは、形が大分変わってしまっている。
爆裂火口寄りに岩が大きくせり出し、今よりかなり大きく尖って見えていた。
火口寄りのかなりの部分が崩落して痩せてしまったようである。
見るからに脆くなっているようでクラックも数多く入っている。

第二展望台から西北西の方向を覗き込むと、鬱蒼とした樹林帯から浮き出るようにオコタンペ湖と羊蹄山が見えている。

羊蹄山
展望台裏を覗き込むと、羊蹄山とオコタンペ湖が

何度も目にしているが、何度見ても素晴らしい感動の景観である。

ここでカミさんと相談、「僕は第二展望台を今日の山頂にしようと考えていた、でもサンカヨウの花を遠目に見て迷っている。
調子が悪くなければ、お花畑のある大岩の所まで行きたいけど、どうだろう?」
カミさん「今日は珍しいぐらい視界が良くて展望もすごい。私も大岩からオコタンペ湖や羊蹄山を眺めたい。」

と言う訳で、通行を制限しているロープのゲートを潜り抜け山頂へ向かう。
気を抜かなければ特に問題ない岩の道を進んでいくと、次第にサンカヨウやホツツジが目立つようになった。
山頂岩峰が目の前に立ち塞がるように巨大になり、正面右手に冬季ルートの目印になっている大岩が見えてきた。
大岩の手前にロープのゲートがあり、山頂へは崩落を回避するため一旦下って回り込むような踏み跡がつけられている。
私たちは大岩の上側に出るため、以前の道を少し進んで「私たちの今日の山頂」へ到着だ。

今日の山頂
私たちの今日の山頂はここ

溢れんばかりの陽光の中、清々しい大気、雪を残した羊蹄山や無意根山、ニセコ連峰に取り囲まれ、下にはミスティブルーに輝くオコタンペ湖、そして一人屹立する大岩が渾然一体となって絵のような光景を作り上げている。なんてすごくて素晴らしいんだ!

小さな平らな石の上に座り、残り半分のお弁当であるドライフルーツたっぷりの超厚切りパンを頂きつつ大景観を堪能する。
「思い切って来て良かったな」喜びを分かち合う、これまた喜びなのだ。

オコタンペ湖の不思議な色合い、光をたっぷり受けた今日の色合いもミステリーな雰囲気を醸し出している。

オコタンペ湖
見下ろすオコタンペ湖の摩訶不思議な色合い

私たちが座っている石は山頂岩峰の真下のため、山頂を見上げることは出来ない。
その代わり、最近人気だという西峰を望むことができる。
丁度その山頂に立つ人影を見つけた。きっと新たな感動を味わっているのだろう。

恵庭岳西峰
恵庭岳西峰の山頂と人影

 

ここでも30分ほど、ゆっくり大景観を存分に楽しみ、次のお楽しみであるお花畑へ。
その前にもう一度、名残惜しげに大景観を振り返る。だって、もう二度と目に出来ないかもしれないから・・・。

大景観もう直接見ることは出来ないかも・・・


少し戻り、大岩と山頂岩峰の間にある窪地が目的地のお花畑。
小さな雪田が残っている周囲に、サンカヨウ、シラネアオイ、イワウメ、ホツツジ、コメバツガザクラ、イワヒゲ、エンレイソウなどがひっそり咲き競っている。

シラネアオイ
シラネアオイ

この小さなお花畑、私たちのお気に入りで度々訪れているけど、今回初めて目にしたものがあった。
ヒグマの落し物である。まだ新しい。
こんなところまで食べ物を探しに来ているんだ。

ミヤマエンレイソウ
ミヤマエンレイソウ

よく見ればサンカヨウの葉や茎が鋭く食いちぎられている、それもたくさん。
鉢合わせしないよう注意しなくては、と改めて笛を吹く私でした。

サンカヨウ
サンカヨウ

コメバツガザクラはさすがに花の終焉時、花の縁が茶色に変色している。
盛りの時期には蜂たちが大きな体を何百回も潜り込ませていたのだから仕方ないか。


コメバツガザクラ

「慎重に降りようね」声をかけつつ足元を確認しつつ展望台へと下っていく。
足元に花びらが・・・、桜か?
見上げると、ミネザクラが「私を忘れないでね」と満開の花を咲かせていた。

ミネザクラ
今年最後の桜 ミネザクラ

 

欲望の果てに・・・

第二、第一展望台を過ぎ、本格的な下りに入る。
最大の試練は、下り専用の長いロープ場だ。
足に力が入っていないのか、急なザレ場が踏ん張れない。
腕のロープが頼りだが、足が踏ん張れないと腕の力も抜けていく。
「気持ちに余裕を」なんて思う暇もなく、しがみつくのが必死の状況。

「もう足がガタガタだよ、だけど滑って転ばないようしっかりゆっくり行くよ」
必死の様相で一歩を踏み出す、花がモデル気取りで私を見るけどカメラを構える余裕もない。
転ばないのが第一と思うが、それでも二人とも数回づつ尻もちを着いたはずだ。

面白みの少ない風倒木地帯へ降りてきた時は、心底ホッとした。

土鳩の鳴き声がフクロウのようにも聞こえ、数年前のことが思い出された。
芦別岳の旧道から山頂・新道を経て周回した時のことだ。
出発が遅れ、途中でダニの大軍団に襲われ、日暮れ間近に疲れ果てボロボロになって下山した時のこと。
惨めで哀れ、あの時と同様な感じで恵庭岳から下山してきた。

登る前に「心に余裕を持ち、楽しみながら」と誓ったのは何だったんだ。
少し調子に乗って山頂岩峰まで行ったのが原因だが、その前に自分たちの状況をしっかり確認せず、良い花の写真を撮りたい・大岩からの景観を眺めたいと欲を出したからに相違ない。

今回の恵庭岳、しっかり反省し教訓にしなければなるまい。
この歳で反省もないだろうが、何もしないよりずっと良い。
同じ失敗を繰り返さないよう、しっかり胸に刻みたい。

 

 



 

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