雨竜沼湿原

増毛山地   2019.7.30 (月)   霧・曇り


 

雨竜沼湿原

 

令和元年、今年は冷夏になのだろうか? 
7月末の時点でやや改善の傾向が見え始めたようだが、これまでの数ヶ月気温が低めで涼しさを通り過ぎ、うすら寒さを感じるような日々が続いていた。
巷ではお米や野菜の育ちが悪く、不作になるのではとの話もちらほら。
異常気象などとは無縁の、平穏な日本の四季が満喫できる日々であって欲しいと心から思う。


雨竜沼湿原

7月末なのでエゾカンゾウやアヤメは花の時期を終えたかもしれない雨竜沼湿原を訪れてみることにした。
理由があるわけではない、ただ何となく歩いてみたくなったのである。昨年、花の消えた尾瀬を歩いて淋しく残念な思いをしたことが引き金になったのかも知れない。

前夜、近くの道の駅に泊まり、朝6時過ぎには雨竜沼湿原ゲートパークへ。
天気予報は晴れ時々曇りで特に午前中は晴れマークが輝いていたが、実際のお天気は霧っぽい曇り空。暑くて汗だくになるより良いと、入山手続きやトイレを済ませ歩き出す。

第一鉄橋、白竜の滝、第二鉄橋を淡々と過ごし、湿原へと歩みを進める。
エゾニュウの白い巨大な花が圧倒的な存在感を誇示している。それに比べ「キツリフネ」の見逃してしまうほどの慎ましさが対照的だ。

第二鉄橋
第二鉄橋

 

第二鉄橋を過ぎると傾斜が少しきつくなり、山歩きの気分も高まる。
この二、三日、雨がちだったせいもあり、小沢の水が溢れ出て道や岩が滑りやすい。

最近の気温が低かったことを示すかのように、例年だったら咲き誇っているはずの紫陽花がやっと咲き出したところ。湿原の花たちも同様に遅れているのだろうか?
湿原の入り口近くになると急に青空が広がりだし、一気に期待が高まる。

入り口
湿原は間近、青空が広がりだした

 

湿原との境界をなしている小沢で靴底を洗い、雨竜沼湿原へ入っていく。
先ほど晴れるかに見えたお天気は、再び霧に覆われ暑寒別岳などの山は姿を隠している。
広がる湿原と山腹に霧の流れる山々の雄大な景観を期待していたのだが、そうそう上手くはいかない。
まっ、霧の湿原も良いものだ。

霧の湿原
霧の湿原 (休憩展望台から)

 

湿原の花々

設置されている休憩展望台で一休みして、湿原を歩き始める。
景観は勿論だが、湿原を彩る季節季節の花たちの姿を眺めるのが今回の一番の楽しみ。
今日はどんな花たちに出会えるだろうか。

目につくのが、タチギボウシ。まさに最盛期の様相である。
私はこの花の紫を見ると何故か秋を感じてしまうのだが、紛れもなく夏の花である。

咲き出しの旬の花は、サワギキョウ。
これから9月にかけて楽しませてくれる初秋の花が、初々しい表情を見せている。

サワギキョウ
サワギキョウ

 

湿原を周回する一方通行の木道に入ると、アザミやクガイソウ、エゾノシモツケソウなどがそれぞれの存在をアッピールし始める。

湿原のはな
霧の湿原で花々に囲まれて

 

霧の湿原を歩くと知らぬ間に衣服は濡れてしまい、あまり気分の良いものではない。
でも霧に濡れた花たちの表情は生き生きして美しい。
何時もは気にもした事の無いアザミ(エゾノサワアザミ)も、その繊細な表情に驚き見入ってしまう。
ナガボノシロワレモコウの花も目立っている、ワレモコウの赤く硬い穂とは全く異質の白く長い柔らかそうな花穂である。

アザミ
途切れる事もなく続く花畑け

 

この時期の雨竜沼湿原の主役は、やはりタチギボウシである。
この花は色の変化が多いことでも知られている、雨竜沼湿原でも色々な色の花に出会うことができる。その代表的なものを数枚、ご紹介しよう。

まずは標準的な色合いのタチギボウシ。

ギボウシ
タチギボウシ

次は、白花のタチギボウシ。
今回の雨竜沼湿原では数株の白花株を見ることができた。

ギボウシ
白花のタチギボウシ

次は、うすいピンクの花。
こんなに白に近いピンクは珍しいが、本来の赤紫からピンクの色合いの花は沢山見ることができる。

ギボウシ
うすいピンクの花、手前の花が標準的な色合い

 

この時期が羽化の最盛期なのか、アキアカネがすごい数で群れ飛んでいる。
大半はまだ赤みを帯びていない生まれたばかりのアキアカネ、寒くて飛び立てないのか木道に何百匹と固まってへばりついている。
注意していないと踏んづけてしまいそう。「危ないよ〜!」

アキアカネ
タチギボウシの蕾で休む「アキアカネ」

 

確か数年前に訪れた時、初めて見た「エゾイヌゴマ」。
この日も見ることができた、霧に濡れそぼった姿が艶かしい。

エゾイヌゴマ
エゾイヌゴマ

 

カミさんが変わった花を見つけた、「何かしら? ウンランとかシオガマの仲間かしら?」
花の形はシオガマに似ているけれど、赤やピンクのシオガマなんてあったけ?

シベリアシオガマ
シベリアシオガマ

帰宅してから調べてみた所、どうも「シベリアシオガマ」であるようだ。
もし違っていたら、ごめんなさい。

霧はときおり晴れそうな気配を見せるが、濃淡を繰り返すだけで一向に晴れない。
南暑寒別岳も暑寒別岳も依然として隠れたままで、これでは登っても仕方ないと南暑寒別岳は諦めた。

湿原
晴れそうな気配も漂うが・・・

ちょっぴり期待していた「エゾカンゾウ」は今回ほとんで見られず、わずか2輪の花を遠くから見ただけだった。すでに花の時期を終えたのだろう。
同様にヒオウギアヤメは早くも実をつけて来年への準備を始めており、見られるのは傷つき痛んだ花のみだった。

また蘭の仲間である「トキソウ」を10輪ほど見つけたが、木道から離れていてじっくり観察することはできなかった。

反面「クロバナハンショウズル」は数も多く、木道から十分観察できる。
果実の羽状の形も面白い。


クロバナハンショウズルの果実と花

 


クロバナハンショウズル

 

霧が薄くなる時間が長くなり、湿原を取り囲む丘や林の木々が現れだした。
それらを背景にした、クガイソウやエゾノシモツケソウなどが美しい。

湿原風景
咲き乱れるクガイソウやシモツケの遠くに木々の姿が

 

百合の仲間では、スカシユリは見られなかったがクルマユリを見ることができた。
ただ少し小さめのものが多いように感じた、姫クルマユリなんてあるのかな?

クルマユリ
クルマユリ

 

エゾノシモツケソウが群生している所は、鮮やかなピンクで染められ、一際目につく。
以前は派手な色合いな花を好きになれなかったのに、近頃この花が好きになってきたのは何故だろう。歳のせいかな?

エゾノシモツケソウ
一際鮮やかなエゾノシモツケソウ

 

よく見ると小さな花の集合体になっていて、球状の蕾がパッと開いて花となる様は線香花火が飛び散る様子にも似て可愛らしい。

エゾノシモツケソウ
エゾノシモツケソウ

 

ウメバチソウの姿も散見された。
多くの山で見られる花で珍しくもないが、均整のとれた美しい梅に似た花は私を惹きつけるのである。

ウメバチソウ
ウメバチソウ

 

南暑寒別岳への道を左に分け一方通行の木道を進み湿原の最北西部付近まで行った時、驚くべき恐ろしい光景に出合った。
木道の両際が掘り返されている、それも激しく無残に。
間違いなく羆の痕跡、好物だと言われるハクサンボウフウの根を爪付きのシャベルのような腕で掘り起こして食べたのだろう。
羆とこの木道で鉢合わせたら逃げ場もなくお手上げだ。幸い今まで雨竜沼湿原での羆の目撃情報は無いと記憶しているが、これは羆が人が居なくなる夜間から早朝にかけて行動しているからだろう。
何れにしても湿原の北西部、笹や根曲り竹の多い部分を通過する際は、要注意です。お気をつけ下さい。

湿原に点在する池塘には、ウリュウコウホネが花を水中から出している。
ただ木道からは距離があるので、咲いているのが確認できる程度で細部まで確認するのは難しい。

コウホネ
コウホネ

ヒツジグサも葉は確認できたので咲いているのだろうが、この日は時間も早く咲いている花を見ることは出来なかった。

 

全力下降!

概ね雨竜沼湿原を巡る木道の道を一周しようとする頃から、雨がポツポツ降ってきた。
明るくなりかけていた空は暗転して薄暗くなり、いかにも危ない気配。

ゆっくり湿原を眺めながら持ってきたゼリーや果物、お菓子などを楽しみたいのだが、ずぶ濡れにはなりたくない。
相談の末、雨と競争しながらでも急いで下山することに。
久しぶりに歳も忘れ、膝の痛みもどこにやら、小走り状態で駆けおりる。

下山時には滝壺まで降りてみようと考えていた「白竜の滝」も、5秒間のカメラタイムだけで素通りだ。

白竜の滝
今回は素通りの「白竜の滝」

自分でも信じられないが、約1時間で登山口のゲートパークへ。
雨には途中で何回が追いつかれたが、何とか振り切り濡れるほどではなかった。
ゲートパークの職員からも「早いですね〜」と驚かれ、「この時間だと上がって来る車があるので、運転には注意してください」と忠告された。

カミさんと「濡れなくてよかったね」と平静を装いながら、二人とも本心は「まだまだ、やれるもんだな」とまんざらでもなかったのである。

 

 

 

 


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