ワンツァン(6395m)
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期待
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ワラスの朝
ラフコルタ谷を遡る道は未舗装の狭く細い道、土ぼこりを巻き上げながら荒れた凸凹道をゆっくり登って行く。
途中小さな集落が幾つかあり、学校もある。
丁度小中学生の通学時間、モンゴル系で日本人と似ている顔も多く親近感を感じる。女性が山高帽に原色の上着やスカートをはき、これまたカラフルな布に荷物や赤ちゃんを入れて背負っている姿が目につく。
絵になる光景が幾つもあったが、この地の人達は写真を撮られる事を好まないと聞いていたし、昨日も小さな集落で撮影を断られていたのでトラブルになる恐れのある事は止めようと自重する。ラフコルタ湖へ通じる道は最近開けたそうだ。
地震や温暖化の影響で氷河が崩壊すると甚大な下流域の被害が予測されるため、湖に石積みのダムを造り流量調整する為に道路が作られたと言う。
今でも一般の通行は認められていないのだが、アルパイン・ツアー社が何とか許可を取り付けたのだと言う。私達ツアー客にとっては有り難い事である。
集落を過ぎ、目指す山々が近づいてきた時の事である。
東へと走る車の正面やや左に太陽が昇っている。
しばらく進むと、太陽の位置が先程より左側に移っていて、何とも奇妙な感覚に陥った。
「何だ?」自分の感覚がおかしくなったのかと首をひねっていたら、TSさんが「たかさん、太陽が変だと思っているんじゃない?」
「そうなんです、感覚がおかしくなっちゃたような気分なんです」
「そうでしょう、私も最初に来た時には不思議に感じたものです。ここは南半球なんだから太陽は南でなく北へ昇るのですよ。」そうなのか、南半球では太陽は北に昇るのか!
考えてみれば当たり前だが、初めて体験すると不思議な感じで、この後も方向感覚に慣れる事は無かった。
やがて右手に雪を頂く岩山が現れてきた。
トイレ休憩をすると言う。併せて撮影タイムでもある。
カシャン(5686m)
カシャンという5686mの山である。
皆さんが撮影に取りかかっていると、ツアーリーダーのUZさんが「これ等はまだまだ前座、真打ちはこれからですから・・・」
「う〜ん、そうなのか? 十分立派に見えるけど・・・。」
ラフコルタ湖は谷のどん詰まりにある小さな氷河湖。
エメラルドグリーンと言うかミスティブルーとでも言うか半透明の少し白濁した美しい湖。
その湖の後ろにはワンツァンが大迫力で聳え立ち、落ち込んでいる氷河の白が湖の青とのコントラストを際立てている。
ラフコルタ湖とワンツァン
湖の手前には野生のルピナスが咲き乱れ、その香りに囲まれて豊かな時間が過ぎて行く。「凄い、凄すぎる。これだけでもわざわざ来ただけの事がある」と、一人感動だ。
ワンツァンとルピナス
ワンツァン山頂直下の雪と氷の壁は何百mとほぼ垂直に切れ落ち、恐ろしいほどだ。
雪と氷の斜面が斜めからの光によって、浮き立つ光と影の芸術品に変わっている。
ワンツァン山頂部
流れる距離が短いせいか、氷河が汚れていない。
白く輝いたまま氷河がアイスフォールに変わり湖に落ち込んできている。
時折「ド〜ン!」「ザザ〜!」と言う氷河が崩れる音が湖面に響き渡り、水しぶきが立ち上る。
思わず、身構えてしまう迫力、凄さなのである。
皆さん、それぞれ気に入った場所を決め三脚を立て撮影に余念がない。
プロもどきの方達ばかりだから私の知らない機材や器具を駆使している。
KNさんやTSさんから露出補正のやり方を教えて頂き、色々試してみる。
KNさんは短めの望遠で、TSさんは長い望遠を使って切り取る構図をイメージしているようだ。1100までたっぷりの時間を使って撮影三昧なのである。
いつも歩きながら写真を撮っている私には、正直時間を持て余すほどのゆったりさ。
ワンツァンの勇姿を眺めながらお花畑で寝転んだり、ガイドたちと話をしたり、皆さんとは違った意味で贅沢な時間を持つ事が来出た。
ラフコルタ湖での撮影を終え、少し下ったU字谷の広々とした草原で昼食。
行き掛けに降りていたスタッフ達が温かい料理を作って待っていてくれた。
スープ、カツレツ、生野菜のサラダ、デザートが大自然の中にしつらえたテーブルに並べられる。
大草原での食事
時間はたっぷりあると、素晴らしいお天気と大景観の中、ゆっくりと食事。
ラフコルタ湖とワンツァンの雄大さ、美しさが食欲をさらに増してくれるようである。食後も放牧の牛が遊ぶ草原とお花畑の中でお昼寝を楽しむ余裕すらある、のんびりした素晴らしい昼食、時の流れであった。
放牧小屋
昼食後は一旦ワイラス回廊の幹線道路へ戻り、反対側のネグラ山脈からブランカ山群を眺める趣向が設けられていた。
ネグラ山脈に上がる道は住んでいる人々の為のもの、狭くつづら折りの道、所々崩壊していて通過するのが怖いほどの道が続く。ウイルカ湖(3700m)はツアーリダーのUZさんがワラスの知り合いから教えてもらったと言う秘密の展望場所。
多分観光客は一人も来たことが無いだろうと言う所だ。悪路に揺られ、疲れも出てきた頃ではあったが、湖に着くと目を見張る大展望が私達を待っていてくれた。
池のほとりの丘には貧しい民家が建ち、そのむこうに白き山々がズラリと立ち並んでいたのである。
ウイルカ湖からの景観の一部
右からシャクシャ、カシャン、ワンツァン、ワマシュラフ
南から北へシャクシャ(5703m)、カシャン( 5686m)、ワンツァン(6395m)、ワマシュラフ(5668m)、チュルップ(5495m)、ランラパルカ(6162m)、オクシャパルカ(5888m)、バユナラフ(5675m)、コパ(6188m)、ワスカラン(6768m)などがお出迎えなのである。
ワンツァン
午前中訪れていたワンツァンはさすがに大きい山で、直ぐに判った。
北峰はまだ雲に隠れていたが、特徴ある氷河が目立ち群を抜く高さを誇っている。
バユナラフ
特徴的な姿で眼を惹くのはバユナラフ(5675m)だ。
鋭い双耳峰が存在を自己主張している。
オクシャパルカ
そしてオクシャパルカの扇を開いたような姿とヒマラヤ襞も印象的だ。
ツアーリーダーのUZさんを中心に、山座同定。
十数回もアンデスを訪れていると言うだけあって、迷う事なく同定してみせる。
ガイドのエリンケ君も傍で、そうだそうだと頷いきながら補足説明をしてくれる。民家の傍で民族衣装を着た女性が作業をしていた。
写真を撮らせてもらえないか、メモを見ながら「オラ〜。プエド・トコール・ウナ・フォト?」と身振り手振りで聞いたが、嫌だと断られる。
無理強いは良くないし、現地の方の意思は尊重しなくてはと、残念ながら即諦めた。
農作業を終え、ロバを連れて家路を急ぐ人達
夕方の5時過ぎ、仕事を終えたのだろう三々五々家路に着く人影が見え始めた。
その一部を望遠で捉えさせて頂いた。
1800にホテルに帰り、1930夕食。
お風呂に入り、大まかな記録の整理して2100にはベットに入った。
ところが昼間の興奮状態が続いているのか、なかなか寝付けない。横になっているだけでも疲れはとれるだろうし、眠れないのなら眠れなくても良いと開き直る。
自分では気付かないが、昼間見た大景観は眠れないほどの興奮状態を脳に持続させていたのだろうか。
明日からも絶景の見所が続く、大丈夫かな?
雨期から乾期へ移るこの時期、季節は冬に向かっているのだが、雨期に咲いた花がまだ沢山咲いていた。
日本の花に似ているものもあったけど、まるで判らない花が殆どだ。
ガイドに花の名前を聞いたけど、科も種別も判らない。そこでいっさいの注釈は止めて、花の写真だけご覧頂こうと思う。