遍路3日目

(11番藤井寺、12番焼山寺、鍋岩)

 

藤井寺
朝の藤井寺山門

 

遍路3日目  
2008.3.7(金) 晴れのち曇り

0645 民宿吉野
0700 藤井寺
0725〜0730 端山休憩所
0815〜0825 長戸庵
0920〜0935 柳水庵
1015 一本杉
1130〜1245 焼山寺
1335 鍋岩 鍋岩荘
今日の歩行距離
  31337歩
17.5km
総歩行距離
 106987歩
64.6km

気合い

今日の行程は、1200kmとも言われる遍路道の中でも「へんろ転がし」と呼ばれ、一二を争う険しい道らしい。
宿でご一緒の人たちも朝から気合いが入っていて、以前歩いたという方が「ここを越えるのが一番の難所、後は大した事は無い」と大きな声で言いながら朝食を摂っているのが耳に入る。
普通の人で6時間、遅い人なら8時間、早い人でも5時間が必要だとの事、かなりの行程だ。

幸い、昨夜から降っていた雨も上がり、お天気は大丈夫のようだ。
私達も入念にテーピングをし、食料やおやつ・水をザックに入れ、険しい道に備える。
でも山好きの私達、内心は標高差5・600メートル程の山の稜線を歩くだけなので、山登りと思えば大した事無いのではとも思っているのだが、さてどうなりますことやら・・・。

先発の人たち6人ほどが、朝6時過ぎに勇躍出発して行った。

 

 

 

 

へんろ転がし

私達も準備を整え、7時前には宿を出た。
焼山寺への遍路道は藤井寺の本堂脇から始まっていた。
取り付きからかなりの傾斜、これを平地と同じようなペースで歩いたら参ってしまうのは目に見えている。何時もの山歩きペースでゆっくり登り始める。
道の両側には当初四国88カ所のご本尊が祀られ、簡易的に88カ所巡りが出来るようになっている。
その後も適当な間隔でお地蔵様などが立てられていて、軽く頭を下げながら順次通過して行く。

木々の枝には「同行二人」「がんばれ」「へんろ道」などなど、沢山のお札が吊るされ励ましてくれている。
歩いた者だけが判る有り難さだ。

25分ほど登ると展望が開け端山休憩所、吉野川がよく見える。
丁度散策に来られていた地元の方が居て訊ねると天気の良い日は淡路島や紀伊半島まで見えるそうだ。
あいにくこの日は霞んでいて吉野川と北側の丘陵地帯が何とか見える程度であった。

石仏石仏やお地蔵様が何体も立てられている

 

吉野川と北側の丘陵が見えていた端山展望台から

端山休憩所からは傾斜も緩み、杉林と落葉樹林の間に道は緩やかに続いている。
落ち葉が分厚く積もった道はフカフカで気持ち良く歩き易い。
さすが南国、北海道では家の中で寒さから守っている「アオキ」が緑色も鮮やかに大きく自生しているし、椿はもちろん沙羅双樹の木も沢山見られた。

約1時間で長戸庵、無人の小屋だ。
ここで昨日までに何度かお目にかかっていた80歳位と思われる男性が休んでいた。
少しお話しすると、足にマメを作り昨日は10番切幡寺からタクシーで11番藤井寺をお参りして宿でマメの手入れをし、今朝もタクシーで藤井寺まできて6時前から歩き始めたとの事。
その頑張り、気力、根性に心から敬服。
無理をされないようお願いする一方、ご健闘をお祈りして先に行かせて頂いた。

焼山寺への道気持ちの良い山道を行く

長戸庵からは急斜面をトラバースするように道が作られ、緩やかなアップダウンを歩いて行く。
所々スミレが咲き、花好きのカミさんはシュンランの株を幾つも見つけ嬉しそうだ。

丁度、焼山寺まで半分の距離である柳水庵へは長戸庵から1時間。
数年前までご住職夫妻がおられ温かい持てなしをして下さったそうだが、今は無人。
冷たく美味しい水が流れており一休みしながら、おにぎりを一つづつ食べてエネルギーの補給をする。

柳水庵に流れる湧水柳水庵

尾籠な話で申し訳ないが、環境が変わったせいか二人とも遍路に出てからまだお通じが無い。
気になって、牛乳や水を積極的の摂っているのだが思わしくない。
何となく重苦しく気持ちは良くないが食べられるし、体調そのものは悪くないのが有り難くも不思議である。
ここにはトイレも設置されている。

柳水庵からはいったん下がり、杉林の中のイノシシの掘り返しがものすごいジグザク道を一定のペースで上がって行くと、目前に巨大な杉とこれまた巨大なお大師様の像が現れた。
一本杉と言う所だ。

一本杉
一本杉にて、お大師様とどちらの方が大きいの?

よくもこんな山の中に大きな銅像を立てたものだと驚くばかりだ。

ここで同じ宿に泊まり先発していた二名に追いつく、秋田のガッシリした体型の男性と鹿児島のバイク大好きと言う女性、男性の話のよるとこれから一挙に下りそして正念場の覚悟の登りが待っているとの事。
彼らと一緒に標高差300mほど下ると山の中にひっそりとした小さな集落。
畑があり、ミツバチの巣箱などが幾つも置かれていた。

山間の小さな集落集落

焼山寺の山焼山寺への「覚悟の登り」

いよいよ「覚悟の登り」と言われる登りに突入。
先行させてもらいながら高度計をC'Kすると、焼山寺までは標高差300m強。
1時間の腹づもりで、ゆっくりペースで登って行く。
カミさんも快調そのもの、半年ぶりの雪の無い山道を楽しんでいるようだ。
昨夜の雨はこの辺りでは雪だったらしく、うっすら白くなっている所も。
北海道を出て、三日ぶりの雪に何となく嬉しくなる。

集落
私の心に一番しみた木の枝に吊るされたお札

どこからが「覚悟の登り」なのかと思いながら歩いていると、前方に車が走る立派な参道が見えてきた。
「覚悟の登り」は夢・幻だったのかな?

焼山寺への道は大変厳しい道として名を馳せているが、私たちにとってはアスファルトの道を人目を気にしながら歩くのに比べて、気分も楽で、歩き易く、足にも優しい、とても楽しい道であった。
何日かに一度はこういう道を歩きたいものだねと、カミさんと話し合った。

 

焼山寺

標識に従い参道を進む、参道沿いには寄進者の名前が彫り込まれた真新しい石柱や石仏がずらりと並び、信仰の厚さ・深さ・凄さを実感させられた。
山門を潜れば、巨大な杉の大木が立ち並ぶいかにも神聖な焼山寺境内。
藤井寺を出てから、4時間半であった。

焼山寺山門の仁王様焼山寺山門

汗をかいた体が立ち止まると少々寒い。
風をひいては一大事と、ダウンジャケットを羽織る。

弘法大師が実際に修行されたお寺だけあって、気のせいかとても神聖で神秘的な感じさえ受ける。
静寂な山中、巨大な太い杉林、圧倒的なスケールを感じさせる建物、苦労して登ってきた気持ち、そういうものが複雑に関連し合って私たちの気持ちを厳粛なものにするのだろうか?

昨日法輪寺でおじいさんから教えて頂いた作法に従い、お参りする。
我ながらこれまでで一番真剣に心からお参りできたような気がした。

納経所近くの景色が見渡せる場所で残りのおにぎり、みかん、ゼリーなどを食べる。
まだ時間も早いので焼山寺山にある奥の院まで行きたかったが、どうもお寺より上は雪道となっているようで滑ったら危ないと自重する事にした。

境内を散策するも、だんだん寒くなってきたので下山する事に、最初は斜度も緩く美しい竹林などもありお散歩気分だが、すぐに小石混じりの急な下り坂となり足への負担が大きい。
歩幅を小さくし、ゆっくりステップを刻もうとするが、傾斜に逆らえず小走り状態になり太ももが張ってくるのが判るほどだ。

竹林松と竹の調和した美しい林

途中、舗装道路に出た所に杖杉庵があったが、関心が無いので素通り。
ここから再び梅林の中を急降下するへんろ道、前半の下りと相まって太ももや膝への負担が大きく、この道こそ正真正銘の「へんろ転がし」ではないかと感じたほどであった。
無人の販売所で植物繊維の多い、干し芋を買う。
これで溜まっているものがお腹から出てくれると良いのだが・・・。

 

気さくなご主人

今日の宿は鍋岩にある「鍋岩荘」、まだ時間は午後1時半だ。
おかみさんが「まだ時間はたっぷりあるわよ。家は大丈夫だから行ける所まで行ったら?」と言ってくれるが、とても奇麗で木の香りがするような贅沢な造りの建物が気に入って泊めてもらう事に。

木がふんだんに使われ、梁などは太い松、本当に贅沢な作りで部屋も快適、すぐに沸かしてくれたお風呂も分厚い木の浴槽、二人してゆっくり昼風呂を楽しめ最高、疲れもすっかりとれたような気がした。

鍋岩荘にて鍋岩荘

ここのご主人は仕事ぶりはどうだか知らないが、とても気さくで歴史好き、特に豊臣一族、石田三成がご贔屓で、織田信長はどうも嫌いで敵らしい。
私の名前から私の事を「高坂弾正」と呼び、彼にまつわる話や宿敵信長の話が尽きる事が無い。
おかみさんは、「しょうがないわね」と言った風情で黙々と仕事をこなしている。
気さくだが気楽な人でもあるらしい。

ちなみに、国会での失言や年金未納問題を反省し、にわか坊主となって遍路旅をした民主党の菅直人氏もここに泊まっていた。

料理も川魚の塩焼き、山菜の天ぷらをはじめ大変美味しく大満足。
好感度の高い宿ではないだろうか。

 

湿布大作戦

私達の趣味は山歩き、歩く事には慣れてはいるが、山歩きは基本的に短期決戦。
多くは1日だし、長くても3日位。何十日も歩き続けるお遍路とは異質なものだ。
そのお遍路旅で心配しているのが、足のマメ。
幸い二人ともまだ出来ていないが、カミさんは足の張りを訴えている。
お風呂上がりに足が湿布薬で真っ白に隠れてしまうほど、貼りまくっている。(写真でお見せできないのが残念だ)
ま、チョッピリ臭うが、元気に歩いてほしいから我慢・我慢。

 

 

歩き遍路中、最大の難関と皆から聞かされ登山と思って歩き始めた。
山道は故郷、房総を思い出させる木々や下草が出迎えてくれて懐かしさに心が躍る。(田舎育ちを幸せだと久しぶりに感じさせられた)

気持ちを引き締めていたせいか気付けば焼山寺!
日陰に雪が残っていて境内を吹き抜ける風は冷たいが満足感で一杯。

梅の香や 杖もねぎらう 焼山寺

 

山坂の けわしき岩根 ふみわけて
    梅よ 椿と よろこび登る

 

 

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