ヒマラヤ紀行 Part4

 

チョラパス〜ゴズンバ氷河〜ゴーキョ

 


ゴズンバ氷河を横断

 


 

11/12(木)曇りのち小雪 ゴラクシェプ〜ロブチェ
11/13(金)晴れ ロブチェ〜ゾンラ
11/14(土)晴れのち曇り ゾンラ〜チョラパス〜タナック
11/15(日)曇り タナック〜ゴズンバ氷河〜ゴーキョ

暑い夜

夜中、暖かくて目が覚める。
ここは標高5140mのゴラクシェプ、寒さで震え上がる事はあっても暑くて目覚めるなんて普通は考えられない場所なのにである。

ド・ド〜ン!」ひときわ腹に響くような雪崩の連続する音が大きく長く、何回も続いた。

「あ〜、暖気が入ってきているんだ。お天気が崩れるのか〜・・・」気が滅入り、テントの中で一人悶々とする。

 

どんより

キッチンボーイが紅茶とビスケットを持って起こしにきてくれた。
ついでに外を見ると案の定、昨日より低くどんよりした雲がべったり張り付いている。
プモリもヌプチェも山頂部は雲の中だ。

昨日の午後、カラパタールへ登っておいて良かった。
今日なら登っても何も見えないだろう。

朝食時、ロッジのダイニングに集まっていた人達の顔も心なしどんよりしているように見える。
ここまで何日もかけて晴天のもとに広がる大展望を期待して来た人達ばかりなのだから、その気持ちは私にも痛いほど良く分かる。

黙って静かに帰り支度をしている人、もう一泊するか悩んでいる人、この天気でもカラパタールへ登ってみようとしている人、夫々置かれた状況に対応しようと動き出しているが、お天気同様どんよりした雰囲気が皆さんを支配しているかのようだ。

 

決断

ニマさんと今後について相談。
私としては、出来ればゴラクシェプでもう一泊して晴天のカラパタールからの大展望を堪能したい希望がある。
しかし仮にお天気の崩れが続きチョラパスを通過出来ない場合を考えると、大きく迂回してゴーキョへ向かわなくてはならず、今日下りだした方が良い。
どうするか、苦渋の選択である。

相談の結果、大展望はゴーキョで必ず見られると心に決めて、カラパタールを離れる事を決めた。
一旦、ロブチェまで下り、チョラパスを越えられないゾッキョ達の荷物とポーターが担いで行く荷物を分けて、チョラパス越えを狙う事にした。

 

素晴らしいご夫婦

ロブチェまではクーンブ氷河を良く眺められる山腹に付けられた細い道を通って下った。
通常の道を歩く人達が小さく豆粒のように見えている。

ロブチェまで戻って来た時である。
一組の欧米人の老夫婦に出会った、ドイツの方であろうか。

奥様の足に軽い障害があり、腕にはめるタイプの松葉杖をつきながらトレックしている。
勿論、奥様のペースで極め付きのゆっくりなのだが、二人とも何とも良い顔をして歩いているのだ。
障害を自分たちの物として受け入れ、逆に楽しみながら二人で協力し乗り越えている様だ。

ちょっと声をかけ少しお話をしたが、お二人のお互いを見やる目線の優しさ、思いやりの気持ち、そして意志の強さ、そんなものに心を打たれ思わず涙が出てしまった。

全く、すごい夫婦が世界には居るものだ。
私たち夫婦もその末席位は汚せるよう、思いやりの気持ちを持ち続け誠実に生きていきたいと改めて痛感した。

 

まばゆい朝日

夕方から降り始めた雪は朝には止み、積雪も2cm程。
うっすら白くなった大地は掃き清められたような美しさだ。
ヌプチェに傘雲が掛かって、これまた美しい。

ヌプチェ朝のヌプチェ

まだ朝も早いのにヘリコプターが飛来した。
レスキュー・ヘリだ。二人の人が運び込まれ、慌ただしく飛び去って行った。
高山病なのだろう、大変な事にならなければ良いが・・・。


再配分

お天気も大丈夫そうなので、チョラパス越えを決定。
チョラパスを越えられないため大きく谷を南のタンボチェ近くまで戻って再び北上するゾッキョ達に積む荷物と、チョラパスを越えるポーター達が担ぐ必要最小限の荷物に振り分ける。

出発準備をしていると、ロッジに宿泊していた西遊観光の6名パーティの方達にお会いする。
挨拶を交わし、久しぶりに日本の方とおしゃべりだ。
皆さん今日は最終目的地のカラパタール、お天気も良く嬉しそうだ。

 

ゾンラ(4830m)へ

チョラパスへはロブチェから少しトゥクラ方面に戻り、山肌をトラバースするように西へ回り込み北西へと向かう。

道はこれまでと比較して細くなり、行き交う人は極端に少なくなる。
逆にポツン・ポツンとすれ違うトレッカー達は、皆さん明るく饒舌である。

プモリ
プモリなどの景観も見納め

 

チョラツェ(6335m)

やがて正面左手にチョラ湖とチョラツェが見えて来た。
深い不思議な緑色をした氷河湖であるチョラ湖、ミスティ・グリーンと言えば良いのだろうか? 本当に美しいと言うより不思議な色をしている。
そしてその奥に鋭い山容を誇示するかのように屹立しているのが、チョラツェ(6335m) である。

チョラツェ
チョラツェとチョラ湖

鋭く尖ったピークもさることながら、ほぼ垂直に1000m以上も切れ落ちる東壁の凄まじい迫力に圧倒される思いである。

 

シェルパのラッツパ君

スタッフの一人にラッツパ君というまだ16歳の少年がいた。
彼の役割はシェルパ。
最初はガイドの補助的な役割かなと思っていたら、キャラバンのすべての仕事の見習いをやらされていた。
このラッツパ君、すでに6800mの山に登っておりしかも身体的変化は何も無かったと言う、将来を嘱望されている高所シェルパ要員なのである。
現在はベテランシェルパのニマさんのもとで修行しているだそうだ。

ロブチェからチョラパスを越えてゴーキョまで彼はポーターの役目を負う事になったらしい。
かなりの重量と容積になった大荷物と格闘しながら、歩き始めた。

ラッツパ君ニマさんとラッツパ君

 

素敵なキャンプサイト

お昼頃、ゾンラに到着。
ロッジが2軒ほどのあるだけだが、チョラパス越えには必要不可欠な所なのだ。
私たちはさらに1時間ほど進んだ所でキャンプの予定。
これがテントを持つキャラバンの威力なのだろう。

チョラパスへの登りに掛かる手前の丘の上が今日のキャンプサイトだ。
大きな岩が点在し、草原が続いている。(所々にヤクの糞が落ちているが・・・)
北側にはチョラパスの岩山、東側にはロブチェ・ピーク(6135m)、すぐ南にはチョラツェとアラカムツェ(6423m)、遠くにはアマダムラムがそびえ立ち、広大な清々しい気持ちが大きくなるような素敵なキャンプサイトである。

アマダムラム
キャンプサイトから南のアマダムラム方向を見る

 

草原にテントを張り、スタッフ達は大きな岩穴のような所にシートを張って寝場所を確保。
昼食後は皆それぞれ気に入った場所を見つけ、お昼寝タイムである。

遅れに遅れ、心配したニマさんが迎えを出したラッツパ君。
同僚に半分の荷物を持ってもらい、疲れ切った表情で、ようやく到着。
健闘を祝して拍手で出迎えてあげた。

 

星・星・星・・・

夕食後、スタッフ達は岩穴の前で拾い集めたヤクの糞を燃やしてキャンプ.ファイア。
楽しそうな話し声や歌声が聞こえて来る。
やはり雄大な草原でのキャンプは、ロッジの庭の片隅でするのとは気分も違う。

外に出てみると、まさに降るような星空。
天の川が二本流れ合流しているのが肉眼ではっきり見える。
「すごい! すごすぎる!」

寒さも忘れしばらく見入っていると、なんだか自分の小ささ、はかなさのようなものが感じられ、妙に寂しく、むなしい気分に陥り、すごすごとテントへ引き返した。

 

ランチボックス

いよいよチョラパス越えである。
このツアーでぜひとも歩いてみたかった所の一つなのだ。
幸い、お天気も良好。気持ちも晴れ晴れしている。

チョラパス
テントサイトから見るチョラパス

スタッフも朝から生き生き、今日は途中で昼食を作れないため、ランチボックス(お弁当)が配られた。

 

気配り

昨日、重荷のためバテてしまったラッツパ君。
今日の荷物も変わらない。

それではあんまりだと、カメラの三脚、衣類などを自分のザックへ移し替える。
それに気づいたニマさんから感謝の言葉を受ける。
一緒に行動している仲間だと思っている私にすれば当たり前の行為なのだが、雇っていると言う気持ちの人には分からないかも知れないな。
ニマさんも今日は自分のシュラフを持っての行動だ。

 


チョラパス(5368m)越え

最初の1時間は小石の多い急なガレ場を小さなジグを切って登って行く。
やがて岩場と言う大きな岩がゴロゴロしているガレ場(トムラウシの北沼からの登りの感じ)をニマさんの先導で着実に登れば、約30分でタルチョがはためきケルンが積まれた格好の休憩地点だ(5200m)。

ロブチェピーク
休憩地点(5200m)からロブチェ・ピーク(左)を見る

休憩中、ロブチェ・ピークの山頂直下を登っているパーティを発見。
かってニマさんが登ったのと同じルートだと、双眼鏡で見ながら詳細に説明してくれた。

5500mでもフーフー言っているのに、6500mの岩と氷の世界をアタックしている人達がいる。
私とは次元の違う世界に住む人達だ。
遥か下界から、登頂の成功を念じ、見える筈の無い手を振った。

この休憩地点から峠までの標高差150mほどは、これまでと一変して岩と雪のミックス地帯を少し歩き大きな雪渓に出る。
斜度もさほど無く雪も締り歩き易いが、ストックがあれば安心だ。

チョラパスはもうすぐチョラパス

ほどなく、タルチョが幾つもはためくチョラパスに到着した。
ここで大休止、昼食にする。
東から南にかけては雲は多めだがまだ晴れ間も多い。
それに引き換え、北西方向には雪雲のような低い雲がたれ込め視界も良くない。所々降っているようだ。

このため、チョ・オユーやギャチュンカンなどの姿は見る事も出来なかった。
しかしながら、チョラパス自体は予想していた通り、ちょっぴりの険しさとスリルもあり、歩いて良かったと満足感に浸りながら脂っこいランチの揚げパンを口にした。

チョラパスチョラパス

 

嫌な下り

チョラパスからタナックへの下りは、不安定な石の多い急なガレ場の下りで神経を使う。
ここを登るのは嫌だなと正直、そう思った。

登って来るパーティ数組とすれ違ったが、皆さん消耗していて本当に苦しそう。
「ビスターリ!」「ファイト一発!」などと励ましたり、笑わせたりしながらすれ違ったが、口も利けないほどの人も居た位だ。

この急坂を注意して下り切ると小さな丘を越えれば、後は下るだけでひなびたロッジのあるタナックに着く。

タナックのロッジはゴーキョから来て明日チョラパスを越える人で一杯。
にぎやかな一夜が過ぎて行った。

 

氷河横断

タナックからゴーキョへはゴズンバ氷河を横断するのが近道だ。
今日はその氷河を横断する。初体験だけに楽しみでもあり不安でもある。

朝、タナックのロッジに泊まっていた外国人トレッカーのうち2名が高山病のため急遽下山しなければならなくなったと泣いていた。
嘔吐が激しいそうである。
ここまで来て、可哀想に・・・。

ニマさんを先頭にタナックを出発、15分ほどでゴズンバ氷河の一角に出た。
氷河と言われなければ、ただ大小の石が積み重なった小山の連なりにしか見えない。
良く見れば小さな小山の表面が削れた所から青氷が見え、低い所にはかなりの水がたまっているのが見える。

ゴズンバ氷河
ゴズンバ氷河を横断する、溶けた氷河が池のようになっていた

氷河のルートは毎年変化するそうで、ニマさんが最初に辿ったルートは氷河の溶けた大きな水たまりで通行不能となっており、大きく迂回するはめになった。
迂回した所も水があり、ポーター達と協力して石を投げ入れ、飛び石伝いに渡り切った。

飛び石伝いに渡る氷河

ゴズンバ氷河の幅は800mほど、さして幅広い訳ではないのだが、地形が複雑に入り込みルート・ファインディングはむずかしい。
ガイドなしでは、かなり苦戦するのではなかろうか?

実際私の場合、ガイドの案内で約1時間を要した。

ゴズンバ氷河
渡り切って下流方向を見る

 

ゴーキョ

どうにか氷河を渡り終えサイドモレーンを乗越すと、緑色の水を蓄えた湖が見えて来た。
ゴーキョ第2レイクである。

ゴーキョ2レイクゴーキョ第2レイク

この辺りでナムチェバザールからドーレを経てゴーキョへのメインの道路に合流し、トレッカーの数が急に多くにぎやかになった。

そして20分も歩けば、ロッジが何軒も立ち並ぶゴーキョである。

ごーきょ
正面の小高い丘がゴーキョ・リ(5357m)

昼食後、ゴーキョ周辺を散策しようと思ったが、時折日が射すものの雲が多く見通しも悪い。
裏の丘に登ってみたが眺望も利かないので、テントでシュラフを干し、読書。
考えようによっては、ゴーキョまで来て読書とは贅沢な時間の過ごし方ではある。

 

ゾッキョ

その内、ロブチェで分かれたゾッキョ3頭がゾッキョ飼いに連れられてやって来た。
荷物を降ろしたゾッキョ達は広場の片隅でお昼寝だ。
そんなゾッキョをゾッキョ飼いは優しく手入れをしてやっている。
彼は決してゾッキョ達を叩いたりしない、声をかけ首やお尻を押して動かしている。
きっと心根の優しい青年なのだろう。

大きいけれど澄んだ目、呼べば振り向く懐きよう、おとなしい性格、良い動物である。

ゾッキョ
手入れをされて気持ち良さそうなゾッキョ

 

計画修正

計画通りチョラパスを越えられたので、トレックの全体計画に余裕ができた。
そこで計画を修正する事に。
丁度お天気は下り坂、明日は見込み薄かも知れないし・・・。

2泊の予定だったゴーキョに4連泊しても1日の余裕ができる。
当初はレンジョ・パスを越えターメ経由でナムチェバザールへ戻るつもりだったが、モンラ峠からの景観が素晴らしいと聞いたので、レンジョ・パスはゴーキョから日帰りしてモンラ峠経由で戻る事にした。

その旨をペーパーに書いてニマさんに相談、「OK,OK」スタッフのみんなも一休み出来ると喜ぶだろうと了解してくれた。

今回のトレックの後半はゴーキョを中心としてゆっくりのんびり過ごす事が出来そうだ。

 

 

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