チョモランマ(8850m)
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停滞
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残念なお天気で、日程に余裕の無い人はさぞかし無念な思いで居る事だろう。
現に期待出来そうにない天候の中、万に一つの期待を胸に、ゴーキョ・リに登って行く人達の姿が何組も見えている。その方達には申し訳ないが、こちらは日程を持て余すほどの余裕がある。
明日かあさってには、天も機嫌を直してくれるだろう。それまで、気長に待つとしよう。
こんなゆっくりした時間、普段は過ごしたいと思ったって過ごせないのだから・・・。
午前中はカメラの手入れと読書。
深く重い内容で、気軽の読むにはどうかなと思いながら持って来た一冊、こんな時には丁度良い。
時に考え込みながら、ページを繰れば、時間の経つのはあっという間である。昼過ぎ、外に出て湖畔でぼんやりしていると、レンジョ・パス方向から見慣れない格好の二人連れが犬を連れてやって来る。
トレッカーのようには見えない、かといって現地の人でもないようだ。昔風に言えばヒッピー・スタイルのイギリス人のご夫婦。
長い杖を持ち、長く汚れた外套のようなものを着、小雪の中を影絵のように近づいて来る。
話しかけてみた、とても静かな物腰と口調で「少し苦労したけど、峠を越えてやって来た。安い宿はあるだろうか?」何か、トレック以外の目的を持って今を一生懸命生きている人のようにも感じられた。
ともあれ、不思議な雰囲気を持っているご夫婦である。連れていたレトリバーはおとなしく、シェルパやポーター達の人気者になっている。
人生って何なのだろう、そんな事を考えさせる人達であった。
本格的な雪になってきた。風も強い。
ただ、気温は高く標高4800mのゴーキョでもプラスだと思われる。
明日の天気を思うと気も滅入るが、こうなったら開き直るしか無いだろう。夜中、スタッフが2度テントの雪を払い落としに来てくれる。
朝、外を見ると20cm位の積雪、まだ小雪が舞っている。ロッジの食堂では多くのトレッカー達が所在なげにぼんやり外を見ている。
他にしようがないものな!
私も仕方が無いから荷物の整理でもして、時間を潰す事にしよう。午前8時半頃、団体の人達が日程の余裕が無くなったのだろう、雪の中黙々と下山して行く。
さぞ残念で心残りの事だろう。何とか晴れてもらいたい。
お願いします。神様、仏様、ネパールの神様。後で聞いたのだがこの悪天候、ベンガル湾を季節外れのモンスーンが北上してもたらしたものだそうだ。
午後から雪は止み、時折晴れ間が見えだす。
ゴーキョ・リの丘は雪で真っ白、珍しい光景なのかも知れない。
雪のゴーキョ
チョ・オユーが姿を見せそうな感じとなり、裏手の小高い丘に登ってみる。
雲がしつこく残り、山の眺望はお預けとなったが、天気は明らかに回復傾向。
明日に期待である。
ゴーキョに滞在しているすべての皆さんと共に、祈ろう。
裏手の丘からのゴーキョ、正面はレンジョ・パス方向
11/18(水) 目覚めると数日振りの素晴らしいお天気。 超・嬉しい〜!
待ちに待っていたトレッカー達が待ちきれず0500頃から続々とゴーキョ・リを目指して登りだしている。
朝食をそこそこに済ませ登頂準備をしていると、ラッツパ君がやって来て私の荷物を持つと言う。
彼にしてみれば、チョラパス越えの時の恩返しであるらしい。
「軽いから大丈夫だ」と言うのだが、持つと言って聞かない。
彼の気持ちが嬉しく、それを大切にしようと、三脚と望遠レンズをお願いした。
標高差550mのゴーキョ・リへの登りは斜度も結構あり、キツい。
最初ラッツパ君がペースを作ってくれるが、早い。
早すぎて付いて行けない、ニマさんが途中から代わってくれ一安心だ。救助ヘリがゴーキョに着陸して、背負われた人が収容されて行く。
可哀想に悪天の2日間、苦しんでいたのだろうか?
貴方の分まで、大景観を見てきますよ。途中、荷物を降ろしての休憩1回、立ち止まっての小休止7〜8回、昨日出会ったヒッピー・スタイルのご夫婦も同じようなペースで登っている。
2時間と少しでゴーキョ・リにたどり着いた。
眼下には、ゴーキョの湖とゴズンバ氷河そしてヒマラヤの山々が立ち並んで私を待っていてくれた。
ゴーキョの湖とゴズンバ氷河
ご多分に漏れず、ここゴーキョ・リにも沢山のタルチョがはためき、目を周囲に転ずれば青黒い空に雲もなく、快晴無風の絶好のコンディション。
その青黒い空を背景に、噂で聞き、写真で見ていた通りの絶景が本当に目の前に広がっている。
エベレストとヌプチェ(手前)とローツェ(右奥)
やはり一番眼を惹くのは、エベレストなのである。
ひときわ大きい存在感。他の山々を圧倒している。もう少しUPしてみよう。
カラパタールからは南壁の一部しか見る事が出来なかったが、今はその全容を惜しみも無く見せている。
私にとっては眺めるだけの山、触る事の出来ない山である。
それでもその凄さ、威厳、厳しさは十分に伝わって来る。
さすが、世界一の山なのだ。エベレスト、ヌプチェ、ローツェの山塊の右手に小さくピラミダルな型の山が目立つ。
マカルー(8462m)である。
遠いがピラミダルな形で存在感のあるマカルー
持って来たランチボックスのパンケーキをほおばりながら、ヒマラヤの山々が作り出す山岳ショーを飽きる事無く堪能する。
ニマさんがその一つ一つを説明してくれる。
山頂に居る人々のどの顔も、念願果たした晴れ晴れとした表情。
どの顔も嬉しそう。
うれし涙をこらえているご夫人の姿も・・・。写真を撮りまくっている人、茫然とただ茫然と見入っている人、友人とふざけ合っている人・・・。
どの人も顔や目線が合うたびにニッコリ。
争い事などとは無縁の、平和な穏やかな時間が、ここには流れている。
大景観をバックに
目を北に転じると、チョ・オユー(8201m)とギャチュンカン(7952m)が堂々と端座している。
ギャチュンカン
山頂部が切り取られてしまったような特異な姿のギャチュンカン、山頂直下から広がっている氷河、アイスフォールがものすごい迫力だ。
そしてギャチュンカンとは対照的に優しげな優美な稜線を見せる、チョ・オユー。
厳しい姿の多いヒマラヤの山の中で、見てホッと出来る山容である。
8000m峰には見えない優しげな表情のチョ・オユー
夢中になって、ある意味惚けたように、ゴーキョ・リからヒマラヤの山々の大景観に見入っていた。
気がつくと、すでに2時間以上が経っている。そろそろ見納めにして下山の時期だ。
ぐるりと見渡して、見納めにしよう。
ありがとう! 素晴らしい大景観の見納めだ
雪の残る、滑り易い急斜面に注意しつつ、慎重に下ってゴーキョへ戻った。
素晴らしい、予想以上の景観を楽しむことが出来、心から嬉しい。テントでの時間も食事の時間もいつもより楽しくうきうき感じる。
明日はレンジョ・パスに行ってくる予定である。
これが最後の5000m越えになる。
ゆっくりで良い、このトレックの総決算。心から余韻を楽しんできたいと思う。
夕食後、ニマさんと予定確認。
明日の出発は午前8時とのこと、「遅くないか?」と聞くと「OK,OK!」との答え。
では明日の朝にと、ルンルン気分でテントに戻った。