たけしろう(岳史郎)君、樽前山デビュー    2006.10.13(金) 晴れ



支笏湖畔に全校生徒僅か11名の小さな学校、支笏湖小学校があります。
そこの3年生に岳史郎(たけしろう)君と言う元気で利発な男の子がいます。

「僕、樽前山に登りたいんだ」岳史郎は支笏湖ビジターセンターのSTお姉さんに言いました。
心優しいSTお姉さんは彼の希望を叶えてあげたいと思い、ふと思い浮かんだのが2年前「子供パークレンジャー」と言う企画で4日間に亘り彼の面倒を見た「たかさん」、「お願いしま〜す」の声に子供と女性に甘い「たかさん」は二つ返事で岳史郎君の樽前山デビューを飾ってあげたいとお供する事にしたのです。


STお姉さん(左) たけちゃんママ 岳史郎(右)

午前9時にビジターセンターに集合予定の岳史郎が眠そうな顔で現れたのは10時過ぎ、2年ぶりに合う岳史郎は少し恥ずかしそうに照れている。
私の車に乗り、学校の話などをしながら樽前山7合目ヒュッテに向かいます。
ヒュッテで管理人の菊池さんに笑顔で励まされ、岳史郎君は自分で登山届を書いてイザ出発です。

樽前の森は先日の台風崩れの大風で葉が痛めつけられ、今年の紅葉は残念な感じです。


紅葉の中を風不死岳との分岐へ

岳史郎は心がはやるのでしょうか、小走りに皆の前を行ったり来たり。
ママは「きちんと歩きなさい」と御注意ですが、少し疲れるまでは仕方ないと放っておきます。
ススキの穂が揺れて樽前山は晩秋の雰囲気です。


晩秋の気配濃厚な樽前山御花畑

御花畑の平坦な道をのんびり歩きます。
岳史郎は住んでいる支笏湖の向こう側に見える支笏湖温泉街が気になるようです。


岳史郎の学校やお家は何処かな?

風不死岳との分岐へ歩いていくと、数日前に新聞などでも報道され話題になった登山道無断開削現場に出合いました。
登山者達が歩きやすいようにと思って行ったとの事ですが、そのような意図は全く感じられず何の為に削ったのか理解出来ない開削現場でした。
一日も早い原状回復が待たれます。


無断開削現場の一つ、小山の上に向かっている開削跡

岩尾根に取り付き、いよいよ登りになっていきます。
STお姉さんが岳史郎にせっつかれて速足になっています、それとなく「シラタマノキ」の実やキタキツネ・テンの糞などを観察、ペースをゆっくり目に調整しながら登ります。
岳史郎は花や動物より山々の位置や名前、高さなどに興味があるようです。
ペウレ山(932m峰)が樽前山と風不死岳の子供だと言う言い伝えや稜線に上がると見える山は何でしょう?など、彼の興味を引きながら単調な登りに嫌気がささないよう気配りです。


ペウレ山と風不死岳をバックに

樽前山とペウレ山との稜線に出ました。
岳史郎が知っている羊蹄山を探させます。
尻別岳を指さして「あれでしょう?」雲で頭を隠している羊蹄山やホロホロ山・徳舜瞥山、白老岳などを教えながら、大きめの地図を持ってきて説明してあげるのだったと反省です。

樽前の稜線を登り始め、西峰との分岐を過ぎると風が急に強くなってきました。
帽子が飛ばされたりすると思わぬ行動を取ったり、転んだりするので、帽子をザックに仕舞わせ上着を着せます。
「なんだ風、こんな風」元気を出しながら、左側の急斜面に飛ばされないよう私の右後ろを歩かせます。
岳史郎が行ってみたいと言う山「エベレスト山」の高さ、風の強さ、エベレストを飛び越える鶴のお話などをしながらゆっくり歩きます。

12時になりました。岳史郎にとって12時は給食の時間、お昼ご飯の時間、場所は何処であろうと食べなくてはいけない時間なのです。
溶岩ドームの陰で風の弱い場所を選んでお昼にします。
ツェツトを張れないので被って風を防ぎながらの大休憩です。


12時だ、お昼ご飯だ

所が、9時出発予定でSTお姉さんから午前中で降りてきますと聞いていたママはおやつのお菓子しか持ってきていません。
たかさんのオニギリを一つせしめてかぶりつきます。
でも、たかさんのオニギリは鮭だったのに岳史郎のは酸っぱい梅干し、余りの不運に泣きそうになったのでした。

お腹も満たされ、目標の東山へ向けて最後の頑張りです。
「たかさん、あとどのぐらい?」
「今950mだよ、あと何メートルかな?」
「え〜と、1041mだから・・・、91m !! 」
「すげぇ〜、算数得意なんだ!」


あんなに遠いの〜!

稜線が広くなり、山頂標識がもう少しで見える所で「岳史郎、たかさんは疲れた。あとどの位か見て来てくれ!」
「わかった〜」岳史郎は走っていきます。STお姉さんも一緒に走っています。

「あったよ〜。頂上だ〜!」嬉しそうな声が響き渡っています。
皆で万歳! 他の登山者達もほほ笑ましそうに見ています。


僕、やったよ〜!

空は快晴、お天気も樽前山も岳史郎を祝福しているかのようです。
彼が楽しみにしていた苫小牧や白老の町並みも良く見えています。
苫小牧沖の太平洋には白いフェリーがポツンと浮かんでいます。


樽前山と風不死岳と恵庭岳って一直線だね〜

支笏湖の湖面は良く見ると色々な色が入り交じっていて、青だと思っていた岳史郎には不思議に感じた事でしょう。


溶岩ドームと右に羊蹄山方向

相変らず強い風が吹きつけています。
余り長居は冷えてしまうと15分足らずで山頂を後にします。


山頂で記念写真 ママは寒そうだな

7合目ヒュッテへ降り始めると風下側に入って、風も止み暖かくなってきました。
歩きにくい階段状の道をゆっくりと慎重に降りていきます。


下山道から風不死岳、ペウレ山を見る

緊張が解け疲れも出て来たのでしょう、飛び回る事も無くおとなしく付いてきます。
「僕、筋肉痛になりそう」とチョッピリ弱音を言い出した頃には7合目ヒュッテに戻り着きました。


ヒュッテ上の展望台で到着、チョッピリお疲れ気味

私は支笏湖パークボランティアの一人として観察会やボランティア・ガイドなどに参加して一人でも多くの人達が自然に興味を持ち自然大好き人間になってくれる事を願っていますが、参加してくれた人達が満足してくれたかどうか何時も不安です。
特に子供の場合には動機づけや興味の対象が広範でとても難しく事前準備が欠かせません。

今回はこれまでの経験を活かしながら案内しましたが、岳史郎君はどう感じてくれたのでしょうか?
「たかさん、今度は風不死岳に行きたいな!」と言う屈託の無い笑顔が私に勇気とやる気を与えてくれたように思います。

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